『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です


第111話

(財前か。今の流行りを上手く取り入れたいいピッチングをするじゃないか。)

 

青道と黒士舘の試合をスタンドから見学している落合がそう評する。

 

落合がそう評していると、財前は5番バッターの増子をショートゴロに打ち取った。

 

(クリスには上手く外野まで運ばれたが、ストライクを先行させていって、

 際どい所で勝負出来るカウントを作っていっている…。相手から逃げがちな川上に

 見習わせたいピッチングだな。)

 

落合は監督の片岡に進言して川上を1軍に引き上げていた。

 

片岡は川上にはもう少し身体作りに専念させたかったのだが、青道の投手事情もあって

落合の進言を受け入れる形で川上を1軍に昇格させたのだ。

 

その後、財前は6番バッターの門田をセカンドゴロに、7番の白州を

レフトフライに打ち取った。

 

(新チームだから仕方ないところもあるが打線に繋がりが欠けるな。

 特に4番のクリス以降のバッター達に…。)

 

落合は財前に抑えられた増子と門田を見ながら頬を掻いた。

 

「俺なら増子の代わりに白州を5番に置くがね。」

 

そう呟くと落合は白州に目を向けた。

 

(目立った長所は無いが器用で俺好みの選手だ。このまましっかりと身体作りをしていけば、

 来年の夏には青道に欠かせない選手になれるだけの素質が十分にある。)

 

川上と同じ様に白州も落合の進言で1軍入りした選手である。

 

実力主義の青道であるが、その実力に大きな差が無い場合は選手を選考する

片岡の心象で選ばれる事になってしまう。

 

そして選考する時に1年生と2年生を比べた場合には、どうしても心情的に

長く一緒にいる2年生を選びたくなるのが人情というものだ。

 

これは片岡の監督としての才覚に問題があるわけではなく、

落合との人生経験の差であると言えるだろう。

 

(さて、2回の表の財前のバッティングで気になる所があったが…、

 葉輪やクリスは気付いているかな?)

 

落合は片目を瞑って3回の表のマウンドに上がるパワプロの姿を観察する。

 

(秋の大会まで時間が無かったから指摘しなかったが、俺の他にもクリスの癖に

 気付いている奴がいるだろうからな。)

 

そう考えながら落合はクリスへと目を移す。

 

「このままじゃクリスは御幸にマスクを譲る事になるが、果たしてどうなる事やら…。」

 

そう呟いた落合は頬杖をついてじっくりと試合を見学していくのだった。

 

 

 

 

3回の表の黒士舘の攻撃は8番の下位打線からだったが、クリスはリードに

苦戦を強いられていた。

 

(なぜ葉輪の変化球にバットを振らない…。)

 

クリスは動揺しながらもパワプロにサインを出す。

 

サインに頷いたパワプロが投球モーションに入る。

 

「行け!」

 

黒士舘のコーチャーから掛け声が飛ぶと、8番バッターはバットを振らずに見送った。

 

(ストライクは取れた。だが、スライダーだけじゃなくチェンジアップも見逃された…。)

 

クリスはボールをパワプロに返球しながら考察していく。

 

(葉輪に何か癖があるのか?いや、葉輪に癖は見当たらない…。やはり俺に球種が

 読まれる癖があるんだろうな…。)

 

クリスは歯を噛み締めながらパワプロにサインを出す。

 

サインに頷いたパワプロが投球モーションに入る。

 

アウトローに投げ込まれたフォーシームに、黒士舘の8番バッターが反応する。

 

ガキッ!

 

「ショート!」

 

フラフラッと上がった打球を指差してパワプロが声を掛ける。

 

高校野球で初スタメンの倉持が基本通りにしっかりと捕球してワンアウト。

 

疑念が確信に変わったクリスは内心で動揺してしまう。

 

クリスは動揺を隠す様にマスクを被り直した。

 

(俺の癖は試合中に修正出来るものなのか?もしくは利用出来るものなのか?)

 

そう考えながらクリスがキャッチャーボックスに座ると、9番バッターが打席に入る。

 

(葉輪のボールのコントロールと球威で押せる内に、癖を見つけ出して修正出来るか?)

 

クリスは悩みながらもパワプロのリズムを崩すまいとサインを出す。

 

「行け!」

 

パワプロが右打者のインローにスライダーを投げ込むと、黒士舘の9番バッターは見逃した。

 

この結果にクリスはマスクの奥で歯噛みをする。

 

(…片岡監督に俺と御幸を交代してもらう事も考えないとな。)

 

悔しさに震える身体を覚られない様に、クリスは内野陣に向けて声を出していく。

 

3回の表をなんとか無失点で切り抜けたクリスは、拳を強く握り締めてベンチに戻るのだった。




これで本日の投稿は終わりです

また来週お会いしましょう

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