夕暁のユウ   作:早起き三文

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第68話 幻影のラープラス(後編)

   

 ジャァア……!!

 

 ソーラ・システムⅢの照射が超大型質量兵器アクシズ等の後方、ややに主戦場から離れた宙域へ展開する小型スペース・デブリや小規模惑星等、地球へ向けられた小型の破壊槌達を消滅させている。

 

「ミノフスキー粒子って」

 

 強烈な閃光が人体への悪影響、主に眼を守る為に巡洋空母艦ストゥラートの全ての「窓」は閉ざされ、常夜灯に照らされる艦内は薄暗い。この部屋に関してもほとんど灯りが消えている。

 

「結局、何ですかねぇ?」

「不勉強よ、カツ」

 

 とは言いつつも、サラもその宇宙世紀の在り方を変えた、未曾有の粒子について多くを知っているわけではない。

 

「自分じゃ解けないから、こうして聞いているんじゃないか、サラ」

「全くだな」

 

 その意外な人物、パプテマス・シロッコからの援護射撃に、カツはその自身のつぶらな瞳を丸く見開き驚いてみせる。

 

「溶けない時は他者へ頼むのが一番だ」

 

 スゥ……

 

 そう自分を納得させるようにシロッコは呟いた後、彼は先程から格闘をしているカップのアイスクリーム「がちり濃厚食パン味」をカツへと放り投げた。

 

「それを溶いてみろ、小僧」

「いいですけど、ね」

 

 ニュータイプ研究所であるムラサメがイメージアップの為に設立した飲料、食料品部門へ対抗して、同じ種別の研究所であるオーガスタが立ち上げたダミー会社からの新製品をその両手へと包みながら、意味ありげにカツは軽く口の端を上げてみせる。

 

「その代償として、シロッコさん」

 

 異様に硬いその謎アイス、それを溶かす方法を考えながら、カツは何かを指し示すかのようにシャッターが降りている窓の外の宇宙空間、その方向へと自分の人差し指の先を向けた。

 

「ミノフスキー、凡俗のお前の頭で解るかな?」

「そのように説明をお願いしますよ、天才さん……」

 

 その二人の会話、薄暗い部屋の中では表情こそ解らないが、他の三人、サラにシドレ、そして技師アルフもシロッコの発言に注目をしていることが場の雰囲気でカツには解る。

 

「まあ、一言で言うと」

 

 がちり濃厚、そのアイス・カップから伝わる冷気を我慢しながらカツはシロッコのその次の言葉を待ち、口の中の唾を喉仏へと流した。

 

「異次元から呼び出される神の恩寵、マナでありグレイスだ」

 

 カッ、ガッ……!!

 

 そのそっけないシロッコの言葉、それにはすぐにカツは答えずに仏頂面でアイスへフォークを叩きつける。

 

「堅いよなあ、その冷凍菓子は」

「んん……」

 

 どこかからかうようなシロッコのその声、彼の言葉にカツはすぐには反応せず、暗い天井を見上げながらアイスから一旦手を離し、彼は自分の目頭を冷えた指手で軽く捻った。

 

「バカにしていますよね、僕を?」

「フフ……」

「君までシロッコさんの味方、シドレ?」

 

 しばしアイスが叩かれる音が響くのみであった室内に、微かな怒気を含んだカツの言葉、それがボツりと彼の口から放たれた事に、シドレが少しだけ漏らす笑い声。

 

「バカにはしているよ、小僧」

「ジ・オの一件で?」

「まあ、な……」

 

 廃棄予定だったとはいえ、戦力不足の為にジ・オ、シロッコが自身の傑作だと公言をしていた機体が急遽カツへ渡された事は、モビルスーツ操縦技術にもニュータイプ的な能力にも及ばない彼カツが操縦することに、シロッコとしては不満があるのであろう。

 

「ただし」

 

 ブゥン……

 

「理論的には間違った表現ではない」

 

 シロッコが何を思ったか、室内に備えつけられているホロ・ムービー再生器のスイッチを入れ始める。謎の音楽と共に立体ホログラフへと映しだされだした、映像の程度がえらく悪い動画が暗い室内を照らし始めた。

 

「そうだろう、アルフ技師?」

「そうだな」

 

