夕暁のユウ   作:早起き三文

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第35話 バトル・オブ・ゼダンゲート

 

「数自体は少なく見えるんだが……」

 

 ユウはゼダンの門へ攻めてきたネオ・ジオンの部隊を見ながら、眉をひそめる。

 

「ハマーンの機体だな」

 

 ネオ・ジオンの部隊の中央には純白の凛々しい印象を受ける、優美なモビルスーツが鎮座している。

 

「ネオ・ジオンのサイコミュ兵器付きね……」

 

 そう呟きながら、ユウは軽くジ・オのエンジンを入れる。

 

「ハマーンの心は紅い光……」

 

 キュベレイという名前らしいニュータイプ専用機から放たれる光を見ながら、ユウは軽い感嘆の声を出す。

 

「思っているよりも情熱的な女なのかな? ハマーンは?」

 

 陰謀家としての先入観がハマーンにあるユウはそう呟きながら一人苦笑した。

 

「あれ……」

 

 あることに気がついて、ユウは首を傾げる。

 

「俺はブループラウスに乗ってないのに、何でマリオンの光が見えるんだ……?」 

 

 疑問に思いながらも、ユウは接近してくるネオ・ジオンの軍勢に対して、迎撃体制をとるようにモルモット隊のメンバーへ通信を入れる。

 

「今頃はティターンズとエゥーゴの最終決戦が地球の裏側で始まっている頃かな……?」

 

 ユウは遥か遠くに小さな豆粒のように見える地球の姿をじっと見つめる。グリプス・ラインと名付けられた宙域で行われているであろうエゥーゴとティターンズの大戦争の様子はゼダンの門からは見えるものではなかった。

 

 

 

 

 ギュア!!

 

「俗物のようではあるがな!!」

 

 ユウのジ・オのビームの一撃を身軽にかわしたハマーンはキュベレイのコクピットの中で笑いを込めた声を上げながら、その両の手から輝くビームの条線をユウの機体へ投げかける。

 

「ファンネルだけが取り柄ではないと言うことか!! ハマーンのキュベレイは!!」

 

 キュベレイの腕から放たれた高速のビームをユウはジ・オの機体各部に過剰に設置されているスラスター、およびアポジモーターを駆使してかわす。機体の脇を通りすぎるビームの光に視線を向けながらも、ユウはジ・オの出力可変機能を搭載された「ヴァリアブル・スピード・ビームライフル」を再度キュベレイへ機体を向き直しながら放った。

 

「高出力な!!」

 

 ハマーンは自機の脇を通りすぎたそのビーム粒子の太い集束を見つめ、微かに戦慄の声をあげる。

 

ドッ……!! トォ……!!

 

 その重粒子ビームに続き、ジ・オのライフルからビームの速射がキュベレイへ向けて放たれた。

 

「基本性能はキュベレイの上か!? あのダルマは!?」

 

 ハマーンは苦々しげに言い放ちながらも、そのビームの速度差に惑わされない。連射されたジ・オのビームはキュベレイの残像へ空しく撃ち込まれる。

 

「速度差をつけてみても、ニュータイプには通用しないか!!」

 

 悪態をつきながら、ユウはビームライフルのモードをノーマルに設定しなおす。

 

 ガォ!!

 

「次!!」

 

 キュベレイの随伴機を撃破したカツのメッサーラがサラと共にキュベレイへビーム砲を放つ。ドォゥウ!!

 

「数であたるか!?」

 

 再びユウ機からも放たれたビームを含め、三機の集中ビーム攻撃をハマーンは神業じみた機体の動きで回避し続ける。

 

「何で当たらない!?」

 

 苛立つカツのメッサーラがキュベレイの側を通りすぎる。そのカツ機へ向けてネオ・ジオンの重ミサイル爆装機の編隊から火線が疾る。

 

「スローなんだよ!! ネオ・ジオン!!」

 

 シドレのへヴィバーザムとフィリップのブループラウスがそのミサイル群を次々と撃ち落とす。シドレ機のインコムが隙を突いてその爆装機を一機撃墜させる。

 

「精鋭の部隊だな!! こやつらは!!」

 

 ハマーンはユウ達へ牽制射撃を行いながら、微かに機体を後退させた。

 

「もはや、ズザなどでは太刀打ち出来ないな……」

 

 爆装機の部隊を見つめながら、ハマーンは通信機へ怒鳴る。

 

「キュベレイ隊はまだか!?」

 

「まもなくです!!」

 

 ズザ隊のリーダーからハマーンへそう返答される。

 

「どうにか凌ぐか……!!」

 

 ハマーンのキュベレイは数基のファンネルを放出させながら、ユウのジ・オへ急加速して接近する。

 

「そうきたか、ハマーン……」

 

 ユウはビームサーベルを一つ振るい、ハマーン機を向かえうつ態勢を取ろうとした。

 

 ギュイ!!

