『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です


第117話

黒士舘との試合は8回の表が終わり、8回の裏を迎えていた。

 

8回の裏の青道の攻撃、先頭打者の白州が凡退すると、次の打者である倉持が

左打席に入る前に大きく息を吐いていた。

 

(ちくしょう、変化球を打つイメージが出来ねぇ。)

 

倉持は打撃において変化球が苦手であり、それが足枷となって夏の大会で

1軍に入る事が出来なかった。

 

(とにかく、塁に出なきゃ話にならねぇ…。)

 

シートバッティング等の練習で倉持の走塁は多くの者に称賛されていた。

 

だが、その走塁を活かすには先ずは塁に出なければならない。

 

(綺麗なヒットはいらねぇ…。左方向に転がしたら全力で走る!)

 

そう意識して打席に入った倉持に対して、財前は探りを入れる様に

アウトコースにツーシームを投げ込んだ。

 

倉持はおっつける様にしてバットを振るが、ボールが外に変化した事で

バットの先に当たってしまい、打球はファールとなった。

 

この1打で倉持の狙いを察した財前はインコースを中心に倉持に投げ込んでいく。

 

ワンボール、ツーストライクと追い込まれた倉持はここで決断をする。

 

(セーフティ、行くぜ!)

 

財前が投げ込んできたインコースに切れ込んでくる膝元のカットボールを、

食らい付く様にして倉持は何とか3塁方向に転がした。

 

反応よく財前がボールに詰めて捕球するが、黒士舘の捕手は

財前が1塁に送球するのを止めた。

 

何故なら、倉持が俊足を活かして既に1塁に到達しようとしていたからだ。

 

ワンアウトながら倉持が塁に出た事で、伊佐敷の代わりに御幸が打席に入る。

 

塁上の倉持は貪欲に2塁を狙う。

 

だが、先程のセーフティバントで倉持の足を警戒した財前が執拗に牽制を入れてくる。

 

その牽制を受ける中で倉持はタイミングを計っていた。

 

(パワプロの牽制に比べればぬるい。あと一歩出れる。)

 

スッと一歩大きくリードを取った倉持は集中力を高める。

 

ボーイズリーグ時代から何百、何千と練習で繰り返してきたその動作は、

打席の時と違い自信に満ちていた。

 

初球。

 

財前のクイックに反応する様に倉持がスタートをきった。

 

アウトコースの高めに外したボールを捕球した黒士舘の捕手が素早く2塁に送球する。

 

だが、倉持は余裕を持って2塁に滑り込んでいた。

 

この倉持の足に球場のスタンドから歓声が沸き上がる。

 

財前が睨む様に盗塁した倉持を見るが、倉持は気にせずに集中を保っている。

 

(御幸、でかいのはいらねぇ。内野を抜ければホームに帰ってやる!)

 

まるで獲物を狙う野性動物の様な倉持の姿に、マウンドの財前の頬を汗が流れ落ちる。

 

冷静に状況を観察していた打席の御幸は既に狙い球を決めていた。

 

次の1球、財前はアウトローのツーシームを選択した。

 

御幸は狙い通りのボールにバットを振る。

 

カキンッ!

 

打球は三遊間を抜けるとレフト前へと転がっていった。

 

青道の三塁コーチャーは判断を躊躇するが、倉持は迷わずにホームに突っ込んだ。

 

打球を捕球した黒士舘の左翼手が素早く中継の遊撃手にボールを送る。

 

ボールを受け取った遊撃手も素早くホームへ送球。

 

倉持が捕手を避ける様に滑り込むと、ホームベース上でクロスプレーになる。

 

判定は…?

 

「セーフ!」

 

新チームで1軍の座を掴んだ1年生2人が、価千金の勝ち越し点をもぎ取った。

 

この結果に青道ベンチから雄叫びが上がる。

 

これで集中力が切れたのか、その後の黒士舘の野手にエラーが出始めた事で、

青道は8回の裏で7ー3と点差を拡げる事に成功した。

 

そして9回の表のマウンドに上がった丹波が3人でしっかりと抑えて、

青道は3回戦へと駒を進めたのだった。




本日は5話投稿します

次の投稿は9:00の予定です

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