夕暁のユウ   作:早起き三文

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第7話 深紅の宙域

「あれが今回の獲物か……」

 

改良型のゲルググを駆るシーマ・ガラハウは遠目に見える三隻の艦を身やりながら呟く。

 

「報酬はいいんだがねぇ……」

 

「我々の拠点の近くにいては困るのだよ」

 

シーマ機の近くにいる赤いゲルググから通信が入る。

 

「金持ちなようだね……!!」

 

シーマは声を上げて笑った。

 

「レッド・ジオニズムさんの所は」

 

「我らの理念に賛同してくれる者が多い」

 

「ご苦労なこった」

 

シーマに皮肉げな笑みが浮かぶ。

 

「貴女もジオンの兵でありましたでしょうに……」

 

赤いゲルググのパイロットが狙撃仕様のビームライフルを少し持ち上げながら笑う。

 

「給料はまあ良かったが」

 

シーマは口のタバコを弄びながら呟く。

 

「待遇が悪かったよ……」

 

「お互い様かもな」

 

「おやおや……」

 

シーマは噛みタバコを噛み締めながら笑う。

 

「不真面目なジオンの男だこと……!!」

 

「フフ……」

 

赤いゲルググのパイロットは微かに微笑んだ。

そのゲルググの近くを巨大な機体が通りすぎていく。

 

「ローベリア」

 

「わかってますよ」

 

ローベリアと呼ばれた女性パイロットは含み笑いをしながら言葉を返す。

 

「調子に乗るなと言う事でしょう?」

 

「モビルアーマーを過信するな」

 

「知ってますよ、オグス」

 

モビルアーマーはそのまま二機のゲルググから離れていった。

 

「モビルアーマーの改良型かい?」

 

「旧ジオンの出し惜しみだよ……」

 

「どっちでも良いけどね……」

 

シーマは苦笑しながら、レッド・ジオニズムの部隊を眺めまわした。

 

 

 

「おでましだな」

 

サラミス級から浮上したヤザンのアクト・ザクに続いて、連邦のジムが編隊を組む。

 

「全軍が出ていいのか?」

 

「お客様が多そうだ」

 

「艦を潰されては元も子もないか」

 

フィリップの呟きにユウが軽い口調で答える。

 

「ガンダムは目立つな……」

 

左の方向のサラミス級から浮かんできたジェリドが乗る試験用に再生産された黒いRX-78型のガンダムにサマナは心配げな顔をする。

 

「守ってやんな……」

 

「はい」

 

「あのガンダムの艦はモビルスーツの数も少なければ練度も低い」

 

フィリップの言葉に聞き流しながら、サマナがジェリド機に通信をいれる。

 

「全く……!!」

 

「どうしたの……」

 

通信を切ったサマナの苛立った声にブルーがその綺麗に整った眉をしかめる。

 

「口うるさい先輩だと言われたよ……」

 

「あらあら……」

 

ブルーが少し甲高い声で笑う。

 

「よくあいつを見てた方がいいぞ」

 

「そうしますよ……」

 

フィリップの忠告にサマナは頷いた。

 

 

 

「ガンダムかい!?」

 

シーマはジェリド機に興味を持った。

 

「ガンダムタイプは真っ先に落とさなくてはねえ……」

 

シーマは部下達に黒いガンダムを狙うように指示を出した。

 

 

 

「ちぃ!!」

 

自分の機体が狙われている事を知ったジェリドはガンダムの出力を上げた。

 

「悪運だぜ!!」

 

ジェリド機からビームライフルが放たれる。

 

ガフォ!!

 

損傷しながらも敵のゲルググはジェリド機へと火線を集中させる。

 

「止まるな!!」

 

ブルーとサマナのサイコ・ジムがジェリド機へ接近しているゲルググにライフルを放つ。

 

「ガンダムが目立っている!!」

 

サマナがジェリドに注意を促す。

 

「とんだ宇宙での初陣だよ!!」

 

「無駄口!!」

 

「わかってる!!」

 

ブルーからの叱咤にジェリドは苛立ちながら答えた。

 

 

 

「赤い奴だ!!」

 

ジム隊の誰かが叫んだ。

 

「でかいぞ!!」

 

