夕暁のユウ   作:早起き三文

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第77話 所詮なメビウスにもラプラスは顕る(中編)

   

――兄さん?――

 

 カラァ……

 

 夜風と共に一室、よく調度がなされた部屋の中へと入り込む、満月のその光にも負けぬ美しき金の髪を持つ少女の声には少年、彼女の兄はすぐには声を出さない。

 

――どうしたの、怖い顔をして?――

――アルテイシア――

 

 少年の手に握られた、一通の手紙。

 

――母さんが、な――

――お母様が?――

――亡くなられた――

 

 カシャア……

 

 その兄の言葉に、少女はその手に持つティーカップを床へと落とす。

 

――気が、落ち着いたらな――

――はい、兄さん――

――母さんの手紙、読んでやってくれ――

 

 ポゥ……

 

 表情を変えず、放心をしながらも涙を流す妹の顔、それから少年は目を背け。

 

――ここに、置いておくよ――

 

 あえて抑揚無き声を自らの妹へと放った後、少年は。

 

 キィ……

 

 小さいながらも良く調えられ、美しき月の光が射し込む妹の部屋から、静かにその身を離れさす。

 

――ザビ家――

 

 厚い扉、それを通しても妹の嗚咽は少年の耳に聴こえてくる。

 

――ザビ家……!!――

 

 その時、少年がその目にした。

 

 フィア……

 

 自らの身体から浮かび、昇った紅い光が。

 

――よくも……!!――

 

 宇宙の心が、彼をして畏怖の音と共に呼ばれる「赤い彗星」と為したのかもしれない。

 

――僕は――

 

 古き血を絶やし、自らがジオンを牛耳ろうと試みる、新たなタイプの政治を行おうとする血族ザビ家。

 

――お前たちを、ザビ家を――

 

 無知なる大衆を煽動し、少年の父であるダイクン。そしてその彼の妻にして少年の母である女性をもろともに概念的、物質的な死へと追いやり、抹殺した強大無比なザビ家、その「力ある者」を絶やす「力」を。

 

――裁く為の力を、僕は――

 

 「弱者」である少年に、その「強者」を裁く可能性を秘めた力を。

 

――僕は、望む!!――

 

 ラプラスの、可能性の悪魔は少年を赤き運命へと導き、力を与えた。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ……」

 

 パ、チィ……!!

 

 ユウ・カジマの機体、たかが一機のモビルスーツに圧迫させた自機「ノイエ・ローテ」の損害の酷さに、シャア・アズナブルはコクピット内で軽くため息を吐く。

 

「私を仕留める算段、どういう物であったのかな、ガトー?」

「あまり大した事じゃありませんよ、シャア・アズナブル……」

 

 どうにか、エグザムの呪縛を離れてもなおも狂乱を続けるGマリオン。シャアはその蒼きジェダ・タイプからの猛攻に対応できるようにはなったといえども、もはやこのノイエ・ローテには余力も残弾も無い。

 

「あなたをノイエ・ローテから追い出す、機体コントロール権を私が奪う」

「無理だな、甘いよガトー」

「その他、あと十の手段がありますよ、シャア」

「簡単に言ってくれるよな、ガトー?」

「不思議なのです、私は」

 

 ビィ……

 

 機体総出力が五十パーセントを下回った事を知らせる警報、アナベル・ガトーはそれを無視し、混成部隊に対して最後の意地を見せているシャア・アズナブルの奮戦を、どこか他人事のように当のノイエ・ローテのサブ・コクピットから観戦をしている。

 

「さっきまでは、機体コントロールどころか」

 

 ジャア……

 

 牽制として振るわれたGマリオンの火焔剣を回避したノイエ・ローテの装甲をファンネル達が、一点に火力を集中させて打ち砕く音、それがシャア達の耳を打つ。

 

「私がサポートを放棄することすら、出来なかった」

「ジオンの名を刻み込んだサイコミュというのは、そういうもんだ」

「今なら、あなたをノイエ・ローテから追い出し」

 

 ゴゥ……

 

 ノイエ・ローテの機体出力が変動を起こし、無意味な機体推進により余剰燃料が無駄に消耗される中、シャア・アズナブルの口から。

 

「ハァ……」

 

 鉄仮面に覆われたその顔の奥から、疲労の色を強く感じさせるため息が漏れ出す。

 

「宇宙へ放り出した後、管制ユニットであるレーテ・ドーガのコクピットを開かせて」

「私の仮面を壊すか?」

「壊すにしても、レーザー狙撃もあればこのノイエの残った核を爆発させてもいい」

 

 物騒な物言いであるアナベル・ガトーであるが、正直シャアの脳波を増幅させている仮面、鉄のサイコミュ端末があってこそのノイエ・ローテだ。

 

「それで、このモビルアーマーの性能は半分以下にまで落ちる」

「よくよく探ってくれたもんだ……」

「私は苦手ですけどね、この手の事は」

 

 ジュウ……

 

 コーヒー・チューブにまで手を伸ばす事が出来るこのガトーという歴戦の兵、その豪胆な観戦が彼の気骨から出ている物なのか、または緊張の度が超えすぎた為の行為なのかはシャアにも解らない。

 

「ハマーン、デラーズ閣下、そしてマ・クベという者が手を組めば」

「出来るな、確かに」

「故に、不思議なのです」

 

 ピィ、イ……

 

 機能停止を知らせる警報、戦闘兵器の「死」を知らせる音色が響くコクピット内部、しかし。

 

「何故、この状態でノイエ・ローテは動くのです?」

「私にも解らない」

「無責任な……」

「それが、理由なのかもしれない」

「はい?」

 

 微かに、コーヒーを飲むガトーの喉が揺れ、彼はむせる。

 

「無責任が、このモビルアーマーを動かしているのかもしれない」

「ああ、ニュータイプ流哲学というものですか……」

 

 ドゥ!!

 

 強い被弾の音、しかしそれでもガトーは、そしてシャア・アズナブルも何処か呑気なものだ。

 

「確かに、信念などのマインド・パワーは人を動かす力になりますが」

「納得いかんか、ガトー?」

「私はオールドタイプですので」

「それでも、人の心は普遍的であり無責任に核を放ち、そしてコロニーを落とす事も出来る」

「フム……」

 

 十年、いや彼アナベル・ガトーにとっては七年という時間、それを与えられながらも全く人の魂の形が変わらないというのは、それこそかえって不自然であり、有り得ない話と言える。

 

「私を否定しますか、シャア?」

「今の私は、人を否定する事は出来ない」

「ならば、せめて最初の謎かけの答えの一つでも」

「うむ……」

 

 電力が落ち、予備バッテリーに頼っている中でも、全天視界モニターの映し出す外界は。

 

――ニュータイプめ!!――

 

 ノイエ・ローテの高性能モニターは彼シャア・アズナブルに対して、蒼き悪鬼の姿をクッキリと映し出させてくれる。

 

「人には強い力と弱い力がある」

「ミノフスキー粒子理論ではないですか、それは?」

「強い力は弱い力を押し潰すよ、ガトー」

 

 だが、その逆の理論が今のノイエ・ローテがユウ・カジマ達によって追い詰められているという現実だ。

 

「そして多分、私と」

 

 ガォン!!

 

 その時、凄まじい振動がノイエ・ローテの機体を強く揺らす。

 

「君こと、アナベル・ガトーは強者だ」

「訓練は厳しかったですからね、モビルスーツの」

 

 流石にその尋常ではない機体ショックに、ガトーも口にと含んでいたコーヒーを投げ捨てて、その顔を僅かに引き締める。

 

「だが、弱い力も密集圧縮すれば」

 

 どうやら、このモビルアーマーのIフィールドを貫き、強力なビーム光条がノイエ・ローテを千切った様子である。モニターが数基破損をし、ガトーには外部の状況がよく掴めない。

 

「モビルアーマーの一つも動かせるし、潰す事も出来る」

「信念がこの機体を動かしていると?」

「信念というよりも」

 

 ガァ!!

