「やむを得ん……!!」
夢想、時期尚早、それらの「ツケ」を払いたくないユウは、夕陽に輝くユニコーンガンダムの真の力を発揮させようと試みる。
「シャンブロもクシャトリアも落ちたか……!!」
NT-Dをもってしても数の力には勝てず、ついにガランシェールまでも落ちたとなっては、もはや凌ぎきれる物ではない。
「NT-E!!」
その機能を発動させたとき、何かユウは自分の唇に軽い感覚を覚えた、どこかで感じたような感覚。
バッバ!!
そのNT-Eが発動したときに、竜のごときな電流が辺りの宙へと舞う。
「どうだ、これが力だ!!」
電流により、敵も味方も落ちていくなか、ユウは哄笑をコクピット内で続ける。
「アレキサンダーか、チンギスハーンか、社会の下層出身の俺がこれだけの事ができるのだ!!」
「ユウ・カジマ……」
「これほど、痛快なことはない!!」
アンジェロの低く呟く声にも耳を傾ける事もせず、ユウは敵味方を落とし続けた。
「ユウ……」
「あん?」
グゥ!!
何故かすぐ近くまで接近が可能であったジェスタ、それによりユウ機の脇腹がくり貫かれる。
「な、なんだ……!?」
「すまねぇな、ユウ……」
「フィリップ、か……?」
そのフィリップの一撃。
「なぜ、電流が……?」
「しらねぇが、裁かれるべき者だったんだろうよ」
「俺が、か……」
「ああ……」
それによりユウ・カジマは裁かれた。
「おめぇの事、忘れねぇよ……」
「フィリップ……」
再びユウ・カジマの胸を焼く御守り達。その時ユウの瞳から。
「俺は、何を……?」
涙と共に流れ出す、ユニコーンの脇腹からの紅い奔流。
「あ、これはシャアの……」
シャア、ノイエ・ローテへと取り付いていた怨念。
「シャアに取り付いていた、死霊達……」
「取り付かれていたのか、ユウさん……」
「サマナ……」
そのサマナ機が宙域から退き、その先には。
「ジオユニコール、ロンギヌスモード……」
パプテマス・シロッコの駆るニュータイプ専用機「ジオユニコール」の先端。
「穢れを、膿を絞り出してやる!!」
「やってくれ、シロッコ……」
「お前はもう消えていい、ユウ・カジマ!!」
「やってくれ、パプテマス!!」
ギュア!!
そのまま、猛烈な勢いでユニ・エグザムへと突進するジオユニコール、その穂先が。
「ありがとう、シロッコ……」
ユニコーンガンダムの胸を貫くと同時に、ユウ・カジマの身体が機体から投げ出される。
「ユウ!!」
ほぼNT-Eにより半壊したデッサ・ドーガを無理に動かし、そのユウの身体を掴まえようとするニムバスであったが。
「ごめん、ニムバス……」
ユウの身体は、夕陽を浴びて海へと落ちていく。
――あなたは、ユウよ――
「俺がユウなら」
夕陽が天と地、アイランド・イフィッシュの沈む海からユウを照らす。
――君は誰だ――
――私の名は、貴方の林檎酒――
――……そうか――
結局、彼ユウ・カジマには自身に語りかける女性の名は解らなかった、が。
――俺には――
天と地の祝福を受け、御守りから白い羽根を散らしつつに海へと落ちていくユウ。
――帰る所があるんだ――
その帰るべき故郷は、人の脚では及ばない所、しかしそれでも。
――これほど、嬉しいことはない――
ユウ・カジマの魂は故郷、アイランド・イフィッシュへと帰還した。
――――――
「ユウ・カジマは」
海へと消えたユウの姿をいつまでも見続けているニムバス・シュターゼン。
「いったい、何者だったのだろうか?」
「あなた……」
「すまない、マリオン」
「もう、一週間よ」
「もう少しだけ、頼む」
「ユウは死んだのよ、皆去っていった」
「解っている」
それきり、マリオン・ウェルチは何も言わずに、黙って夫ニムバスの食事の支度を始めた。
――――――
「僕は、ユウ・カジマに何を期待していたのだろうか?」
「解らないよ、アンジェロ」
「そうかい、リディ……」
これからこっぴどい折檻を受けるとなると、リディ・マーセナスの顔色は暗い。
「リディ」
「なんだい、アンジェロ?」
「僕は、木星に行こうと思う」
「それがいい」
「地球には、嫌な想い出しかないから……」
「シロッコさんがよくしてくれるよ、アンジェロ」
「ああ、リディ……!!」