その言葉と同時にその敵機からメガ粒子砲が放たれる。

 

「強力な!?」

 

シールドごと機体を吹き飛ばされたジムを尻目に、ユウは接近する機体に注意を向ける。

「モビルアーマーか!?」

 

「見ればわかるだろうに!!」

 

真紅の塗装がされた巨大なモビルアーマーから笑い声と共にビームが発射される。

 

「ハサミ付きめ!!」

 

「ヴァル・ヴァロと言う名前がある!!」

 

ユウはジムライフルをその赤い甲殻類のような機体に向けて連射する。

 

「ジムがよ!!」

 

ローベリアは嘲笑いながらユウのサイコ・ジムをそのハサミのようなクローアームで掴もうとする。

 

ギィーン……!!

 

そのモビルアーマーに急接近したニムバスのランプライトからメガ粒子砲が放たれる。

 

「連邦のモビルアーマー!?」

 

ニムバス機のビームが巨大なモビルアーマーを貫く。

 

「出力が高いか!?」

 

破損したヴァル・ヴァロのコントロールに集中しながらローベリアは叫ぶ。

 

「気に入らないな!! 連邦のくせに!!」

 

ニムバス機からビームが連射される。

 

「嫌な感じの奴だ!!」

 

「こちらの台詞だ!!」

 

ニムバスがいったんヴァル・ヴァロから離れる。

 

「騎士が多少の身体の不調など!!」

 

ヴァル・ヴァロから感じる不快な感覚に頭痛を感じながらも、ニムバスはランプライトを旋回させようとした。

 

 

 

「ニムバスに任せるか!!」

 

ユウは自分のジムライフルがその敵のモビルアーマーに有効打を与えられない事がわかり、他の機体へ注意を向けようとした。

 

ギァーン……!!

 

「遠距離射撃!?」

 

友軍のジムの改良型が撃破されたのを見て、ユウはサイコ・ジムのセンサー出力を上げる。

 

ガウゥ!!

 

「あそこだ!!」

 

再びジムを撃ち落とした火線の方向を確認しながら、ユウは数機のジムと共にその敵機へ接近しようとした。

 

「気を付けろよ!!」

 

再度放たれたビームをかわしながら、随伴するジムに声をかけた。

ユウのサイコ・ジムのブースターが加速する。

 

ギァーン!!

 

「まさか!?」

 

左腕を破損しながらも、ユウは機体のスピードを緩めない。

 

「またお前か!!」

 

「運命のビームの糸かな!?」

 

オグスの狙撃型ゲルググからのビームがユウの随伴機を後退させる。

 

ガッ!!

 

ユウはそのスピードの余波を借り、オグスのゲルググへサーベルを振るう。

 

「あんたがコソコソ狙撃するしかない奴だとはわかっているさ!!」

 

「そうかい!?」

 

オグス機のサーベルをユウは防ぐ。

 

「イェーガーのゲルググと言えども!!」

 

オグスのゲルググがユウにキックを放つ。

 

「切り合いは出来るさ!!」

 

「同じ条件だよ!!」

 

キックを食らってもユウ機の体勢は崩れない。

ユウはすでにお馴染みのサイコ・ジムからの頭痛を防ぐ為のピルを噛み砕きながら、ビームサーベルを振るい続ける。

 

「連邦め!!」

 

周囲のジオン機がジム隊に押されているのを尻目にゲルググの腕から機関砲を発射する。

 

「うお!?」

 

不意をつかれたユウは軽くよろめく。

オグスのサーベルがユウに飛ぶ。

 

「甘いな!!」

 

「そのようだ!!」

 

そのサーベルを簡単にかわすと、ユウは機体をオグスへぶつける。

 

「ちっ!!」

 

ユウ機のタックルをかわしたオグスにジム隊からの射撃が集中する。

オグスは狙撃用のライフルを連射モードにしてジムに叩きつける。

 

「お前の負けだよ!!」

 

その隙を見逃すユウではない。

ユウ機のサーベルがオグスの脚部を薙ぎ払う。

 

「連邦のモビルスーツが!!」

 

脚からスパークを散らしながらも、ライフルのストックでユウを殴り付ける。

 

