夕暁のユウ   作:早起き三文

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第73話 ユウ・フロンタル

   

「最後の、出撃かな?」

「そうかもしれません、アフラーさん」

 

 相も変わらず、出撃を前にした部下を目の前にしても。

 

「頑張ってくれよ、カツ」

「了解」

 

 多忙である、通信士長であるアフラーに部下への励ましを任せたまま。

 

「フィリップの奴にお願いね、カツ」

「任せてくださいよ、ミーリさん」

 

 部下達へ、全ての用事心遣いを任せたまま、この全天候型モビルスーツ運用艦「ストゥラート」の艦長、分類的には数年前に竣工されたロンバルディア級の類似艦へと当たるこの船の責任者「ヨハン・イブラヒム・ミリコーゼフ」は。

 

「グゥ……」

「全く、置物カンチョーめぇ」

「グゥガァ……」

 

 クルーの皆から呆れたような視線を自らに集中させつつ、居眠りをしながら。

 

 スゥ……

 

 その手の平を、カツへと向けて緩やかに振ってみせる。

 

「カツ・コバヤシ、行って参ります」

「頑張ってくれよ」

 

 ミリコーゼフ艦長へ敬礼をした後、このメインブリッジから立ち去るカツへアフラーは再び先程の台詞をウィンクしながら言った後。

 

「アフラー、搬入された新型機のエネルギーパックの仕様が変なんだけど?」

「ああ、データを送ってくれ……」

 

 自分の耳へとかかる赤髪を払い、ハンガーデッキからの要請に、通信用インカムへ改めて手を伸ばした。

 

「言葉で言ってくれないと、気持ちは伝わらないってのぉ、カンチョー」

「放っておきなさいよ、フェイブ」

「けどな、ミーリさん」

 

 古めかしい操舵用の円輪舵、操者の肉体的感覚を重視しつつも、最新のアシスト機能が備え付けられた、艦を進水させる為のコントロール・システムを操りつつに、フェイブ操縦士が。

 

「俺たちはニュータイプという摩訶不思議なもんじゃない」

「仕事に専念よ、フェイブ」

「何か、言葉とか使わない限り、人へちゃんと気持ちが伝わるもんかよぅ……」

 

 ぶつぶつと文句を言うなか、オペレーター総括長アフラーの手元のランプが点滅を始める。

 

 ドゥフ……

 

 ソーラ・システムⅢが展開している宙域から推し進めていた艦ストゥラート、正式にはそれの改修艦「Ⅱ」と艦名の語尾へと付く万能艦へ、近くのジュピトリスから内火艇が接舷し、軽く艦全体が揺らぐ。

 

「こちらジュピトリスからのユピテル丸、ドゥガチ艦長からの使者カラスです」

「五番ブロック、それらにアクセス・チューブが繋げます」

「了解」

 

 まだ若い、少年とも感じられるジュピトリスから来た大型連絡艇、それの操縦士の声に少し驚きながらも、ミーリは彼へ自艦との接続方法を指示する。

 

「そう、こうやってミーリさんみたいに、内のカンチョーがやってくれないと」

「うるさいぞ、フェイブ」

「すんませぇん、アフラーさん」

「全く……」

 

 自分の栗色をした髪をかき上げながら愚痴るフェイブ操縦士、彼のそのぞんざいな態度、いや声を耳にしてもミリコーゼフ艦長は。

 

「スオゥ……」

 

 何一つ言わず、再び寝息をその口から漏らし始めた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「サラ、彼女はすでに?」

「ああ、機体の補給修理も済ませ」

 

 ベーベルメン整備士から、総チェック済みのジ・オ、および大型運搬機メルキャリバーの説明を受けながらも、カツの視線は。

 

「サマナさん、休む間もないな……」

「どうも、あの最新型のジェガンはね、カツ」

 

 ハンガーの片隅にそびえ立つ、重装備へと身を固めているジェガン・タイプ、噂に聴く限りではアムロ・レイが駆るν-GPをモビルスーツ・タイプへと機体規模を落とした試作機と同レベルの性能があるらしき、現段階で最強の連邦軍製モビルスーツ。

 

「サマナさんを、名指しで指名したらしいね」

「基本に忠実、あの人のそれが御上さん方に気に入られたかな?」

「それもあると思うけど……」

 

 ビィイ……

 

 その、二人がヒソヒソと噂をしていた当のモビルスーツが出撃するようだ、発進準備を知らせるベルの音と共に、サマナ・フュリスを乗せたその重装ジェガンが静かにカタパルト・デッキヘ続くエレベーター、昇降ブロックに向けてその脚を運ぶ。

 

「何か、最新型ビーム兵器のテスト機体でもあるらしいわ」

「最新型、か……」

 

 どういう形にしろこの戦争、後にどのような名前がつくのかは解らないが、この大戦争の後始末を。

 

「上の人達は、考えているんだろうなぁ……」

「何をかしら、カツ?」

「戦後、とやらをさ」

 

 ズゥン……

 

 重厚なそのジェガン・タイプはエレベーター・ブロックへと乗り込み、ハンガーからの灯りに鈍くその身へと付けた新兵器の数々を光らせつつ。

 

「エレベーター、ハッチ封鎖」

「了解」

「サマナさん、ご武運を」

「任せて……」

 

 メカニックの男からの声に薄く答えながら、サマナ・フュリスは閉じられていく閉鎖壁の中へと、その堂々たるモビルスーツの体躯を隠れされた。

 

「僕達、どうなるんだろうな……」

 

 あまりその手の物事、戦後の身の振り方などは考えた事がなかったカツ・コバヤシ。

 

「あまり、あたし達一般の兵が考える事ではないと思う、カツ」

「まあね、ベーベルメンさん……」

「どうにでもなるわよ」

 

 少し楽観的に過ぎると周囲の人間から言われている女メカニックの言葉に。

 

「確かに、そうだけどさ……」

 

 ハァ……

 

 軽くため息をその口から吐いてみせるカツ。自分にあてがわれた機体へその身を寄せる彼の脳裏には。

 

「親父も、同じことを言っていたな」

――人は、目先の役目だけを果たせばいい――

 

 彼カツの父「ハヤト・コバヤシ」の家には様々な人達、くだんのアムロ・レイを始め、胡散臭いフリージャーナリストやどこぞの女性起業家などが訪れ、広い世界というものをカツへ感じさせてくれた、父親がそれを見せてくれたものだ。

 

――世の中は、可能性に溢れているね、父さん――

――だが、人の手が伸びるセンチメートルは変わらない――

 

 それでも、どこか名残惜しげに世界へとその視線を向けながら、黙々と己の仕事を勤めていた父。その父の「小さな人としての」生き方をどこか馬鹿にしていたが故に、カツはアムロ・レイの推薦を受けてユウ・カジマという男の元でパイロット、兵隊の道を進む事にしたのだが。

 

