夕暁のユウ   作:早起き三文

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第66話 焔足ル

  

「ジェリド!!」

 

 カミーユ機の目の前から射撃を放ってくる二機のハイザック、彼らからの攻撃をかわしながら、Zガンダムの手に持つサブマシンガンが背後の正体不明機へと牽制をかける。

 

「こいつら、ネオ・ジオンの連中ではないぞ!!」

 

「解っているさ、カミーユ!!」

 

 ジェリドのガブスレイ、それのセカンド・タイプには微かなビーム射撃によるキズが見える。相手の機体、戦場のおこぼれを狙った人間が駆る機体が連邦派製作のモビルスーツ、ジム・タイプだからと一瞬、友軍だと思い油断をしてしまったのだ。

 

「戦場漁りの連中だ!!」

 

「こんな時、切羽詰まった時にな!!」

 

 そのカミーユ達が展開をする宙域へ自身のカラダをあたかも「神」のように存在を誇示するアクシズ、迫り来る巨大岩石へは先程に最後の核、核弾頭ミサイルが投げつけられたばかりである。

 

「しかし、核も艦砲射撃も!!」

 

 サブ・マシンガンとは逆の腕で保持するライフルの精密ビームがハイザック、謎の第三勢力の機体を撃ち抜きながら、カミーユは凄まじい火線を放ち続る艦隊群の姿へその視線を見やりながら、ジェリド機の背後へとついた。

 

「アクシズを食い止められない……!!」

 

「だからってな、カミーユ!!」

 

 ガブスレイⅡの股間部連装砲が赤く塗装をされたボール、作業用機に毛の生えた機体を撃ち砕きながらも、彼ジェリドは後方で控えている重火力機のビーム砲充填の為の時間を稼いでいる最中である。

 

「逃げ出すのかよ、女の名前の男!!」

 

「その女の名前を持つ女達が!!」

 

 ZZ(ダブルゼータ)へ次々とエネルギータンクを差し込んでいるマウアー達のモビルスーツ、ジェリドの恋人が乗る機体をカミーユはZガンダムの顎でしゃくり示した。

 

「一生懸命と戦いをやっているんだよ!!」

 

「なら、つべこべと!!」

 

 ガァフ!!

 

 戦場漁りの機体、目前の旧ジオンのモビルスーツを蹴飛ばしながら、ジェリドが見つめる大規模なデブリ・アステロイド帯。

 

「言うんじゃない、カミーユ!!」

 

 ガラクタの残骸と小惑星から構成されたその宇宙へと出来た薮の中から湧き出る者達、各軍の素行不良兵や脱走兵、そしてこの戦乱で生きる術を失った者が駆る機体が次々へと疲弊した連邦派のモビルスーツ達を狩ろうと迫り来る。

 

「射線、空けて!!」

 

「何だよ、ファ!?」

 

「いいから!!」

 

 マウアーのガブスレイと共にZZの機体を支えていたエゥーゴの女パイロットからの声に、カミーユはジェリド機へ向けてジェスチャーをしながら自機をデブリ帯から避難をさせる。そのカミーユ機とは逆方向へガブスレイⅡを可変させながら、ジェリドもそのエゥーゴパイロットの指示に従った。

 

「ハイ・メガ・キャノン、照射!!」

 

 ドゥファ……!!

 

 そのZZの頭部、額から放出される凄まじいビームの波と共に、それを撃ち放った試作重火力機の頭が爆発四散をし、周囲へそのパーツの破片を飛び散らす。

 

 ガァア!!

 

 頭部を無くし、機体の動力炉へも多大な影響を余儀なくされるだけの事はあるビーム砲、並みの戦艦の主砲を遥かに上回るビームの波動はデブリ内へと潜む宇宙の野盗達が乗るモビルスーツをことごとくかき消し、その機体群の爆発光が連続して光を放つ。

 

「さすがにすげぇな……」

 

「ン……」

 

 ただ単にそのビーム砲「ハイ・メガ・キャノン」の威力に感嘆するだけのジェリドと違い、エゥーゴのエースパイロット「カミーユ・ビダン」のその面、未だにあどけなさの残る彼の端整な顔には深い翳りが覗え、唇からは肺の奥底から押し出される呼気、それが微かに漏れ出した。

 

「どうした、カミーユ?」

 

「戦場漁り、達さ」

 

「奴等が何だ?」

 

 ガブスレイを近づけながら疑問を投げかけるジェリドの声に、カミーユはその常の激しい気性に似合わず、口をもごりとヘルメットの中で動かすだけである。

 