 ミノフスキー粒子群が存在する相転移空間というもの、それが人間にとって直接の認識が出来ない以上、シロッコの言う異世界からの来訪者という表現は間違っていない。

 

「ミノフスキー博士が青写真を立てた発生器、魔力召喚の方陣から呼び出して、エネルギーとして活用する」

 

 とはいえ、シロッコへ頷き賛同をしたアルフ、技術畑の人間にとってはいくら概念的にその言葉が正しくとも。

 

「いただけない表現だな、科学的には」

「ロマンティックな言い方だろうに?」

「フン……」

 

 ムービーはどうやら洋画、昔の旧世紀の品物のようである。シロッコには懐古主義でもあったのであろうか。

 

 ガァ……

 

「入っていいか?」

「もう入っているじゃない、フィリップさん」

「悪い悪い、サラちゃん……」

 

 非常灯が照らす通路から、これまた暗い部屋の中へ入ったフィリップの視界には、謎の打撃音を響き出させているカツに妙なホログラフ、その光景に彼フィリップ、モルモット隊の総隊長である彼は自分のこめかみを軽く拳で叩き、その横の眸の目蓋をパチパチと合わせてみせた。

 

「怪談部屋かい、ここは?」

「異世界からの物質転生に関する話の最中だ」

 

 何かそのアルフの言葉に影響を受けたか、フィリップにはその部屋のクーラーの温度が異様に低いように感じられる。

 

「あー、えぇと……」

 

 僅かにその皮膚へ鳥肌を立たせながら、彼フィリップは軽く咳払いをし、僅かにその声を張り上げた。

 

「誰か一人、パイロットとして手を貸してくれい」

「手を貸す?」

 

 そのアルフの言葉、それにフィリップは手土産として持ってきた食べ物が入った袋を彼へ渡しながら、サラだかカツだかの顔をぐるりと見やる。

 

「どうも、サマナのZZがぶっ壊れたらしい」

「いつかは来ると思っていたよ」

 

 薄く笑いながら、受け取った袋の中身ををガサガサとまさぐるアルフの技師としての視点からすれば。

 

「アニメじゃないんだ……」

 

 ZZガンダムの整備にはうんざりをしていた所だ。あまりにも他機能、複雑な作りに過ぎる。

 

「私が行きます」

「頼む、シドレちゃん」

「あまり、興味の無い話でしたから」

「フゥン……」

 

 壁へと寄りかかっていたまま、本当に何かつまらなそうにそう呟くシドレ少尉。

 

 トゥ……

 

足早に部屋から出ていくシドレへ対し、フィリップは一枚の書類を手渡した。

 

「ジェガン、コイツを使ってくれ」

「メイプーク、あれは気に入らんか、フィリップ?」

 

 シロッコがフィリップへ声を投げかけながら見ているホロ・ムービー、どうやらそれは、まさしく今現在にこの低く照明が落とされた薄暗い部屋、それの雰囲気に合った怪談物のようである。彼の以外な趣味にフィリップとアルフはその顔を見合せ、その口の端を軽く互いに歪める。

 

「メイプーク・サマーンは完全な支援機、電子戦機だ」

「なるほど」

 

 フォ……

 

 一瞬、部屋の電灯が明るく光る。が、三秒もしない内にまた部屋の中は暗闇に包まれた。

 

「火力を持ったモビルスーツが必要なんだ」

「例の戦場漁り達への対抗か」

 

 特に関心が無さそうにそう答えるシロッコの目の先では、なにやら上半身が裸の女性が奇怪な踊りを踊っている映像が浮かぶ。

 

「ポルノじゃないですか、やだー!!」

「ポルノ作品ではない、サラ」

 

 そのムービーを見て黄色い声を上げたサラの言葉に、袋から菓子パンを取り出してその口へ含んだアルフがその作品の名前をパッケージ、ムービーカードが収められていたそれから読み取りながらそのくわえたパンへ歯を立てた。

 

「死霊のフェスティバル・ダンスか……」

「素晴らしい作品だよ、アルフ技師」

「全く画像、背景と人物の変化が無い」

「凡人には理解が出来ない名画、ムービーだよ」

 

 シャ……

 

