「見てたか!?俺、葉輪の真っ直ぐにバットが当たったぜ!」
「くっそ―――!俺は当たらなかった!」
「はっはっはっ!将来自慢してやるぜ!」
時間は少し戻って青道と黒士舘の試合の3回の表の途中、黒士舘側のベンチでは
そんな会話で盛り上がっていた。
「財前、どうするんだ?まだ続けるのか?」
黒士舘のメンバーの1人が財前にそう話し掛ける。
「…当たり前だろう。弱点をとことん攻めないでどうするんだよ。」
「財前、悪ぶるのはよせよ。」
黒士舘の選手は苦笑いをしながら財前にそう言う。
「俺達、知ってるんだぜ?青道のクリスは財前の恩人なんだろ?
だからこんな形でクリスに癖があるって教えてるんだろ?」
財前は仲間の言葉にバツが悪そうに顔を背ける。
「財前はケガをした後、ラフプレーとかこういった反則とかスゲェ嫌ってたじゃん。
あの様子だともう気付いているみたいだし、もういいだろ?」
「…付き合わせてすまねぇ。」
「気にすんなよ。俺達、仲間だろ?」
財前は仲間のその言葉に目を見開く。
「お前、言ってて恥ずかしくねぇか?」
「うるせぇよ!ほっとけ!」
そう言って笑いあう仲間達の姿に、財前は帽子を深く被り表情を隠した。
「あれ?財前泣いてる?」
「うっせぇ!泣いてねぇよ!」
財前は帽子を被り直しながらアンダーシャツで目元を拭う。
その様子を見ていた黒士舘のメンバーは皆笑顔だ。
「アウト!スリーアウト!チェンジ!」
3回の表の3人目のバッターである1番バッターがアウトになってベンチに戻ってきた。
「よっしゃあ!ここからはガチンコだ!気合い入れてくぞ!」
「「「オォ―――!!」」」
財前の言葉に黒士舘の選手達は大声で応えると、気合い十分な表情で
グランドに駆け出したのだった。
◆
「お疲れ様です、クリスさん。」
3回の表が終了してベンチに戻ってきたクリスの元に、御幸がドリンクを持ってやって来た。
「御幸、どうだった?」
「変化球のサインを出した時に、クリスさんは右手をミットに押し付けていますね。」
「右手を?」
「はい。多分ですけど、パワプロの変化球はどれも凄いのばかりなので、無意識にミットの
フィット感を上げる為にしている動きじゃないですか?」
御幸の言葉に思い当たる事があるのか、クリスは何度も頷いた。
「それで、対策出来そうですか?」
「その必要は無い。」
御幸とクリスの会話に片岡が割り込むと、2人は驚いて目を見開いた。
「グランドにいる黒士舘のメンバーの表情を見ろ。」
片岡の言葉で御幸とクリスはグランドに目を向ける。
そこには気合い十分の黒士舘ナインの姿があった。
「あの様子だと、もうクリスの癖の伝達は無いだろう。」
「監督…気付いていたんですか?」
「これでもお前達よりは長く野球と関わってきているんでな。」
不敵な笑みを浮かべる片岡の姿に御幸は苦笑いを浮かべ、クリスは頭を下げた。
「黙っていてすいませんでした。」
「クリス、気にするな。俺もわかっていて主審に申告しなかったし、
お前を交代させなかったからな。」
ガキッ!
詰まらされた金属バットの音に片岡達がグランドに振り返る。
「2回までに比べて球威が増している様だな。」
片岡の言葉に同意する様に御幸とクリスが頷く。
打ち取られた3回の裏の先頭打者である倉持が悔しそうな表情でベンチに戻ってきた。
「クリス、御幸、反省は試合の後だ。まずは財前を攻略するぞ!」
「「はい!」」
その後、青道と黒士舘の試合は投手戦となりスコアボードには0が並んでいく。
そして試合は0ー0のまま終盤戦となる7回に突入するのだった。
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