 

 その後も続く断続的な銃撃が「シャア・アズナブル専用モビルアーマー・ノイエ・ジールⅡ」を揺さぶる中、それでもシャアは意地を、ニュータイプの可能性を信じて自機へと闘魂を注ぎ込む。

 

「怨念、情念の類いだな」

「不可思議な話ですね、シャア」

「君のデラーズ紛争時での行いも、単なる一人のパイロットが出来る限界を超えていると思うが……」

「義、信念ですので……」

 

 どうもこの状況になっても、彼ガトーはシャアの手伝いをしない事に決めたらしい、別にシャアにしても彼にあまり期待などしていない。

 

(元々、犬の忠誠心をヨシとする男だからな、彼は)

 

 元々に、あまり本質的な感性が合う男ではなかったのだ。

 

「ああ、そうか義や信念……」

「さすがに勘が良いな、ガトー」

 

 とは言っても、もちろんシャア・アズナブルはこのガトーという男を無能だとは決して想像にもしない。一つの物事に固執し過ぎるきらいがある男であるが、それを個人的レベルで強く持っていた自分が非難する資格はないと彼シャアも自覚、だけは出来る。

 

――エゴだよ、それは――

 

 彼が勝利を納める事が出来た連邦ニュータイプ兵の言葉、正しくその通りに自覚が行動へと伴わないだけなのだ、赤い彗星という男は。

 

「それに加えて、何だかんだ言ってな?」

「連邦への憎しみ、ですか……」

「それが、君を突き動かしていたようだな?」

「これが、人の可能性の所詮たる由来」

 

 確か、彼アナベル・ガトーが今は無き旧ジオン総帥「ギレン・ザビ」の次辺りにザビ家内では心服していた男であったドズル・ザビ。宇宙要塞ソロモンと共に散ったその猛将の娘が。

 

「ミネバ様が、おっしゃっておりました……」

「そうだよな、なあガトー……」

「ショセンなラプラスとやら、そういう意味か……」

 

 ついに実弾、対空砲のそれが尽きたノイエ・ローテ、何やら昏きモヤのような物質が立ち込め始めたコクピット内で、シャアは己の仮面へと、そっと。

 

「ララァにアムロ、そして……」

 

 手を触れながら、なおもノイエ・ローテへの攻撃の手を緩めない愚民達に。

 

「父と母、アルテイシアには悪いが……!!」

 

 旧ザビ家の人間などを始めとする、善悪の判断がつかないままに一部の人間に踊らされるしか能の無い衆生、彼らへの抵抗をシャアは、勝ち目の無き抵抗をなおも続ける。

 

「それでも私は、愚民達に負けたくないのだよ……!!」

 

 間接的とはいえ、その大衆達によって現実的にも概念的にも父と母を殺されたようなものであるシャア・アズナブル、キャスバル・レム・ダイクンにとっては、何度ララァやアムロ達に否定されようとも、その憎しみの心は。

 

「相手に力が無くなり、立場が弱くなったと同時によってたかって池へと叩き落とす、度し難き者達、愚民共には!!」

 

――お前は、永遠に他人を見下す事しかしない――

 

 そう友人から、気の良き男であるアムロ・レイからの気遣いの忠告を何度受けたとしても。

 

「許せよ、アムロ!!」

 

 この今、ノイエ・ローテへと私刑を行っている者達、特に。

 

「私はユウ・カジマを裁く、裁きたい!!」

 

 その、いっとうの強き憎しみの光を放つ愚民達の代表たる男、彼ユウ・カジマに向けて放った彼シャアの叫びには。

 

「君は、ユウ・カジマ君は私の人生の否定だ!!」

 

 ドゥ、ウ!!

 

 彼シャア・アズナブルの雄叫びに対する愚民達からの答えは、凄まじきノイエ・ローテへ与えられた衝撃によって成される。どうやら巨大な質量兵器が紅き妖花へと突き刺さったようだ。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「カミーユ!!」

 

 そのファ・ユイリィ、カミーユ・ビダンの幼馴染みから放たれた警告の声と同時に、彼が駆るモビルスーツである名機「Zガンダム」はその身を軽く。

 

 ギィーイ!!

 

 掃射ビーム・レーザーの射線から自機を伏せさせ、不明機への迎撃姿勢をとろうと試みた。

 

「新型のZⅢ、聴いた事があるぞ!!」

「旧式のZガンダム、確かカミーユとやらだったな!!」

 

 分離した白き機体は地球方面、レビル艦隊方面から急速接近してきた茶色のモビルスーツ一機、緑色をしたモビルスーツ二機によって注意を引かれた様子ではあるが。

 

ボゥウ……!!

 

「会ってみたかった物だよ、ニュータイプ!!」

 

 摩擦の光を切り裂きながら放たれるファのモビルスーツ、メタス改良型からの大口径ビームを軽々とかわしながら「白いヤツ」の随伴機である紫色、高速形態へと可変しているその新型Zタイプ・モビルスーツは、嘲りの声を上げつつ、カミーユ機へと迫り。

 

「アムロ・レイの再来と呼ばれていたようだね、カミーユ・ビダン!!」

「それがどうした、紫のゼータ!!」

「どうもこうも!!」

 

 シャウ!!

 

 紅き摩擦光、それを舞わせながら可変機能を活かし人型となったアンジェロ機は、そのまま自機を燐で焦がしながらも、機体のスピードは落とさずに。

 

「アムロ・レイの再来は!!」

 

 ブォン!!

 

 頭部バルカン砲から軽い牽制弾をカミーユ機へと射ち放ちつつに、人型となったZⅢはハイパー・サーベルをカミーユ・ビダンヘ向かって叩きつける。

 

「一人でいい!!」

「お前がそうだとでも言うのか、新型Z」

「まさかぁ、に!!」

 

 ギャウ、ン!!

 

 カミーユ機のビームサーベルが完全にZⅢのサーベルに力負けをし、グイと圧されている光景のすぐ脇を。

 

「シドレ、モルモット隊の安定剤が!!」

「気を付けてね、シドレ!!」

「いざ、参る!!」

 

 緑蒼の光が、サマナからの応援を受けながら強く疾る。

 

「エィア!!」

 

 モルモット隊、フィリップとサマナの機体後ろへとついていたシドレのジェガン、新型量産機が運搬機サブ・フライト・システムを放擲しながら、自らの得物であるサーベルへと火を入れ始めた。

 

「尋常に、ユウ・フロンタル!!」

「本当に一人で大丈夫かよ、シドレちゃん!?」

「安心召されいて大丈夫ですよ、フィリップ隊長!!」

 

 モルモット隊の隊列から離れたシドレ機、そのジェガンの後方、ちょうどカミーユとアンジェロが鍔迫り合いを行っている真横の、ティターンズ所属モビルスーツ二機の至近から、光が。

 

 リィ、リィア……!!

 

「うわ!?」

「ジェリド!?」

 

 鈴のような音が響くと同時に、アクシズを取り囲む魂の光達が収束をし。

 

 ボゥ!!

 

 プロミネンス光、猛き心がガブスレイⅡジェリド機の脇から、強く噴き出し、その焔により。

 

「ジェリド、大丈夫!?」

「心配するな、マウアー!!」

 

 アクシズ周辺へ舞い乱れる燐が発する炎によって怯んだ「敵機達」が、モビルスーツの縁々に金属色での装飾を施しているZプラス達が僅かに怯む。

 

「私だって、パイロット!!」

 

 それでも彼ら可変機達、ユウ・フロンタルとやらの随伴部隊はファ・ユイリィのメタス改を追い回すのを止めない。

 

 ボゥウ!!