「僕は、果たして正しいのか……?」

 

 もちろん、善悪ではなく生き方の問題をカツは一人の言葉として言っている。

 

 スォ……

 

「……」

 

 自機ジ・オへと、ハンガー天井から吊るされている昇降用のゴンドラへ脚を掛けながらその機体のコクピットへと自身の体を昇らせているカツの脳裏に、ふとこの広い世界の限界地から来た男。

 

「シロッコさんは、僕の親父についてどう思うかな……?」

 

 この目の前の重モビルスーツを製作した、自分の父親とは全くタイプが違う木星帰りの天才の顔が、微かに浮かんだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「どうも、マシントラブルの様子でした」

「立ち往生か、カラスさん……」

「さん、さん付けはね」

 

 見事な腕前で、奇っ怪なモビルアーマーをカツの機体が乗るメルキャリバーへと随伴させているそのカラス少年によれば。

 

「止めてくださいよ、カツさん」

「その歳で、モビルアーマーをここまで動かせるとは、大したもんだ」

「どうも……」

 

 そういうカツにしても二十歳前後の年齢、あまり人の事についてなんだかんだ言える物ではない。

 

「救助を、僕はあのサラという人に提案したのですが」

「連れてこなかったのですか、結局タイタニアを?」

「突っ張られましたよ、全く……」

 

 この謎の形をした機体、木星圏では「オウムガイ」と呼ばれている作業用機へと乗るこの少年は、ここまで来る途中で、サラが乗るタイタニアを見たと言うのだ。

 

「こんな、触手に絡め取られるのは嫌だと」

「まあ、気持ちは解る……」

 

 そのノーティラスとかいう、歪に極まりない作業用モビルアーマーから。

 

 ウェネ、ウネェ……

 

 多数のワイヤーロープを漆黒の宙へと投げ出しているカラス少年へ向かい、カツが呆れたような声を上げる。

 

「まるで、しかも脳波でお前を恥ずかしめられる事が出来る、だよ」

「おや、あのゲームを?」

 

 不気味な姿のモビルアーマーから、微かに嬉しげな声がカツへと届いた。

 

「知っているのか、カラス君?」

「一年前ぐらい前に僕たち、ジュピトリスⅤと一緒にこの地球圏へと運ばれたゲームですよ……」

「木星で、ビデオゲームが?」

「あるに決まっているじゃないですか、カツさん」

 

 かなり高速で漆黒の宙を切っている、ジ・オを乗せたメルキャリバー。その速度にこの「オウムガイ・モビルアーマー」が付いてこれるという辺りは、さすがに木星圏製作の機体だとカツは思う。何も木星ブランドには根拠がないが。

 

「木星には、娯楽は何もない」

「ああ、なるほど……」

「疑似、仮想空間が発達するのに十分な環境です」

 

 グゥウ……

 

 カラスが乗るノーティラス、作業用機体が静かにカツ機から離れていく。もともと作業用のモビルアーマーでもあるし、そもそも彼ら木星人にはこの戦争に加わる義理も義務もない、変わり者のシロッコを除けば、まさしく中立の者達から見る対岸の火事である。

 

「ヘリウムだけでは、木星人は侮られますからね」

「面白く、イヤらしいバーチャル・ゲームだった」

「強者のみが、全てを手にすることが出来る世界ですよ」

「まあ、ゲームだからね」

 

 別にカツにしてみれば、あまりにも「淫靡と暴力」が支配するゲームであった為にあまり性癖に合わなかったのだが。

 

――うひゅう!!――

――気持ち悪い歓声をあげないでよ、サラ――

 

 モビルスーツの整備状態の関係でフィリップ達の支援に先行しているサラ、何故か彼女の方が熱中していたが為に、仕方なく参加していたのだ。

 

「だったら、このノーティラスとらのプレイも受けろっての……」

「カツさん」

「遊びじゃないんだから……」

「カツさーん?」

「あ、はい?」

 

 呼び掛けるカラスの声に、カツは慌ててジ・オからノーティラスの姿を見やる。すでにかなりの距離が離れているその作業用機の先には、中立勢力である木星圏の者達、いつまでも地球へ留まったまま帰らないシロッコ、天才に業を煮やした彼らが派遣したジュピトリス五番艦の姿が見える。

 

「その、確かサラさん、でしたっけ?」

「ああ……」

「どうするつもりで、カツさんは?」

 

 無論、カツにしてみれば、すでに重武装運搬機であるメルキャリバーにニュータイプ専用機「タイタイア」を乗せ、フィリップ達の増援へと一足先に向かったサラ、彼女の事は気にはなる。

 

――この触手、離して欲しければ私の事を好きだと言いなさい、カツ!!――

――好き、好きだギブブギブ!!――

 

 バーチャルゲーム「しかも脳波でお前を恥ずかしめる事が出来る」で、サラが扮する女騎士が「オーク」という豚のような顔をした種族、謎の人型生物をその手から放った触手達で締め上げた。

 

――……本当に?――

――え?――

――本音?――

 

 豚人間を締め上げた、触手の動きが止まり、サラの真意な声が豚人間カツへと投げ付けられる。

 

「寄るさ、カラス君」

「モルモット隊とやらの隊長さん達、それへの援軍は急ぎではありましょう?」

「まあ、そうだが……」

 

 スゥ……

 

 カツ機の後方、そこから届く光はサラのタイタニアと同じく、トラブルを起こし内火艇をストゥラートから出してもらった。

 

「彼女、サラだって戦力だ」

「なるほど」

「仲間の所、タイタニアの近くへ通りすがってみるさ」

「お優しいです、カツさん」

「まあ、ね……」

 

 船外、宇宙空間で機体外部からメカニックによる応急修理を受けたサマナ機「スタークジェガン」のそれであろうか。

 

「さすがに、地球人はお甘い」

「んんー?」

 

 何か、少しカラス少年の声に嫌みな物が混じって聴こえたのは、カツのニュータイプ能力のせいだけではあるまい。

 

「では、カツさん」

 

 ジィ、ジッジ……

 

 お互いの通信の声が、ミノフスキー粒子の影響により途切れ始めた。

 

「ご武運を」

「おう、あばよカラス」

「生き延びて下さいよ、カツさん……」

 

 少し、カラスの「お甘い」という言い方に腹が立ったのか、カツはあえて乱暴な口調で木星から来た少年へと別れの返事をし。

 

「まあ、あのカラス君とやらも……」

 

 遠ざかり、すでにその姿が米粒のようにしか見えないノーティラスを尻目にしながら。

 

「所詮は木星人、ミニマム・シロッコさんと思えばいいか」

 

 ドゥウ……

 

 僅かに乗馬メルキャリバーへと拍車をかけつつ。

 

「ありゃ、アクシズに着く前にサブ・フライト・システムが潰れるよ、サマナさん……」

 

 後方から猛スピードで迫ってきたサマナ機に対し、少し呆れたような視線を投げ掛けた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい!?」

 

 ドゥウ……!!

