『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第109話

青道と黒士舘の試合の1回の表、パワプロは三者三振の完璧なスタートを切った。

 

1回の裏のマウンドに上がった財前は青道の1番バッターの小湊をセカンドゴロ、

2番バッターの坂井をショートゴロ、3番バッターの結城をレフトフライの三者凡退に抑える

順調な立ち上がりを見せた。

 

2回の表、黒士舘の4番バッターである財前が先頭打者として打席に入ると、

キャッチャーボックスに座るクリスはチラリと財前に目を向けた。

 

(シニア時代、財前のバッティングは悪くなかった。だが、リハビリ明けの今はどうだ?)

 

クリスは様子見でアウトローにフォーシームを要求する。

 

パワプロはサインに頷くと、クリスの要求通りにアウトローにフォーシームを投げ込んだ。

 

「ストライク!」

 

主審がストライクコールをすると、財前はタイムを要求して2、3度素振りをする。

 

その財前の様子をクリスはパワプロに返球しながらマスク越しに観察していく。

 

(シニア時代の財前は真っ直ぐに強かった。続けるのは危険か?)

 

「財前!大丈夫!ボール見えてるよ!」

 

黒士舘の1塁コーチャーの声がクリスの耳に入る。

 

(今日は妙に相手コーチャーの声が耳に入る…。何故だ?)

 

財前が打席に戻ると、クリスは疑問に思いながらも2球目のサインを出す。

 

パワプロはサインに頷くと、投球モーションに入る。

 

2球目。

 

今度はインローにフォーシームが投げ込まれる。

 

ガキッ!

 

財前が打った打球はキャッチャーボックス後方のファールゾーンに上がる。

 

クリスは反応良くマスクを外して打球を追うが、打球はバックネットに当たってファール。

 

これでカウントはノーボール、ツーストライクと追い込んだ。

 

(2球でタイミングを合わせてきたか…。流石だな、財前。)

 

クリスはマスクを拾いながら心の中で財前を称賛する。

 

(だが、真っ直ぐを待っていたらこれは打てないぞ、財前!)

 

クリスはパワプロにスライダーのサインを出す。

 

パワプロがサインに頷いて投球モーションに入ると、クリスは無意識にミットに

右手を押し付けてインコースに寄った。

 

すると…。

 

「行け!財前!」

 

パワプロが投球する直前に黒士舘の1塁コーチャーの掛け声がグランドに響く。

 

財前が踏み込むと、クリスの脳裏には財前を打ち取った映像が浮かんでいた。

 

だが…。

 

バシッ!

 

「ボール!」

 

主審の判定にクリスはマスクの奥で目を見開いた。

 

(何故今のスライダーを見逃せる…?)

 

動揺したクリスは少しの間、キャッチングした態勢のまま固まるのだった。

 

 

 

 

(あっぶねぇ!コーチャーの掛け声がなきゃ、間違いなく真っ直ぐと思って振ってたぜ。)

 

パワプロのスライダーを見逃した財前は、内心で心臓がバクバクしていた。

 

(葉輪の奴、とんでもねぇボールを投げやがって…。わかっていても

 あのスライダーは打てねぇと思っちまった。)

 

そう思いながら財前は、ヘルメットの鍔に手をやりながら足場を作り直している。

 

(それにクリスも流石だな。あのスライダーをあっさりとキャッチングするんだからよ。)

 

財前は内心でそう称賛するがニヤリと笑みを浮かべる。

 

(でもよ、来るってわかってりゃ振らないぐらいは出来るんだぜ?)

 

財前はチラリとクリスに目を向けると、クリスがボールを返球している姿が目に入る。

 

(流石のクリスも動揺してるみたいだな。いつもの見透かす様な視線がねぇんだからよ。)

 

足場を作り終えた財前はパワプロに目を向ける。

 

すると、パワプロがサインに頷いて投球モーションに入る。

 

そして…。

 

「行け!財前!」

 

踏み込んで振ろうとしていたバットを、財前は歯を食い縛って止める。

 

財前がバットを止めると、パワプロが投げ込んだボールは鋭く内角の

ボールゾーンに食い込んで来た。

 

「ボール!」

 

主審の判定に二度クリスが目を見開く。

 

財前がチラリと目をクリスへと向けると、財前とクリスの視線が交差する。

 

財前は素知らぬ振りをして視線を外した。

 

(俺もケガをしたからわかる。ケガをする前以上に成長したお前はすげぇよ。けどよ…!)

 

パワプロがサインに頷いて投球モーションに入る。

 

財前は集中しながらも耳を澄ませる。

 

1塁コーチャーの掛け声は…無し!

 

財前はパワプロの真っ直ぐを狙い済ましてバットを振り抜く。

 

カキンッ!

 

(新しく出来た癖を消すだけの余裕は無かったみたいだな!)

 

財前が打った打球は快音を残して左中間へと飛んでいく。

 

クリスはマスクを外すと目を見開いて打球の行方を追った。

 

左中間の外野フェンスに打球が直撃すると、財前はスタンディングで悠々と2塁に辿り着く。

 

「クリス、恩人のお前には悪いが狙わせてもらうぜ。」

 

財前の呟きは長打を称える歓声に飲まれて消えていく。

 

外野からボールが戻ってきても、クリスは呆然と立ち続けたのだった。




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