 

「支援、誰から!?」

「女、カミーユと同じ位のガキ!!」

 

 だが、そのZガンダムの従兄弟達へと向かって、アクシズを支えているモビルスーツ「ガブスレイⅡ」の肩から光が放たれ。

 

「しっかりするんだよ、カミーユ小僧の女!!」

「すみません、ティターンズ!!」

 

 ビュウオ!!

 

 アクシズを支えたままに、ジェリドは自機の肩部ビーム砲を背後へ輪回させて光条を放ち、彼女を助け続ける。

 

「違う、こいつらは!!」

 

 ドゥン!!

 

 そのジェリド機に続いてティターンズ機達が支援射撃を行う中で、緑色をした大型ジオン製モビルアーマー「ヒヤシンス」がその肩をサラ機により撃ち抜かれる。

 

「先程の宙域で戦った時とは、実に違う力!!」

 

 そのニュータイプ用モビルアーマー「クシャトリヤ」は、シロッコ手製機体メッサーラに酷似した運搬機へと乗っているカツとサラによって、激しく。

 

「違う、違う!!」

 

 激しく追いかけ回され、圧倒されている。

 

「訳が違うのだ、どういう事だ!?」

 

 ドゥ、ン!!

 

 プロミネンス光、アクシズからの焔がそのクシャトリヤ、マリーダ・クルス機から放たれたファンネルを絡めとり、人のタマシイが彼女を否定したと同時に。

 

 ガァウ!!

 

「おのれ!!」

 

 カツとサラ、二人が放ったビームライフルがクシャトリヤのビーム・バリアーを貫通し、またしても軽度の被弾を彼女へ負わせる。

 

「マリーダ!!」

「まだ持ちます、フロンタル様!!」

 

 だが、そのマリーダ機を心配している暇は彼らのリーダー。

 

 ギィアン!!

 

「正対せよ、ユウ・フロンタル!!」

「リョウサン、リョウサン機ごときガネ……!!」

「貴方に、ユウという単語を名乗る資格は無いのであります!!」

「言ってくれルヨ、シードル!!」

 

 シドレ機、ジェガンによって一方的に押されているユウ・フロンタルにはない。

 

 

――――――

 

 

 

 

「フロンタル様が、危ないか!?」

 

 そのアンジェロ機ZⅢ(ズィードライ)に出来た僅かな隙、それを見逃さなかったカミーユではあるのだが。

 

 ガァウ!!

 

 他の敵機からの支援射撃により僅かにライフルの照準がブレてしまい、そのライフル・ビームを紫色をしたZガンダムが潜り抜け。

 

「ならば、一気にカミーユ・ビダンを仕留めてみせる!!」

「ちぃ!!」

 

 そのアンジェロ機が身構えるハイパー・サーベルによる刺突が、カミーユの目前へと迫り来る。

 

「くそう!!」

 

 バァ……!!

 

 圧倒的に出力の、サーベル出力の差があるZ・ワンとZⅢ、カミーユ機Zガンダムが受け流したハイパー・ビーム・サーベルの圧力により自機体が持つサーベル基部から火花が出た事に、カミーユは低く呻き声を上げながらも奪回の手段。

 

「力が弱いんだよセンパイ、カミーユ・ビダン!!」

「だがな、パープル・ゼータ!!」

 

 ジャア!!

 

 頭部バルカン砲による狙いをよく定め、その紫のZタイプが高圧光刃を持つ機械の手へと弾丸を狙い射つカミーユ。その射撃弾により危うくZⅢは。

 

「モビルスーツの性能差が、戦いの決定をさせる物ではないんだよ!!」

「チィ!!」

 

 アンジェロ機ZⅢはハイパー・サーベルを取り落としそうになり、慌ててもう片方の腕からサブ・ビーム砲をカミーユ機へ向け、その光を放たせる。

 

「こしゃくだよ、パープル!!」

「アンジェロ、アンジェロ・ザウパーという名前がある!!」

「アンジェロだと!?」

 

 出力が低い牽制のビーム・スプレーガンによる攻撃ではさすがにカミーユは怯まない。

 

 ボゥ!!

 

 そのままZガンダム、出力が不安定となったビーム・サーベルをカミーユ・ビダンは疾風のごとくにZⅢへと襲わせる。

 

「男の名前のくせに女か!!」

「な……!!」

「そんな、紫趣味のZは女の服だよ、アンジェロとやら!!」

「き、キサマァ!!」

 

 ボゥン!!

 

 いったん自機を後退させつつに、その背から大型ビーム・ランチャーを取り出し始めたZⅢのその大きな隙、相手にどこか成熟さが欠けていると刃を交えて感じたカミーユの扱ったその挑発が。

 

「なんと、しても許さんよ、カミーユ・ビダン!!」

「人に言われた悪口も、使ってみるもんだな……!!」

 

 功を奏したのか、アンジェロ機が集束ビーム・ランチャーを構える隙も与えず、カミーユは更なる斬撃を立て続けにZⅢへと与えようとした、のだが。

 

 ドゥ、ン!!

 

「うわ!?」

 

 カツとサラ、ジ・オⅡとタイタニアのペアに防戦一方のクシャトリヤ、グリーン・カラーのそれがZガンダムに激突をし、コクピット内カミーユ・ビダンの身体を激しい振動が襲い。

 

 グゥ……

 

 彼カミーユの前歯が下唇を押し潰し、彼の舌へとその血の味が乗る。

 

「こんな時に!!」

「すみません、Zガンダムの人!!」

「パンケーキだけが旨く作れる思い上がり男のモビルスーツ達、だったらやるな!!」

 

 ギァ、ア……!!

 

「運は、ラプラスは僕に味方したようだね、カミーユ・ビダン!!」

 

 ZⅢの主力兵器、ビーム・レーザー砲があたかも長大なビームサーベルのように宙を切り裂き、その赤き光を寸前で回避したカミーユは、その兄弟機の攻撃に対抗をしようと。

 

「こっちにも大出力ビーム砲はある、アンジェロ・ガウパー!!」

「ガ、ウパーだと!?」

「すまんな、言い間違えたかもな!!」

 

 悪言葉を使い相手に牽制をしかけながらも、カミーユは急いで背中に装着されているメガ・ビーム・ランチャーを取り出すのだが。

 

「簡単に打ち合いで俺に勝てると思うなよ、男めかけが!!」

「よくも、よくもォカミーユ!!」

 

 ギァヤ……!!

 

 激昂してもなお、正確な狙いが出来るアンジェロ・ザウパーという男パイロットに対しては、そのカミーユが使った外法、心理戦術は。

 

「微塵の、アクタとしてくれる!!」

「Zガンダムのメガ・ランチャーが、追いつかない!?」

「人の、心を侵すニュータイプめ!!」

 

 裏目にと出ているのかもしれない、それほどそのZⅢ、アンジェロ機とは性能差がある。

 

 

――――――

 

 

 

 

「あのよ、サマナちゃん!?」

「何ですかぁ!?」

 

 ガァン!!

 

 アクシズの「外れ」から次々に顕れる、不気味な意匠を己の機体モビルスーツにと施している不明機達、彼らからの射撃を身軽にかわせているサマナと言えども。

 

「この、忙しい!!」

 

 新型のサマナ機「スターク・ジェガン」といえど、集中力を切らして良い理屈はない。

 

「時にね、何ですかフィリップさん!?」

 

 ドゥ!!