「同情は禁物だ、カミーユ君」

 

 僅かに離れた場所、そこの宙へと浮いている大型モビルスーツ、ほぼ戦闘不能の状態となったZZから、その歳年齢が掴みづらい、推測が難しい声の質を持つ男性パイロットからの声がカミーユのZへと飛ぶ。

 

「はい……」

 

「軍務、己の成す事を忘れるな」

 

 頭部がない自機をマウアーとファに引っ張ってもらいながら、その重モビルスーツ「ZZ」のパイロットであるサマナ・フュリスの厳しい声がエゥーゴのエースをたしなめた。

 

「見よう見まねでモビルスーツを動かしている人を作り出したのは、俺たちだということを思うと……」

 

「なるほど、な」

 

 ズゥ……

 

 ジェリド機、ガブスレイⅡには大きな損傷こそないが、どちらかと言うとカミーユ達と同じく、パイロットの身体、精神面での疲労に問題がある。

 

「そういう事かよ、カミーユ……」

 

 Zガンダム、カミーユ達が破壊をした野盗達の中には、素人同然の動きをしたモビルスーツの姿があったことはジェリドもその目で確認をしている。おそらくは一般人、難民だ。

 

「そいつ、それの事はさ、カミーユ」

 

「解っているよ、ジェリド」

 

 シャ……

 

「戦争が終わってからだ……」

 

 そのジェリドの簡潔な声と共にガブスレイの指が指し示す小惑星質量兵器アクシズ、その彼の腕の動きだけでジェリド・メサ、彼が何を言いたいのかはさすがに感受性が強すぎるカミーユとて解っている、いるのではあるが。

 

「少しジュピトリス艦で休みましょう、カミーユ……」

 

「ああ」

 

 カミーユがファ・ユイリィ、友達以上恋人未満である彼女の声に素直にしたがったのはセンチメンタルな感傷の部分が強い。このカミーユ少年はいちいち一つの物事に敏感に反応をするため、無駄に精神的な疲労、それを自ら導いているのだ。

 

「サマナ先輩よ」

 

「僕はもうティターンズではないよ、ジェリド」

 

 そのかつてのティターンズ時代、そこでの後輩へ向かってコクピット内モニターを通して微笑みかけながら、サマナはZZの機体状況チェックを開始する。

 

「それでも先輩だよ、俺にとってあんたは」

 

「言ってくれる、小僧のジェリドが……」

 

「そりゃ、オールドタイプのあんたにしてみりゃ、小僧かもな」

 

 タァ……

 

 ジェリドへ感謝の意を込めた悪態をつきつつも、実体型コンソール、キーボードへ手を置いていたサマナは、自機の破損状況を照らし続けるホロ・コンソールが述べる赤文字の大名行列に深くため息をつき、その手を早々に操作卓から離した。

 

「だめだ、こりゃ……」

 

 元ティターンズ・メンバーにして連邦軍独立部隊「モルモット」のメンバーである歴戦兵の彼にしても、もはやこの機体は動かす事すら出来ない。

 

「このZZ、無茶な機体構成なんだよ」

 

「そりゃあな、先輩も貧乏クジだ」

 

「一応、可変や機体分離の機能もあるにはあるけど、怖くて使えたもんじゃない」

 

 武装に対する被弾率を下げる為に、あえてモビルスーツの各部位の中で最も表面積の小さい頭部、そこへ戦術兵器としては最大級の火力を誇るビーム砲を取り付けたダブルゼータ。正直、その無理な機体設計を考えた設計者へ愚痴の一つでも言いたいのがサマナの心情である。

 

「アクシズ、ねえ……」

 

 アァ……

 

 息一つにしても、艶かしさが混じるマウアー・ファラオ。彼女のその部分は肉体的な面でジェリドの好きな所、よくよくリビドーを感じさせてくれる物ではあるのだが。

 

「陰気くさい溜め息をつかんでくれよ、マウアー」

 

「だって……」

 

 もはや連邦には核弾頭は一つも無い、全ての手持ち弾頭をアクシズへ先駆けて落下をする小惑星やコロニーへと向けて緊急的な使用をしたか、あるいはネオ・ジオンの機体、主にファンネル搭載機によって迎撃をされ、オシャカとされた。

 

「気持ちは解るが、よ」

 

 レビル将軍が復帰をはたし、指揮をする大艦隊でも、はたしてどこまで出来るものか。

 

「ん……?」

 

「カミーユ、帰投しないの?」

 

「いや、少し待ってよ」

 