 部屋の自動ドアが閉じ、フィリップ達が立ち去っていく足音をその耳へ聞きながら、カツが堅いアイスクリームをそのムービー再生器、モニターのそばの小さなテーブルへと置く。

 

「何のつもりだ、小僧?」

「いや、熱で」

 

 怪しげなジェスチャー、腕の動きをみせながら、カツがアイスとホロムービーへと指を差した。

 

「なるほどな」

「それよりも、シロッコさん」

 

 どうやら、アイスをモニター等が発する熱で溶かそうと考えたらしいカツはそのムービー内、立体映像へその手を差し入れながらシロッコの顔を実と見る。

 

「ミノフスキー粒子とその、ラプ何とか」

「ラプラス・エーテルだよ、小僧」

 

 スゥ……

 

 カツへとアルフがそう答えた途端、またしても電灯が不安定に灯る。ソーラ・システムから放たれた光が何か、周囲の宙域へ電磁波だかを発生させているのかもしれない。

 

「ブリッジの面子が色々と調整しているのかもな……」

「ラプラス・エーテルとやらは何なのですか、シロッコさん?」

 

 モソモソとパンをしがみながら、ぼやいた声を出すアルフをよそに、カツはその顔をシロッコへと詰め寄らせている。

 

「核兵器、放射性物質は知っているな?」

「んぅ……」

「答えんか、小僧」

 

 パフゥ……

 

 室内の電灯が一際大きく灯ると共に、ゆっくりと窓側の遮光壁が上がり始める。ソーラ・システムの照射が終了したのかもしれない。

 

「いちいちと、当たり前の事を僕に訊ねるのはどういう意味ですか、シロッコさん?」

「放射性物質というものは人間が無の場所、何もない所から造り出した物かな?」

 

 明るくなった室内へと浮かび上がる小さな人影、ホログラフで表現をされた半裸の女性、ムービーの登場人物がその光の中で躍り狂う姿は実に滑稽なものと言える。

 

「自然界に存在、は一応するよな……」

 

 少し歳のせいか、または一筋縄ではいかないニュータイプ研究所の面子と渡り合ったせいか、このアルフ・カムラという技師は自分が興味がある話題を誰かが持ち出した時、あえて気のないフリ、いわゆる「ポーズ」をして見せるような傾向が備わってきているようだ。

 

「その自然にある放射性物質に対する科学的処置、それを誰が思い付いたか、俺は知らんがね……」

「そして」

 

 アルフにしてみても、最新のブルーディスティニー、Gマリオンに関係のある話題なだけに、フィリップとミーリ、ストゥラートのモビルスーツ隊隊長と通信士の男女が作ったお手製のパンをその口でしがみながら、もその両耳はしっかりと立てているお様子だ。

 

「地球へ降り注いだ隕石等からも放たれている」

「習ったことは、ありますねぇ……」

 

 フゥア……

 

 一つあくびをしてからシロッコへそう答えるサラ。彼女の目線の先にはホログラフ再生器から浮かぶ、永遠と躍り続けている半裸の女性達。それを見つめ続けていたサラは何やら妙な眠気を感じ始めている。

 

「古代の人間は、それらの放射性物質の危険性を科学的には解明出来なかったはずだが」

「そりゃあ、そう……」

「肌で感じる、毒物やら呪いとして認識していた可能性は高いだろう、小僧」

 

 トッ……

 

 そのシロッコの言葉にすぐには答えず、カツはホロムービーの映像の近くに置いてあったアイスをその手に取り、中身の様子を確かめた。

 

「どうやら、未だに溶けない、食べられない感じですね」

「理解に苦しむ冷凍菓子だよ、全く……」

「一体、どんな材料を使っているよのやら」

 

「私が知るもんか、小僧」

 

 永遠と続くフェスティバル・ダンスを踊る女達を前に、シロッコはその口を綻ばせながらフィリップが持ってきた袋、差し入れが入ったそれへと。

 

「少し頂くぞ、アルフ」

「ああ、どうぞ……」

 

 パイロット・スーツや長袖の服を纏う事が多い、常の彼の姿からは意外に思うほどに逞しくも、しなやかさが窺えるその腕を突き込んだ。

 