 

 大口径ビーム・スマートガンを放っている最中でも軽口を叩けるフィリップ・ヒューズ、彼とは違いサマナ・フュリスは真面目なのだ、気質が陽気なこの未来のパン屋とは違うのだ。

 

「早く、言って!!」

「アクシズへまとわり付いて、いた連中!!」

 

 フォウ!!

 

 正体不明機からのビーム狙撃を跳ね返すニューガンダム、逃げる敵を追ってここまでやって来たモンシア機のフィン・ファンネルがそのバリアーを展開した負荷のせいか。

 

「アクシズを支えていた、仲良し連中はなんだ!?」

「知るもんですか、フィリップさん!!」

 

 運搬機もろとも機体制御に難儀しているその彼、元同僚の姿を見やりながら、サマナはホン星の相手にと。

 

 ジャア……!!

 

 不明機達の内、狙撃タイプによる支援を受けながら、その体躯を反転させてフィリップ達を迎え撃とうとする姿勢を見せたレッド・クシャトリヤ、紅き大型機へと向かって、サマナは肩から拡散弾ミサイルを投げ放つ。

 

 ドゥ!!

 

「うわう!?」

「あ、しまった」

「馬鹿ヤロウ、新型ジェガン!!」

 

 疑似ニュータイプ波発生器、機体背部へ重量過多となる位に搭載されている「機械的強化人間」を、合わせて四基ともなる補助を受けてもこのνガンダムとやらのコントロールは難しいのであろう、危うくその近接信管ミサイルの反応範囲内へと入り込む寸前であったそのモンシア機を、彼の僚機が。

 

「後で、ツラぁ貸せよ!!」

「動くな、モンシア!!」

「うっせえよ、ベイト!!」

 

 量産型νガンダムが自らを載せているサブ・フライト・システムを無理矢理推進させ、モンシア機をどうにか高威力を誇るミサイルの射線から引き剥がす。

 

 ハァウ!!

 

「ミサイル、撃ち落とされた!?」

「散開しろ、皆!!」

 

 そのサマナが撃ち放った拡散弾ミサイル、それをアッシマー旧式タイプへと乗りながら長距離狙撃を行った男の声が、辺りの宙へと無線を通じて響き。

 

 グゥ……!!

 

「敵の、次が来る!!」

「くそ!!」

 

 宇宙用初期型アッシマーにと自機を固定、そのまま急速に宙域から離れていく狙撃仕様ゲルググにと放たれる、マスプロ・ニューからの拡散ビームガンの連射。

 

「当たれば一発なのによ!!」

「避けて、インコム付き!!」

「アン、何だ重装ジェガン!?」

 

 バムゥ……

 

 ビーム・スプレーガンの弾幕をその身、バリアーで弾き返しながらその量産型νガンダムへ向かい、赤きクシャトリヤが猛突を仕掛けてくる姿に対し、そのマスプロ機へと乗るパイロットは僅かに動揺をする。

 

「こいつは、ジムビームじゃあないんだぜ!?」

「それでも拡散弾です、散らばり過ぎて貫通は無理!!」

「そうかよ、ジェガン!!」

 

 自機の状態、特に残りの武装弾数を頭の中へと刻み込みながら、サマナはスタークから牽制としてグレネード弾を赤きクシャトリヤへと向け、投げ放つ。

 

 ジャ……!!

 

「ファンネルで撃ち落とされた、だがそれでいい!!」

 

 どのみちスタン・グレネードの爆発では直撃でもしない限り、この強敵には僅かなダメージすら与えられない。ファンネルで迎撃させて気を散らすだけでよいのだ。時間を稼げる。

 

「νガンダムに、量産型νガンダム!!」

 

 そのサマナが稼いだ時間の隙に、彼の操るスターク・ジェガンが跨がっている運搬機メルキャリバーから、ややに甲高い男の声が二機のニュー・タイプマシンへと向けて放たれた。

 

「任せろって、サブフライト!!」

「まだ、何も俺は言ってない!!」

「言わなくてもやることは同じだ、素人じみた奴!!」

「サマナのスタークに紅いクシャトリヤは任せろ、黒いνガンダム!!」

「解っているといっただろうに!!」

 

 ジャア……!!

 

 だが、そのアルフ・カムラとの会話で生まれてしまった僅かな、彼らの方での隙。

 

 ボゥウ!!

 

「クィン・マンサもどきを惑わしたのは良かったみてぇだが!!」

 

 今度はそれを突かれてニューガンダム・タイプ二機が跨がっていた運搬機「ベース・ジャバー」が敵の狙撃部隊から狙い撃たれ、ブースターの出力が一気にゼロとなる。

 

「せっかく、ここまであの赤いヤツをを追えたのによォ、ベイト!!」

「一等星を得たい気持ちは解るが、な!!」

「やむを得ねぇんだよ、このニュータイプ専用機がヘボいんだ!!」

「あのジェガン達にデカブツは任せようぜ、モンシア!!」

 

 その新鋭機クシャトリヤの危険性は、僅かに火線を交えただけのモンシアとて解っている、ゆえに。

 

「万全の状態ではないクィン・マンサもどき、やっぱり落としておきてぇなあ……!!」

 

 長年の戦場を生き抜いてきた歴戦兵である彼らにしてみれば、時折大きく機体の動きが乱れるクシャトリヤ、整備不良のせいか被弾のせいかは解らないが、本来の力を発揮させる前に始末してしまいたいというのは本能レベルの判断である、そしてその相手重モビルアーマー、撹乱から復活したその敵機から。

 

 ガゥ!!

 

 連邦軍のハイエンド量産機「スターク・ジェガン」を駆るサマナへ向けて、巨大モビルアーマーからの火砲が迸る。

 

「ねえねえ、サマナちゃん!!」

「甘くて馴れ馴れしくて、アンタの作る菓子パンみたいな声を出さないで下さい、フィリップさん!!」

「このヒラヒラキラキラ達は、結局の所!!」

 

 アクシズを支えるモビルスーツ群、連邦派とネオ・ジオンの機体達を襲い続ける、まさに宇宙の闇の中から湧き出てきた正体の不明な機体達を、フィリップは自機の空いた方の手で指差してみせた。

 

「この、手首を格好つけた連中は、実際の所何なんだろうねえ!?」

 

 機体の縁をエングレービングで飾られたネモ・タイプ。その機体からのビームライフルを自機の微動のみでかわし。

 

 ドゥ、ン!!

 

「教えて、サマナ先生!!」

「前、マエだよフィリップさん!!」

「よぅ、と!!」

 

 その不明機へ向けてフィリップはブループラウスからスマートガンの光条を疾らせつつに、あえて明るい声をサマナへと放って、十年来の友人を苛立たせる。

 

「レッド・ジオニズムだよです、フィリップさん!!」

「昔のジオン系テロリスト、生き残っていたって事か!!」

「それが、まとまって!!」

 

 ドゥウ!!

 

 ブループラウスの同型機、敵機達に含まれていたZプラスの突撃をスルリとフィリップがかわす傍ら、サマナの機体がその敵機に随伴するドム・タイプへ向けて、ランチャー管制をロックさせた。

 

「吸収、そして結成をされた連中らしいですよ!!」

「ごくろうなこったな、全く!!」

「袖付きことロストスリーブス、そう情報部ではコードネームで呼ばれています!!」

「矛盾していないか、その名前は!?」

「そこまでは知りませんよ!!」

 

 スターク・ジェガンは右肩のポッドから高精度ミサイルを放ちつつ、そのもう片方の左肩部ミサイル・ランチャーからは、特徴的なマークが記された特殊弾。

 

「おい、サマナ!?」

「いいんですよ、アルフさん!!」

 

 ボゥ、ボゥオ!!

