夕暁のユウ   作:早起き三文

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第90話 家族(後編)

  

「中古のザンジバル」

「悪かったかな、ユウ・カジマ?」

「乗り心地が最悪だった」

 

 ジャンク回収船に偽装してアクシズへ接近したユウ・フロンタルに、ユウ・カジマが悪態をつく。

 

「さて、お宝はと……」

「ストレートな言い方は下品だぞ、カジマ」

「飾った所で、内実が変わるもんでもないだろう?」

 

 メモリースティックに示された座標、それによればこの宙域のホビーハイザックのコクピットに隠されているはずだ。

 

「あれじゃないですかね、フロンタル」

「さすがに目がいいな、アンジェロ」

 

 確かに、そのアンジェロが指差す先にはカラフルな塗装が施された競技用のモビルスーツが漂っていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「チーズ」

「はい」

「チ、もっと」

「はいはい……」

 

 戦場出張ファミレス「ミンナ・デラーズ」で食事をとっているユウ・カジマとアンジェロの姿を見て、ユウ・フロンタルはその半面を微笑ましく歪めてみせる。

 

「アンジェロに気に入られたな、ユウ・カジマ……」

 

 自分も食事をとりながら、フロンタルはメモリーからのクルストの声を、自らに焼きつけていた。

 

――コロニー始源の地を目指せ――

 

「グローブの近くか……」

 

 確か、その近くにはコロニー製作施設「メガラニカ」があったはず、ならばそこに次の目標が秘められているに違いない。

 

「ニュータイプに対抗するためのモビルスーツ、ユニ・エグザムか……」

 

 自身が宿敵と一方的に見ているアムロ・レイを相手にするには、どうしても必要な機体なのだ、対ニュータイプ専用機は。

 

「カレー」

「アンジェロに続いて君まで俺の金でメシを喰うか、マリーダ」

「カレーライス、大盛」

「はいはい……」

 

 何か考え事をしていて食欲がないといっても、水が貴重な宇宙ではお冷やも出やしない。

 

「チ」

「あいよ、アンジェロ」

「チ、チ」

「どういう意味だ?」

「二倍という意味だ」

「そう、了解」

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「これが、グローブ・コロニーだというのか、ユウ・フロンタル?」

「ああ、ユウ・カジマ」

 

 そのコロニーには、辺り一面に美しい花が咲き乱れ、それに調和するかのように様々な施設や居住空間が設けられていた。

 

「どうだ、綺麗だろう?」

「あ、ああ……」

「これが、我々ロストスリーブスが目指していた理想郷だ」

「理想郷……」

「我々は、決して単なるテロリストではない」

「……」

「むしろ、平和を求めているんだよ」

 

 その言葉を聴いたとき、ユウ・カジマはあたかも催眠術にかかったかのように。

 

「ユニ・エグザムはもう諦めようかな……」

「それがいい、ユウ・カジマ」

「アンジェロ……」

 

 フラフラとしているユウ・カジマの手に、彼アンジェロのその細い両手が重ねられる。

 

「それどころか、貴方ことユウ・カジマは」

「俺は……?」

「我々、袖付きの家族となるべきだ」

「家族、か」

 

 そのアンジェロの言葉に同意するかのように、他のメンバーからもユウに対してその手が差し伸べられる。

 

「そうよ、ユウ」

「ロニちゃん……」

 

 花畑が何か桃源郷を錯覚させるかのような術を発動させるのか、ユウはその誘惑に囚われそうになる、その時。

 

 ジ、ジィジ……

 

 ユウ・カジマの首から下げられている「お守り」達が、フィリップ達からくれた御守りが彼の肌を焼く。

 

「いや、俺は行かない」

「ユウ・カジマ!!」

「俺には、別に帰る場所がある」

「……」

 

 その彼ユウの断固とした言葉に、アンジェロはその口をつぐむ。

 

「わかった、ユウ・カジマ」

「メガラニカにあるメモリー、その場所だけ教えてくれ」

「いいだろう」

 

 そう言いながら、フロンタルはその焼け爛れた半面を布からさらけ出し、彼ユウ・カジマへその手を伸ばす。

 

「だけど、覚えておけ」

「何をだ?」

「お前の返るべき場所は、ここだということを」

 

 

 

――――――

 

 

 

「フロンタル様、危うく」

「言うな、アンジェロ」

「計画の事を、言いそうになりましたね」

 

 

 

――――――

 

 

 

 餞別として旧式モビルスーツを「袖付き」からいただいたユウは、宇宙を漂っているうちに、一機のジェガン・タイプとめぐりあう。

 

「メガラニカからのスティックは、僕が回収しときました」

「やはり追跡をしていたな、サマナ」

「僕の素性はフィリップさんから?」

「あいつも確証はない、とは言っていたが」

 

 偵察型ジェガンにその身を預けながら、サマナはコクピット内でその両肩を竦めてみせた。

 

「盗聴もしていたな?」

「ええ、もちろん」

「全く……」

「あの花畑コロニー、真のグローブ・コロニーじゃありませんよ」

「そうか……」


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