夕暁のユウ   作:早起き三文

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第9話 ジャミトフの子

激しい雨が基地を覆い隠す。

 

「ティターンズ?」

 

「ジャミトフ准将が音頭をとって提案している新組織よ」

 

ブルーがユウにコーヒーを手渡しながら話を続ける。

 

「主に地球環境保全の為の組織」

 

「ふぅん……」

 

「それと、旧ジオンの残党狩りを兼ねる組織らしいわ」

 

「なるほど……」

 

ユウは以前に一度だけ会った事のあるジャミトフ准将の顔を思い出しながらコーヒーに口をつける。

 

「地球の保護の為の新組織か」

 

「武装化された環境保護団体ってところかしらね」

 

「軍のやることではないだろう?」

 

「地球連邦軍から派生させて創るつもりらしいわ」

 

ブルーがテーブルの上の菓子を口にほおりこむ。

 

「何を考えておられるのかな……」

 

「少し前に」

 

ブルーが壁に掛けてある世界地図を眺めながら眉をひそめる。

 

「オーストラリアのトリントン基地から新型機がジオン残党に強奪されたらしいわね」

 

「そうみたいだな……」

 

ユウは少し前に聞いた噂の事を思い出した。

 

「今、その新設組織の是非を連邦議会で審議しているらしいわ」

 

「情報通だな」

 

ユウが感心したように笑みを浮かべる。

 

「父の昔の知り合いから聞いたのよ」

 

「お前の親父さんは連邦政府の人間なのか?」

 

「私の名前」

 

ブルーはその名の通りの色をしたショートの髪に手をやりながら話す。

 

「ハイリーン・ハイマン」

 

「ハイマン?」

 

ユウはコーヒーカップをテーブルに置く。

 

「もしかしてジャミトフ准将の……」

 

「父に当たるわ、彼は」

 

ブルーは微笑みながら席を立ち、コーヒーを淹れ直す。

 

「縁は切ってあるけど」

 

「……」

 

ユウは黙って菓子に手を伸ばす。

 

「理由を聞かないのね?」

 

「失礼だろう?」

 

ブルーは肩を竦めながら再び椅子へ座る。

 

「理由が解らないの」

 

「何が?」

 

「父が私を含めて、突然戸籍上の全ての縁を切った理由が」

 

「へんな話だ……」

 

ユウもコーヒーを淹れ直す。

 

「金銭問題か?」

 

「それこそ失礼な質問よ……」

 

ブルーはクスクスと笑う。

 

「ほんとに無理矢理」

 

「縁を切られた?」

 

「母や親戚が呆れてたわ」

 

「だろうね……」

 

ユウは苦笑する。

 

「世捨て人になる……?」

 

「まさか」

 

「だね」

 

二人は顔を見合わせて黙りこむ。

 

「以前にね」

 

「何?」

 

ユウがジャミトフと会ったときの事を思い出しながら話す。

 

「ジャミトフ准将がブルーの事をよろしく頼むってさ……」

 

「あなたに?」

 

「ああ」

 

「へえ……」

 

休憩室が沈黙に包まれる。雨が激しく窓を叩きつける。

 

「怖い感じの人だな……」

 

「父が?」

 

「ああ」

 

ユウは椅子から立ち上がり、窓の外の雨へと目を向ける。

 

「クルスト・モーゼス博士」

 

「EXAMとやらの産みの親ね」

 

「彼と同じ匂いがする」

 

「単なる加齢臭じゃなくて?」

 

「おい……」

 

ユウは窓からハンガーの中でメカニック達が整備してくれているランプライトを見ながら口を軽く綻ばせる。

 

「なんか」

 

「ん~?」

 

ブルーが菓子を頬張りながら答える。

 

「世の中が荒れてきたな……」

 

「そうね~」

 

ブルーがテレビをつけ始めた。

 

「結構気分がコロコロと変わる女だな……」

 

「リラックスよ」

 

「いい性格だな……」

 

ユウも仕方がないのでテレビを見始める。

 

「たまにはいいか……」

 

「あんたもオフでしょうに……」

 

「まあね……」

 

ユウは少し早い夕飯でもとろうかと思い始めた。

 

 

 

「誰にも言わないでね」

 

夕食後にブルーがユウに言ってきた。

 

「本名の事か?」

 

「父はどうしても私と母との縁を切りたかったみたい」

 

ブルーが肩を竦める。

 

「嫌われたもんね」

 

「良い親父さんだった?」

 

「理屈っぽいけど、優しい人」

 

「そうか……」

 

ユウはテロのニュースを見ながら答える。

 

「ティターンズか……」

 

「必要な組織かもね」

 

「ああ……」

 

二人は少し暗い気分のまま、休暇を過ごしていた。


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