夕暁のユウ   作:早起き三文

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第6話 宇宙の者

「動きをもっとシャープに」

 

「こうですかい?」

 

黒いガンダムに乗ったパイロットが小刻みにブースターを噴かす。

 

「感がいいな……」

 

サマナはガンダムのパイロットを誉めた。

 

「このガンダムのレプリカの調子が良いだけですよ」

 

「機体の癖をすぐに理解出来ている」

 

「いくら訓練で好成績を出してもね……」

 

「なら、模擬戦をやってみるか、ジェリド?」

 

「助かります」

 

ジェリドと呼ばれた新人パイロットはテスト用にリメイクされたガンダムをサマナのサイコ・ジムから少し離れさせる。

 

「先輩を倒せたら箔がつくってもんですよ」

 

「言ったな……」

 

サマナの機体にジェリド機の模擬弾が発射された。

 

 

 

「お前さんもあれだろ?」

 

「何だよ?」

 

「機体のお守りをしなければならない……」

 

ヤザン・ゲーブルはそう言いながらアクト・ザクで曲芸のような動きをする。

 

「スラスターやら何やらの気を使っているって事さ」

 

「よくわかるな」

 

「なぁに……」

 

アクト・ザクがユウの機体を小突く。

 

「動きが良いんだよ……」

 

「あんたほどでないな」

 

「フン……」

 

ヤザンは少し笑いながら、遠くで訓練をしている黒いガンダムを見やる。

 

「悪くはない」

 

「黒いガンダムのパイロットが?」

 

「機体の癖にすぐに対応できている」

 

「見ただけでそこまでわかるのか?」

 

「ただの慣れだよ……」

 

そう言うヤザン機の付近をテスト飛行中のニムバスのランプライトが通りすぎていく。

 

「アイツの方は俺に似ている」

 

「どの辺りが?」

 

「自分以上に強い奴はいないって思っている所がさ……」

 

「当たりだ」

 

ユウはヤザンの勘の良さに呆れる。

 

「ヤザン中尉」

 

「あん?」

 

「あんたはニュータイプか?」

 

「まさか」

 

笑いながらヤザンはアクト・ザクを艦へ帰還させる。

 

「単なるパイロットだよ」

 

「その腕では謙遜だな……」

 

「言ってくれる……」

 

ヤザン機と共にユウも母艦へ向かい始めた。

 

「ヤザン中尉」

 

ブルーがヤザンのアクト・ザクへ近づく。

 

「マグネットコーティング機の様子はどうですか?」

 

「悪くはない」

 

「機体を自滅させずにすむ?」

 

「とまではいかねぇ」

 

アクト・ザクが自機の間接部を指差す。

 

「少しでも俺が本気を出すと悲鳴を上げる」

 

「リミッターは必要であって?」

 

「そうしたいな、女」

 

「女という名前はなくてよ?」

 

「フン……」

 

ヤザンは少し不機嫌そうにアクト・ザクを着艦させた。

 

「気に入らない男」

 

「そう言うな」

 

憤慨するブルーをユウは宥める。

 

「気の良いパイロットだよ」

 

「自分の機体壊しの名人が?」

 

「腕が良すぎるんだよ」

 

ユウが自分のサイコ・ジムを少し旋回させる。

空間戦闘用に換装された脚部のスタスターは良好のようだ。

 

「ジム・セカンドと言う名前になるんだって?」

 

「そう、ジムⅡ」

 

ブルーのサイコ・ジムがユウ機の隣に寄る。

 

「現行のジムタイプの統合タイプ」

 

「サイコ・ジムはネーミングセンスが悪いか」

 

「量産タイプにはサイコミュも取り外される」

 

「だろうね……」

 

ユウがサイコ・ジムを母艦「ブルーマリオン」へ着艦させる。

 

 

 

 

「アルフのセンスの無さには呆れる……」

 

「ブルーマリオン?」

 

「よくその名が通ったもんだ」

 

ブルーも機体を着艦させながら苦笑した。

 

「他に良い名前を思いつかなかったあたし達が悪い」

 

「だからと言ってな……」

 

小型万能艦である「ブルーマリオン」の通路を二人は歩く。

 

「万能艦のペカサス級とやらの小型艦か」

 

「艦長は使いやすいと喜んでいます」

 

「ヘンケン艦長ね……」

 

食堂にやって来た二人をフィリップが出迎える。

 

「パンがちょうど焼けた所だ」

 

「フィリップさんのパンは火が強すぎだって……!!」

 

フィリップを手伝うミーリが文句を言う。

 

「やっぱり焼きすぎだったのか」

 

「独学だもの……」

 

ブルーが溜め息をつく。

 

「ミーリの方が上手い」

 

「うるせぇな……」

 

ユウとブルーの前にシチューとパンが差し出される。

 

「パン屋にねぇ……」

 

ユウは呟きながらパンを頬張る。

 

「しばらくは無理だな」

 

片付けをしているフィリップが不満げに言う。

 

「しばらくは軍属から離れられない」

 

「命令書にサインをしたからね……」

 

「早まった事をしたぜ……」

 

片付けを終えたフィリップとミーリがユウ達の隣へ座る。

 

「他の艦の連中は?」

 

「ユニークな奴らよ」

 

ブルーがシチューを口に運びながら微笑む。

 

「だけど、腕は良い」

 

「それはなりより……」

 

フィリップ達も食事を取り始める。

 

「どこの艦もジム、ジム、ジム……」

 

「連邦だからねぇ」

 

ミーリが笑う。

 

「違うのもいるみたいだがね」

 

フィリップがヤザン・ゲーブルの事を言う。

 

「ジム殺しの名人ですって……!!」

 

「ヤザンとやらが?」

 

「あなたと同じ」

 

食事を手早く終えたブルーがユウを見て笑う。

 

「サイコ・ジムはどうにか保っている」

 

「いつまで保つことやら……」

 

フィリップがユウをニヤニヤと見つめる。

 

「エースは大変だねぇ」

 

「連邦の量産機も性能は上がっているさ」

 

「だけど、それでも文句を言う奴がいる」

 

ジュースを飲んでいるユウにフィリップはスプーンを振りながら茶化す。

 

「だからヤザンとやらはジオンの機体を使っているんだろう?」

 

「ニムバスもそうかもな」

 

「アイツのあれは……」

 

フィリップは溜め息をつく。

 

「化け物専用だろう」

 

「次世代機のプロトタイプらしいな」

 

「騎士様も所詮はモルモットか」

 

フィリップが自分の作ったパンの味を確かめながら答える。

 

「騎士様に食事を届けてくる」

 

「俺が行こうか?」

 

「長い付き合いになるかも知れねぇ」

 

フィリップは厨房に入っていった。

 

「仲良くしておいた方がいいだろうからよ……」

 

「良い心掛けだこと」

 

フィリップへのブルーの皮肉げな言葉にミーリが頷く。

 

「後ろから撃たれたくねぇからなあ……」

 

「ケンカしないでよ」

 

「わかってるって」

 

ミーリの忠告にフィリップは笑って答える。

 

「ニムバスね……」

 

ユウはランチプレートを片付けながら呟く。

 

「もしかしてアイツも」

 

「ん?」

 

ブルーが首を傾げる。

 

「蒼い宇宙を見たのかもしれないな……」

 

「何、それ?」

 

少し馬鹿にしたように訊ねるブルー。

 

「いや、何でもない」

 

「フーン……」

 

少し不満そうな顔をしながら、ブルーも食事の片付けを始めた。


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