 

「何!?」

 

 キュベレイはユウ機へ接敵する直前に、急激に機体の進行方向を転換させる。

 

「陽動!?」

 

 その直後にハマーンのファンネルから放たれたビームをかわしながら、ユウはジ・オをパスしていったハマーン機に視線を向け続ける。

 

「ユウ!!」

 

 フィリップの叫び声に、ユウは反射的にジ・オのスラスターを噴射された。

 

 シュア……!!

 

 先程までユウがいた空間を、赤いキュベレイのサーベルが凪ぎ払った。

 

「もう一機のキュベレイ!?」

 

 深紅に塗装されたキュベレイが急旋回し、ユウのジ・オへ再度接近する。

 

 ガギィ!!

 

「黄色いダルマのモビルスーツめ!!」

 

 二機のビームサーベルが交差する。

 

「ローベリアか!!」

 

「おでんは旨かったよ!! ユウ・カジマ!!」

 

 キイュイ!!

 

「小細工を!!」

 

 背後へまわった赤いキュベレイのファンネルのビーム攻撃をユウは軽々とかわす。

 

 シュシュ……!!

 

 勘に触る音と共に、多数のファンネルがモルモット隊へ襲いかかる。

 

「まさか!? ファンネル搭載機が複数!?」

 

 網の目の様に降り注ぐビームの嵐に、ジ・オは翻弄される。僅かにユウのジ・オの装甲をファンネルのビームが削る。

 

「頑丈な装甲はありがたいな!!」

 

 行方不明のジ・オの設計者であるシロッコに少し感謝しながら、ユウは連邦とティターンズの部隊に救援要請を発信した。

 

 バフォ!!

 

 ゼダンの門側から放射された幾筋もの強力なビーム砲がネオ・ジオンの機体を複数機爆散させる。

 

「救援要請が遅すぎます!!」

 

 ユウの通信が来る前に援護に駆けつけたサマナが率いるマラサイ・フェダーインの部隊がバインダーに内蔵されたビームキャノンを放ちながら、ユウ達を助ける。

 

「助かった!! サマナ!!」

 

「よそ見をしないで!!」

 

 ネオ・ジオンからのファンネルの群集による攻撃は止む気配がない。

 

「敵機分析報告!!」

 

 頭上のレドームをファンネルで破壊されつつも、サラが回線をフルオープンにして味方の全軍へ収集したデータを流す。

 

「キュベレイの量産タイプです!!」

 

 そう言い放ったサラのボリノーク・サマーンへ灰色の未塗装のキュベレイが切りかかる。とっさにシドレのへヴィバーザムがインコムを機体に固定したまま、ビームバルカンとして敵機へ放った。

 

「猛火のごときで攻めろ!!」

 

 サマナが揮下のマラサイ・フェダーイン隊へ大声で叫ぶ。

 

「僕たちではサイコミュをいつまでも回避することは出来ない!!」

 

 サマナがそう叫ぶ中、そのサマナ機のバインダーキャノンの内の一基がファンネルのビームで吹き飛ばされる。その隣の機体がビームの集中攻撃を受けて爆発四散した。

 

「やられる前にやるんだ!!」

 

 視認出来るようになってきた量産型キュベレイへサマナ隊は猛烈な火線を放ち続ける。サマナも叫びながら肩に一基だけ残っているフェダーイン・バインダーキャノンの照準をどうにか敵機へ定めようとする。

 

「うわっ!?」

 

 ファンネルに気を取られたシドレのへヴィバーザムの片腕がズザのミサイルで吹き飛ばされた。

 

「援護を!!」

 

 叫ぶシドレ機へ続けて攻撃をしかけようとする数基のファンネルをフィリップのブループラウスが間一髪で撃ち落とす。

 

「ありがとうございます!! フィリップさん!!」

 

「礼は後だ!! シドレちゃんよ!!」

 

 微かにマリオンから発光して見えるファンネルをフィリップはビーム火器をフルに使い叩き潰していく。

 

「フィリップにも見えるか!?」

 

「マリオンちゃんを通じてね!!」

 

