夕暁のユウ   作:早起き三文

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第30話 ニュータイプの残の念

「ティターンズ製のZガンダム?」

 

「性能はエゥーゴのZと互角という意味だ」

 

 ジェリドの言葉にシロッコが軽く頷く。

 

「昆虫みたいな外見のくせにな……」

 

 ジェリドが最新型のモビルスーツ「ガブスレイ」の装甲を手の甲で叩く。

 

「こいつならば、赤い彗星でも何でも落とせる」

 

「太鼓判かい、シロッコさん?」

 

「後はパイロットの腕しだいだよ」

 

「フン……」

 

 シロッコの言葉に不機嫌そうな声を出しながら、ジェリドはガブスレイのデータが記入された資料を眺める。

 

「バイオセンサー?」

 

 ジェリドが特殊と銘が打たれたページに書かれている単語を読み上げた。

 

「ニュータイプのサポートシステムだよ」

 

「俺達はニュータイプじゃないって……」

 

「Zガンダムにもバイオセンサーは搭載されている」

 

 シロッコが肩を竦めながらニヤリと笑う。

 

「つけなければアンフェアだろう?」

 

「どちらにしろ、後はパイロット次第か」

 

 ジェリドはそう言いつつ、ハンガーへ入ってきたマウアーへ手を振った。

 

 

「金ぴか狩り?」

 

「最近、ティターンズと連邦の部隊を襲っているモビルスーツの事だ」

 

 シロッコの言葉にジェリドはガブスレイのコクピットの中で腕を組みながら首を捻る。

 

「エゥーゴのクワトロの奴かな?」

 

「元エゥーゴだろう?」

 

「だったな……」

 

 ジェリドは以前のダカールでの演説内容を思い出した。

 

「ネオ・ジオンにでも行ったかと思ったがな……」

 

「詳しくはわからんがな」

 

 シロッコも首を傾げながら、話を続ける。

 

「何でも、無差別に襲っているからな」

 

「見過ごす訳にはいかないってことかしら?」

 

「そうなるな」

 

 ガブスレイの二号機に乗っているマウアーへシロッコはそう答える。

 

「なあシロッコさん」

 

「ん?」

 

「あんたは」

 

 ジェリドがシロッコの旧式の試作可変機を呆れたような目で見つめながら言葉を続ける。

 

「そんな機体で大丈夫なのか?」

 

「エゥーゴからの貰い物だからな、このメタスは」

 

 シロッコがメタスをジェリド達のガブスレイの後ろにつける。

 

「女からのプレゼントだ。有効に使わなくてはな」

 

「エゥーゴに女が?」

 

「いるんだよ、ジェリド」

 

「手の早い人だ……」

 

 ジェリドはため息をついてから、ガブスレイをシロッコの前につかせた。シロッコ機にマウアーのガブスレイが近づく。

 

「そんな機体で足手まといにならないでくださいね、シロッコ?」

 

「天才は筆を選ばずだよ、マウアー」

 

「フン……」

 

 シロッコとどうしても波長が合わないマウアーは一つ鼻を鳴らして、ジェリド機の隣へついた。

 

 

 

 

「あれだな」

 

 ジェリドが漆黒の宇宙の中、遠目に見える金色のモビルスーツの姿を確認した。

 

「あれのサブ・フライト・システムが強力らしい」

 

「そいつも金色とはな」

 

 シロッコの言葉にジェリドは金に輝くモビルスーツを眺めながら苦笑する。

 

「ビーム・バリアーがあるらしい」

 

「厄介だな……」

 

「心配するな」

 

 シロッコのメタスの機首がガブスレイの長大なビームライフルを指すように動く。

 

「フェダーイン・ビームライフルならば、何発か撃てば貫通できる」

 

「信じられないスペックだったな、そのビームライフルは」

 

 ジェリドは出撃前に再確認した機体データの数値を思い出した。

 

「まあ、いい」

 

 ジェリドは自信ありげに呟く。

 

「十秒で片をつけてやる」

 

「十秒は無理よ、ジェリド」

 

「うるさい、マウアー」

 

 ジェリドは自分の独り言に口を挟んだらマウアーが乗る機体を軽く睨んだ。

 

 

 

 

 

 

「ティターンズか?」

 

 クワトロはその宙域で新たな獲物を物色している最中に、接近してくる三機の高機動機に気がつく。

 

「悪く思うなよ」

 

 クワトロの乗る百式を支えているサブ・フライト・システム「ベルクート」の機首をその機体の方向へ向けた。

 

 

 

 

 

 

「いくぞ、マウアー!!」

 

 ジェリドは掛け声と同時にガブスレイを百式へと突進させる。

 

「沈め!! 金ぴか!!」

 

 ジェリドのガブスレイから高出力ビームライフル「フェダーイン」が放たれる。

 

「甘いな!! ティターンズ!!」

 

 軽々とジェリド機からのビームを避けたクワトロはティターンズの機体から距離を取ろうとした。

 