「人間はたとえその原理、材料の性質が解らなくても、使えるものは何でも使おうとする」

 

 フィリップの差し入れ、そこからチューブへと入った何か、宇宙服を身に纏った時の為の食事、流動食を目ざとくシロッコは見つけだし、それへ記載をされているラベルにその目を通す。

 

「自分達、人体の心臓がなぜ動いているか、それも解らないくせにだよ」

「気合いでしょ、気合い……」

「ホウ……」

 

 どこか投げやりな、カツのその理論を無視した言葉。少し彼はシロッコが展開させる話に疲れてきたのかもしれない。

 

 ククッ……

 

 フィリップ・パン商店の試作品「どろり濃厚食パン味」と書かれているそのラベルを興味深そうに眺めながら、忍び笑いも冷笑とも取れない笑みを浮かべるシロッコに対し、カツのみならずサラやアルフも批難のその視線を小さく向けた。

 

「シロッコ様、そのカツへの態度」

「いや、待てサラ」

 

 めずらしく自身が敬愛しているニュータイプ、パプテマス・シロッコへ対し、憤慨したような表情をその面に浮かべているサラへ。

 

「んん……?」

 

 カツが何か不思議な物を見るような視線、双眸から疑問の光を投げつけている。

 

「私も少し腹が立ちましたわよ?」

「だから違うよ、サラ……」

 

 何か後先に、どこかの研究所から盗作疑惑が出されそうな名前の流動食へその口をつけながら、シロッコはようやく終わった「死霊のフェスティバル・ダンス」とやらのムービー再生器へその手を置き、立体映像をかき消す。

 

「私も実のところ、小僧と同じローマンを持っていたからだ」

「へえ……」

 

 ピィ……

 

 自分の携帯端末へ通信が入り、その画面を眺めるアルフ技師がシロッコの顔を見ないままに、どこか感心をしたような声を上げた。

 

「意外だな、シロッコ」

「で、なければ」

 

 モエアガレ、モエアガァレ……

 

 シロッコ、そしてカツやサラ達への端末へも連絡が入る。カツのそのアニメの着信音は他の友人からの何気ない、私用の時の物であるらしいが。

 

「筋肉のリンゴが脈動をし続ける事への理論的な納得が、私には出来ない」

 

 シロッコの古びた端末がならすクラシックは軍務のそれであるらしい。真剣な表情でその小型モニターへと浮かぶ文字を追う彼へ、カツがやや早口に問いをかけた。

 

「もしかして、シロッコさんは」

「何だ?」

「ボクらに解るように、気を使ってミノフスキーの説明をしてくれた?」

「何故、そう思う?」

 

 ホロムービーを片付け、室内の片隅の壁へと掛けてある大鏡にシロッコは向かいながらも、カツのその言葉には興味深そうに返事を返す、耳を傾けてくれている様子がはた目からもうかがえる。

 

「ラプラス・エーテルとやら、何となく解りました……」

「言ってみるんだな、小僧」

 

 髪型を整え、着衣のシワを気にしながら、シロッコは自分のポケットへフィリップの作った流動食をねじり込み、やや早足でドアへと向かって歩きだした。

 

「ミノフスキー博士、この粒子を確認した科学者の前に!!」

「悪い、お前への宿題にさせておく!!」

 

 再度、端末の文字へ素早く目を疾らせながら、シロッコは早口にカツへとそう言葉を投げつける。

 

「SFのダークマター、暗黒物質みたいにそれを霊的物質エーテルとして捉た、存在を確認した人がいた!!」

「宿題だといっているのに、この場でやり終えるのは賢しいな、小僧!!」

「そして、それを通信媒体と考えてぇ!」

「そこまでは私も確定出来んよ……!!」

 

 ジャ……

 

 そう不快さを隠さずにカツへと言い放ったシロッコは、自動ドアへその身を飛び込ませ、あわだだしく部屋から出ていった。

 

「どうかなあ、どう思うよサラ!?」

「さて、ねぇ……」

 

 何かシロッコに対して劣等感、そのような潜在的な心理から来る反動として現れる、今の勝ち誇ったようなカツの表情はサラにとって気分が良いものではない。

 