 そう叫び合うユウとフィリップの二人は、ネオ・ジオンの軍勢の中央宙域に群生しているファンネルの群れを発見する。

 

「まとめたファンネルで俺たちを打尽するつもりか!?」 

 

 ユウはビームを撃ちながら、味方へ警告を発する。

 

「あれを撃ち落とせばいいか!?」

 

 マリオンから見えるファンネル群の影を見ながら、フィリップがユウへ怒鳴る。

 

「出来るか!? フィリップ!?」

 

「どうにかな!!」

 

 ジ・オとブループラウスが群生ファンネルへ照準を向ける。

 

「させるものか!!」

 

 ハマーン機からファンネルが発射される。

 

「ハマーンさんとやらのファンネルは別物のようだな!!」

 

 明らかに他のキュベレイ達と動きが違うハマーン機のファンネルの動きを目で追いながらフィリップが強く舌打ちをした。

 

「フィリップ!!」

 

「ハマーンのファンネルが先だな!?」

 

「ああ!! 頼む!!」

 

「任せておけってよ!!」

 

 フィリップが拡散したハマーンのファンネルへビームを放つ。ユウが乗っている時ほどの精度こそないが、それでも何基かのファンネルがフィリップに狙撃され爆発する。

 

「俗物がファンネルに対抗出来るとはな!!」

 

 ハマーンはそう叫びながら、ファンネルの速度を上げる。

 

「そう上手くはいかないかよ!!」

 

 高速度のハマーン機のファンネルにフィリップのビームが追い付かなくなってきた。ブループラウスのビームカノンが空しく空を切る。

 

「なんて兵器だよ!!」

 

 カツはメッサーラの推力を最大限に活かしながらも、数基のファンネルから被弾する。

 

「センサーがめちゃくっちゃあ!!」

 

 ボリノーク・サマーンの予備レーダーが無尽蔵のファンネルを追うことで動作不良を起こし始めたようだ。

 

「だが、無敵ではないんだ!!」

 

 その言葉と共に、半壊したシドレのへヴィバーザムから放たれたハイ・ビームライフルがキュベレイの量産機を粉砕する。

 

「そうとも!!」

 

 ユウのジ・オは量産型キュベレイ達の群れにあえて突っ込み、そのマスプロ機体を圧倒するスピードで宙域を駆けめぐりながらファンネルを狙撃していく。

 

「俺にはファンネルが分かるか!!」

 

 ユウは先程からファンネルの「影」が見える自分の目に不気味さを感じながらも感謝していた。

 

「好きにはさせんよぉ!!」

 

 ローベリアの深紅の量産キュベレイがジ・オへ追い付く。再びユウ機へサーベルを叩きつけるローベリア機。

 

「構っている暇は無いんだよ!!」 

 

 ジ・オの腰からサブ・マニュピレーターが飛び出し、その手に握られたビームサーベルがローベリアのキュベレイを薙ぎ払う。

 

「うわっと!?」

 

 不意をつかれたローベリア機にサーベルが食い込む。機体を破損させながらも、ローベリアはファンネルを射出される。

 

「まるであたしのファンネルが的屋のマトではないか!?」

 

 最大数のファンネルでジ・オを取り囲もうとしたローベリアは、ユウにあっさりと落とされていくファンネル達の姿に驚愕する。

 

「なるほど、これは!!」 

 

 ジ・オからシャープなビームの線が最後のローベリアのファンネルを貫く。

 

「やはりマリオンの毒が俺に回ったか!?」

 

 ジ・オには搭載されているはずのないマリオン・システム。しかしユウはジ・オでマリオン搭載機と同等の動きが出来る自分の能力に手応えらしき物を感じていた。

 

「オールドタイプにファンネルが見えるなんて!?」

 

 ローベリアは自機のファンネルがジ・オに全滅させられた事に怒りの声を上げる。そのローベリアのキュベレイへユウ機が体当たりを仕掛ける。

 

「うわぉ!?」

 

 タックルを受けたその一瞬の隙がローベリアの命取りであった。

 

「やられた……!!」

 

 ローベリアのキュベレイが機能停止をする。

 

「命は取らないでやるよ、ローベリア」

 

 体当たりで姿勢が崩れた瞬間のキュベレイに対して、即座に両手と片足をビームサーベルで切り落としたユウはそのままハマーン機へ機体を急接近させる。

 

「ファンネルのアドバンテージが無いと、キュベレイはこうも脆い……!!」

 

 接近してくるユウ機を迎撃させるつもりで放った残弾が少ないファンネルを撃ち落とされている事にハマーンは歯噛みしながらも、キュベレイのビームサーベルで肉迫してくるジ・オのサーベルと切り結ぼうとする。

 

 ジジィ……!!