 パイロットの疲労に加え、燃料と弾薬も心許ないZ。可変型ガンダムを運搬機形態「ウェイブライダー」へと変形させ、補給へ戻ろうとしたカミーユの視線が自機のコンディション・モニターへ釘付けとなり、やや慌てたような声をファへと向ける。

 

「機体の全出力が上がっている、のか……?」

 

「ハア……」

 

 Zガンダムからのその呆けたような声、成り行きではあるが、この少部隊のリーダーとなってしまったジェリド大尉の神経のそれを、気の抜けたカミーユのその声は軽くささくれ立たせた。

 

「そりゃ、てめえのZガンダムの故障だな」

 

 鼻を鳴らしながら、事も無げにカミーユ機、僅かに機体制御が不安定へなったように見える彼の機体へ向けて、ジェリドは投げやりにそう言い放つ。

 

「とっとと戻りな、小僧」

 

「ああ……」

 

 コクピット内でその首を傾げ、惑をしながらも、カミーユはファのZプラスに先導をされてその後部スラスターの光を輝かせた。

 

「さて……」

 

 帰投をしていく二つのZタイプへ、ややに呆れたような視線を一つ向けた後、ジェリドは自機ガブスレイⅡをZZの残骸へと近づける。

 

「あとはサマナ先輩をストゥラートへと放り投げるか」

 

「ジェリド……」

 

「何ですかい、先輩?」

 

 ジェリド機とて、行動に支障が無いとはいえさほどに遊んでいる暇は無い、連邦艦隊のアクシズへの攻撃が失敗、破壊が出来なければ後はソーラ・システム、そしてモビルスーツのレベルで扱える火器に頼るしかないのだ。ぼんやりとしている暇はない。

 

「あんたまで故障ですか?」

 

「光……」

 

「いや、すでに故障極まりないか、ZZガンダムは」

 

 ブツブツとガブスレイⅡのコクピット内で呟くジェリドをよそに、サマナの口からは掠れた言葉が漏れ続ける。

 

「光と声だよ、ジェリド……」

 

「ハア……」

 

 そのボウとしたサマナの声、それを聞いた時にジェリドの身体へとズシンと重い疲れが舞い降りてきた。

 

「ついにこの先輩も後方、病院船送りかよ……」

 

 すでに何人かのパイロットがプレッシャーに耐えきれず治療を受けている状態、ある程度は見慣れているとは言え、それなりに恩義がある彼をそこへ送らなくてはならないのはジェリドにとって口惜しい物である。

 

「本当よ、ジェリド」

 

「マウアー、お前まで……」

 

 そう言いかけたジェリド機、だが、そのジェリドのガブスレイの手のひらに。

 

 フォリィ……

 

「光だと……?」

 そのガブスレイの周囲へ淡く漂う、色さえも解らない位の光源、しかしそれは。

 

「地球から立ち昇っている……?」

 

 地球、青い人類の揺りかごである惑星。その星の体液である海が太陽光に輝き、ジェリドのその目を打つ。

 

「オーストラリア……?」

 

 その光、ホタルのような輝きの群れはオーストラリア大陸、そこの一年戦争時に出来た「忌まわしき人工湾」から立ち昇ってくるようである。

 

――あなたは、ユウ――

 

「フン……」

 

 その微かな幻聴にジェリドは強く自身の頭を振り、そして淡い光も機体の手を使い、追い払う。

 

「俺たちはティターンズだ」

 

「そうね……」

 

 その強く言い放つジェリドの清冽なる宣言に、少し名残惜しげにしながらもマウアーもその光から視線をそらす。

 

「任務があるんだ」

 

「ああ、そうだな……」

 

 サマナもそのジェリドの言葉に頷いてみせながら、ZZのコクピットハッチを開く。

 

「ジェリド、ストゥラートへのタクシーを頼む」

 

「高くつくぜ?」

 

 自分のガブスレイ機内へ、いささか乱暴にサマナの身体を押し込んだジェリドはそのままストゥラート、ソーラ・システム付近の艦へとその進路を取ろうと、機体のセミ・オートパイロット機能を動かし始めた。

 

「あなたはユウ、か……」

 

「気にするなよ、先輩」

 

 どうやら、サマナへも聴こえていたその幻聴の言葉、それを口にしたサマナへ対し、ジェリドがその顔をしかめながら不愉快げに軽く舌を鳴らす。

 

「どうせなら、あんたのボスであるユウさんの方の事を気にしなって……」

 

「ああ、そうだな」

 