「所詮は、誰がミノフスキー粒子とやらを先に見つけた事を大袈裟にしているだけでしょ?」

「うーん……」

「別にどうでもいいでしょ、そんな名誉争いは?」

 

 そのサラの言葉、男性原理を嘲笑う女の理屈にはカツよりもアルフ、技術者である彼の方が耳が痛く感じているようだ。

 

「俺としちゃ、粒子の特許権を放棄した実績があるミノフスキー博士に、尊敬の念があるんだけどなあ……」

 

 そのミノフスキー博士、彼自身もその彼の名を冠した粒子と同じくらいには謎が、プライベート・データが明かされていない男である。

 

「みんな大好き、ミノフスキー……」

 

 アルフ達のような業界にいる人間にとって、それはとても歯がゆい。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

「シドレちゃん」

「はい」

 

 シロッコ自慢の電子戦機、サイコミュ波を含めあらゆる「通信媒体」に関わる制御を可能としているメイプーク・サマーン。

 

「さっきの怪談部屋で話していた、つまらない話ってのはなんだい?」

「大した話じゃありませんよ、フィリップさん」

 

 Zガンダムを始めとした並みのガンダム・タイプよりも遥かにデラックスなコストをその機器へと注ぎ込まれている電子戦モビルスーツ。その隣へとそびえ立つジェガンヘ乗り込むシドレへ対し、フィリップが何かからかうような声をかけた。

 

「ラプラス・エーテルに関する話です」

「Gマリオン、ユウへ送った機体に付着する謎の単語だな?」

「本当に、大した話じゃあない」

 

 そのシドレの、どこか慌てたような声が向けられたフィリップが乗る、焦げた茶色の塗装を施されたブループラウス、名前に矛盾があるその機体は廃棄処分にされる所を、戦力不足により急遽ジ・オと共に復活させた機体、かつてのユウ・カジマの愛機である。

 

「みんな、私は知っていた話ですから」

「ヘーエ?」

 

 自分から話を振りかけた割りには、そのエーテル何とかという物は実の所にブループラウスへと乗るフィリップにはあまり関心がない話、話題だったのかもしれない。シドレへ生返事を返しながらモルモット隊の隊長「フィリップ・ヒューズ」は。

 

「インテリ大将のご出馬、ってね」

 

 フィ……

 

 自らが乗る指揮官機からややに後方へと置かれているジオ・メシア。シロッコの専用機がゴテゴテと追加ブースターを付けてスタン・バイをしている勇ましい姿であるそれへ、フィリップは軽く口笛を吹いてみせる。

 

「遊軍任務、一人での単独行動をを志願していたようだがさ、シドレちゃん」

「そのようですね」

「あの過労ニュータイプさんは何をしでかすつもりなのかね?」

「あの人への人助けでは?」

「んん、シドレちゃんよ……?」

 

 そのシドレの言葉、それにやや引っ掛かる物を感じたフィリップは、大型運搬機、サブ・フライト・システム(SFS)へもと跨がっているジオ・メシア、異形Zガンダムとも言うべきその機体へ再度その視線を向けながら。

 

「その人助けが正しかったとしてもさ」

「はい」

「ユウの事、ではないかもな」

 

 ややフィリップのその真剣味を帯びたその言葉、それに対しシドレは少しその両眉をひそめ、不快そうな表情をジェガン、ジェダⅡともいうべき新型量産機の中で浮かべてみせた。

 

「何故、そう思うのです?」

「もう一人、俺達の上官筋にあたる男が引き込もっていたな」

 

 シミュレート上のデータも含まれているとはいえ、すでにユウ・カジマの能力、パイロットとして見ても、部隊指揮官としての実力も彼を上回っているという事を。

 

「上官、筋……?」

 

 このネオ・ジオンとの戦い、大戦争の中で幾度となく証明してみせた、この二代目モルモット隊の隊長の言葉、直感のそれには。

 

「誰でしたっけ……?」

「にぶいなあ、シドレちゃん」

「うーん……」

 

 並みのニュータイプ、シロッコ風の言い方をすれば凡人ニュータイプであるシドレやサラ、カツのその感性の先を行く事があることを、すでにシドレはこの数ヵ月間の戦いの中で確信が出来ていた。


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