「もう、あと二十機ぐらいは連邦とティターンズの機体を落とさなければ!!」

 

 クワトロの百式を乗せたベルクートが大きな弧を描いて旋回する。

 

「ハマーンの機嫌が直らんのだよ!!」

 

「あんたの痴話喧嘩の為に俺たちを落とすのか!?」

 

「どのみち、敵同士だろう!?」

 

「ふざけるな!!」

 

 叫ぶジェリド機へベルクートからの二条のビームが放たれる。その内の一つがジェリド機にかすった。

 

「痛くも痒くもねぇ!!」

 

「痛いわよ!!」

 

 どうやら、ビームが流れ弾となり、マウアーの機体へ命中したようだ。

 

「マウアー!?」

 

「平気よ!!」

 

 マウアーのガブスレイからフェダーインが轟音を立ててクワトロへ向かう。

 

「高出力ビームか!! そいつは!?」

 

 その一撃でベルクートのIフィールドバリアーの出力が落ちたようだ。だが、そのフェダーインは百式へ損害は与えていない。

 

「ジェリド!!」

 

「何だ!! シロッコさん!?」

 

「ネオ・ジオンの増援だ!!」

 

 クワトロの百式の後方から、ネオ・ジオンの部隊が接近してくる事をシロッコの脳裏が感じた。

 

「何もないぞ!?」

 

「私はニュータイプだよ!! マウアー!!」

 

「嫌味な!!」

 

 マウアーの悪態を聞き流しながら、シロッコがジェリド達から離れていく。

 

「シロッコ!?」

 

「増援は私に任せろ!!」

 

「助けてやれねえぞ!?」

 

「大丈夫だろう!! 多分!!」

 

「多分ってなんだよ!?」

 

「勘だよ!!」

 

「勘で戦いが出来るか!!」

 

「何か救援が来るような感覚があるのだよ!!」

 

「あてになるものかよ、シロッコ……」

 

 ジェリドの呆れた声を尻目にシロッコのメタスが戦列を離れていった。

 

「これだから、ニュータイプは……」

 

「よそ見を!!」

 

 クワトロのベルクートから何筋かの光が放たれた。

 

「何だ!?」

 

 その光を怪訝な顔で見つめているジェリドへ虚空からビームが疾る。

 

「まさか、サイコミュとやらか!?」

 

 寸前でそのビームをかわしたジェリドの額へ汗が流れる。

 

「ファンネルで攻撃すれば、いくら高性能機でもな!!」

 

 小型サイコミュ端末であるファンネルと連動して、クワトロの百式からビームライフルが放たれる。

 

「くそ!!」

 

 ジェリドはブースターを噴かせながらそのビームをかわし、肩のビーム砲でファンネルを狙撃する。

 

「何!? ファンネルが!?」

 

 クワトロが驚いた声を上げた。

 

「金ぴかのサイコミュが見えた!?」

 

 ジェリドはなぜ自分がファンネルという名前のサイコミュ端末を撃ち落とせたのか、自分でも理解できない。

 

「ニュータイプだとでもいうのか!?」

 

 叫ぶクワトロから再びファンネルが放たれる。

 

「ジェリド!!」

 

 マウアーのガブスレイがジェリドを突き飛ばす。そのマウアー機の脇ををファンネルのビームが通りすぎた。

 

「そこ!!」

 

 マウアーのフェダーインが自機を攻撃してきたファンネルを撃ち落とす。

 

「地球に魂を引かれた者がニュータイプに成るなどと!!」

 

「やれちゃ悪いか!? クワトロさんよ!!」

 

 一瞬隙が出来たクワトロ機へガブスレイのフェダーインが命中する。

 

「Iフィールドがバーストしたか!!」

 

 バリアーを貫通したフェダーインのビームが百式の肩をかすめた。

 

「いける!!」

 

 ジェリドはマウアーと連携をとりながら、百式と宙域を飛び回るファンネルを攻撃していく。

 

「おのれ!!」

 

 シロッコのメタスが苛立つ声をあげながら、数十機のネオ・ジオン製の可変モビルスーツに追われてジェリド達の宙域へ接近してくる。

 

「何をやっているんですか!!」

 

「カトンボの数が多すぎるのだ!!」

 

 マウアーへそう言いながらも、シロッコは反転し一機のネオ・ジオンの機体をビーム砲で撃破する。

 

「シロッコ!! 前!!」

 

「わかっている!!」

 

 シロッコ機の前から数機のモビルスーツが接近してくる。

 

「あれはエゥーゴの連中だ!!」

 

 ファンネルの攻撃を左脚に受けながら、ジェリドが忌々しげに叫んだ。

 

「シロッコ!!」

 

 そのエゥーゴの機体の内の一機、緑色の重モビルスーツがシロッコへ声を上げる。

 

「レコアか!!」

 

 シロッコのメタスが可変し、ネオ・ジオンの機体へビームを放つ。同時に放たれたジオンの機体からのビームを寸前でシロッコはかわした。

 

「まずい!!」

 

 フル稼働させたメタスの駆動部から火花が散る。

 

「レコア!! 恵みをくれ!!」

 

「何言っているの!? シロッコ!?」

 

「私は私の上に立つのは女性だと思っている!!」

 

「素直に助けてくれと言いなさい!!」

 

 レコアと呼ばれた重モビルスーツのパイロットが呆れた声を出しながら、機体背部のミサイルを放つ。

 

 ボォ!!

