夕暁のユウ   作:早起き三文

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第92話 ユニ・エグザム

  

――諦めろ、名付けたばかりのユウ――

――しかし、あの人は――

――もう、間に合わん――

 

 ガスに覆われたコロニー、アイランド・イフィッシュの野外建物の屋上に佇み、呪詛の言葉を吐く男を、スペースランチは無情にも見捨てた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ユウ・カジマ……」

 

 半面を爛れさせた男が、ユウ・カジマにと問う。

 

「俺とオマエ、どこが違う?」

「……」

「どこが違うかと聞いている!!」

 

 激昂したフロンタルの声、それに対して、ユウ・カジマは掠れた返事を返す。

 

「違わない……」

「俺たちは一介のテロリスト、オマエは少将様だ!!」

「違わない!!」

「ただ、ノアの方舟に乗り遅れただけで!!」

「違わないさ、フロンタル!!」

 

 そのユウ・カジマの語気に、今度はフロンタルが黙る番だ。

 

「何をしている、ユウ!!」

 

 その時、蒼い光を切り裂いて現世が訪れた。

 

「そいつは懐に手榴弾を持っている!!」

 

 

 

――――――

 

 

 

 そのヴァースキの必殺の一撃により、フロンタルの肋骨が砕け散り、彼は盛大に血を吐き出す。

 

「やりすぎだ、ヤザン!!」

「やらなきゃやられてたぜ、ユウ少将殿!!」

「聴かなくちゃいけないことがあったんだ!!」

「そうかい!!」

 

 そういったきり、ヤザンはフロンタルに戦闘能力が無くなった事を認めたのであろう、そのまま他のテロリストのもとへと拳銃を携さえて走っていく。

 

「そうとも!!」

 

 死したフロンタルの近くで何かが、ユウ・カジマの中でパチンと音を立てて弾けた。

 

「俺のすべき事は、お偉方の為でも!!」

 

 そのままユウは、混乱の最中であるパーティー開場を立ち去り、外に止めてある運搬機へとその脚を運ぶ。

 

「地球に安穏と暮らしている者のシンボルでもない!!」

 

 運搬機「ランプライト」はその火を付け、サマナから聞いたユニ・エグザムの場所へと一路飛び出す。

 

「蒼い運命に乗れなかった者、ロストスリーブスの為にあったんだ!!」

 

 

 

――――――

 

 

 

 股間に無花果の葉を付けたユウが、必死に天高くの林檎の木へとその手をのばす。

 

――どうしよう、とれないよ――

 

 その時に、一匹の蛇が彼ユウ・カジマの元へと這いよる。

 

――そんな天高くの林檎よりも、このシードル(林檎酒)を飲みなよ――

――わあ、ありがとう――

 

 そのままユウは何も考えず、安易にイヴの林檎酒へと飛び付く。

 

――とっても美味しいよ、シードレ――

――喜んでもらってよかった、ユウ隊長――

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「ロゴージン、なぜあなたがここオーストラリアに?」

「もともと、ここが俺の持ち場だったんだよ、ユウ少将」

 

 少将、その言葉には凄く刺があるのは無理もないかもしれない。

 

「まあ、いい……」

 

 そう言いながら、ユウはその手から一枚の命令書を取りだし、それをロゴージンの目の前へと突きつける。

 

「水中用モビルスーツの手配だと?」

「すぐに稼働できるのはあるか?」

「アクアジムなら、数機は」

 

 あえて居上にそう言ったユウにかえって鼻白んだのか、ロゴージンの顔色はあまり変化はない。

 

「それでいい」

「さっそく手配しよう」

「ああ、あとこれを……」

 

 そう、切り出してユウは饅頭の入った箱をロゴージンにと渡そうとする。

 

「重い饅頭だ」

「何のつもりかね、ユウ少将?」

「サマナ達に、黙っていてほしい」

「……」

 

 そのロゴージンの無言から、ユウは賄賂作戦が上手くいかなかった事を実感した。

 

(猶予はないな)

 

 

 

――――――

 

 

 

 アクアジム、水中用ジムの目の前を魚達の群れが疾る。あちらこちらに散らばるのは、アイランド・イフィッシュの残骸であろう。

 

「クルスト研究所は、確かここらへん……」

 

 昏い海の底、そのような人目に付く付かないを通り越した所に、ムラサメ、オーガスタに続くニュータイプ第三の研究所の派生施設があるらしい。

 