 

 パープル・カラーをしたZタイプ、その機体から放たれるピーム光条に直感的な危険を感じ、自分のブループラウスのシールドで防ごうとしなかったフィリップの判断は正しかった。

 

 ガシャア……!!

 

 そのビームの流れ弾、それはいとも容易く宙へと破棄された量産型Zガンダムを貫き、さらに他のスペースデブリも撃ち抜いていく。

 

「何モンだか、知らねぇが!!」

 

 後続のシドレ機ジェガンが乗るメガ・ライダー。シロッコ謹製の重運搬機メルキャリバーの「パクり」と噂されるその機体が装備する大口径ビームによる迎撃を容易く押し返す、敵機のビーム砲のその威力、精度共に恐ろしい。

 

「どこから、掠め取ったZガンダム・タイプなんだか!!」

「人聞きが悪いよな、連邦!!」

 

 ギィン!!

 

 同時に可変をしたZタイプ、フィリップのブループラウスとその紫色のZガンダムが互いに持つビームサーベルの光を。

 

「選ばれし者の露払いに相応しい、このZⅢ!!」

「ハイハイ三号機ね、お元気なこって紫のゼータ・ガンダム!!」

「その余裕がいつまで続くかな、ジムヘッドのZプラス!!」

「れっきとした、ブループラウスという名前ェがあるんだよ!!」

「蒼い名前の癖に焦げ茶か!!」

「悪ぃな、ボーヤ!!」

 

 アクシズを遠目とした宙域の中で交差させる二機のサーベル、しかしその性能差は。

 

「量産機に過ぎないゼータ・プラス、さらにそれのでき損ないを駆る連邦!!」

「ろくでもねぇマイナーチェンジを続けてくれるぜ、アナハイムさんも!!」

 

 その新型Z、それのビームサーベルの出力は完全にブループラウス、Zプラス・タイプCを元に作られたフィリップ機ブルーディスティニー四号機を圧倒している。

 

「顔の無い、連邦の!!」

「本当にアナハイムの旦那もよぉ、全く迷惑だぜ!!」

「連邦共に相応しい!!」

 

 ジャアァ……!!

 

 シドレ機からの支援射撃、それをそのZⅢは軽々とかわしながら、自らも一旦その背へと納めた大型ライフル、機体共々最新鋭と思われるビーム砲を取り出す。

 

「不完全で!!」

 

 バゥウ!!

 

 赤い光条、新型のビーム発信器から放射されるビームがブループラウスの間際を滑り込む。

 

「弱くて!!」

「直撃をされてないはずが!?」

 

 僅かにかすったのみ、それでもその不明機Zタイプからのビームにより、フィリップ機のシールドが深く抉られた。

 

「アクシズへの増援どころではないぜ、こりゃあさぁ!!」

 

 彼我の機体性能差が大きすぎる事に、フィリップはコクピット内で強く歯噛みをする。

 

 ズゥ!!

 

 そのフィリップの機体後方からシドレ機ジェガンが急接近し、メガ・ライダーの上から振るったビームサーベル。

 

 カッ、ハァア……!!

 

 その斬撃を紙一重でかわながらも、その紫色のZタイプから響く哄笑は止まらない。

 

「無責任な、連中だ!!」

「無責任ですって!?」

 

 バァア!!

 

 ジェガン、シドレ機がメガ・ライダーから跳ね降り、その勢いに任せたままにサーベルを大上段から新型Z、ZⅢ(ズィー・ドライ)へと切りかからせる。

 

「アクシズ、シャアの尻馬にのって、自分達の欲を満たそうとする連中が!!」

「マイナーな雑魚モビルスーツ、ジ・ムが!!」

 

 シュウ……

 

 しかし、そのZⅢという名の高性能機、それからの斬撃をシドレは非常に巧みに、あえてそのビームサーベルの出力差を利用して受け流し。

 

「ユウ大佐に惚れ込む私たち、モルモットを無責任だと呼ぶことは!!」

「ユウ、大佐だって!?」

「許されない事だ!!」

 

 ゴゥン!!

 

 その最後の台詞と共に蹴り上げられたシドレ機の前蹴りに、そのZタイプは僅かに虚をつかれながらも。

 

「そうか、あのユウ・カジマの部下か!!」

 

 ザァ……

 

 ZⅢのハイパー・ビーム・サーベルの剣先、それを寸前でかわす事の出来るシドレ・マリオスの腕は並ではない。さすがに新兵と呼ばれなくなってから久しいだけの事はある。

 

「だがな、このアンジェロ・ザウパーにとっては!!」

 

 フゥウ……

 

 その三撃めの払いもジェガンにかわされた為か、このZガンダムへと乗る少年の声に苛立ちが混じり始めた。

 

「ユウ大佐は、一人だけで良い!!」

「その、蒼き運命に乗れなかった人が!!」

「何、キサマ!?」

「それを、単なる廻り合わせを全てへの憎しみの種とする人などと!!」

 

 ズゥ!!

 

 シドレ機にその両手首を捕まれ。

 

「うわっ!?」

「私達の、大佐を一緒に!!」

 

 ゴッ……!!

 

 ジェガンの頭部にヘッドバットを喰らったZタイプ、アンジェロ機へと大きく振動が疾った。

 

「一緒に、するな!!」

「女、いや男か!?」

「どっちでもいいだろう、少年がよ!?」

「貴様の、名は!?」

 

 少し、アンジェロ少年に油断があった面は確かにあるのだが。

 

「シドレちゃん、どうした……?」

「私の名はシードル・マリオス!!」

 

 あきらかにジェガン・タイプよりも性能が上と思われるZⅢ、その機体を相手にして、凄まじくに放たれるシドレ機からの光。

 

「その名を!!」

 

 ブォフゥ!!

 

 アンジェロ機からの頭部バルカン砲、それに対し一旦身を引かせたジェガン、シドレのモビルスーツへ向けて。

 

「ユウ・フロンタル(アナタノカオ)へ伝えておくがいい!!」

「何者だよ、シードレとやら!?」

 

 激昂した叫び声を上げるアンジェロが、猪突にサーベルを突き出し続ける。

 

 ガァ!!

 

「何者だと、このアンジェロが!!」

 

 そのハイバーサーベルの光がジェガンの肩をかすめ、ビーム刃の刺突による衝撃が。

 

「くうっ、パープルZの少年が!!」

 

 機体コクピット内のシドレの身体を揺らす。

 

「何者だと俺は、アンジェロ・ザウパーは!!」

「シドレちゃんよ!!」

 

 ザァシュ……!!

