『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です


第116話

「どうですか?青道の調子は?」

「ん?東か。」

 

伊佐敷が川上と交代してマウンドに上がった頃、スタンドでは東が落合に声を掛けていた。

 

「8回の表に3点差を同点に追い付かれて、なおもノーアウト、2塁のピンチ。

 勢いは完全に黒士舘の方にあるな。」

「8回に伊佐敷が投げとるところを見ると、川上が打たれたみたいですね。

 何やってんねん、ホンマに。」

 

東は頭をガシガシと掻きながらも、後輩達の戦いを見守っていく。

 

けして口は良くないが、なんだかんだと後輩の面倒見がいい東に、落合はニヤリと笑う。

 

「ところで東、お前の方は大丈夫なのか?」

「ここに来る前にたっぷりとバットを振ってきましたわ。あいつらに手伝ってもらわな

 守備練は効率悪いですから。」

 

プロ志望届けを出した東は青道メンバーと一緒に練習をしながらドラフト会議を待っている。

 

もっとも、東は引退した身なので一緒に練習をしているのは2軍メンバーであるのだが、

プロ注目選手の東が一緒に練習する事で2軍以下のメンバーにいい刺激となっている。

 

「そうか。左でもバットを振っておけよ。腰痛の予防にもなるからな。」

「ホンマですか?試合を見終わったら左でも振っておきますわ。」

 

落合と東がそんな会話をしていると、伊佐敷が黒士舘の9番バッターを敬遠して歩かせた。

 

「ゲッツー狙いでもするつもりやろか?」

「それもあるだろうが、俺は伊佐敷の肩がまだ出来てなかったからだと思うがね。」

 

そんな風に会話をしながら東と落合は青道の試合を見守っていくのだった。

 

 

 

 

(うし!肩が出来たぜ!)

 

クリスからの返球を受けた伊佐敷は、右肩を軽く回しながらスコアボードに目を向けた。

 

(状況は8回の表、ノーアウト、ランナー1、2塁で3ー3の同点…シビレる場面だな。)

 

伊佐敷はエースになる事も、先発として試合に出る事も諦めたわけではない。

 

だが、試合終盤に頼られる抑えの役割にやりがいを感じる様になっていた。

 

(俺の後輩を随分と可愛がってくれやがって…、礼はたっぷりとさせてもらうぜ!)

 

プレートに足を掛けた伊佐敷はクリスのサインを覗き込む。

 

サインに頷いた伊佐敷がセットポジションから投球モーションに入る。

 

その瞬間、黒士舘の1番バッターがバントの構えを見せる。

 

伊佐敷がリリースしたボールは高めに外れた。

 

(おっと、高めに浮いちまった。しっかりとボールを叩きつけねぇとな。)

 

伊佐敷はクリスからの返球を受け取りながら、右手の親指で人指し指と中指を擦る。

 

サインに頷いた伊佐敷が、ランナーを威圧する様に見てからセットポジションに入る。

 

黒士舘の1番バッターは二度バントの構えを見せる。

 

しかし伊佐敷は揺さぶられることなく、しっかりとボールを投げ込んだ。

 

カツンッ!

 

転がされたボールに伊佐敷が詰める。

 

「ファースト!」

 

クリスのコーチングに従い、伊佐敷はボールを1塁に送球してワンアウトを取る。

 

これでワンアウト、ランナー2、3塁。

 

スクイズも考えられる場面だ。

 

タイムを取ったクリスがマウンドに向かう。

 

「伊佐敷、次のバッターはスクイズが考えられる。意識に入れておけ。」

「おう!リードは任せたぜ!」

 

クリスがキャッチャーボックスに戻っていくと、伊佐敷はロージンバッグを手に取った。

 

ロージンバッグをマウンド横に置いた伊佐敷は、前足に体重を掛ける様な前傾姿勢で

サインを覗いてからセットポジションに入る。

 

そして投球モーションを始めると、伊佐敷の視界の端にランナーが走る姿が映った。

 

伊佐敷は咄嗟にリリースでボールを叩きつけずに高めに外した。

 

カツッ!

 

咄嗟に高めに外した伊佐敷の執念が実ったのか、黒士舘の2番バッターは

バントでボールを上に上げてしまった。

 

一早く反応してマスクを外したクリスがボールの落下点に飛び込む。

 

「アウト!」

 

上体を素早く起こしたクリスはスナップスローでボールを3塁に送球する。

 

上体だけで投げたとは思えない強いボールが、3塁に入った増子のグローブに飛び込んだ。

 

「アウト!スリーアウト!チェンジ!」

 

審判のコールに拳を握った伊佐敷は、マウンドの上で咆哮を上げたのだった。




これで本日の投稿は終わりです

また来週お会いしましょう

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