「あれだ……」

 

 メモリースティックに描かれていた地図、それと同じ形をした研究所が眼下に控えている。

 

 ブシュ……

 

 内部は二重扉による防水設備となっているらしい、その排水が終わった後にユウはアクアジムからゆっくりと降り、ときおり感じる耳鳴りを気にせずに施設の奥へと進む。

 

「クルスト博士!!」

 

 その声に答えるかのように施設内に電灯が点くということは、クルスト博士の「意思」が存在しているという証であろう。

 

「このドア……」

 

 EXAM、そう表面に刻印されたドアを、ユウは軽く触れる。

 

 ガァ……

 

「モビル、スーツ……!!」

 

 その蒼一色に塗装された内部には、一機の巨大モビルスーツと一つの簡素なパソコン。

 

「額に一つの角……」

――別名、ユニコーンガンダムだ――

「クルスト!!」

 

 パソコン、そこから機械的な音声がユウの耳を打つ。

 

「生きていたのか!!」

――マリオンだよ――

「何!?」

――昔のブルーディスティニーの時のマリオンと同じく、亡霊として生きている――

 

 昔のマリオン、その言葉を聞いたときに、ユウには全ての合点がいった気がした。

 

「エグザムの亡霊マリオンは、何もマリオンが作ったわけではないからな」

――亡霊となるのは、なにもニュータイプの専売特許ではない――

「かもな」

 

 そういいながら、ユウはユニコーンガンダムの奥に追加兵装コンテナがあることに気がつく。

 

「あれは……?」

――ペイルライダー、ユニ・エグザムの母艦だ――

「ν-GP、ニュータイプ専用機と同じというわけか」

「あくまでも、ミノフスキークラフト用の補助だ」

 

 その言い分だと、何か単なる「おまけ」だとユウには聞こえた。

 

――NT-E――

「勘がいいな、クルスト」

――私もニュータイプなのかもな――

 

 自嘲げにそういうクルスト博士を無視して、ユウの興味はNT-Eというシステムにと向かう。

 

「NT-Eとは、結局の所なんだ?」

――エグザム第二世代だよ――

「第二世代エグザム……」

――NT-Aはアンアウェイクン、非活性モードだ――

「Bは?」

――ブルーディスティニー――

「聞くまでもなかったか」

――本来なら――

 

 ビィー!!

 

 突如として響いた警報音に、ユウはその身を固くする。

 

「なんだ!?」

――侵入者だ――

「サマナか!!」

――乗り込め、ユウ・カジマ!!――

「くそ!!」

 

 罵りの声をあげながら、ユウ・カジマはユニコーンガンダムへとその身を預けた。

 

――Bモードは本来なら、ビーストモード、可能性の獣の機能だ――

「なぜ、変えた!?」

――ロマンがなく、直接的すぎる――

「センチメンタルな!!」

 

 コクピットが独特の位置にあり、身を飛び込ませるのに苦労したが、どうにかユニコーンガンダムの火を点すユウ・カジマ。

 

――人類の四分の一たるニュータイプの素質を持つ者を、可能性の獣で殺すモードだ――

「Cは!?」

――カウンター、ニュータイプのみに通用する病気をもって抹殺する。

 

 ガァン、ガ……!!

 

 EXAMの刻印が施された扉が何かに叩きつけられる音がする。サマナ達の仕業であろう。

 

「ユニ・エグザム、ユニコーンガンダム起動する」

 

 静かに、一角獣のニュータイプ抹殺兵器が起動するすると同時に、格納庫の上方から海水が漏れだしてくる。

 

――私はいつでもお前と共にある――

「いやなマリオンだな……」

――ミノフスキー通信を使ってな――

 

 ドゥン!!

 

 高性能火薬を使用して扉が吹き飛ばされると同時に、ペイルライダー兵装システムにと股がったユニ・エグザムが海中に飛翔した。

 

「NT-Dは……?」

――BとCをあわせた、殲滅モード――

「デストロイ……」

 

 ゴッ、ガガッ……

 

「何だ!?」

――ミノフスキー通信の乱れだ――

「無敵の通信システムではないのか」

――全くミノフスキー博士め、口ほどにもない――

 

 月夜が、海中から這い出た蒼い一角獣を強く照らす。

 

「最後の、NT-E」

――……を、裁く―――

「なんだって?」

 

 ガッ、ガガッ……


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