コゥー、ン……
――まもなく、宇宙へのドライブが発射致します――
「このコロニーのモニュメントらしいな、アンジェロ君」
「あなたに君付けで呼ばれる筋合いはありませんよ、ユウ大佐どの」
「じゃあ、アンジェロ」
「そっちの方が」
オーストラリアのマスドライバー射出場、そこのロビーにと鎮座させられてあるコロニーのモニュメントに二人の男が張り付いている姿は、どこか滑稽である。
「気が休まる」
「もう一人のユウ、ユウ・フロンタルはどこへ行った?」
「あの方は、忙しいのだ」
「フーン」
「ああ、あったぞ」
スッ……
そう言いながら、アンジェロはモニュメントの隙間から一片のメモリースティックを取り出した。
「マリーダ」
「了解」
アンジェロにマリーダと呼ばれた少女は、携帯式の再生機を取り出しながら、風船ガムをプッと破裂させる。
――連邦始祖の銅像の元へと行け――
「連邦始祖の銅像、アンジェロ?」
「確かとはいえないが……」
その二人の男は、そのクルスト博士の言葉にその首を傾げている。
「ダカールのリカルド首相像の事ではないのか、ユウ・カジマ」
「リカルド首相?」
「そんな事も知らないのか、連邦のくせに」
「俺の過去には、いろいろとあってな……」
「フム……」
その言葉に、アンジェロ少年は何かを合点したかのような表情を浮かべていた。
カゥー、ン
――ドライブの行き先は、サイドⅡです――
――――――
「チーズ」
「は?」
「粉チーズ、パルメザン」
「ああ、ほれ……」
アンジェロの不躾な言葉にもユウは腹を立てた様子もなく、彼のスパゲティへと粉チーズをかけてやる。
「ほら、チーズだ」
「誰が、かけろといったか?」
「ちがうのか?」
「ちがう」
とはいいつつも、アンジェロ・ザウパーはそのユウの行為に腹から怒った様子はない。
「何かさ、あの二人」
「何だ、ロニ?」
「似てるよね」
そのロニと呼ばれた少女は、褐色の口許へドリアのソースを付けたままに、隣の大男へとポツリとそう呟いた。
「雰囲気が、どこか」
「そうかな……?」
「そうだよ、ヨンム」
ヨンムと呼ばれた大男は、それでも合点がいかずに、イカスミパエリアへとその口を運んだ。
――――――
「そっちにはあったか、アンジェロ」
「無いな、ユウ・カジマ」
ダカール議会での、宇宙世紀での始祖「リカルド・マーセナス」の銅像を二人の男が調べている。
「お母さん、あれ気持ち悪い……」
「見ちゃいけません……」
周囲の人間の冷たい視線を無視して、ユウとアンジェロは銅像を調べ続けている。
「あったぞ」
さっきから銅像の股間の辺りを調べていたジンネマンという男が、そのコックの辺りを取り外して、メモリーを取り出した。
「なんで、こんなところに……」
「あたしが知るもんか」
二人の女、マリーダとロニがその配置場所を見て、露骨にその端整な顔をしかめてみせる。
「ロンニさん、再生機」
「おう、ユウの旦那……」
ジ、ジジッ……
――最後のコロニーに似て、コロニーにあらず所へ行け――
「どういう意味だ、アンジェロ?」
「アクシズ、かなぁ……」
「そうか?」
そのアンジェロの答えに納得がいっていないマリーダではあるが、他に答えようがないのはアンジェロとて自分で理解している。
――――――
「ムスリム?」
「チーズ」
「口を挟むなよ、アンジェロ」
と、いいつつもユウ・カジマはアンジェロのスパゲティに粉チーズを振り掛けてやる。
「イスラム教とか言っていたな」
「よく知っているわね、連邦のくせに」
「その手の宗教関係に、詳しい男がいてな」
「会ってみたいわ、その男」
「そいつはキリスト教が宗派のようだがな」
と、いってもユウにしてみても、彼女ロニとパプテマス・シロッコが宗教談義を繰り広げる光景は見てみたい気がする。
「コーヒー」
「自分で頼め、アンジェロ」
「気の効かない男だ、あの方の足元にも及ばん」
「フロンタルはそんなことまでやってくれるのか?」
その言葉には答えずに、アンジェロはコーヒーをクリープ付きで頼んだ。