「元気になってくれりゃ、あの人はいい戦力になるってもんよ……」

 

「戦力、か」

 

 軽く息を吐き出しながら口ごもるサマナ、その童顔に似合わずモルモット隊の古参である彼がヘルメット越しにジェリド、彼のその顔をじっと見やった。

 

「な、なんだよ先輩……」

 

「死んでくれるなよ、ジェリド」

 

「何を言っているんだか……」

 

「弟が悲しむ」

 

 そのサマナの言葉、それに対しジェリドは不可思議そうにその首を傾げてみせる。彼らの視線の先には艦隊からの猛打を受けているアクシズ、余りの巨大さに見る者の遠近感を狂わせるが、スペースコロニーよりも遥かに巨大な小惑星は地球へと静かに、しかし確実に接近をしている。

 

「俺に弟はいない」

 

「アイツは違うのか?」

 

「アン?」

 

 サマナが指差す先、ジェリド機の後方モニターには放棄したZZの姿。

 

「あれが何だと……」

 

「そのアルファベットの半分に乗っている彼の事だよ」

 

「半分、か?」

 

 自機のコンディション・チェックを行いながら、そのサマナの言葉へ少し頭を傾げてみせたジェリドの脳裏に思い当たる、浮かび上がった少年の顔へ対して、このティターンズパイロットは露骨にその顔を歪めてみせた。

 

「ハン、下らん……!!」

 

 その言葉によって浮かんだ男の顔を鼻を鳴らして頭から吹き飛ばすジェリド。彼がニュータイプかどうかは別としても、このティターンズ大尉の勘も頭も鈍くはない。

 

「可愛い弟さんね、ジェリド」

 

「お前まで、ふざけんなよマウアー」

 

「あのボウヤは今でもお嫌い?」

 

「いずれに越えなくてはならない、蹴落とすべき奴だよ」

 

 ククッ……

 

 苛立つようにそう言い放つジェリドに対し、マウアーのガブスレイからコロコロと猫が笑うような声が彼の耳を打つ。

 

「死ぬなよ、お前もカミーユ君も」

 

「小僧はともかく、俺は死なねぇよ」

 

「残された者は、その亡霊に引きずられるんだ……」

 

「亡霊、ねえ……」

 

 そのサマナの口から絞り出されるように放たれる言葉、その言葉を聞いた時、何故かジェリドはふと先程の幻聴、そして謎の光がその脳裏へと浮かんだ。

 

「覚えていない位の昔、僕は弟に死なれてね」

 

「子供の頃の話かな、先輩?」

 

「百年位は昔かなぁ」

 

「真面目なだけが取り柄、それがあんただ」

 

 グゥ……

 

 高くその声を上げて笑いながら、ジェリドはガブスレイⅡのスピード、スロットルを新型操縦器を使い、緩やかに上げる。

 

「真面目な奴の冗談は場を白けさせる、止めてくれ」

 

「言うようになったな、ジェリド」

 

「それはともかく、ナンだがね……」

 

 最新の操縦機器、それを小刻みに動かしながら、同時に可能な限りの戦闘域情報をそのコンソールから読み取っているジェリドが軽くため息をつく。

 

「このアーム・レイカー・システムとやらは」

 

 昨年辺りから導入された新型操縦システム「アームレイカー」はあまり従来のジョイスティック・操縦システムに慣れたパイロットからは評判が良くない。機体が敏感に反応するのは良いが、操縦姿勢の保守に疑問の声が上がっているのだ。

 

「危険だ、主流の操縦器になってはいけない気がする」

 

「本当に、さ」

 

「うん、サマナ?」

 

レイカーシステムの基部、ちょうど手袋か指紋検査器の中へ手掌指先を突っ込むような形のその新型の「操縦桿」は、意外にもジェリドより僅かに腕が劣るマウアーの方が習熟が早かった。何か感性的な操縦システムの為、女性に優しいシナモノなのかもしれない。

 

「言うようになった、ジェリドは」

 

「誉め殺しか、サマナ先輩よ?」

 

「死ぬなよ、ラプラス」

 

「ラプラ、犬の犬種にそんなのがいた気がしたが?」

 

「それはラブラドール、可愛いワンちゃん」

 

 ラプラスという言葉、それはジェリドには解らん品物、ではあるが。

 

「まあ、約束しよう」

 

 そう、ジェリド・メサが呟いた、決意の言葉を口にしたときに。

 

 シィ……

 

 彼の機体へこびりついていた一つの「光」がそのまま外装甲へ、ガブスレイの機体内へ溶け込んでいった姿は誰も気が付いていない。

 