 

 広範囲対サイコミュ撹乱幕、通称サイコ・ジャマーの試作タイプ弾頭を一気に撃ちはなった。

 

「デカブツ、巨大モビルスーツの他にもファンネル使いがいました!!」

「さすがに目が良いな、サマナ!!」

「えっへん、アルフさん!!」

 

 その「デカブツ」と正対しつつ胸を張るサマナ機の脇を、数基のファンネルがフヨフヨと通り過ぎ。

 

「くそ、レーダーが映らんようになった!!」

「それでいいんですよ、アルフさん!!」

「確かにな!!」

 

 情報処理能力を向上させたメルキャリバーのコクピットへ座るアルフへそう声をかけるサマナ機のすぐそば、明らかにアクシズへと取り付いているモビルスーツの援軍と思わしき連中にもサイコジャマーの影響が出た様子だ。

 

 ガォ!!

 

 そのロストスリーブス、疑似波発生器を搭載していると思われるガザ・タイプ達の編隊が乱れ、その内の二機が激突し、相打ってしまう。

 

「ファンネルの第二波、来るぜ!!」

「支援を、フィリップさん!!」

「無茶をやるってか、サマナちゃん!?」

「このスタークならば!!」

 

 ボ、ボゥ!!

 

 マリオン・システムを駆使し、出力を抑えたビーム・スマートガンでマスプロ・キュベレイから飛び掛かるファンネルを的確に撃墜するフィリップ機の下方。

 

 グゥオ!!

 

 そこから自機を押し上げるかのようにサマナはスターク・ジェガン、急遽配備された試作兵装試験機をそのファンネル発生の源へ突き進ませ。

 

「相手がクシャトリヤだろうと!!」

「物知りだねぇ、さすがにサマナちゃんは!!」

「どうやら、もう僕の素性は!!」

 

 大型モビルアーマーの護衛機と思われる量産型キュベレイ達へ、特殊型ビーム・ライフルを、よくに狙いを定める。

 

「バレバレらしいみたいです、ね!!」

「付き合い長げぇからな、サマナちゃんとも!!」

 

 キィ……!!

 

 試作ライフル、超高圧縮ビームを放射できるそのビームライフルの銃口へと赤き輝きが宿り。

 

「クシャトリヤ・タイプが二機確認、ならば!!」

 

 ガゥウ!!

 

 放たれた赤い閃光が、ビームの波動が一気に直線上へ並んだクシャトリヤ随伴モビルスーツ達を掻き消した。

 

「あと持って二発の、単発マグナム、出し惜しみはしない!!」

「ヒュウ!!」

 

 そのフィリップの茶化すような口笛は、サマナ機のビーム・マグナム・ライフルの威力に感心したのか、それとも。

 

「けれどもやはり素早いな、このモビルアーマー!!」

 

 ズゥ、ン!!

 

 相当に機敏な動きを見せるクシャトリヤ、クィン・マンサやノイエ・ローテの後継タイプであるサイコミュ機の目にも止まらぬ機動性に対して吹かれたものなのか、よくは解らない。

 

「次世代の戦闘兵器ってか!!」

「分類はモビルスーツみたいですね、クシャトリヤは!!」

「だがね、火力が!!」

 

 ドゥウ……!!

 

 周囲から支援に駆けつけた友軍機、ジェダ隊がそのクシャトリヤからのビームを浴び、瞬時に二機の機体が掻き消える姿をその目で見たフィリップにと。

 

「パワーがどこをどう見ても、モビルスーツではないだろうに!!」

 

 ジャア……!!

 

 そう愚痴を言いながらでも敵スカーミッシュ、散兵遊撃隊から撃ち放たれた狙撃ビームをブループラウス、ZプラスタイプC改良型ブルーディスティニー四号機を手足のごとく操り、かわさせる事が出来るのは彼フィリップの、明らかな手練が成せる技だ。

 

 ゴゥ……!!!

 

 だが、この武装組織の駆るモビルスーツ各々が寄せ集めとはいえ、そのパイロットまでも質が悪い訳ではないらしいのが。

 

「上かい!?」

 

 このロストスリーブスとやらをサマナフュリス、レビル将軍揮下の密偵である彼が危険と見なす理由である。

 

「上、太陽を背に取られたか!!」

「ジィーク!!」

 

 フォ、ン……

 

 彼、フィリップのブループラウス天頂を取ったゲルググ、それのJ(イェーガー)タイプがその狙撃銃の狙いを定め、続いて。

 

「ラァプラス!!」

 

 ザァ!!

 

 烈帛の声と共に一条の閃光が宙を裂く。

 

「くそ、このヨンム・カークスとしたことがまた!!」

「危ねぇぜ、全く!!」

「この茶色のZタイプ、エースだとは解る、だが!!」

 

 その狙撃モビルスーツと連動して、クシャトリヤからフィリップ機へと放たれる拡散ビーム、だが。

 

「それよりも危険な相手、重装ジェガンが見えない!?」

「拡散ビーム、真ん中に隙が見える!!」

 

 あえて拡散ビーム中央へ飛び込んだブループラウスを尻目に、戦域からややに離れた位置から狙撃、相手の注意を引く為に放ったロング・ビームライフルを構え直すゲルググ、その旧式機へと向かって。

 

 グゥン!!

 

投げ付けられる回転板、フィン・ファンネルの基器を、狙撃タイプのゲルググは運搬機キハール、初期型アッシマーのブースターへと火を灯し、寸前でかわす。

 

「だてに俺たち地球人はな、ウチュージン!!」

「くそ!!」

 

 ザァ、フ!!

 

 まともに扱えないファンネル、サイコミュ兵器に苛立ったモンシア少佐の取った乱暴な手段はそのゲルググ付近の機体を破損させる程には有効。そして、続けて放たれるニューガンダムの、僚機と共の火線。

 

「支援狙撃部隊、後退せよ!!」

「何年も、お前達ジオンと戦ってはおないんだよ、アン!?」

「我々はジオンではない!!」

 

 流石にその袖付きのパイロットも、最新鋭と判断したガンダム・タイプと自分の旧式ゲルググで刃を交えようとは思わないようだ、それでもその代わりと言うべきか。

 

 ドゥ……!!

 

「逃げるかジオン、宇宙人!?」

「ジーク・ジオンに換わる、我々の家は!!」

「くそ、早い!!」

 

 旧タイプとはいえモビルアーマーの推力だ、いくら新型とはいえ運搬機を放棄したモンシアの機体や。

 

「奴さんが速いぜ、ベイト……!!」

「お前のニューガンダムでも追い付かないか、モンシア!?」

「ニュータイプ専用機という触れ込み、リミッターが解除できねえ……」

 

 ベイトの乗る量産型ニューガンダムの推進力では追い付けない。

 

「とんだ役立たずだ、このニュータイプ専用機は!!」

「ジム・ジャグラーと同じってか……」

「使えねえ、な!!」

 

 ハイスペックではあるが乗り手を選ぶ真似をするのが「ガンダム」というもの、それに悪態をついている二人組には。

 

「我々の新たな家は、縋るべき袖ロストスリーブス……」

 

 クシャトリヤの援護に向かった高速狙撃隊を率いる男のその呻き声は、届かない。

 

 

――――――

 

 

 

 

 ザァ……!!

 

 最後の大型誘導弾、多目的ミサイルを撃ち放ちつつに、アルフの駆るサポート機から飛び降りて、紅きクシャトリヤに奇襲を仕掛けるサマナ、スターク・ジェガン。

 

「アンチ・サイコミュ追尾、上手くいくか!?」

 

 その高速で迫る「誘導」ミサイル、ニュータイプないし強化人間が放つ思念波を逆に伝って追尾する、アンチ・ファンネル・ミサイルの攻勢バージョンはその機能自体は発揮している様子であるのだが。

 

 ボゥ!!