 

「もしや、ハマーンを生け捕れるのでは?」

 

 ビームサーベルの出力でキュベレイを押しているユウにふとその考えが脳裏に浮かんだ。

 

「俗物ごときに!!」

 

 ハマーンはジ・オのサーベルを受け流して、その脇へ入り込もうとする。ユウはそのハマーンの動きを見逃さない。

 

「だめだ……!!」

 

 ジ・オの腰のスカートから隠し腕が飛び出て来たのを見て、あわててハマーンはジ・オからキュベレイを引き離す。

 

「降伏しないか? ハマーン・カーン」

 

 静かにユウはそうハマーンへ語りかけた。

 

「フフ…… 俗物が……」

 

 そのユウの提案をハマーンは笑って一蹴する。

 

「ではこのまま、オールドタイプに潰されるか?」

 

「潰されるのはそっちだよ、連邦のエース、ユウ・カジマ君さ……」

 

「何……?」

 

 そう訝しげな声を上げるユウへハマーンはキュベレイのビームサーベルを構え直した。

 

 

 

 

「これは!?」

 

 カツのメッサーラはバルカンなどの内蔵火器を駆使してファンネルを叩き落とす。

 

「やはり、僕はニュータイプなのか!?」

 

 メッサーラはファンネル群を突破して量産型キュベレイへ機体両肩のメガ粒子砲を撃ちつける。

 

「ファンネルが効かない!?」

 

 撃破された機体の隣にいるマスプロ・キュベレイのパイロットが驚愕の声を上げる。慌ててキュベレイの背部のビームカノン砲でメッサーラを迎え撃とうとする。

 

「見える!!」

 

 カツはそのビームをかわしながら、メッサーラを急旋回させようとする。

 

「ん……?」

 

 カツはその時、ティターンズの部隊の異変に気がついた。

 

 

 

 

「勝ったな」

 

 ユウ達によってファンネルが封じられたネオ・ジオンの部隊を次々へとマラサイ・フェダーインの重火器が撃破していく姿を見て、サマナは軽く微笑む。

 

「ネオ・ジオンのハマーンも大した事はない……」

 

「はたしてそうですかね?」

 

 その言葉と共に、サマナ隊の後方から火線が疾った。

 

「何ィ!?」

 

 あわてて振り返ったサマナが見た物は、ティターンズ、そして連邦の友軍が自分へ銃口を向けている姿である。

 

「全員反転!!」

 

 サマナはへヴィバーザムからのビーム射撃をかわしながらそう喉の奥から振り絞るように叫んだ。

「何だ!?」

 

 ユウがゼダンの門の第二警備隊の陣営へ振り返る。

 

「同士討ちだと!?」

 

 後方の警備部隊が互いに戦闘を行っている姿を見て、ユウは驚愕の声を上げる。

 

「ハマーンはティターンズと連邦の一部を懐柔していたか……!!」

 

 ちょうどサマナの部隊の後方の部隊が丸々寝返ったのをユウはその目で確認した。

 

「どうする!! ユウ!?」

 

 フィリップからの焦った声がユウへ投げつけられる。

 

「どうもこうもない!!」

 

 コクピットの中で冷笑を浮かべているであろうハマーンからのビームをかわしながら、ユウはフィリップへ言葉を返した。

 

「裏切った奴らを叩こうにも、ハマーンはそれをさせてはくれるものか!!」

 

「わかっているじゃないか、ユウ・カジマ君さ……」

 

 ハマーンがもてあそぶかのように、キュベレイのその腕からビームをユウ機へ連射する。

 

「前方へ血路を開くしかないか……」

 

 一旦、ハマーンから距離をとったユウがそう呻いた。

 

「ネオ・ジオンの数は決して多くはない」

 

「そのようだな、ユウ」

 

 フィリップがユウへ答えながら、ブループラウスのマリオンを通して敵の数を確認している。

 

「踏ん張ってみるか!! ユウ!!」

 

「おう!!」

 

 寝返った部隊との乱戦の中にいるサマナ機の姿をチラリと目の端で捉えながら、ユウはモルモット隊のメンバーへ号令をかける。

 

「突破するぞ!! みんな!!」

 

「了解!!」

 

「ゼダンの後方部隊からも味方が来る!!」

 

 ユウは半ば自分を鼓舞するかのようにそう叫ぶ。その時、その宙域に何か風が疾った感覚をユウは感じた。

 