 

「乱暴すぎると、ジェガンを壊すぜ!!」

「邪魔だ、ジ・ム・ゼータァ!!」

「邪魔してんだよ、新型Zさんよ!!」

 

 援護へ入ったフィリップ機が振るう光刃、それを対ビーム加工が施されたシールドで滑らせつつにZⅢ、紫紺のZガンダムがシドレ機へと迫る。

 

「聞いている、オトコオンナ!!」

「その答えは、アンジェロとやら!!」

 

 ギィイ……!!

 

 ストゥラート、モルモット隊母艦の方面から飛び掛かってくる、数基のファンネル。

 

「オトコオンナ、貴様が連邦共の増援を!?」

「私達マリオン・マリアスにしても!!」

 

 ファンネル群、それを脳裏へと疾った信頼のウェーヴ感覚から味方機、おそらくはサラ機からの支援だと確信して、勢いづいたシドレが腰のグレネード・ランチャーを牽制弾としてアンジェロ機へと射出させた。

 

「ユウ隊長も、シュレディンガーのもう一人の獣であった、お前達のユウも!!」

「貴様な、いったい!?」

「それはな、アンジェロとやら!!」

 

 グレネードが僅かではあるがアンジェロ機を破損させ、その体勢を揺るがせる。そのシドレの攻撃に追従するかのようにファンネル群がZⅢへと迫り来る。

 

 シュ……

 

 だが、そのファンネルを迎撃するかのように、宙域を切り裂く。

 

「あたしのタイタニアのファンネルが!?」

 

 必殺を願掛けて、サラがタイタニアから射ち放った純白のファンネルを叩き落とす、同色をしたサイコミュ兵器。

 

「お前も、そのフロンタルという男も!!」

「敵に強力なファンネル使いがいるの、シドレ!?」

「無論に、この僕シドレも!!」

 

 ギィーアァ!!

 

 ZⅢアンジェロ機からの掃射ビーム、紅い光がサラのファンネルを叩き落としたサイコミュ搭載機へと向けて遠距離射撃を与えようとした後続機、サマナの最新鋭ジェガンへと牽制をかける。

 

「僕のZⅢが不甲斐ないばかりに、あの方へ撃たせる手間をかけさせた……!!」

「知る術などは!!」

「お許しを……!!」

 

 ジァ、ギァア……!!

 

 アンジェロ少年、彼を支援するかのようにライフルを乱打してきたギラ・ドーガ、ファンネル搭載タイプに改良されたと思われる白一色の機体を駆る者へと向けて。

 

「ない!!」

 

 裂帛の断をしたシドレ。その蒼色の光を放つジェガンを嘲笑うかのような、くぐもった呻きが。

 

「だろウ、ナ……」

 

 敵の、野盗化モビルスーツであるアンジェロ機の目上と思われる男の口から溢れ落ちる。

 

「お許しを、ユウ・フロンタル様!!」

「加勢するゾ、アンジェロ……」

 

 フゥ……

 

 昏く、呪詛に満ちた声がそのギラ・ドーガ、純白のドーガ・タイプを駆る男の唇を再度に震わせた時。

 

 ドゥウ!!

 

「逃がすな、フィリップさん達!!」

 

 そのシドレ機の背後から、連邦の最新鋭モビルスーツが自機を乗せている運搬機へと過剰な負荷をかけ。

 

 ボゥウ……

 

 ブースターが吹き飛んだそのモビルスーツ補助システムから機体を離れさせつつに。

 

「その男、連邦軍内の危険人物リストの上位につき!!」

 

 なおも慣性により凄まじいスピードを放っている重装ジェガン、スタークタイプと呼ばれているそれを駆るサマナの機体が、ビームサーベルの光をきらめかせつつ他の敵味方を無視し、その白いギラ・ドーガへと猛進する。

 

「ただちに、ここで排除!!」

「クゥ……!!」

 

 バァフ!!

 

 そのサマナのジェガン・タイプの勢いに押されたか、自らもサーベルを抜き出し、鍔を迫り合う白きギラ・ドーガが一太刀めで押され始めたのは。

 

「この、僕たちの隊長の名を騙る者!!」

「オノレ……!!」

 

 単なる運か、または。

 

「生意気ナ……!!」

「アムロ・レイの再来と呼ばれている、このテロリストのリーダー!!」

 

 バォン!!

 

 サマナ機のサーベルが彼の機体を強く弾き跳ばした事、それから見るに。

 

「腕前自体は大したこと、無いと思う!!」

「何、だとぉ!?」

 

 ガォウ!!

 

 カツ機ジ・オからのヴァリアブル・ビームを寸前でかわすと共に、アンジェロの駆るZⅢはそのサマナ機へ向かい、新型ビーム砲を撃ち放つ。

 

「フロンタル大佐に、よくも言ってくれたな!!」

「言ったからって、Zタイプのテロリストがこのスタークに何が出来る!?」

 

 重装ジェガン、スタークへ向けて迫るアンジェロ機からの射撃に対して。

 

 バゥフォ……!!

 

 そのサマナ機が構えたビームライフル、それの銃口が光を一度淀ませから。

 

「強すぎるんだよ、この新鋭ジェガンはね!!」

「な、何だと!?」

 

 ギィア!!

 

 ZⅢのビーム光条と衝突し、それをいとも容易く撹拌させる程の集束ビームが放射され。

 

「くそ!!」

「く、そぅ!!」

 

 その強く帯電をした光がアンジェロ機の脇を掠めると共に、二人の口から同じ罵声が放たれる。

 

「狙いが不十分だった……!!」

「まともに命中してたら、確実にあの改造ジェガンに僕は潰されていた……!!」

 

 サマナ機の得物であるビームライフル、そしてそれを構えた試験運用型ジェガンの左腕がビーム銃共々に放電をし。

 

「連射をしてくれるなよ、ジ・ムが……!!」

 

 相手の機体が異常を起こしている事を気休めと感じながらも、アンジェロはサラのタイタニアから攻撃を受けている「ユウ」の加勢をしようとその自機の面を傾けた。

 

「連邦が、潔白を象徴させるなどとは!!」

 

 ギィーイィ!!

 

「このアンジェロは、許しはしない!!」

「せっかくのファンネル・バトルでの勝利が!!」

「ザマを見たか、ドレス付き!!」

 

 ZⅢからの集束ビームによりタイタニアからのファンネル、その「ユウ」が扱う機体のファンネル群を押していたという好状況に水ならぬ「火」を注がれ。

 

「これなら!!」

 

 そのアンジェロ機を再度引き受けてくれたサマナの姿を視界に入れつつ、サラが追撃として「ユウ」機へ向けて放ったビームライフルも。

 

 バァウ!!