 

「クシャトリヤの周りにいるモビルスーツが、まずい!!」

 

 新たなるクシャトリヤ随伴機により撃ち落とされたミサイル、だがそれでもその大型ミサイルの爆発を隠れ蓑にし、サマナはスタークへと拍車をかけた。

 

「露払いは俺達に任せろ、サマナちゃん!!」

「頼みます、隊長!!」

「柄じゃねえなあ、隊長って言葉は!!」

「僕も、やはり隊長はユウと付けて呼びたい!!」

「そりゃ冷たい!!」

 

 ややに無謀とも言えるスタークジェガンの、敵部隊中央に位置するクシャトリヤへの急加速、アルフのメルキャリバーが放つ大口径ビーム砲の支援があるとはいえ、サマナも危険な賭けであるとは解っているが。

 

「スタークの弾数が無い……」

 

 クィンマンサを小型化したとはいえ、まるで性能の劣化が見られないクシャトリヤというモビルスーツ、それでもその敵機を一撃で仕留められる計算ができるマグナムにしても。

 

「残り一発が限度と思うし……!!」

 

 多目的ミサイル・コンテナを撃ち尽くしたスターク・ジェガンでは接近戦を挑むしかない、もはや遠距離からビーム・マグナムを放ち、外す事は許されない。

 

「νガンダムを初めとした味方をあてにしていない訳ではないが、それでも!!」

 

 一目見ただけで急出撃、慣れないモビルスーツへ乗らされたと思われる、想像できるニューガンダム達のパイロットは、ティターンズ・カラーで身を飾る彼らの機体にはクシャトリヤ相手は難しいと思う程にサマナ・フュリスはベテランであり、ブループラウスも性能的に難しい。

 

「そして、アルフさんは論外!!」

「酷い言われようだな、サマナ……」

「すいませんね、ピリピリしているんで!!」

「支援向けな性格だもんか、お前は」

「アルフさん、まぁね!!」

 

 確かに、このようにエースの成す突撃という戦い方、それはあまりサマナにとっては経験が薄いものだ。

 

 ドゥン!!

 

「サイコミュ・チャフ!!」

 

 推進するサマナ機へ放たれるクシャトリヤからの、サイコミュ搭載機ではお馴染みのファンネルに対する策。

 

「ゴー!!」

 

 それについては、連邦内の研究所で上は大規模から「小細工」に至るまでかなりの数の試作品が仕上がっている。その小細工の一つ、チャフ・グレネードをサマナは自機の腕部から放ちつつに。

 

 ゴゥ!!

 

 大型モビルスーツへと突き出されるビームサーベル、その刃はヒヤシンスこと。

 

「甘い、クシャトリヤ!!」

 

 クシャトリヤの肩、その中から跳ね出てきたサブ・アームが振う小型ビーム刃をはね飛ばし。

 

 バァ、ア!!

 

 そのままサイコミュ搭載タイプの大型敵機の、その手が保持する大出力サーベルと交差をし、周囲に激しく火花が散る。

 

「一騎討ち、ならばこのスタークで勝てる!!」

 

 ゴゥウ!!

 

 フィリップのブループラウスが手持ち式の大型ビーム砲でサマナ機、スタークへ攻撃を仕掛けようとする他の「袖付き」機体を退かせ、彼サマナがその紅き機体を仕留められるようにと仕向けてくれるお膳立てに加え。

 

 ジャアァ……!!

 

「アルフさん出鱈目撃ちの、この状態でなんとか!!」

 

 無茶苦茶な操縦を行っているアルフ・カムラの突撃。

 

「偶然を味方に付け!!」

「俺が一番、ブルーを上手く使いたかったんだ!!」

 

 何やら奇声を周囲に放っている彼アルフの重装サブ・フライト・システム「メルキャリバー」が迫りくる姿に袖付き達が僅かに動揺を始める、特攻か何かだと誤解したのかもしれない。

 

「愛してるよ、ブルーディスティニー、マイハニー!!」

「クシャトリヤ、今ここで僕のスターク・ジェガンが仕留める!!」

 

 ボゥ!!

 

 至近スタークジェガンからのグレネード弾全弾発射、それに紅きクシャトリヤは機体から拡散ビームを放って迎撃を試みるが。

 

 ドゥ、グゥ!!

 

 その迎撃された爆発物を隠れて発射、いや除装されたスタークのミサイル基部がクシャトリヤの肩パーツ、その「ヒヤシンス」というコードネームの由来ともなっている四枚の肩部アーマーの内一基を大きく破損させる。

 

「これで、効いてる!!」

 

 もう片方のミサイルコンテナ、それが相手の頭部へ激突した姿をその目に捉えたサマナ、彼はそのまま。

 

 ジュウ、ア……

 

 右手のサーベルをその相手の巨体へと突き付け、マグナムの充填を開始する。

 

 ガァ!!

 

 赤のクシャトリヤがその太い脚部でスタークを蹴りつけ、その前蹴りの凄まじい衝撃がサマナ機を大きく揺らし。

 

「……グゥ!!」

 

 かなりの生命維持機能が備わっているリニア・シート、全天視界モニター・コクピット内のサマナを座席へと固定しているベルトが、骨にまで食い込むかのように彼の身を締め付ける。

 

「まだ、だ……!!」

 

 が、それでもサマナはクシャトリヤの躯へと突き刺したビームサーベルからはスターク・ジェガンの腕を離さない。赤いモビルスーツ、準モビルアーマーの胴へ再び拡散メガビームの光が灯り始めた。

 

「ビィー、ム……」

 

 バゥ!!

 

 その光に先駆けて放たれたクシャトリヤの機関砲。それがサマナ機スタークの胴を粉砕し、そして肝心のビームマグナムを持った腕が宙へと舞う。

 

「マグナム!!」

 

 バゥア!!

 

 集束光ビームマグナムを持つその離された左腕、その腕が放たれた紅き光の余波により消滅しつつも、脱出ポットを兼ねたリニア・シート、大破したスターク・ジェガンから脱出したサマナは。

 

「勝った、か……?」

 

 機体の大部分が消滅したクシャトリヤ、そのモビルスーツから脱出する人影、ノーマルスーツを纏った人間がサマナの座る脱出ポットへとその顔を向け。

 

――連邦め……!!――

「女、いや……?」

 

 リニア・シート・ブロックの内部、そこから双眸でボヤリとした視線をその袖付きパイロットへ向けていたサマナは、クシャトリヤの残骸から放たれた声、いや。

 

「少女、だとでも……?」

 

 心の声である「思念」に、サマナは微かにその首を傾げる、その時。

 

 リィ、ア……!!

 

「な、何だ!?」

 

 彼、いやこの宙域へいる皆へ向けて。

 

「アクシズに、光っている……!?」

 

 蒼い光が、小惑星アクシズの中央から重複輪のごときな波動、緑蒼光の大海嘯が圧し寄せる。

 

 

――――――

 

 

 

 

「おい、カミーユ!!」

 

 小惑星アクシズへと取りついているガブスレイ・タイプ、木星帰りの才覚者パプテマス・シロッコが手製Zガンダム「ジオ・メシア」の派生機体である、昆虫に良く似たシルエットを持つその可変型を駆る。

 

「持ちこたえろ、すぐに!!」

 

 ティターンズのパイロット「ジェリド・メサ」大尉の声が、カミーユ機へと放たれた。

 

「俺が、支援する!!」

「だめだ、アクシズから離れるなジェリド!!」

「お前だけではその新型Zガンダムには勝てない!!」

「わかっている、解っているけど!!」

 

 ギィー、ア……!!

