夕暁のユウ   作:早起き三文

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第81話 贖罪の花

 

 ジャアアァ……!!

 

「散った、花が!!」

 

 そのアンジェロ少年の言う通り、アクシズを包んだコスモスの花が次々とパリンと割れる。

 

「みたか!!」

 

 グローブ・ソーラ・レイが宇宙を切り裂く姿を見て、アンジェロ少年は禍々しい喝采をあげる。

 

「どうだ、みたか!!」

 

 満面の笑み。

 

「どうだ、まいったか!!」

 

 いや、泣き哄笑とでもいうべきであろうか。

 

「アンジェロ、イチじテッタイするぞ……」

「見ましたか、ユウ・フロンタル!!」

「タシカ、ニ」

「ザマを見たか、連邦ども!!」

「サ、イクぞ……」

「母さんの仇だ、連邦ども!!」

 

 彼アンジェロの機体、ZⅢは内部から強く震える、彼のどこか虚しい笑い声と共に。

 

 

――――――

 

 

 

「ドゴス・ギア、左舷大破!!」

「総員退避、ミラー展開部隊への通告も忘れるな!!」

「そんな暇がありますか、バスク艦長!!」

「無理でもやるんだよ、スペースノイドどもに良いようにさせるな!!」

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「ノイエ・ローテだ!!」

 

 ユウ・カジマを始めとする怨霊達、それを集束させているのがノイエ・ローテだと、激しい頭痛の中でアムロはニュータイプ的な「勘」で気がついた。

 

「シャアの妖花、それの残骸が未だに怨霊達の依代となっている!!」

「そうは言ってもな、アムロ・レイ……」

 

 宇宙に咲くモノノケ、ノイエ・ローテを守護するGマリオンとその付近を取り巻くオーラを睨みながら、ニムバスは聖剣マリオンの刃にもう片方のマニュピレータを撫で付けながら、忌々しげにその眉をしかめてみせる。

 

「私が飛び込もう、アムロ・レイ」

「出来るのか、ニムバスとやら?」

「マリオン!!」

 

 正眼に構えられる剣、マリオンとは名を同じくして異なる存在にニムバスは列泊のごとき声をなげつけ、自身はそのままGマリオンに向けて機体を向けさせた。

 

「ノイエ・ローテの心臓部へ切り込み、案内を頼む!!」

「お前一人では難しいか、ニムバス!?」

「あの紅きモビル・アーマー、恐らくはエグザム・システムの逆制御を受けていると思う!!」

「一方的ではないか!?」

「ユウの馬鹿者が、怨念の虜になっているからな!!」

 

 レーテ・ドーガ、ニムバス機がそう言い放った後に、彼の機体は矢が放たれたようにユウ・カジマの機体へと突進する。

 

 ゴゥウ!!

 

「ニムバス!!」

「怨念の動きだけは、止めさせてもらう!!」

 

 そのままに聖剣が一閃、サイコ・フィールドが弱まったと同時にニムバス機は即座に反転をし、ノイエ・ローテの中央部、ザ・ナックが無くなり空となった巨機体の中心へと自機に拍車をかけた。

 

「後は頼んだ、マリオン!!」

「させるか、ニムバス!!」

 

 ユウの血を吐くような叫び声と共に、ついにノイエ・ローテの切り札、核弾頭ファンネルが無人の機体から放出される。

 

「アムロ・レイ、どうにか出来るんだろう!?」

「その為のフィン・ファンネルだ!!」

「よぅし!!」

 

 ひとまずはそのアムロの返事に納得ができたニムバスは、自機をノイエ・ローテの中心核へと飛び込ませた。

 

「しかしにな、ニムバス!!」

「なんだ、アムロ・レイ!!」

「俺には、お前こそ心配だ!!」

「怨念達の祟りを一身に受ける、それの心配だな!?」

「オカルトでも、人は殺せる!!」

「大丈夫だよ、アムロ・レイ」

 

 フィン・ファンネルが核弾頭を包み込み、何処かへ飛ばしていく姿を他の面々が固唾を飲んで見守る中。

 

「私ことニムバスは、身体が頑健なラプラスタイプだ!!」

 

 マリオンのピクセルが再度ユウ・カジマ機の怨念を弾き飛ばす。

 

「早く、ニムバス!!」

「解っている、マリオン!!」

「あたしも、長くは持たない……!!」

 

 ガォ!!

 

 魔剣エグザムがマリオン・ウェルチのバギ・ドーガをはね飛ばし、ニムバスを追おうとした、その瞬間。

 

「うお!?」

「甘いな、ユウ・カジマ!!」

 

 ハマーン・カーンのクィン・マンサ、その頭部が丁度Gマリオンのコクピット周りへと命中し、その彼の動きを止める。

 

「いま、だ!!」

 

 バァ、ン!!

 

 禁断の箱が、ニムバス・シュターゼンによってこじあけられ、紅黒き泥が彼の機体を包み込んだ。

 

「ニムバス!!」

 

 その声は、ユウ・カジマが放ったものだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ニムバス!!」

 

 正気に戻った、いや元の彼に戻ったと言うべきか、ユウ・カジマは機体出力を上げ、ニムバスのレーテ・ドーガを助け出そうと試みる。

 

 ド、フゥ……

 

「ニムバス!!」

 

 マリオンのピクセルの支援も受け、どうにかノイエ・ローテの残骸からニムバス・シュターゼンの機体を引きずりだす連邦の騎士、ユウ・カジマ。

 

「グゥ、ウゥ……」

「ニムバス!!」

「さわるな、ユウ!!」

 

 乱暴にその腕を振るうレーテ・ドーガにやや鼻白むユウ・カジマであったが、元はといえば自分の責任なのだ、まさしくニムバスはホワイト・ナイトであったのだ。

 