 

「俺ガ、一番……」

 

 さすがにこの男は、伊達にこの強力なZⅢを駆れる少年を従えているわけではないらしく。

 

「モビルスーツヲ、上手く……」

 

 そのサイコミュ搭載型のドーガ・タイプからの射撃により相い打たれ、タイタニアからの可変ビームは相殺されてしまう。

 

「扱え、ルンダ!!」

「フロンタル様、サイコ・ギラ・ドーガ!!」

「マリーダ……!?」

 

 ブォフ……

 

 白き機体、そのモビルスーツへと乗るパイロットの声に呼応するかのように別機体のファンネルが。

 

「支援に入ります……!!」

「つまりは、一時テッタイしろと、オレに言っているな……!?」

「サイコギラドーガ、所詮は仮の御身を預けるだけのモビルスーツです……」

「チィイ……」

 

 バゥフ……!!

 

 ファンネルの弾幕、そしてビーム砲の乱撃が「ユウ」の機体背後から迸り、その火力により「モルモット隊」を僅かに怯ませる。

 

「ココは、マリーダに従うゾ、アンジェロ……」

「了解、ユウ・フロンタル」

「シャアの、尻馬に乗ることをダイイチに考えヨウ……」

 

 ギュア……

 

 白きモビルスーツ、おそらくはニュータイプ用の機体であるドーガ・タイプが退き、それにアンジェロ機と後方から支援を行っていたモビルアーマーもその「ユウ」へと続く姿に。

 

「追撃をしたいが……」

「止めろ、サマナちゃん……」

「です、よね……」

 

「ユウ・フロンタル」を支援する二機、紫色をしたZ-Ⅲガンダムの性能は全く侮れず。

 

「クィン・マンサをダウンサイジングした物だと思うが」

「コードネーム、ヒヤシンスです」

「その分、対巨大機体戦術が通用しねぇな、サマナ」

 

 そのモビルアーマー「ヒヤシンス」から放たれたファンネルに対し、サラ機を運んでいたメルキャリバーへと乗っていたアルフからは何も警告が発せられなかった。

 

「電子戦機メイプーク、あれでも今のファンネルは映せたかどうかわからんぞ……」

 

 本来、宙間で応急整備を行っていた時にサマナ機「スタークジェガン」の不安定さが気になり、機体観察の為に彼の運搬機へと乗っていたアルフ・カムラではあるが。

 

「それなりのアンチ・ファンネル装置が付いているメルキャリバーには、全く映らんかった……」

「ドレス……」

 

 メルキャリバーがかなりの電子戦能力を持っている事を知っていたが為に、彼は途中で救助したサラ、何やらブツブツと呻いている彼女の運搬機へと乗り込んだのだ。

 

「また、シロッコ様からのドレスが……」

「タイタニアとのデータ・リンクは正常、それでもダメだったか」

「そんなのより、私としてはドレスの方が大事よアルフさん……」

 

 対ファンネル・レーダーのみとしても、タイタニアへ搭載されている疑似ニュータイプ波発生器の能力に加え、サラのニュータイプ能力は決してバカにしたものではない。モルモット隊ではナンバー2である。

 

「シロッコの旦那ならまた新調、手直しをしてくれるさ、サラちゃん」

「そうかもしれないけど、フィリップ隊長さん……」

「それが趣味だからさ、あの人は……」

 

 それでも見抜けなかったそのステルス・ファンネルによる攻撃、まるで最初から狙いを定めていたかのようにビーム砲火を集中させられたサラ機タイタニアの損害は浅くない。

 

「この白き妖精のドレスへ、何か深い敵意を感じたような……?」

「あのな、サラ」

「結婚を破談にされた相手……?」

 

 特に、メイン・スラスターの部分が大きく削りとられている。

 

「誰かしら、ね……?」

「まだ、アクシズへの救援がな……」

「何だよ、トン・カツ?」

「おい……」

 

 グィ…… 

 

「カツ!!」

「君まで、シドレ……」

 

 ギィーイィ!!

 

「前!!」

「遅いよ、シドレ!!」

 

 そのビームは「最後っぺ」だとでも言うのだろうか、アンジェロ機ZⅢからの遠距離狙撃を身軽にジ・オを捻った姿に、モルモット隊の隊長であるフィリップ・ヒューズは感嘆したが。

 

 ボゥウ!!

 

「伏兵がいたか……!!」

 

 見事に引き撃ちをやってみせた「ヒヤシンス」を先頭にしたモビルスーツ達からの攻撃、その内の一機マラサイ・フェダーイン、重装タイブのマラサイをシドレ機が撃破出来たのはいい。

 

「マリオン、ちゃん!!」

 

――M-LION・SYSTEM・STANDBY――

 

 だが整備不良の状態、しばらく艦の片隅へと放っておかれたブループラウスの疑似ニュータイプ能力付与機能「マリオン・システム」を起動させたフィリップにしても、敵性モビルアーマーから放たれたファンネルは薄い光の軌跡としか彼の目に映らない、が。

 

 ボゥウ!!

 

「ちぃ、旧式のZプラスが!!」

「対ニュータイプ兵器は、ユウの奴だけの専売特許だけではないってコゥト!!」

「しかし、あたしの本命は!!」

 

 通称「ヒヤシンス」から放たれた隠密性ファンネル数基をその手に持つ大型ビーム砲スマートガンで貫けたのも僥倖、かつてのユウ・カジマに負けぬこの壮年の男が成せる技。しかしに。

 

「小娘ェ、だ!!」

「あたし!?」

「くたばれぇ、白いドレス付き!!」

 

 ドゥ!!

 

 その巨体、原型機と思われるクィン・マンサに比べれば小型の機体ではあるが、その分機体へ軽快さが加わっている「ヒヤシンス」からのビーム乱打。

 

「くそ、クシャ何とかめ!!」

「飛び降ります、アルフさん!!」

「だめだ、お前の破損したタイタニアの加速では!!」

 

 バゥウゥ!!

 

 タイタニアが足元であるメルキャリバー、重装型モビルスーツ運搬機の後部ブースターをアルフはフル稼働させ、その緑色をした「ヒヤシンス」を振り払おうとするが。

 

「やはり、飛び降ります!!」

「すまん、ブレる俺を許してくれ!!」

 

 フゥウ……

 

 所詮は素人、技師が本職であるアルフ・カムラの操縦技術では直線的過ぎて、かえっていい的となってしまっている事に気が付いた二人が、互いに乗る機動兵器を分離させる。

 

「その、光!!」

 

 ザァン……!!

 

 急速接近を仕掛けてきた敵モビルアーマーの手首辺りから宙へと放り出されるビームサーベルの基部、それを即座に「ヒヤシンス」は握りしめ、長大なビーム刃を形成させた。

 

「ウェディング・ドレス、女の誇りへと身を包ませる、不愉快な女!!」

「顔も付き合わせないで女と解る、あんたはニュータイプとかそういう!!」

 

 バァフォ……!!