 

 その敵機からのビーム、高出力の光条を間一髪でZガンダムに回避運動をさせる事が出来るカミーユ・ビダンのその機体操作は、すでに部分的にはかつての英雄「アムロ・レイ」のそれを超えている。

 

「カミーユ!!」

「来るな、ファ!!」

 

 だがしかし、そのZタイプを駆るパイロットの腕は並ではない、機体性能の差もあるが、何か。

 

「メタス改で、太刀打ちできる相手じゃあない!!」

 

 圧迫、ニュータイプのプレッシャーとは違う何かが彼カミーユの反射神経を抑え込む、粘つく液体が彼の体内へと侵入しているような、忌まわしい感覚がカミーユの手先を鈍らせるのだ。

 

「それでも助ける、助けるわ!!」

「我を通すんじゃないよ、カミーユ小僧!!」

 

 そのファ・ユイリィとジェリド・メサからの支援をカミーユが拒むのは、彼の感性に。

 

 バゥウ……!!

 

 他の敵意ある機体達、Zタイプと同じ可変型不明敵機群が、燐光壁を切り裂きつつに浮上をしてきた仲間達を。

 

「迂闊に手を出すと逆にこのZⅢ達は力を、ニュータイプとは違うパワーを得る、だから!!」

 

 ボゥ……!!

 

 カミーユ達の援軍にと駆けつけた味方モビルスーツ達を殲滅させてしまうだろうという予感もあり、どうにか自機Zガンダムが踏ん張り、戦いの流れを、ツキを引き寄せたいという気持ちであるのだ。

 

「俺だけで、俺がアイツを落とすんだ、ジェリド!!」

「駄目だ、カミーユ!!」

「ダメなんだ、お前達は支えてなきゃ!!」

 

 ブォン!!

 

 アンジェロ機、自機Zガンダムの三倍以上の出力と簡易計算の結果が表示されているコンソールへその目を向けながら、カミーユは大型ビーム砲の銃口を紫色のZガンダムへ向けつつも、激しくその首を振る。

 

「紫のZⅢ、それはお前達恋人を憎む!!」

「ハア!?」

「愛の鼓動を、否定する少年だ!!」

 

 ジャア……!!

 

 そう叫びながら放たれたカミーユ機からのメガ・ビーム・ランチャーはその相手からの同系統の射撃兵器、より洗練されたビーム火器により相打たれ。

 

 シャ……!!

 

「間一髪か、パープルZめ!!」

「カミーユ!!」

 

 その集束ビームがZガンダムの脇を掠めた、それと同じ時に。

 

「カミーユ、支援するわ!!」

「来るな、ファ!!」

「あなたは私が!!」

 

 想像、カミーユが予感していたよりも早くにZⅢの随伴モビルスーツ達が友軍ティターンズ部隊を蹴散らしてしまったらしく、そのZプラス達はアンジェロ機と共にビーム砲をZガンダムへと撃ち放つ。

 

「守る!!」

「止めろぉ、ファ!!」

 

 ドゥ!!

 

 ビームの連打が、カミーユ機を庇ったメタス、ファの機体へと集中したが。

 

「守ると言ったでしょ、カミーユ……」

「ファ、何だよ……?」

 

 まともに受ければモビルアーマー・クラスの機体でも木っ端微塵になると思われるビームによる集中火線、しかしこの現象は。

 

「バリアー、いや違うよな、ファ……」

「わからないよ、カミーユ……」

 

 半壊したパラス・アテネ、ティターンズ兵と共に支援へと駆けつけたレコア機からの援護射撃であるアンチ・ビーム撹乱膜ミサイル、それのお蔭という部分もあるにはあるが。

 

「何だ、あのメタスとやらは……?」

 

 ボゥ……

 

 紅い球状の障壁、それがZガンダムとファ・ユイリィ機メタス改を包み込み。

 

「傷が無い、だと……!?」

 

 全てのビーム砲を遮断した光景、それはこのZⅢを駆る少年。

 

「僕の知らない機能でも、搭載されているとでも言うのか……?」

 

 アンジェロ・ザウパー少年にとっても理解が出来ず、僅かな瞬の間であるが、呆然としていた彼の脇を。

 

 ゴゥ、ウ……!!

 

「クゥ……!!」

 

 ユウ・フロンタルの白きサイコミュ搭載機がシドレによって弾き跳ばされ、そのサイコ・ギラ・ドーガの各部から小さく火花が散る。

 

「シードル、やってクレル……!!」

「フ、フロンタル様!!」

 

 不可思議な現象を起こしているカミーユ機達から気を離すのは危険であると解ってはいたが、それでも彼アンジェロは半ば本能的に自らの主が駆る機体にとZⅢ、それの身を近づけようとする、しかし。

 

「加勢します!!」

「無用ダ、アンジェロ……」

「しかし!!」

「男同士の、タタカイに!!」

 

 フゥオ……

 

 ややに乱暴な手つきでそのZⅢを払い除けるユウ・フロンタル、彼の言葉にアンジェロ少年はその息を飲み。

 

「口を、挟むナ!!」

「ハッ……」

「オレが、ドレ程に弱くてモ!!」

 

 ボゥ!!

 

「オレは、アムロ・レイの再来ダ!!」

「ハッ、フロンタル様!!」

「オレの可能性を信ジテくれ、アンジェロ!!」

 

 己を奮い立たせ、再びシドレ機へとそのビーム刃を向けるフロンタル。彼を信じると決めたアンジェロが駆る機体、ZⅢ(ズィードライ)は再びその顔をカミーユ達へと向ける、が。

 

「だがな、カミーユ・ビダン……」

 

 腹心達、彼ら可変機部隊によりZガンダムは飽和攻撃を受けており、その彼を支援しようとしているメタス、そして少数のエゥーゴ・ティターンズ部隊も「袖哭き」達により押されている姿光景を。

 

 ク、クゥ……

 

 確認したアンジェロ少年が漏らす忍んだ笑いと共に彼の面持ち、秀麗なそれが「醜く」歪む。

 

「終わりのようだな、偽りのアムロ・レイの再来……」

 

 ガゥウ……!!

 

 その彼アンジェロの言葉の通り、バリアーを展開、ニュータイプ研究者が命名したいわゆる「サイコ・フィールド」展開により疲弊したカミーユ達は可変機ハンブラビからのビーム砲によって、その機体を大きく弾き跳ばされる。

 

「くそぉ!!」

 

 ガァ!!

 

 赤く燃えるアクシズから突き出る突起、それに掴まったカミーユ機の出力が。

 

 ポゥ、トゥウ……

 

滴り落ちる黒き泥を浴びて、大きく乱下降を始める。

 

「あの、赤暗き光に飛び込んではいけない!!」

 

 カミーユの頭上へ渦巻く暗黒の渦は、シャア・アズナブルの怨念、そのような個人が作り出せる品物ではない、アクシズを揺らし、誘導させている憎しみの光は。

 

「あれは、総意なんだ!!」

 

 本質を正しく言い当てるのはニュータイプの特権とも言えるが、だからといってその洞察が目前の現実に対して力を発揮することはない。

 

 バジァ……!!

 

「う、うわ!?」

 

 Zガンダムを保持していた、アクシズ表面にと突き出ていた突起、それがカミーユ機を持ちこたえられず、根元から砕ける。

 

「くそお!!」

 

 そのまま自機がアクシズの「奥」へと、暗黒の渦の中に流されていくのを必死に阻止しようと、カミーユはZのスラスター推進力を全開とさせるが。

 

 バァン!!