「ユウ……」

「なんだ、ニムバス?」

「私のムサカへこい、修正してやる」

 

 焦燥しきったようなニムバスの対して、ユウは彼が己と同じく正気を失っているのかと一瞬思ってしまう。

 

「ニムバスの顔を立ててやってよ、ユウ」

「ああ……」

 

 マリオンの、いやローベリアの声にユウはようやく自分の「声」を戻したかのように、元の冷静な声を取り戻す。

 

「そうだな」

「それが良い、ユウ・カジマ」

「ありがとう、ハマーン」

 

 最後の頭部すら失い、もはやたんなる瓦礫と化したクィン・マンサの姿を見て、ユウはなにやら照れくさい気分になる。

 

「シャアの面倒も見てやってくれ、ハマーン」

「言われなくても、他の連中が見ているさ」

「そうか……」

 

 ザ・ナック、レーテ・ドーガⅡの周辺に他のアムロ・レイを始めとする者達が集まっているのを見て、ユウは機能不全を起こしているGマリオンの惨状にふとため息をついた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「髪を短くしたのは、良い根性だな、ライバルよ」

「いいから、一思いにやってくれ、ニムバス」

 

 バ、キィ……!!

 

「さすがに、痛いものだな」

「これでも、私は本調子ではない」

「まぁな」

 

 ムサカのハンガーデッキでニムバスによる「修正」を受けたユウは、痛む頬を抑えながら、それでも挑発的に彼の顔を睨み付ける。

 

「騎士道、それも影響しているだろうな?」

「無抵抗の相手だからな」

「なら、俺と抵抗しようか」

「勝てるものなのか、お前が私に?」

「無理だな」

 

 元々、ユウ・カジマの格闘技の腕前は大したものではなく、対するニムバスは肉体的な能力も合わせて、騎士の名に相応しい格闘能力であった。たとえ、義足の身であろうともだ。

 

「俺が三人はいないと、勝てるものではない」

「情けない、ユウ・カジマ」

「言ってくれるじゃないか、ローベリア」

 

 嘲笑うマリオンことローベリアを無視し、ユウはニムバスの事を実と睨みつける。

 

「なら、答えは一つだ」

「それはなんだ、ニムバス?」

「モビルスーツ」

 

 その答えを聞き、ユウの顔が強く渋った。

 

「共に機能不全、半死半生の機体だぞ?」

「だからこそ、だよ」

「引導を渡すつもりか、あの二機に」

「私のレーテ・ドーガは残念な結果、ほとんど使わない内にクラッシュするというになったがな」

「いいだろう」

 

 ユウは地面、ハンガーデッキの床に唾を吐きつけると、そのまま満身創痍の愛機「Gマリオン」へと跳び乗った。

 

「あの小惑星が良さそうだな」

「私についてこい、若造」

「若造って、俺はもう三十なかばだぞ?」

「若造、さ……」

 

 その台詞を聞いて、ユウは重力と無重力を隔てるブロックへ機体を踊らせる彼の歳が、すでに。

 

「四十、か……」

 

 確か、そのくらいの年月であることを思い出し、少し感傷が心に走った。

 

 

 

――――――

 

 

 

「なんだ、ありゃ?」

「ケットーじゃなくて、カイ?」

「せっかく、得体の知れないドンパチが終わったというのに、お元気なこった」

 

 剣劇、それを小惑星の上で繰り広げている二機のモビルスーツを見て、フリージャーナリスト「カイ・シデン」があきれたような声を強く出す。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「う、うぅ……」

 

 将人レビル、彼の乗る地球連邦軍旗艦「ゼネラル・レビル」はグローブからの照射の直撃こそ受けなかったものの、謎の怪現象を引き起こしている。

 

「医務室、動力が!!」

「く、ぬぅ……」

「電力が、回りません!!」

 

 ややにヒステリックな声を張り上げている医務室の看護医を無視し、レビルは自らが横たわっていたベッドから這い出た。

 

「ワシを、怒っているのか……?」

 

 グローブからの光はただ肉眼で見ただけでは、まさしくただの巨大光。しかし。

 

「まあ、当然だな……」

 

 心の眼、それを使って見ようとすれば、それはドロリとした怨念に満ちている事が、ニュータイプやオールドタイプ以前に気がつくものだ。

 

「ワシが、グローブ事件を主導したのだからな」

 

 やむを得なかった、そう言うことはできる。そうでもしなければ連邦兵卒に暴動や、最悪反乱が起こっていたかもしれない。

 

「ウゥ……」

 

 居てもたってもいられず、医務室からヨロヨロと出ていくレビル将軍には、医師達は気がつかない。謎の現象によりそれどころではないらしい。

 

「性、悪説」

 

 あのグローブで繰り広げられた「饗宴」はまさしくその具現である。

 

「だが……」

「おい、レビル!!」

 

 ダッ……!!

 

 だが、この自らへと駆け寄ってくるこの、自身を常にライバルとみていた男「イーサン・ライヤー」の放つ気は。

 

「何をやっているか!?」

「しょ……」

 

 失禁をしている将人レビルが感じている、この暖かいオーラは。

 

「性善……」

「軍医、早くレビルを連れていけ!!」

「性善、説」

「しゃべるな、レビル!!」

 

 人は心の狭搾さを取り除けば、だれでもニュータイプになれるという証明に他ならない。

 

「軍医、何をしておるか!?」

「信じて、みたかった……」

 

 ガッ……

 

「おい、レビル!!」

 

 後に、イーサン・ライヤー大将が語るには、それが将レビルの最後の台詞、臨終の言葉であったという。


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