夕暁のユウ   作:早起き三文

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第89話 家族(前編)

 

 コゥー、ン……

 

――まもなく、宇宙へのドライブが発射致します――

 

「このコロニーのモニュメントらしいな、アンジェロ君」

「あなたに君付けで呼ばれる筋合いはありませんよ、ユウ大佐どの」

「じゃあ、アンジェロ」

「そっちの方が」

 

 オーストラリアのマスドライバー射出場、そこのロビーにと鎮座させられてあるコロニーのモニュメントに二人の男が張り付いている姿は、どこか滑稽である。

 

「気が休まる」

「もう一人のユウ、ユウ・フロンタルはどこへ行った?」

「あの方は、忙しいのだ」

「フーン」

「ああ、あったぞ」

 

 スッ……

 

 そう言いながら、アンジェロはモニュメントの隙間から一片のメモリースティックを取り出した。

 

「マリーダ」

「了解」

 

 アンジェロにマリーダと呼ばれた少女は、携帯式の再生機を取り出しながら、風船ガムをプッと破裂させる。

 

――連邦始祖の銅像の元へと行け――

 

「連邦始祖の銅像、アンジェロ?」

「確かとはいえないが……」

 

 その二人の男は、そのクルスト博士の言葉にその首を傾げている。

 

「ダカールのリカルド首相像の事ではないのか、ユウ・カジマ」

「リカルド首相?」

「そんな事も知らないのか、連邦のくせに」

「俺の過去には、いろいろとあってな……」

「フム……」

 

 その言葉に、アンジェロ少年は何かを合点したかのような表情を浮かべていた。

 

 カゥー、ン

 

――ドライブの行き先は、サイドⅡです――

 

 

 

――――――

 

 

 

「チーズ」

「は?」

「粉チーズ、パルメザン」

「ああ、ほれ……」

 

 アンジェロの不躾な言葉にもユウは腹を立てた様子もなく、彼のスパゲティへと粉チーズをかけてやる。

 

「ほら、チーズだ」

「誰が、かけろといったか?」

「ちがうのか?」

「ちがう」

 

 とはいいつつも、アンジェロ・ザウパーはそのユウの行為に腹から怒った様子はない。

 

「何かさ、あの二人」

「何だ、ロニ?」

「似てるよね」

 

 そのロニと呼ばれた少女は、褐色の口許へドリアのソースを付けたままに、隣の大男へとポツリとそう呟いた。

 

「雰囲気が、どこか」

「そうかな……?」

「そうだよ、ヨンム」

 

 ヨンムと呼ばれた大男は、それでも合点がいかずに、イカスミパエリアへとその口を運んだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「そっちにはあったか、アンジェロ」

「無いな、ユウ・カジマ」

 

 ダカール議会での、宇宙世紀での始祖「リカルド・マーセナス」の銅像を二人の男が調べている。

 

「お母さん、あれ気持ち悪い……」

「見ちゃいけません……」

 

 周囲の人間の冷たい視線を無視して、ユウとアンジェロは銅像を調べ続けている。

 

「あったぞ」

 

 さっきから銅像の股間の辺りを調べていたジンネマンという男が、そのコックの辺りを取り外して、メモリーを取り出した。

 

「なんで、こんなところに……」

「あたしが知るもんか」

 

 二人の女、マリーダとロニがその配置場所を見て、露骨にその端整な顔をしかめてみせる。

 

「ロンニさん、再生機」

「おう、ユウの旦那……」

 

 ジ、ジジッ……

 

――最後のコロニーに似て、コロニーにあらず所へ行け――

 

「どういう意味だ、アンジェロ?」

「アクシズ、かなぁ……」

「そうか?」

 

 そのアンジェロの答えに納得がいっていないマリーダではあるが、他に答えようがないのはアンジェロとて自分で理解している。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ムスリム?」

「チーズ」

「口を挟むなよ、アンジェロ」

 

 と、いいつつもユウ・カジマはアンジェロのスパゲティに粉チーズを振り掛けてやる。

 

「イスラム教とか言っていたな」

「よく知っているわね、連邦のくせに」

「その手の宗教関係に、詳しい男がいてな」

「会ってみたいわ、その男」

「そいつはキリスト教が宗派のようだがな」

 

 と、いってもユウにしてみても、彼女ロニとパプテマス・シロッコが宗教談義を繰り広げる光景は見てみたい気がする。

 

「コーヒー」

「自分で頼め、アンジェロ」

「気の効かない男だ、あの方の足元にも及ばん」

「フロンタルはそんなことまでやってくれるのか?」

 

 その言葉には答えずに、アンジェロはコーヒーをクリープ付きで頼んだ。


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