夕暁のユウ   作:早起き三文

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第4話 騎士再び

音もなく降り続ける雪景色の中にその小さな基地はある。

 

「ユウ・カジマ少佐であります」

 

ユウは新設モルモット隊の責任者であるジャミトフ・ハイマン准将の元へ挨拶へ来ていた。

 

「よく来てくれた。ユウ・カジマ少佐」

 

ジャミトフは微笑みながらユウと握手をする。

よくみるとジャミトフの執務室の中にはもう一人男が立っていた。

 

「……」

 

その片足が不自由らしい松葉杖をついた男の姿を見たとき、ユウは体が凍りつく感覚がした。

 

「紹介しよう」

 

ジャミトフが松葉杖を付いている男の方を向く。

 

「旧ジオンの兵であったニムバス・シュターゼン君だ」

 

ユウとニムバスは互いに睨み合う。

その様子を面白そうにジャミトフは見つめる。

 

「彼はEXAMシステムを搭載した機体の残骸を回収していたときに偶然保護した」

 

昔、ユウ達の運命を狂わせた原因であったモビルスーツのオペレーティングシステムの名前をジャミトフは言う。

 

「准将、その名前は……」

 

「かまわんさ」

 

ジャミトフは二人を見る目に笑いの色を浮かべながら答える。

 

「どうせ、ここにいる三人とも知っている」

 

「ニムバス…… いや、彼はジオンの人間ですよ」

 

「役に立ちそうなのだよ」

 

ニムバスの顔を見ながらジャミトフは含み笑いをする。

 

「その思想も経歴も」

 

「彼を連邦へ迎え入れると?」

 

「彼には旧ジオンから連邦軍に加わってもらう代償として」

 

ジャミトフが数枚の書類をユウに手渡す。

 

「オーガスタ研究所である訓練に参加してもらっている」

 

「ある訓練?」

 

「人為的にニュータイプを作り出す訓練さ」

 

その言葉にユウは再びニムバスに顔を向ける。

平然とした顔でユウを見返すニムバス。

 

「彼好みの訓練内容ですね」

 

少し皮肉が入ったユウの言葉にジャミトフは苦笑いで返す。

 

「彼は元々、地球人だスペースノイドだという思想は無いようだ」

 

ジャミトフが執務椅子に座りながら机の上の飾りである地球儀に手を触れる。

 

「ニュータイプに近づく事には興味を持っているようだがね」

 

「だから、彼を連邦に?」

 

「極秘裏の訓練だ」

 

ジャミトフは地球儀を少し回す。

 

「彼のような一度死んだ人間はありがたいのだよ」

 

「パイロットとしての腕もある……」

 

「そういう事だ」

 

ジャミトフはコーヒーに口をつける。

 

「コーヒーは?」

 

「頂きます」

 

ジャミトフの机にあるコーヒーメーカーからコーヒーを受け取る。

ユウはニムバスにもカップを手渡してやる。

 

「……」

 

カップを渡したときのニムバスのからかうような視線にもユウは動じない。

 

「地球だの宇宙だのと言う主義思想にとらわれない人間は私は好きだ」

 

「平等が良いと?」

 

「地球にとっては全ての人間は平等だよ」

 

ジャミトフはコーヒーを飲み干し、話を続ける。

 

「地球を汚染し続ける邪魔者だ」

 

「……」

 

「だから、ニュータイプと言うものも私は夢を抱けない」

 

「しかし、現実にニュータイプは……」

 

「いるさ」

 

ユウにジャミトフは軽い口調で言い放つ。

 

「邪魔なんだよ……」

 

「ニュータイプが?」

 

「地球の保全の為に人類が協力しなければならない時に」

 

ジャミトフは窓の外の雪景色を眺めながら、話を続ける。

 

「余計な争いを産む」

 

再びジャミトフは二人の方へ視線を向ける。

 

「ニュータイプはこの地球圏に居て欲しくはない」

 

「ニュータイプの否定ですか?」

 

「ニュータイプがいればいるほど、オールドタイプの肩身が狭くなるよ」

 

ジャミトフは軽く溜め息をつく。

 

「そして、ニュータイプ対オールドタイプの争いが生まれる」

 

「オールドタイプですか……」

 

「その内、地球圏の流行語になるよ」

 

ジャミトフはそう言いながら微笑む。

 

「だから、私はオールドタイプがニュータイプへとなれるような研究を支援している」

 

「その研究は……」

 

「人道的ではないな」

 

「……」

 

ジャミトフの腕時計がアラームを鳴らした。

 

「ニムバス君をよろしく頼むよ、ユウ・カジマ少佐」

 

ジャミトフはそう言いながら椅子に座ろうとした。

 

「ああ、そうだ」

 

ユウの顔をジャミトフが見やる。

 

「君の部隊に……」

 

「はい」

 

「ブルーというコードネームの女性がいるだろう?」

 

「はっ……」

 

ジャミトフはユウの近くへ寄ってきて、彼の肩を叩く。

 

「彼女をよろしく頼むよ」

 

「お知り合いで……?」

 

「まぁな……」

 

ジャミトフはそう言ったきり、仕事へ戻った。

 

「行こうか、ユウ上官殿」

 

ニムバスはユウに声をかけ、松葉杖を付きながらジャミトフの執務室から出ていった。

 

「……」

 

ユウはジャミトフに無言で一礼して部屋を出た。

 

 

 

「てっきり、私の事をほおっておいてスタスタ歩く物だと思っていたがね……」

 

「お前を気遣うつもりなどないだろうに」

 

「フフ……」

 

ユウはニムバスと歩調を合わせて通路を歩く。

 

「とっと……」

 

ニムバスが少しよろける。

ユウは溜め息をつきながらニムバスを支えてやる。

 

「ニムバス」

 

「なんだ?」

 

ニムバスを立たせてやりながら、ユウは疑問を口にする。

 

「お前は俺の事を恨んでいないのか?」

 

「騎士同士の戦いでの事だろうが……」

 

ユウのニムバスの不自由な脚への視線をあえて無視して、ニムバスは言葉を続ける。

 

「いつまでも遺恨にこだわるのは騎士のなす事ではない」

 

「俺は今でもお前を憎んではいる……」

 

「だろうな……」

 

ニムバスは苦笑する。

 

「普通の人間がニュータイプになるための訓練か……」

 

「厳しい訓練さ」

 

ユウの呟きにニムバスは軽く顔をしかめる。

 

「だが、達成できればもはやEXAMなど必要ない」

 

「ご立派な事だ」

 

ユウの皮肉にニムバスは肩をすくめる。

 

「マリオンはどうしている?」

 

ニムバスが昔のEXAMの因縁の娘の事を聞いてくる。

 

「知らん」

 

「ふむ……」

 

「俺も直接会って会話したわけではない」

 

「そうか……」

 

二人は黙ったまま廊下を歩く。

 

「ではな、ユウ・カジマ上官殿」

 

通路の分岐点でニムバスが少し唇の端を歪めながらユウと別れた。

 

「あいつが俺の部下になるのか……」

 

ユウは深い溜め息をつきながら廊下を歩く。

 

「フィリップ達は納得してくれるかな……」

 

それきりユウは口を開くことなく、基地の廊下を黙々と歩いていた。


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