「いつの間にこんな性能に!!」

 

「降伏しろ!!」

 

「ふん!!」

 

ゲルググのライフルからビームが乱射される。

狙いが定まっていない。

 

「そんなデタラメな撃ち方で!!」

 

ユウは機体を軽く叩くビームの音を聞きながら、オグス機の周囲のモビルスーツが撤退していくのを見た。

 

「なるほどな」

 

オーバーヒートを起こしたらしいゲルググのライフルを見ながらユウは呟く。

 

「時間稼ぎか」

 

「投降する」

 

オグスのゲルググは両手を上げた。

 

「お前はそっちの腕を持て」

 

ユウは友軍のジムに指示を出した。

 

 

「あのガンダムは大した事はない!!」

 

シーマはガンダムに攻撃を集中させ過ぎた自分の判断を罵りながら、接近するヤザン機へビームを放つ。

 

「他の奴等の方が危険だ!!」

 

シーマの改良型ゲルググからビームの連射がヤザン機を襲う。

 

「連射のくせに狙いが良い!!」

 

ヤザンの操縦にアクト・ザクが悲鳴を上げ始めた。

 

「場慣れしていやがるぜ!!」

 

ジオンのパイロットに軽い感心の気持ちをもちながらも、ヤザンはライフルで牽制しながら接近しようとする。

 

「割りにあわない!!」

 

「損得勘定を言っている暇があるのかよ!?」

 

「あがったりだよ!!」

 

シーマはアクト・ザクのヒート・ホークを辛うじてサーベルで防ぐ。

 

「頭!!」

 

シーマ艦隊のゲルググがシーマ機へ加勢する。

 

バッバッ……!!

 

ジム隊からの射撃が増援のゲルググ達を襲う。

 

「俺を撃つなよ!!」

 

フィリップのサイコ・ジムを初めとするジム隊の支援射撃の援護を受けながらヤザンは怒鳴った。

 

 

 

「勘が良いのか!?」

 

ローベリアのヴァル・ヴァロのビームを寸前でかわしたジェリド機に再びビーム砲を放つ。

 

「ジェリド機を守れ!! サマナ!!」

 

集中攻撃を受けているジェリドのガンダムをサマナが支援する。

 

「ガンダムが目立つのかよ!!」

 

ビームで盾が吹き飛ばされながらもジェリドは付近のゲルググにビームライフルを放つ。

 

「俺はデコイか!?」

 

「集中しろよ!!」

 

「了解!!」

 

ジェリド機に攻撃を加えているゲルググをサマナは撃ち落とす。

 

「くそ!!」

 

頭痛に悩まされながらもニムバスはヴァル・ヴァロにメガ粒子砲を撃ち放つ。

 

「うっとおしい!!」

 

ヴァル・ヴァロの左部にランプライトのビームが直撃する。

 

「この頭痛がなければな!!」

 

ニムバス機が接近するたびに起こる頭痛を忌々しく感じながらローベリアは巨大なヴァル・ヴァロを旋回させる。

 

ガガッ!!

 

「どこから!?」

 

ローベリアが再び被弾する。

 

「動きがスローに!?」

 

ブルーのサイコ・ジムから再度ライフルが奔る。

 

「破損箇所をえぐりとるつもりか!!」

 

被弾したヴァル・ヴァロの損害箇所を的確に狙ってくるジムの姿にローベリアは怒りを覚える。

 

「雑魚のくせに!!」

 

ヴァル・ヴァロから謎の兵器が射出される。

ブルーは弾倉を交換しながら、その兵器の発信源とおもしきパーツを正確に破壊する。

 

「サイコミュシステムの効力か?」

 

先程から稼働状態が自動的に上昇したサイコ・ジムのサイコミュをブルーは気にする。

 

「まさか、こいつはニュータイプ!?」

 

ブルーはそう呟きながら、アルフから言われた言葉を思い出した。

 

 

―ニュータイプ同士が戦闘を行うと、サイコミュがその潜在的な機能を発揮する―

 

 

技術師アルフの言ったことを思い浮かべながら、ブルーは動きが鈍く見えるヴァル・ヴァロに的確な射撃を加えていく。

 

「あたしはペーパーテストのニュータイプ判定なんだけどね!!」

 

