「ランプライト」
ニムバスがその巨大な航空機を思わせる機体を指差す。
「特殊な訓練を受けた者用のモビルアーマーだよ」
「また両肩が赤い……」
その機体のメガ粒子砲が内蔵されていると思わしきバインダーをユウは苦笑しながら見やる。
「悪趣味が直っていないな……」
「どちらかというと」
ニムバスが赤い塗装のバインダーを少し触る。
「識別のためだ」
「EXAMの因縁を引きずっていないと?」
「今は忙しい」
ニムバスは少しぎこちない動きでコクピットへ乗り込む。
「あまり昔の事を思い出している暇がない」
「コクピットもお前専用か……」
「たとえ、お前が片足でもこの機体は扱えない」
ニムバスが唇の端を歪める。
「身体中の骨が砕ける」
「早いのか……」
「扱いづらいがな」
ニムバスはそう言ったきり、コンソールを叩き始めた。
「他の連中への挨拶の時は愉快であったよ」
「俺は居心地がとても悪かった」
「昔の事と割りきってくれんようだな……」
「フィリップの奴がどうにも表現できない顔をしていたよ」
ニムバスを他のメンバーに紹介したときの事を思い出して、ユウは不愉快そうに顔をしかめる。
「明日、出撃する」
「昔の仲間を撃つ事になるのか……」
「よく言う」
ユウは皮肉げにコクピット内のニムバスに声をかける。
「お前には元々ジオンの人間への仲間意識などない」
「私は選ばれし騎士であるからな」
「傲慢だな……」
「雑兵などどうでもよい」
「フン……」
ユウは顔をしかめて鼻を鳴らす。
「俺達は後ろから撃たないでくれよ、ニムバス君」
「フフン……」
ニムバスのくぐもった笑いを無視してユウは自分のサイコ・ジムの調整へと戻っていった。
「少しはマシになったな」
サマナが旧式のザクを撃ち抜きながら呟く。
「頭痛がなくなった」
「薬は必要だ」
フィリップがもうすぐ服薬の時間であることを告げる。
「機体の悪影響が無くなったか?」
「あなた達も」
他の機体よりも反応が良いブルーのサイコ・ジムが遠距離のドップ戦闘機を撃墜する。
「ブルーの毒と同じ症状が出たのではなくて?」
「嫌な慣れだな……」
フィリップが苦虫を噛み潰したような声で呻く。
「まさにモルモットだな」
「最近は連邦でどこもかしこもモルモットのような部隊が増えているわ」
ザクと戦車からのリサイクル兵器の射撃を装甲で受けるままにする。
ビューン……!!
上空からメガ粒子砲がジオン残党の移動砲台型のモビルスーツを撃ち抜く。
「死に損ないのモルモットが……」
フィリップが上空で旋回しているニムバスのランプライトの機影を見上げながら忌々しそうに呟く。
「仲間であって?」
「信用できるもんか……」
フィリップが文句を言いながらも目の前の敵機に注意を向ける。
「よそ見のしすぎよ」
フィリップ機のジムライフルの連射を敵機が機敏にかわす。旧式とは思えない動きでフィリップ機にマシンガンを叩きつける。
「旧ジオンの意地って奴か……」
旧型のマシンガンの為か、フィリップ機の損傷は軽微。
「油断は出来ないわ」
ブルーがヘルメット内に詰め込んだ自分の青い髪を気にしながら答える。
「この髪、切ろうかしら?」
「ユウが喜ぶ」
フィリップが笑う。少しムッとした顔でブルーは返事をする。
「ショートが好みなの?」
「ユウもニムバスも」
サマナが上空のモビルアーマーを見やりながら苦笑いをする。
「短い青色の女の子を取り合って命懸けで戦ったんですよ」
「ロリコンが二人も……」
ブルーは溜め息をついて首を振る。
「真面目そうな隊長に見えたのにね……」
「真面目だからかもしれませんよ」
「嫌なこと言わないでよ、サマナ」
ブルーが不機嫌さをぶつけるようにホバーの出力を上げた。
「なにのんきにやってんだか、あいつらは……」
余裕がありそうな部隊の様子を見て、ユウは微かに微笑む。
「ミーリ」
「降伏の勧告ですか?」
オペレーターのミーリの顔がサイドモニターに浮かぶ。
「勘が良いな?」
「ジオン残党の戦意がもうありません」
「では、頼むよ」
後方の部隊の中に控えている一台のホバートラックから信号弾が上がった。
「宇宙へ?」
ユウはモルモット隊の隊長であるヘンケン少佐に訊ね返す。
「宇宙が荒れてるらしい、少佐」
ヘンケンはそう言うと少し笑みを浮かべる。
「階級が同じだとやりづらいな、ユウ」
「適当にやりましょうよ、部隊長……」
ユウはそう言いながら苦笑する。
「デラーズ・フリート」
「ジオン残党の中でも最大級の規模の物ですね」
「少し行動が活発になっている」
ヘンケンがモニターに映像を映す。
「観艦式もあるからね……」
「宇宙を落ち着かせたいという事ですか」
「デラーズ・フリートの他にも」
ヘンケンはモニターの画像を変える。
「レッド・ジオニズム」
モニターには宇宙を背景に赤いモビルスーツの姿が映る。
「ジオン残党の中でも手を焼いている連中ですね?」
「ジオンの英雄である赤い彗星を気取っている奴等だよ」
ヘンケンは笑いながらモニターの画像を消す。
「宇宙に上がった後に他の部隊とも合流する」
「計三隻の艦隊になる……」
「まあ……」
ヘンケンは少し顔を曇らせる。
「癖のあるパイロットがいる艦らしいがね」
「お互い様ですよ」
ユウはニムバス達の顔を思い浮かべながら答える。
「いつ、宇宙へ?」
「早ければ半月後かな」
「地球は少し飽きましたね」
「また恋しくなるよ……」
「フフ…」
二人の男達はそう言いながら笑いあった。