 

 敵機のビームサーベルを寸前でかわしたサラ機タイタニアのスタスター数基から軽く火花が散る、想像以上に先程のファンネルからの損害は大きいようだ。

 

「女なのか!?」

「腹へ光を宿すことが出来る、それの人間は!!」

 

 ブォウ……

 

 その「ヒヤシンス」からの追撃、それに呼応するかのように周囲へと舞う蒼い光が瞬く中、サラはその相手の気迫に圧されながらも自らの機体からビームサーベルを取り出したが。

 

 パチィ!!

 

「女の性、それを持つ人間しかいない!!」

「くぅ!!」

 

 いとも容易く、タイタニアのサーベル光を自機のそれで押し潰し、あわてて使い物にならなくなったサーベル基部を放り出すサラ。

 

「そして、その光があたしマリーダ・クルスの戦闘的なターゲット・ポイントとさせてくれて!!」

「サラ!!」

 

 チィ、シィ……

 

 彼女の助けに駆け付けたカツ機ジ・オからのビーム、敵機がビームバリアー「Iフィールド」を纏っているとみて、高貫通力モードへと自機のライフルモードを咄嗟に切り替えたはいいが。

 

 ツゥオ……

 

「ちょこざいな、黄色い球根モビルスーツ!!」

「カツ、助けて!!」

 

 今度は、そのモビルアーマー自体の装甲をビームが貫けない。

 

「くそ!!」

 

 ギュオゥ!!

 

 自機を急加速させ、カツが自機を敵モビルアーマーへ向けて接近させようとしたのは良い、しかしその間にビームによる威嚇を行わなかったのは彼カツ・コバヤシの判断ミスであり。

 

「待ってろ、サラ!!」

 

 ズゥウ……!!

 

 タイタニアの「腹部」を狙われたサーベル斬撃を紙一重でサラはかわしたが。

 

「アアッ……!!」

「サ、ラァ!!」

 

 代償として、タイタニアの下半身を強く焼き切られる光景を目にし、頭へ血が昇ったカツの判断ミスが続く。

 

 チィア……

 

「何故、効かない!?」

「カツ……!!」

 

 苦痛に満ちたサラの声がカツへもたらしてくれる焦り、それが彼の手元を狂わせ、決して満足な習熟をしているとは言えないジ・O、極めてピーキーな操縦感覚をパイロットへ要求する機体の動きが大きくぶれる。

 

 チャア……

 

「こしゃくな達磨の針が、あたしマリーダにはな!!」

「バリアーは貫けてるのに!!」

 

 カツは低出力の高速貫通力モードに拘らず、重出力モードへとジ・オのヴァリアブル・ライフルを調整すればよかったのだ。そうすれば少なくとも衝撃によりバリアーもろとも相手を弾く事が出来たかもしれない。

 

 ズゥン!!

 

「ヒヤシンス」を支援しようとしている野盗兵団のモビルスーツの内、数機がその機体へと纏っている対ビーム・コーティング。その敵機体の特性を識別し、大出力のビーム砲「ビーム・スマートガン」で弾き飛ばしているフィリップのように。

 

「撃てよ撃てよと!!」

「まだ、よぉ……!!」

「あたしの心が、猛り叫ぶ!!」

 

 ドゥ!!

 

 至近からのファンネル射撃により、今度はタイタニアのメインブースターが吹き飛ばさせる。

 

「腹を殴れば、命が消える!!」

「あたしには、未だそんな物はない!!」

「未来を言っている、あたしマリーダは!!」

 

 ボゥ、ボゥフ!!

 

 シドレのジェガン、それからのビームライフルが次々に「ヒヤシンス」とタイタニアを取り囲む敵モビルスーツを撃破しつつに。

 

「やるじゃないかって、言いたい所だがね、シドレちゃん!!」

「無駄口を叩いてる暇があったらぁ、フィリップゥ!!」

「呼び捨てかよ、オイ!?」

 

 ホゥウ……

 

 ジェガンのシールドから内蔵式ミサイルを「ヒヤシンス」に向けて撃ち放ちながら、シドレの強く焦りに満ちた声がフィリップ機へと怒鳴り飛ぶ。

 

「サラを助けろ、隊長!!」

「やっているだろう!?」

「肉薄し、ぶち当たれ!!」

 

 自らのジェガンをその通りに、安全出力を無視して絡み合うサラ機達へ突進させているシドレの言い分、それは周囲の状況を全く見ていない。

 

 ガゥ!!

 

「よし、次!!」

「だめだ、この新型ジェガンは強すぎる!!」

「ガンダム・タイプなんぞ、オールドタイプは引っ込んでいろ!!」

 

 フィリップはもちろん、サマナ機がこの目前で立ちすくむガンダムMK-Ⅲ、それら等を初めとした他の「ヒヤシンス」追従モビルスーツ達へ狙いを定め、蹴散らしていなかったら、とっくにサラのタイタニアは撃墜されていたはずだ。

 

「撤退、撤退だ!!」

「いいぞ、そのまま逃げろ!!」

「マリーダ、フロンタル本隊と合流するぞ!!」

「そのまま、あのデカブツのモビルスーツを置いてな!!」

 

 が、スタークジェガンを駆るサマナは戦闘行動を停止せず、そのまま自機を「ヒヤシンス」へ向けて突き進ませる、もちろんサラ機を助ける為もあるが。

 

「クシャトリヤ、ノイエ・ローテのモビルスーツ・タイプと共にネオ・ジオンから奪われた機体であったよな……!!」

 

 しかし、サマナとて「モビルスーツ・パイロット」としてはベテランの年数に入る男だ、二兎追うものは一兔も捕れずということわざは重々承知の上、それでも。

 

「第一はサラ、第二はあのクシャトリヤのパイロットもろともの捕獲!!」

 

 将人レビルの小飼い密偵としては、いつの間にかここまでの勢力にまで成長を為してしまった武装勢力「レッド・ジオニズム」改め。

 

「偽者のアムロ・レイを担ぎ上げる!!」

 

 ゴゥ、ウン……

 

 スターク・ジェガンが肩部ランチャー、しかしそれの不発は先程からある程度予測をしていた為、サマナの神経を苛立たせる物ではない。

 

「袖付きとやら、内実を割らせたいものだ!!」

 

 そのスパイとしての性を心に感じながらも、サマナは右手のビームサーベルを下段へと低く構え、同時に自機の推進力を上げる。

 

 ドゥウ!!

 

「歳上の女、お前が子宮を抱えたまま消え去れば!!」

「不発、こんな時に!?」

「あたしマリーダは、命の光に怯える事も無くなる!!」

 

 サラが自機の下腹部から放ったサイコミュ・ジャマーはまともに動かず、単に「ヒヤシンス」への質量攻撃となるだけに終わり。

 

「とどめだ!!」

「やらせんよ、クシャトリヤ!!」

 

 必殺の一撃を放とうとした「ヒヤシンス」と、すでにほぼ抵抗手段が無くなったタイタニアの間へ。

 

 ジャアンッ!!

