『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

122 / 291
本日投稿4話目です


第120話

秋の高校野球選抜東京地区大会の第5回戦。

 

青道高校は先発にパワプロを、明川学園は先発に楊を送ってきた。

 

そんな青道高校と明川学園の試合は楊の三者凡退の見事なピッチングから始まった。

 

その楊のピッチングに応える様にパワプロも三者三振の完璧な立ち上がりを見せる。

 

だが、明川学園の打者達には動揺がまったく見られない。

 

自分達のエースである楊が抑えてくれると信じているからだ。

 

楊は仲間達の信頼に応えようと2回の表も丁寧にピッチングをしていく。

 

青道高校の4番であるクリスには、ボール球でも構わないと厳しいコースに投げ込んでいった。

 

結果は四球でクリスを歩かせてしまったが、後続の増子達をキッチリと抑えて得点を許さない。

 

対するパワプロは明川学園の5番バッターである楊を含めてまたしても三者三振で抑える。

 

これで6者連続三振だ。

 

スタンドにいる幾人かが熱心にパワプロのピッチングをメモしている。

 

偵察、記者、スカウトといった者達がパワプロのピッチングに注目しているのだ。

 

イニングは進んで7回の表。

 

楊はここまでランナーを出しても2塁は踏ませない見事なピッチングを続けてきた。

 

そんな楊にこの試合最大のピンチが訪れる。

 

先頭打者の小湊がヒットで出塁すると、続く坂井が送りバントで小湊を2塁に送った。

 

ワンアウト、ランナー2塁の状況で青道のバッターは3番の結城。

 

スタンドの観客の間に楊もここまでかという空気が流れるが、ここで楊は勝負に出た。

 

なんと、3番の結城と4番のクリスを連続で敬遠したのだ。

 

この満塁策にスタンドからはどよめきが起こった。

 

この連続敬遠を見ていた青道の5番バッターである増子の頭は熱くなってしまう。

 

ここで勝負は決まってしまった。

 

楊は増子にインコースのツーシームを引っ掛けさせるとショートゴロのゲッツーに打ち取った。

 

拳を握ってベンチに戻る楊にスタンドの観客達から惜しみ無い拍手が送られる。

 

そして、夏の大会の様にジャイアントキリングを期待する空気が球場を占めていった。

 

そんな空気の中で7回の裏のマウンドに上がったパワプロは、

いつもと変わらない笑顔でピッチングをしていく。

 

パワプロが当たり前の様に三者凡退で明川打線を抑えると、スタンドからは

明らかな落胆の声が上がった。

 

だが、明川学園のメンバーには動揺は見られない。

 

彼等が見据えるのはタイブレークとなる延長だからだ。

 

パワプロ相手に連打は望めない。

 

ならばと、ワンヒットで得点の可能性があるタイブレークの延長戦に

最初から照準を絞っているのだ。

 

その後8回、9回と両チームが三者凡退に終わると、青道と明川の試合は

タイブレークとなる延長戦に突入するのだった。

 

 

 

 

(ここまでは辿り着いた。)

 

10回の表のマウンドに立つ楊は、アンダーシャツで額の汗を拭いながら

打席に入る結城を見据える。

 

(この3番を抑えられるかどうかでこの試合に勝てるかが決まる。)

 

楊は次のバッターであるクリスとの勝負は分が悪いと感じている。

 

なので楊は延長戦ではクリスを歩かせる事を前提としていた。

 

ピッチャーとしての楊はクリスと勝負をしたいと思っているが、

今の楊はチームの皆から受けた恩を返そうと貪欲にチームの勝利を求めているのだ。

 

ノーアウト、ランナー1、2塁の状況でバッターは3番の結城。

 

状況をしっかりと認識した楊がセットポジションからサインを覗き込む。

 

何度か首を横に振ってから頷くと、楊は投球モーションに入る。

 

1球目。

 

楊がアウトコースにカーブを投げ込むと結城は見逃した。

 

判定は…?

 

「ボール!」

 

際どいコースだったが判定はボールでワンボール、ノーストライク。

 

楊は微塵も動揺せずにキャッチャーの返球を受け取る。

 

二度セットポジションからサインを覗き、頷いた楊が投球モーションに入る。

 

2球目。

 

楊はインローのボールゾーンにフォークを落とした。

 

結城のバットが空を切る。

 

「ストライク!」

 

これでワンボール、ワンストライク。

 

平行カウントに戻した。

 

だが、マウンドの楊は空振りをした結城のスイングに冷や汗を流す。

 

(青道の打者は4番のクリスに注目が集まりがちだが、この3番もいいバッターだ。)

 

楊は乱れた気持ちを立て直すために牽制などを入れて間を取る。

 

(臆せば持っていかれる。退けば後悔が残る。勝負に行け、楊 舜臣!)

 

気持ちを奮い立たせた楊が打席の結城を睨む様に見据えた。

 

その楊の視線に勝負に来ると感じた結城は気を引き締める。

 

そんな状況で投じられた3球目。

 

楊はインローにボール1つ外れるツーシームを選択した。

 

リリースの瞬間にベストボールと分かる感触だった。

 

スイングを始動した結城の姿が楊の目に映る。

 

ガキッ!

 

詰まった打球音が楊の耳に響いたが、結城がフルスイングした打球は三遊間を抜けて

レフト前に転がっていった。

 

楊は祈る様な気持ちでキャッチャーのカバーリングに入る。

 

レフトが打球を素早く処理してバックホームの返球をすると、

2塁ランナーだった小湊は3塁で止まった。

 

これでノーアウト満塁の状況で4番のクリスと勝負をする事になった。

 

楊の心に僅かな絶望が過る。

 

そして、打席に入ったクリスの姿に威圧感を感じた楊は背中に震えが走る。

 

楊は右手で心臓を叩く様にして己を奮い立たせる。

 

(相手は同じ高校生…。抑えられない相手じゃない!)

 

気持ちを強く持った楊がしっかりと腕を振ってボールを投げ込む。

 

だが…。

 

カキンッ!

 

クリスが打った打球は無情にも遊撃手の頭を超えて、左中間に深く転がっていったのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。