夕暁のユウ   作:早起き三文

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第44話 未来を創る老人達(前編)

 タバコの煙が立ちのぼる豪華な迎賓用の居室で四人の男が麻雀卓を囲んでいる。

 

「近づいてくるアクシズを眺めながらやる麻雀というのもオツなものだな」

 

 ティターンズの宇宙拠点「ゼダンの門」。その迎賓室から遠目に映るアクシズを眺めながら、エゥーゴ代表であるブレックス・フォーラは笑いながら麻雀の役を上げた。

 

「戯けたことを抜かすな、ブレックス……」

 

 ティターンズの代表であるジャミトフ・ハイマンが苦虫を噛み潰したような顔をして、ブレックス准将へ点棒を投げて渡す。

 

「我々がゼダンへ来るのも、これが最後になるかもしれんな、メラニー会長」

 

「全くですよ、ゴップ大将殿……」

 

 地球連邦軍の最高責任者であるゴップ大将と地球圏の経済を握る複合大企業「アナハイム」の会長であるメラニーの二人がその太鼓腹を揺さぶりがら笑い合う。

 

「戦線は? ジャミトフ君……?」

 

「ティターンズと借り受けた連邦の軍、それだけでは勝つのは難しいですな」

 

 ジャミトフが絶賛人気中である健康飲料「ムラサメ・ゼロ」を飲みながらゴップへ呻くように呟く。

 

「押されているのか?」

 

 コーヒーを口につけたブレックスが牌を混ぜながらジャミトフに視線を向けた。

 

「シロッコとユウ君が率いる奴等とシャアの小競り合い、それから数回の戦闘があったが、戦線のラインがゼダンへ迫ってきている」

 

「連敗と言うことか? ジャミトフ殿?」

 

「ネオ・ジオンの士気が高い」

 

「そうか……」

 

 ジャミトフの淡々とした言葉に対してメラニー会長はそう呟きながら、サイドテーブルに置いてあるサンドイッチを口に運ぶ。

 

「どうも、シャアが乱心をしたらしい」

 

「乱心だと? ジャミトフ君……?」

 

 そのジャミトフの言葉にゴップの眉が軽く持ち上がった。

 

「ネオ・ジオンから、内密に手紙が来ましたよ」

 

 ジャミトフが牌から手を離して、ゴップへ窓から見えるアクシズに指を振ってみせる。

 

「ハマーンも苦労をしているようだな」

 

 独り言のようにそう呟きながら、メラニーは牌を揃え始めた。

 

「その乱心が、シャアの新しい一種のカリスマともなってもいますな……」

 

「シャアに妙な心酔をする者も多いか」

 

「乱心をした相手とも商売商売を致す事は」

 

ノン・アルコールだが軽く酔いが回るという得体の知れない成分で出来ている人体強化ドリンク「ムラサメ・ゼロ」がジャミトフの喉を焼く。

 

「リスクが高いでありましょうな? メラニー殿?」

 

「はてはて……」

 

 ジャミトフの皮肉にメラニーはとぼけた声を出しながらサンドイッチをコーヒーで喉へ流し通した。

 

「正面衝突では疲弊をするばかりか……」

 

 一旦麻雀牌から手を離して、ブレックスが唸りながら両の腕を組む。

 

「それだ、ブレックス」

 

「うん?」

 

 そのジャミトフの言葉にブレックスがあごへ手をやりながら首を傾げる。

 

「エゥーゴに遊軍的な役目をして欲しい」

 

 牌を摘まみながらジャミトフが単刀直入にブレックスへと言葉を告げた。

 

「私は最初からその案を伝えるためにゼダンへ来たよ、ジャミトフ」

 

「なら、話がはやいな」

 

 ニヤリと笑いながら、ジャミトフが牌を投げ出す。

 

「ジャミトフ、それはロン」

 

 静かに宣言をしながら、ブレックスが役を公開する。

 

「さっきから全くアガッてないぞ、ジャミトフ?」

 

 点棒を卓の皆から受け取りながら、ブレックスがジャミトフをチラリと見た。

 

「接待だからな、接待……」

 

「お主の才覚は一点集中型であるからなぁ」

 

 饅頭を手に取りながら、ゴップが薄く笑う。

 

「不器用な面がある」

 

「悪うございましたね、ゴップ殿……」

 

 その言葉にジャミトフが渋い顔をしながら、タバコを取り出そうとする。

 

「新たな組織、そうティターンズのような立ち上げる事、それ以外にはお前には才能がない」

 

「俺のティターンズに負けた分際でよくも言ってくれたな、ブレックス……」

 

 タバコに火を付けながら、ジャミトフが少しムッとした顔でブレックスを睨みつけた。

 

「エゥーゴとティターンズは引き分けだろう?」

 

「いや、俺の勝ちだよ、ブレックス」

 

「ハイスクールの時の柔道の試合でも、お前はそう言い張るのが得意だったなぁ」

 

「負け惜しみか!? ブレックス!?」

 

「事実だよ!! ジャミトフ!!」

 

「万年補欠であったお前には言われたくないわ!!」

 

「何だと!?」

 

 ガタッ!!