 

 渦巻くミノフスキーの波動によりZガンダムがアクシズの岩肌へと激突する。同時に機体背部メイン・ブースターから火が噴き出し、それと連動してか脚部のスラスター出力が完全なゼロの数字をカミーユの目前、コンソールへと浮かび上がらせ、機能を停止させてしまう。

 

「だめか……!!」

 

 ミノフスキーの波がカミーユの機体を押し流し、アクシズ上方へと押し流す姿を見てメタス改、半壊したその機体へと乗る女性パイロットの放つ悲鳴が、絶叫とも言えるそれが動力の停止したZガンダムのコクピット内へと響き渡った。

 

「すまない、ファ……」

 

 ゴゥウ!!

 

 さらにアクシズ表面へ打ち付けられ、大きくバウンドした自機の中で、カミーユは。

 

「お前の誕生日、明日なのに……」

 

 恋人か、と人に言われては否定するが、それでも大切な人へと向けて。

 

「プレゼント、買ってあるのに……」

 

 闇へと呑み込まれていく、そのZガンダムの手を僅かに伸ばす。

 

 ガァ……!!

 

「何だ……!?」

「掴まえたぞ!!」

 

 僅かに、そのZガンダムの手を包み込む蒼き光。

 

「掴まえたぞ、カミーユ!!」

 

 ガブスレイⅡ、その機体の脚を女性の乗る同型機に支えて貰いながら、アクシズを支えていたジェリド・メサがそのZガンダムの手を掴み、強く。

 

「カミーユゥ!!」

「ジェリド、ジェリドか!?」

「貴様は!!」

 

 グゥウ!!

 

 強く、カミーユの機体がそのティターンズ兵によって闇の世界から引きずり戻させる。

 

「俺ノォ……!!」

 

 ブォウ、ウ……!!

 

 その時、恐らくはこのアクシズを巡る戦いの渦中で吹き荒れていた光、蒼い光が最も強く集束をし、昏き力を押し始める程に。

 

「助かる、ジェリド!!」

 

 周辺宙域を蒼き燐が舞い、その光が運ぶ人々の心の声により、カミーユにはその後にジェリド・メサが放った言葉を聞き取る事が出来ない。

 

「ティターンズは、地球は!!」

 

 恋人達、ジェリドとマウアーが駆るガブスレイⅡが淡く輝きを放ち始め。

 

「俺達の故郷だ!!」

「そうだ、ジェリド!!」

「俺はこの揺りかごで育ち、学校へ通い、生きてきた!!」

「カミーユ・ビダン、スペースノイドである俺も!!」

 

 そして、その拡散を始めた蒼き宇宙へ。

 

「蒼き揺りかごでは、心が安らぐ物だったんだ!!」

「それが地球だ、カミーユ!!」

「そうだよ、ジェリド!!」

 

 カミーユも、彼の大切な人が乗る機体もその壊れかれた機体を必死に動かし、光を纏いながら宇宙の魂へと加わり。

 

「人の、魂が還るべき聖地だ!!」

「おうともよ、カミーユ!!」

「どんなに、宇宙人だ地球人だとの区別があったとしても、母なる大地は皆に等しい!!」

「スペースノイドが地球に住む権利は認めないが、それが正論というものかもな!!」

「平等を説いちゃ、悪いかよジェリド!?」

「気にいらねぇが、恥は忍ぶさ!!」

 

 ボゥウ……!!

 

 凄まじい勢いで拡がる蒼い宇宙、もしこの場にニムバス・シュターゼンなり。

 

「そして!!」

 

 マリオン・ウェルチなり。

 

「ティターンズは力だ!!」

 

 そして、ユウ・カジマがいたならば、彼らはその唇から、一つの言葉を合わせて放つであろう。

 

――宇宙には、ココロが満ちているの――

 

 ピァ、ジィ……

 

 光が、アクシズ外周へと結晶化を始める。

 

 

――――――

 

 

 

 

「アクシズの赤黒き光が……?」

 

 クシャトリヤからの被弾もあるが、何か突然ジ・オの機体制御が上手くいかなくなった事、戦さ場では危険なサインであるが。

 

「押さえ込まれた……」

「綺麗な、光……」

 

 何か、カツとサラには危機感を無視させてくれるほど、その蒼の光で出来た羽根が織り成している。

 

「お花……」

「コスモス、雑草まがいの花かな?」

「語彙力がないわ、カツ……」

 

 花、アクシズを包むように咲き乱れる花々が、その花びらの結晶を散らす。

 

「ウゥ、ウ……」

 

 損傷大の緑色のクシャトリヤ、すぐ近くに浮かんでいるその巨大機のコクピットから女、少女がすすり泣く声がカツ達の耳を、静かに打ち。

 

「だから、アタシには無いと……」

 

 シュウ……

 

 その機体は、淡き蒼の軌跡を残しつつ、戦域から急速離脱を行った。

 

「どうしよう、カツ?」

「止めよう、サラ……」

「そう、ね……」

 

 どのみち、蒼き光により火器管制が強制停止させられたモビルスーツでは、止められた人殺しの兵器ではセンソウは出来ない。

 

 

――――――

 

 

 

 

「ティターンズは力だ!!」

「おう、ジェリド!!」

「力があってこそ!!」

 

 光が、宇宙へと舞う蒼き光がカミーユ機達からの紅燐光によりさらなる剛性を与えられ、なおも強く輝きを増す。

 

「全てを制する、制止させる事が出来る!!」

「そうだよジェリド、アクシズも人の悲しみも!!」

「全てを!!」

 

 ザァ、ン!!

 

 蒼い宇宙が概念的に結晶化し、その瞬時の後にその蒼光が白き羽根となり。

 

「守る事が、出来る!!」

 

 光の羽根が、周辺宙域全てに展開するモビルスーツ達を包み込む。

 

「ZⅢのビームが、出ない……!?」

 

 その無尽光の核となっているZガンダム達を狙撃しようとしたアンジェロ機の銃口には光が宿らない。ZⅢの火器管制コンディション自体には異常は見られない事に彼はその首を傾げながらも。

 

「そして、何だ……?」

 

 何か、身体から徐々に力が抜けていく事を感じ、恐怖にも似た感情を抱きながらも。

 

「フロンタル様……」

 

 グゥラ……

 

「助けて下さい、フロンタル様……」

 

 それでも気力を振り起こし、自らの主の機体を蒼い宇宙の中から探しあてようとした。

 

 

――――――

 

 

 

 

「マハル・コロニーにも」

「何だ、テロリスト?」

「あの、コスモスは咲いていた……」

「コスモス、COS・MOSか……」

 

 直前にこの目の前の連邦兵により破壊されたモビルスーツから、負傷した自身の身体を引きずり出されて介抱をされている女性パイロット、その彼女の声に。

 

「俺の無くした、オーストラリアの家にも植えていたな」

「ヘエ……」

「家族共々、無くなった家の庭にな」

 

 ポゥ……

 

 ミノフスキー粒子の暴風雨が吹き荒れるなかでも、それでもアクシズに光を灯し続ける「花」達、紅く蒼く白く黒く咲き乱れる宇宙の心。

 

「懐かしいな、お袋達……」

「私も食べれなくなって、捨てたあの子を思い出す……」

「そうか、テロリスト……」

 

 リィ、シャア……

 

 そして、宇宙は深く昏く赤黒き花も。

 

「どうせ、お前さんは捕虜の身となるんだ」

「そうだろうね、全く……」

「少し、休みな……」

「そう、させてもらう……」

 

 アーティファクトフラワー、造花も虚飾も偽善も、偽りの花も宇宙の心は否定しない。たとえそれが独善の色彩を持つ単一(ユニ)の存在であったとしてもだ。

 

  

――宇宙には、心が満ちているの――

  

  

   


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