「本当にそうしてよ、ジェリド……」

 

「だから、さあ……」

 

 会話を盗み聞きをしていたらしいマウアー、彼女の顔が映るモニターを睨み付けているジェリドには、その顔から一粒の涙をこぼしているサマナの様子は気が付かない。

 

「聞き耳を立てるのはやめろって」

 

「ごめんなさい、ジェリド」

 

「女は黙って男の背中へついてくれば良いんだ」

 

「カミーユ君のように?」

 

「アイツは名前が女なだけで、男だろうに……」

 

 そう彼の口から、カミーユ少年へ対する言葉、感想がこぼれ出した時。

 

「チッ……」

 

 ジェリドはそのコクピット内で軽く、苦笑いとも何ともつかない笑み、強いて言うならば「つまらなそうな」と表現できる笑いをその面へ挙げてみせる。

 

「言質を取ったな、マウアー?」

 

「フフ……」

 

 ジェリドのそのふて腐れた言葉にマウアーは忍び笑いをもらしながら、彼の機体の前方へ自分の同型、ガブスレイ・タイプを進み出させた。

 

「少なくなったもんだな、敵も味方も」

 

「古今問わず、戦いの最もバカバカしい結末だよ、ジェリド」

 

 この宙域の、アクシズの進路確保の為に行われた二月三月に渡る大攻防戦、連邦派とネオ・ジオンのモビルスーツ同士の戦いは痛み分け、両軍が互いに持つ戦闘兵器と人的資源の絶対数損失、消耗により引き分けと言うことは出来る、のだが。

 

「結局、アクシズは地球へ落ちるのか」

 

「まだそうと決まった訳ではないだろうに……」

 

 だが、そのサマナの言葉には何の説得力も無い、アクシズを止める頭数も兵器、核なども無く、その上。

 

「ピナクル方面はまだ期待が出来るとはいえ、ゼダンが丸々残っている」

 

「らしくない、ジェリド」

 

「俺は単に現状の確認をしているだけですよっと、サマナ」

 

「ティターンズは力だ」

 

「……」

 

「違うのか、ジェリド・メサ?」

 

 そのサマナの言葉、ジェリドにとっては非常に耳の痛いものではあるのだが。

 

「力があってこそ、全てを制する、制止する事が出来る、か……」

 

 さすがに今のジェリドには、サマナの言葉だけで簡単に元気が付けられるものではない。

 

「しかし、にさ……」

 

 フゥ、ファリ……

 

「何なんだ、この光は……?」

 

「無視するんじゃなかったのかしら、ジェリド?」

 

「それこそ、この蛍の光、単なる何かの化学反応だか自然現象が生んだコイツには」

 

 この妙な強情さと、目の前の現実は認める柔軟さが彼ジェリドの良い部分ではあるのだが、それでも恋人であるマウアーにも時おり扱いが困る事がある。基本的に頑固なのだ、Zガンダムの少年と同じく。

 

「チカラ、力と」

 

 シィン……

 

 また一つ「ホタル」が前方のマウアー機へと付着するのを見たジェリド。彼はその両眉を強く引き締めつつ、そのややに薄い唇を軽く開いた。

 

「何か、悲しさを感じないか、サマナ?」

 

「地球の涙だからじゃないか?」

 

「ああ、ああ……!!」

 

 リィ……

 

 また面倒くさい、抽象的な台詞を吐くサマナの顔へ軽く舌を向けながらジェリド大尉はガブスレイの進路調整、修正の為にアームレイカーからスポリと取り出した自身の指をコンソールへ触れさせる、その彼には。

 

「結構なお手前と言えばいいか、サマナ?」

 

 自機の出力が微かに、しかし確実に上がっている事態に気がつかない。

 

「全く詩人だねぇ、先輩は」

 

「腹が立ったか?」

 

「徒然なるままに縮み行く花火達っと……」

 

 ソーラ・システム、あるいはコロニーレーザーに匹敵する集中艦砲撃をアクシズへと放っていた艦隊の火線、それが目にみえて衰えてきた、力が尽きてきた事にジェリドは舌打ちをしながら。

 

「どうだ、この一句?」

 

「下手ね、夜と同じく」

 

「うるせぇ、マウアー」

 

 マウアー機の尻へと随伴をし、彼女のガブスレイと共にソーラ・システム、あちらこちらからの光を受け止め、ハリボテじみたガラスの城を思わせる戦略兵器が展開する宙域へと自機を急かさせた。


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