 

 ジャミトフとブレックスがお互いを指を突きつけながら、椅子を蹴飛ばすように立ち上がる。卓の牌が床へ転がり落ちる。

 

「まあまあ、二人とも大人げない……」

 

 笑いながらゴップが両手を下へ振りながら二人を宥める。不承不承といった面持ちで二人の武装組織のトップは席に座りなおす。

 

「しかしまあ……」

 

 ゴップの脇に山積みになっている饅頭を物欲しそうに眺めながら、メラニーが首を一捻りしながら呟く。

 

「エゥーゴこそ、これからどうするかだな……」

 

 ぼんやりと漆黒の宇宙へ浮かぶアクシズを眺めながらのメラニーのそのポツリとした呟きにその場にいる全員が押し黙る。

 

「反ティターンズ、反地球連邦という旗印が無くなりかけてますからな」

 

 ブレックスがジャミトフからタバコを一本貰い、口へくわえながらメラニーのその言葉に深く頷いた。

 

「ティターンズこそ、今はその名が必要だ」

 

 軽く目を瞑りながら、ジャミトフが少し大きな声を出してその他の三人へ言い放つ。

 

「ジオン残党から地球を守るであるな、ジャミトフ君」

 

「まさに理念の通りに行動をしてはいる」

 

 ムシャムシャと饅頭を口へほおりこんでいるゴップの言葉に対して、ジャミトフが張りのある声を出した。

 

「名前を変えてみてはどうかね? ブレックス君?」

 

「名前?」

 

 山積みの饅頭を切り崩しているゴップの言葉にブレックスが怪訝そうな声を出す。

 

「組織の名称を変えれば、内実も以外と変わるもんだよ」

 

「うちのアナハイムはそれで運が向いてきた事がある」

 

 メラニーもゴップの言葉に同調をした。

 

「名前か……」

 

 牌を手でクルクルと回しながらブレックスが低く唸る。

 

「何かお前の所にエースパイロットでもいなかったか? ブレックス?」

 

「人名にあやかるか? ジャミトフよ?」

 

「軍艦などのように、偉人の名を拝借してはと思ったが……」

 

「設立して数年もない組織だ」

 

 軽く息を吐きながら、ブレックスが牌を指で叩く。

 

「歴史なんぞ無い」

 

「アムロ・レイの再来と言われた少年がいたそうだがね?」

 

「人格面で未熟過ぎる少年ですよ、ゴップ殿」

 

「だめか? だめであるか?」

 

「まだ、アムロ・レイにあやかった方が良い」

 

 そう言ったブレックスが何かを思い付いたように自分の膝を打つ。

 

「アムロ・レイか」

 

「アイディアが浮かんだか? ブレックス殿?」

 

 メラニーの言葉にブレックスが深く頷いた。

 

「うちに同人とやらの世界で名を馳せている女パイロットがいてな」

 

「私の娘が読んでおるみたいだよ、全く……」

 

 ゴップのその言葉に卓を囲んでいる男達が苦く笑う。

 

「彼女の描く、例のアムロ・レイとベルトーチカとかいう女を取り扱った下劣で品性の無い本が一部でブームになっているんだ」

 

「女の名前を繋げるかよ……?」

 

「ゲン担ぎになると思わんか?」

 

 少しうろんげに声を出すジャミトフにブレックスがニカッと笑った。

 

「レコア・ロンド、ベルトーチカ、ベルトーチカね……」

 

 ゴップはどうやら同人誌を書いているエゥーゴの女パイロットとやらの名前を知っているらしい。

 

「レコア・ロンドとベル……」

 

 メラニーが唇を舐めながらブツブツと呟く。

 

「ロンド・ベル」

 

 そう言って、ブレックスは手に持つタバコを灰皿へポンと叩きつけた。

 

「良いね、良いね」

 

腹と椅子を揺すりながらゴップが大きく頷く。

 

「悪くない」

 

 メラニーも口の端を歪めながら、ブレックスの前に意味もなく麻雀の点棒をばらまいてやる。

 

「ハァ……」

 

 浮かれる三人の男達とは対照的にジャミトフが深いため息をその口から吐く。

 

「少しは俺のティターンズ、地球を支える巨人というネーミングセンスを見習えよ……」

 

「クール・フェデレイション、連邦の魅力だよ、ジャミトフ君」

 

「意味が解りませんよ……」

 

 頭を抱えるジャミトフにゴップが饅頭山脈からその一つを渡してくれる。

 

「お主は頭が固すぎるよ、ジャミトフ君……」

 

「すみませんね、ゴップ殿……」

 

 ふて腐れた顔で饅頭を頬張りながら、ジャミトフがブスッとした顔でゴップへそう答えた。

 

「お前は昔からそうだ、ジャミトフ」

 

 二本目のタバコを吸いながら、ブレックスがからかうようにジャミトフの顔を見る。

 

「またイチャモンか? ブレックス?」

 

「頭が固いので機転がきかん」

 

「ズル賢いお前よりは、まともだと思っておるぞ」

 

「だから、テストの文章問題に弱かったのだ」

 

「カンニングの常習であるお前には言われたく無いわ!!」

 

「戦いは奇道だろう!?」

 

「その奇道に溺れてエゥーゴは俺のティターンズに負けたのでないか!?」

 

「策を思いつかずに物資と資金でティターンズを維持していたお前がエゥーゴのトップになったら、三日で崩壊だ!!」

 

「このムッツリスケベが!!」

 

「何だと!?」

 

 ガタッ!!

 

 再び二人が椅子から跳ね上がる。

 

「まあまあ……」

 

 口に餡をつけたままのゴップ、そしてメラニーが揃って手を振り二人を宥め始めた。


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