全く信用のおけないニュータイプ試験とやらの事を思いだし、ブルーは苦笑する。

無論、敵機からは目を離さない。

 

「つけあがるな!!」

 

ヴァル・ヴァロのクローアームがブルー機を捉えようとする。

 

「エィア!!」

 

ブルーはブースターを噴かしてそのアームをかわし、ヴァル・ヴァロの巨体に取りついた。

 

「離れろ!! 女!!」

 

「あなたも女でしょう!?」

 

ブルー機のサーベルが真紅の機体を貫く。

 

「おのれ!!」

 

ヴァル・ヴァロのモノアイが破損する。

 

「赤い彗星とやらの二番煎じが!!」

 

「良い色の機体だよ!!」

 

「何ですって!?」

 

「宇宙の色だ!!」

 

ヴァル・ヴァロはどうにかブルー機を振り払おうとする。

 

「羽虫どもが!!」

 

ブルーに続いてサマナと友軍のジムもヴァル・ヴァロに取りつく。

 

「くそぉ!!」

 

背後からニムバスのランプライトが接近しているのを見て、ローベリアは自分がかなり危険な状態であることを理解する。ニムバス機からビームが奔る。ズゥ!!

 

「くぅ!!」

 

機体の後方をえぐりとられたヴァル・ヴァロはブースターの出力を上げ、戦線を離脱しようとする。

 

「ブルー達、そのモビルアーマーから離れろ!!」

 

ニムバス機から声が飛ぶ。

ヴァル・ヴァロに取りついた機体が一斉に離れる。

 

「ブルーと言うのか!!」

 

「悪くって!?」

 

「忌々しい名前だよ!!」

 

戦線を離れながらブルー機にヴァル・ヴァロは叫ぶ。

 

「宇宙にはない色だからな!!」

 

損害が激しいヴァル・ヴァロは猛烈なスピードで宙域から離脱していった。

 

 

 

「俺が女のパイロットを気に入るのは初めてだぜ!!」

 

「良い男じゃないか!!」

 

シーマは破損したゲルググを後退させる。

 

「一杯飲まねぇか!?」

 

「機会があればねぇ!!」

 

煙を上げ始めたヤザンの紺色のアクト・ザクに軽く機関砲を撃ちながらシーマ隊は撤退していった。

 

「報酬分ははたらいたさ」

 

「傭兵稼業か? 女?」

 

「海賊だよ……」

 

「イカした仕事だな……」

 

ヤザンは苦笑しながらも、他の機体へ後退の合図を送る。

 

「腹が減ったぜ……」

 

「ステーキを仕入れてくれたみたいですぜ、隊長」

 

「そりぁあいい……」

 

部下へヤザンが笑う。

 

「俺のパンはいかがかい? エースの旦那」

 

「お前もなかなかの腕だろうに……」

 

「あんたは野獣だよ」

 

フィリップがヤザンを皮肉る。

 

「あんな戦い方……」

 

「そうだともさ……」

 

フィリップに言葉を返しながらも、戦闘が終息しているのを見やったヤザンは母艦へと帰還していった。

 

 

「やられたな……」

 

「地上とは訳が違うよ……」

 

サマナは手酷くやられたジェリドのガンダムの周りを見る。

 

「ガンダムは縁起が悪いんじゃないんですかい……?」

 

「かもな……」

 

「っつ!!」

 

ジェリドが悲鳴を上げた。

 

「怪我か!?」

 

「たいしたもんじゃない……!!」

 

サマナは急いでジェリド機を引っ張る。母艦にも通信を入れる。

 

「ざまぁないな……」

 

「喋るな、傷にさわる……」

 

「はいはい……」

 

サマナ機はジェリドのガンダムを気遣いながらも帰還を急いだ。

 

 

 

「サイコミュがねえ……」

 

ブルーはぶつぶつと呟いている。

 

「なんなんだ、この頭痛は……」

 

ニムバスがランプライトを静かにブルー機へと近づける。

 

「ニュータイプ同士の共鳴とやらかもしれないわ」

 

「俺はニュータイプに近づけたか?」

 

「さあ……」

 

ニムバスの言葉にブルーは首を傾げた。


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