夕暁のユウ   作:早起き三文

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第8話 宇宙(そら)と空の間

大空と呼ぶにはあまりに高く、宇宙と呼ぶには低い蒼い高々度の空。

その世界を二機のモビルアーマーが飛んでいた。

 

「扱いづらいな……」

 

ユウのランプライトが少しバランスを崩しならその空間を飛ぶ。

 

「普通の人間のデータも欲しいらしいからな」

 

ユウ機の少し前をニムバスのランプライトが飛んでいる。

 

「流石に慣れが早い……」

 

点のような太陽からの刺すような光条に目を細めながらニムバスはユウ機の様子を観察する。

 

「強度のリミッターが効いているせいだよ」

 

「でなければ、強化人間以外では扱えない」

 

「強化人間か……」

 

「人間をモルモットとして扱うやり方だよ」

 

ニムバスは苦笑いしながら、空と宇宙の間にランプライトを滑らせる。

 

「可変機のテスト機体らしい」

 

「可変機?」

 

「モビルスーツとモビルアーマーの良いとこ取りの機体の事さ」

 

「へぇ……」

 

ユウはそう答えながらも高々度から見える景色を楽しんでいた。

 

「蒼い空だよ」

 

ランプライトを駆りながら、ニムバスは濃い紺色をした成層圏に視線を向ける。

 

「空と宇宙の狭間だ」

 

「詩人になったな」

 

ユウが眼下の雲を眺めながら口笛を吹く。

 

「ここから下も」

 

ニムバスはランプライトを軽く振る。

 

「ここから上も」

 

ニムバスの言葉にユウは成層圏を見上げる。

 

「戦いの地だ」

 

「そうだな」

 

二機のランプライトはしばし無言で空と宇宙の間を飛び続ける。

 

「蒼い宇宙か……」

 

「私も見た」

 

ニムバスが呟く。

 

「俺に落とされた時にか?」

 

「そうだ」

 

「やはりな……」

 

ニムバスの答えにユウが息を吐く。

 

「冷たく研ぎ澄まされた宇宙」

 

「俺の見たのとは違うな」

 

「お前は何を見た?」

 

ニムバスの言葉にユウは少し昔の事を思い出そうとした。

 

「人の心かな……」

 

「お前らしい」

 

ニムバスは軽く苦笑する。

 

「私が見たのは諦観の心だろうな」

 

「なるほど……」

 

「マリオンが見せてくるたのであろう」

 

ニムバスが再び成層圏を見上げる。

 

「この色だ」

 

「蒼いな……」

 

「ああ」

 

ニムバスの機体が少し高度をあげる。

 

「マリオンが伝えたかったのはどちらの色だったのだろうか?」

 

「両方だろう」

 

ニムバスが事もなげに言い放つ。

 

「俺の見た人の心の宇宙は」

 

ユウも機体の高度を上げる。

 

「再び見る機会があるのだろうか?」

 

「さぁな」

 

ニムバスはあまり関心がないように呟く。

 

「少なくとも私は」

 

ニムバス機が機首で成層圏を指す。

 

「その時の宇宙の色を、この今見ている」

 

「冷たい宇宙の色か……」

 

暗い成層圏の蒼から太陽が鋭く光を投げつける。

 

「どちらにしろ」

 

ニムバスがテスト飛行の終了時間であることを告げた。

 

「騎士である私のやることには変わりはない」

 

「戦いか」

 

「そうだ」

 

ニムバス機が下降を始める。

 

「私はニュータイプとやらを超えたい」

 

「何がそこまでお前を?」

 

ユウのランプライトも高度を下げる。

 

「壁を見たものの反発心かもな」

 

「ニュータイプとオールドタイプの違いか……」

 

「ああ」

 

雲の壁を二機は突き抜けていった。

 

 

 

「オグスは捕虜収容所へ?」

 

「なんとも言えない」

 

ユウの問いにブルーは肩を竦める。

 

「なにしろ、連邦の公式戦術書にも書かれている名うてのパイロットだから」

 

「もて余しぎみか」

 

ランプライトの機体を冷やしている最中にユウは食事を取る。

 

「お手柄ではあったけどね……」

 

「かなりのボーナスが出たな」

 

「それについては」

 

ブルーが含み笑いをする。

 

「あのヤザンとやらが褒めていた」

 

「フーン」

 

ユウは地上の基地から見えるはずもない宇宙の方へ顔を上げる。

 

「ボーナスを三艦の全員で山分け」

 

「それが道理だろう?」

 

「あのヤザンが言うには」

 

ブルーがジュースに手を伸ばしながら話を続ける。

 

「そういう事が出来る人間が上へのしあがって欲しいそうよ」

 

「そうかい……」

 

「ヤザンは悔しがっていたわ」

 

「俺の手柄に?」

 

ユウがジュースから口を離す。

 

「俺もあの乱暴な海賊の女を連邦に売り払いたかったって……」

 

「アイツらしいな」

 

ユウは苦笑しながら口にコップをつける。

 

「あれほどのパイロットなら売ったその金で部下に旨いもんを食わせてやれたってね」

 

「優しいな……」

 

「山賊の頭みたいなもんよ、あんな男は」

 

「ハハッ……」

 

ユウは少しジュースにむせながら相槌をうつ。

 

「結局、あのガンダムの新人……」

 

「ジェリド君?」

 

「入院だって?」

 

「サマナの奴が哀しがっていた」

 

ブルーが少し顔を翳らせる。

 

「野心的だけど素直で真面目」

 

「あの新人君がね……」

 

「サマナの言う事を憎まれ口を叩きながらも真剣に学ぼうとしていたってね」

 

「サマナにとっては生意気な弟みたいな感じだったのか……」

 

「死んだ弟に似ていたと」

 

「そうか……」

 

ユウはボソリと呟いた。ランチプレートを片づけ終えたユウはランプライトの調整を始める。

 

「少し休んだら?」

 

「かもしれないけどね……」

 

コクピットに入ったまま、ユウは目を閉じる。

 

「そんな所で昼寝をしなくてもいいでしょうに……」

 

ブルーは苦笑しながらも、少し離れた場所にいるニムバスの様子を見に行った。

 

 

 

「宇宙と空の間か……」

 

再び高々度をランプライトで飛ぶユウはその景色を眺める。

 

「まさに天国だな」

 

すでに日が暮れようとしている。夕日が眼下の雲を紅く染める。

 

「紅い宇宙かな……?」

 

ユウは自分が何かセンチメンタルな気分になっていることに一人苦笑した。


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