「何……?」

 

 ネオ・ジオンの部隊の後方から、何かが強く押し寄せてくる。

 

「なんだ!? あれは!?」

 

 ゼダンの宙域へ急速接近してくる深紅のモビルアーマーの姿にユウは驚いた声を上げる。

 

「巨大モビルアーマー!!」

 

 シドレが悲鳴のような絶叫を上げた。

 

 

 

 

「ふざけるな!!」

 

 ゼダンの後方部隊から増援としてやってきたティターンズパイロットの内の一人が反逆部隊と交戦しながらそう怒声を放った。

 

「あれはノイエ・ジールじゃねえかよ!!」

 

「デンドロビウムがないと勝てませんよ……!!」

 

 どうやら、ティターンズのメンバーの中に接敵してくるネオ・ジオン軍の巨大モビルアーマーと戦った事がある者がいたようだ。

 

「ユウさん……!!」

 

 サマナは乱戦で装甲が破損したマラサイ・フェダーインのコクピットの中で低いうめき声を上げた。

 

「過信をし過ぎだ、ハマーン」

 

 ジオンのシンボルを彷彿とさせるその機体から、低い男の声が響く。

 

「ノイエ・ローテをこの短時間で使いこなすようになるとはな……」

 

 ハマーンのキュベレイがそのモビルアーマーの中央へゆっくりと接近する。

 

「さすがだな、シャア……」

 

「お前が乗りやすくしてくれたお陰だろうな、ハマーン」

 

 ノイエ・ローテと言うらしき深紅の機体はそのまま静かにハマーンのキュベレイ達の前方へつく。

 

「アクシズは予定通り、ゼダンへの衝突ルートに入った」

 

 シャアのその言葉にハマーンは微かに頷いたように見える。

 

「長居は無用だな」

 

 赤い彗星、シャア・アズナブルはそう呟くと、ノイエ・ローテから静かにファンネルを投下する。

 

「少し、あの例の部隊を黙らせてやるか」

 

 大型のファンネル達がユウ達へ突撃するように宇宙を疾る。それと同時にノイエ・ローテと共に来たネオ・ジオンの増援がモルモット隊を包むように動き始めた。

 

「ちっ……!!」

 

 ユウはジ・オのビームライフルをファンネルに向けて放射する。

 

バァフォ!!

 

「ファンネルにバリアーが!?」

 

 苦々しげに呻いたユウ機へファンネルからのメガ粒子砲が閃光を迸らせながら放たれた。

 

「キュベレイとは威力が段違いか!!」

 

 二発目のファンネルからのビームをかわした直後のジ・オへノイエ・ローテ本体からの精密射撃が飛ぶ。

 

「しまった……!!」

 

 ジ・オの頭部がその一撃で吹き飛ぶ。機体のコクピットにレッドアラートが鳴り響く。

 

「さすがだな、オグス」

 

「慣れているもんですからね、狙撃は……」

 

 ノイエ・ローテのコ・パイロットを務めているオグスがシャアへそう答えつつ、肩を軽く竦めた。

 

「ユウさん……」

 

 ネオ・ジオンの増援部隊に囲まれたモルモット隊を見つめながら、サマナは唇を噛む。

 

「逃げろ、サマナ」

 

「しかしユウさん」

 

「逃げていい、サマナ」

 

 サマナはしばらく無言でモルモット隊とネオ・ジオンの巨大モビルアーマーを交互に目を向けていたが、意を決してマラサイ・フェダーイン隊へ撤退の合図を送る。

 

「運が尽きたようだな、ユウ……」

 

 フィリップはそう言いながらブループラウスをユウの機体に近づける。見るとカツのメッサーラがシャアの攻撃によって大破していた。

 

「ありがとうよ、サラ……」

 

「マヌケなんだから、カツ……」

 

 パイロットスーツ姿のカツをその両の手で守っているサラの機体も損傷が激しい。その近くにボロボロのシドレ機が寄り添うように浮かんでいた。

 

「投降しろ、ユウ・カジマ」

 

 ノイエ・ローテからシャアの宥めるような声がユウの耳へ入る。

 

「……」

 

「了解と受けとるよ、その沈黙は」

 

 ノイエ・ローテがジ・オに覆い被さるようにその機体をゆらりと動かした。

 

「ついてこい」

 

 背後をネオ・ジオンの部隊に塞がれたモルモット隊はそのままシャアのノイエ・ローテへ諾々と従うような動きでついていった。


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