 

「危なかったよな、サラ!!」

「よくもあたしの邪魔を、身重いジェガン!!」

 

 サマナのスターク・ジェガンが入り込み、その緑色をした大型機からのサーベルを受け止める。

 

「しかしな、この僕サマナ・フュリスは!!」

 

 グゥグ……

 

「押されている、このクシャトリヤが!?」

「ユウ・カジマ、あのアムロ・レイへ勝ったという虚偽データを持つ人の名前を」

「これが、連邦の新型機だとでも言うのか!?」

「あえて言い張る、フロンタルとやらの……!!」

 

 スタークジェガンというモビルスーツの出力、そして性能は尋常な品物でないのであろう、大型機の持つビームサーベルを押し戻し。

 

「一目、御顔を拝見したいものだよ、実に気にいらない……!!」

「おのれ、量産機の分際が!!」

「袖付きめ……!!」

 

 バァス!!

 

 大型サーベルを弾き、その巨体を揺るがせるクシャトリヤに対し、サマナは自身の機体左手へと固定されている圧縮ビームライフルの銃口を。

 

「光!?」

「この、ビームマグナムならばな……!!」

「強い、光か!!」

 

 その、サマナ・フュリスの機体が。

 

 パ、ジャア……!!

 

 腕から火花を散らせながらエネルギーを充填させている新型ビームライフルの口へ溜まった赤き圧縮光、その光が放つプレッシャーは近くで支援の機会を窺っているカツにも肌で感じられるほどだ。

 

「一撃で、あんたを貫ける!!」

「憎々しい、光を操る者どもが……!!」

「ゆえに、この私サマナ・フュリスはお前に降伏の勧告を……」

 

 ビィイア……!!

 

 遠距離から、紅と蒼の色をした燐光にと満ちた宇宙を切り裂くビームの光。

 

「またしても、あの新型Zガンダムとやらか!!」

 

 その敵機からの支援を慌てて回避したサマナ機へと、身を退き始めたクシャトリヤが数本のビームサーベルを投げつけた。

 

 ドゥウ!!

 

「助かる、カツ!!」

「早く、そのビームライフルを!!」

 

 計三本投げられ、回転しながらスタークジェガンを切り裂こうとしたサーベル群をカツが左手、そしてジ・オの特殊機能「隠し腕」へと握られたビームサーベルで打ち払った事へ礼を言うサマナへ向けて、カツは自機のライフル銃身の先をスターク・ジェガンのマグナムへと向ける。

 

「あのモビルアーマーに!!」

「だめだ、カツ……」

「何で!?」

 

 コクピット内でやたらと耳へ障る、カツの甲高い声に微かに嫌気を感じながらも、サマナはコンソールへと浮かび上がった警告の文字をじっと睨み付けた。

 

「ビームマグナムのエネルギー充填に失敗した……」

「サラがあそこまでやられたってのに、情けない!!」

「まさに試作機、データ取りの為の機体だったんだ……」

 

 ガァ!!

 

 そこらの宙へと散っていたデブリ、宇宙ゴミをカツは自身の苛立ちに任せたまま蹴飛ばし、なおもサマナへと詰め寄る。

 

「それでも戦果を上げるのが、ベテランでしょう!?」

「お前だってヘタっていただろう、カツ……!?」

「何ですって、サマナさん!?」

 

 そのカツの苛立ち、それは完全に向ける方向を誤っており。

 

「あんたが不甲斐ないから、サラが死にかけたんでしょう!?」

「まともにその彼女の支援も出来なかった奴が、そこまでほざくか!?」

「僕が悪いと、サマナさん!?」

 

 もしこの場にカツ・コバヤシの父親であるハヤト、あるいはそのハヤト・コバヤシの元上官であるブライト・ノアがいたら、確実に「修正」を受けていた所だ。

 

「コクピットから出て来てくださいよ、サマナさん!!」

「おう、望むところだ小僧カツ!!」

 

 スルースキル、それを十分にわきまえているサマナがここまで声を荒げるのは珍しい。

 

 ゴゥン!!

 

「痛ぁ!?」

 

 ジ・オのその顔面を、ジェガンがそのシールドで思いっきり殴りつけた。

 

「何をする、シドレ!?」

「おふざけないで、カツ……」

「お前だって、サラを助けられなかった癖、に……」

 

 だが、そのカツの声はシドレ機が自身の機体へと突きつけているビームライフル、その銃口を見て途切れ。

 

「サラ……?」

 

 シドレがそのままライフルで指し示す半壊したタイタニア、それから聴こえてくるすすり泣きの声に。

 

「一番の被害者は、サラちゃんなんだよ……」

「はい、フィリップさん……」

「んだ……」

 

 同じくフィリップの機体、ブループラウスの拳によって、シドレと同じ「修正」を自機へとされたサマナも。

 

「俺たちモルモット隊には、スーパーマンはユウ一人だけでいい」

「昔ありましたね、そう言えば……」

「十年前、ニムバスの旦那にクルスト博士が殺された時の、ユウだろ?」

 

 コゥ、ン……

 

「俺達ゃ、もう引退寸前の年頃なんだぜ……」

「すみません、フィリップさん……」

「大人をやろうや……」

 

 サマナ機の後頭部を軽く小突いたブループラウス、見たところそれほど大きな損害は見られないが。

 

「その勘違いスーパーマン、ユウ・カジマを諌めたフィリップさんの拳が僕に向かう日が来るとはね……」

「サマナちゃんでも、怒ることがあるんだなぁ……」

「何か、少し僕としたことが」

「フィリップパン屋さんである俺様ちゃんも、こりゃビックリだった」

 

 そのマリオン搭載型Zプラスの挙動がどこかおかしい。何か、無理な酷使をしているかのように。

 

 ズゥ……

 

「ブルーディスティニー4号機さ、フィリップ……」

「ああ、解っているよアルフ……」

 

 フィリップ達の周囲を飛び廻り、とにかく敵と見つけたら狙いを定めずにビーム砲で牽制をし、レーダーで敵味方を問わず増援がないかを警戒していてくれたアルフの戦い方は、さすがに長年モビルスーツ関係の技師をやっていない。素人アルフが充分な成果をあげてくれた戦法だ。

 

「皆、旧モルモット達は歳をとった……」

「そうだな、フィリップ」

「この、ユウがさんざん使ってくれた機体と同じくな」

 

 シドレがコクピット内ですすり泣きを続けているサラへ慰めの言葉をかけつつ、その彼女の機体タイタニアを。

 

 シュ……

 

 呼び寄せたメガライダーへとトリモチ弾を使い、固定させている姿を見つめながら、すでに若いとは言えない二人の男、フィリップとアルフは軽くモニター越しに乾いた笑みを浮かび合わせる。

 

 ザゥ、ザァア……

 

「聴こえるか、ストゥラート所属モルモット隊」

 

 聞きなれない男の声、壮年であると思われる男性の声がアルフの乗るメルキャリバーへと響き。

 

