夕暁のユウ   作:早起き三文

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第96話 夕暁のユウ

 

「やむを得ん……!!」

 

 夢想、時期尚早、それらの「ツケ」を払いたくないユウは、夕陽に輝くユニコーンガンダムの真の力を発揮させようと試みる。

 

「シャンブロもクシャトリアも落ちたか……!!」

 

 NT-Dをもってしても数の力には勝てず、ついにガランシェールまでも落ちたとなっては、もはや凌ぎきれる物ではない。

 

「NT-E!!」

 

 その機能を発動させたとき、何かユウは自分の唇に軽い感覚を覚えた、どこかで感じたような感覚。

 

 バッバ!!

 

 そのNT-Eが発動したときに、竜のごときな電流が辺りの宙へと舞う。

 

「どうだ、これが力だ!!」

 

 電流により、敵も味方も落ちていくなか、ユウは哄笑をコクピット内で続ける。

 

「アレキサンダーか、チンギスハーンか、社会の下層出身の俺がこれだけの事ができるのだ!!」

「ユウ・カジマ……」

「これほど、痛快なことはない!!」

 

 アンジェロの低く呟く声にも耳を傾ける事もせず、ユウは敵味方を落とし続けた。

 

「ユウ……」

「あん?」

 

 グゥ!!

 

 何故かすぐ近くまで接近が可能であったジェスタ、それによりユウ機の脇腹がくり貫かれる。

 

「な、なんだ……!?」

「すまねぇな、ユウ……」

「フィリップ、か……?」

 

 そのフィリップの一撃。

 

「なぜ、電流が……?」

「しらねぇが、裁かれるべき者だったんだろうよ」

「俺が、か……」

「ああ……」

 

 それによりユウ・カジマは裁かれた。

 

「おめぇの事、忘れねぇよ……」

「フィリップ……」

 

 再びユウ・カジマの胸を焼く御守り達。その時ユウの瞳から。

 

「俺は、何を……?」

 

 涙と共に流れ出す、ユニコーンの脇腹からの紅い奔流。

 

「あ、これはシャアの……」

 

 シャア、ノイエ・ローテへと取り付いていた怨念。

 

「シャアに取り付いていた、死霊達……」

「取り付かれていたのか、ユウさん……」

「サマナ……」

 

 そのサマナ機が宙域から退き、その先には。

 

「ジオユニコール、ロンギヌスモード……」

 

 パプテマス・シロッコの駆るニュータイプ専用機「ジオユニコール」の先端。

 

「穢れを、膿を絞り出してやる!!」

「やってくれ、シロッコ……」

「お前はもう消えていい、ユウ・カジマ!!」

「やってくれ、パプテマス!!」

 

 ギュア!!

 

 そのまま、猛烈な勢いでユニ・エグザムへと突進するジオユニコール、その穂先が。

 

「ありがとう、シロッコ……」

 

 ユニコーンガンダムの胸を貫くと同時に、ユウ・カジマの身体が機体から投げ出される。

 

「ユウ!!」

 

 ほぼNT-Eにより半壊したデッサ・ドーガを無理に動かし、そのユウの身体を掴まえようとするニムバスであったが。

 

「ごめん、ニムバス……」

 

 ユウの身体は、夕陽を浴びて海へと落ちていく。

 

――あなたは、ユウよ――

「俺がユウなら」

 

 夕陽が天と地、アイランド・イフィッシュの沈む海からユウを照らす。

 

――君は誰だ――

――私の名は、貴方の林檎酒――

――……そうか――

 

 結局、彼ユウ・カジマには自身に語りかける女性の名は解らなかった、が。

 

――俺には――

 

 天と地の祝福を受け、御守りから白い羽根を散らしつつに海へと落ちていくユウ。

 

――帰る所があるんだ――

 

 その帰るべき故郷は、人の脚では及ばない所、しかしそれでも。

 

――これほど、嬉しいことはない――

 

 ユウ・カジマの魂は故郷、アイランド・イフィッシュへと帰還した。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「ユウ・カジマは」

 

 海へと消えたユウの姿をいつまでも見続けているニムバス・シュターゼン。

 

「いったい、何者だったのだろうか?」

「あなた……」

「すまない、マリオン」

「もう、一週間よ」

「もう少しだけ、頼む」

「ユウは死んだのよ、皆去っていった」

「解っている」

 

 それきり、マリオン・ウェルチは何も言わずに、黙って夫ニムバスの食事の支度を始めた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「僕は、ユウ・カジマに何を期待していたのだろうか?」

「解らないよ、アンジェロ」

「そうかい、リディ……」

 

 これからこっぴどい折檻を受けるとなると、リディ・マーセナスの顔色は暗い。

 

「リディ」

「なんだい、アンジェロ?」

「僕は、木星に行こうと思う」

「それがいい」

「地球には、嫌な想い出しかないから……」

「シロッコさんがよくしてくれるよ、アンジェロ」

「ああ、リディ……!!」


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