「来てくれたか、木星の人が」

「なんだ、誰だよアルフ?」

「ついさきほど、俺が放った救難信号をキャッチしてくれた連中だよ、フィリップ」

「へえ……」

 

 その、近くに敵性勢力が展開している中での信号発信、アルフの行為は「招かざる客」を呼び寄せる危険もあったが。

 

「近くに木星船団の連中がいることは知っていたからな」

「天才さん繋がり、コネーか」

「まあそうだよ、フィリップ」

 

 ヒュウ……

 

 このような、突発的な危機に合った後でも口笛を吹いて茶化す余裕があるフィリップ・ヒューズ大尉。確かに彼には二代目モルモット隊隊長としての「心構え」が出来ているようにアルフには見えた。

 

「こちらアルフ・カムラ、ジュピトリスⅤ木星船団からの支援、心から感謝する」

「このドゥガチ、シロッコの奴とのよしみがあるのでな……」

「コネ、あのパプテマスが馬鹿にしそうな物が、まさしくその本人が持つそれによって俺達は助けられるとは」

「奴は、何だかんだ言って不器用な」

 

 クゥ、ク……

 

 僅かにくぐもったような、ドゥガチという名らしき救援隊のリーダーが漏らす忍び笑い。

 

「回りを良く見ない所があるんだよ、技師アルフとやら……」

「まあ、な」

「君たちモルモット隊の事は、シロッコから聞いている」

「へえ……」

「褒めていたよ、奴は」

「珍しい、かな?」

「特に、ユウ・カジマとやらをな」

「なるほど、な……」

 

 数機の作業用モビルスーツ、どこか外見がパプテマス・シロッコが手製のメッサーラに似ている作業用機に引きつられて、一隻の軽巡洋艦が先程まで激戦があった宙域へと寄ってくる。

 

「その為、介抱をさせてもらうよ」

「助かるぜ、ドゥガチさんとやら」

「気にするな、モルモット隊のリーダーよ」

 

 レーザー通信機でブループラウス、フィリップ機へと音声を指向させた木星船団艦を取り巻いているモビルスーツ達が。

 

 ズゥ……

 

 傷ついたモルモット達へと機体を寄せ、その躯を支えようとする。

 

「シロッコへの貸しにしておく」

「オヤオヤ……」

 

 そのドゥガチという男の言葉に対し、フィリップは軽くコクピット内で肩を竦めながら。

 

「アルフ、カツの奴……」

 

 フィリップは先程からじっと動かない、カツ機ジ・Oへ向けて心配そうな視線を送る。

 

「少し、放っておいてやれ」

「そう、かな……?」

「あいつにとっては久々のショックなんだよ、フィリップ」

「そうか、そうかな……」

 

 そのアルフの言葉に少し沈鬱な色をその面差しへと出しながら。

 

「シロッコの旦那へ会わせる顔が無いとでも、思ってるんかいな?」

「そんなわけないでしょう、フィリップさん」

「んだな……」

「アムロ・レイ・ローマンスの映画は見る分には面白い、カツも同じ心境でしょう」

「フン……」

 

 正直、その悲恋映画を当のカツとサラ、当事者と成りかけた二人によって見せられたフィリップとしては、不愉快ながらもサマナの言葉には納得が出来てしまう。

 

「サラは、シドレに任せましょう……」

「オウ、サマナちゃん……」

 

 シドレに介抱されているサラ、彼女の機体タイタニアが「メッサーラ達」に先導されて木星艦へと運ばれていく姿を、フィリップはぼやりと眺めながら。

 

「守る力、力があってこそ……」

 

 リィ、ン……

 

 もはや、日常風景と化して誰も気にしなくなった不可思議な現象、蒼と紅へと輝く光の乱舞へとフィリップは自機をかい潜らせ。

 

「ゆえに全てを制する事が出来る、ティターンズの大概だったよなぁ……」

 

 ブループラウス達は、木星船団の艦へと向かった。

 

 

――――――

 

 

 

 

「僕は……」

 

 燐光が舞う宙へとすくんでいるジ・オの脇を、タイタニアを連れたジェガンが通りすがる。

 

「サラが、目の前で殺される所だったというのに」

「……」

 

 そのシドレ機は、ちらりとカツの機体へその頭部、視線を向けたようだが。

 

「まともに、戦えなかった」

 

 そのまま、何も言わずに救援のモビルスーツ達の手を貸してもらい、巡洋艦へと向かっていく。

 

――だが、カツ――

「え……」

――あなたは禁断の果実、イヴの林檎酒を口へと付けた――

「シド、レ……?」

――禁断のラプラスへ脚を踏み出した――

「シドレ!?」

 

 その「シドレ」が乗るジェガン、それはカツの叫ぶ声には反応がない。

 

――ユウの、追従者となるべきではない――

「だが、僕は!!」

――焔は、単に敵を打ち砕くのみ――

「力が、欲しい……!!」

――すでに、あるだろう!!――

 

 怒気、それに満ちたシドレの「言葉」に。

 

「う……」

 

 コクピット内で、カツの顔が恐怖にひきつる。

 

「どこに、あるというんだ!!」

――見えないか!!――

「僕には、ユウ大佐やアムロさん、そしてシロッコさんのような力は無い!!」

――愚か者よ!!――

 

 グゥア……!!

 

 脳裏が揺さぶられるような、シドレの鳴らす叱責の声、だが。

 

――それはすでに君の手の先、センチメートルの世界にある――

「え……」

 

 シャ……

 

 その時、カツ・コバヤシの視線の先へ。

 

「ハヤト父さん……?」

 

 緑蒼の光と共に、彼の視界へと浮かんだのは。

 

――俺は、アムロに勝ちたかったんだよ――

――そう、あなた――

――でも、もはや勝つ必要はないんだ――

――何故?――

――可能性達を、見つけたから――

 

「父さん、母さん……」

 

 カツの父と母、血こそ繋がっていないが、確かな「親」

 

――おそらく、それがあなたの目指すラプラス――

「サラの手を、握りしめる事……」

――センチメートルの、人のラプラスよ――

「……」

 

 軽く、その両目を瞑るカツの瞳から一筋の雫が溢れる。

 

――宇宙には、人の心が満ちているの――

「そうか」

――可能性だけを貪る、その者には見ることが決して出来ない光が――

「そう、だな……」

 

 再び、カツの目前には両親の姿と、そして。

 

――その位、やってみなさいよ、カツ――

――せめて、私の足元程度の事はやってみせるんだな、凡人――

 

 二人の男女が、両親の隣へと浮かぶ。

 

「分かったよ、サラにシロッコさん……」

 

――あなたは、YOU――

 

 その時、宇宙には。

 

「あと少し、手をセンチ、いやミリメートルは延ばしてみせる」

 

 小さな、ちっぽけな感傷に包まれたラプラスが産まれた。


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