 

 ネオ・ジオンの機体の目前で分裂した多弾頭ミサイルがシロッコを追っていたモビルスーツを破壊する。

 

「パラス・アテネのミサイルを改造したか?」

 

「悪くって?」

 

「いや……」

 

 レコアの言葉にシロッコは苦笑いをしながら首を振る。そのシロッコへネオ・ジオンの機体から再びビームが放たれた。

 

「おぅのれ!!」

 

 シロッコが呻きながらそのビームをかわす。メタスのブースターの内の一つが負荷に耐えきれず爆発する。

 

「助けるわよ!! カミーユ!!」

 

「何で!?」

 

 追い付いたZガンダムから、カミーユの驚いた声が響いた。

 

「ティターンズの連中をなぜ!?」

 

「裏切ったクワトロが憎くなくって!?」

 

「それはあなたがフラれたからでしょう!?」

 

「女の名前のくせに女の気持ちが解らない下衆な坊主!!」

 

「なんだって!!」

 

 レコアの罵り声にカミーユが怒りの声を上げた。

 

 ギュァ!!

 

 カミーユ達の近くをファンネルから放たれたビームが流れ弾としてすり抜けた。

 

「ほらほら!! クワトロは私達を殺すつもりよ!!」

 

 どこか嬉しそうな声を出しながら、レコアのパラス・アテネがクワトロの百式へ立ち向かっていく。

 

「何をやっているのだ!! シロッコ!?」 

 

 被弾が激しく、一時後退したマウアー機からシロッコ機へ大声が飛ぶ。

 

「メタスが動かん!!」

 

「情けない!!」

 

 マウアーはカミーユのZへ一瞥をすると、そのまま後方へと大きな弧を描く。

 

 ガガッ!!

 

 ネオ・ジオンの部隊からシロッコとカミーユへ火線が疾った。

 

「ええい!!」

 

 カミーユは叫ぶと、クワトロと戦っているレコアへ加勢しようとする。

 

「まてい!! 小僧!!」

 

 置いてきぼりをくらったシロッコがカミーユへ叫ぶ。

 

「俺達の後ろから来る連中に助けてもらえ!!」

 

「人非人め!!」

 

「助けてやるだけでもありがたいと思えよ!! シロッコとやら!!」

 

 カミーユはシロッコへそう吐き捨てながら、接近してきたクワトロ機へビームライフルを連射する。

 

「カミーユ!?」

 

 クワトロのベルクートへビームが直撃した。

 

「よくやったわ!! カミーユ!!」

 

 喝采を上げたレコアがパラス・アテネの残りのミサイルを全弾発射する。

 

「袖にされた女の恨み!! 思い知れ!!」

 

「そんなに私が憎いか!! レコア!?」

 

「ニューな男の為には、オールドな男は抹殺する!!」

 

「ハマーンと言い、女と言うものは!!」

 

 クワトロはそのミサイルの束を次々と撃ち落とすが、ついにサブ・フライト・システムであるベルクートの左半分が破壊された。

 

「今だ!!」

 

 ジェリドのガブスレイからフェダーインが放たれた。

 

 バァーン……!!

 

「邪魔をするな!! カミーユ!!」

 

 偶然にカミーユ機のライフルからのビームにフェダーインのビームが当たり、二条のビームが干渉しスパークする。

 

「邪魔はそっちだ!! ジェリド!!」

 

「お前に助けてもらうほど、俺は落ちぶれてはいない!!」

 

「ジェリドのくせに生意気だぞ!!」

 

「なんだと!! このタコ!!」

 

 叫び返すジェリドを尻目に、カミーユはグレネードとライフルを同時に放ち、クワトロのベルクートを破壊した。

 

「ざまを見たか!! クワトロの野郎!!」

 

 コクピット内でレコアが歓声をあげ、拳を振り上げる。

 

「怖い女だ……」

 

 レコアの声に少し顔をひきつらせながらも、どうにかメタスをシロッコは動かし、ネオ・ジオンの部隊からの攻撃を回避し続ける。

 

「レコアさんは女の私から見ても恐いから……」

 

「そうねぇ、ファ」

 

 シロッコを援護する形になったエゥーゴ部隊の女性パイロット達が、そう言葉を掛け合いながらネオ・ジオンのモビルスーツの迎撃に向かう。

 

「ん!?」

 

 シロッコとカミーユが同じタイミングで謎の感覚が身体を包んだ。

 

 シャ……!!

 

「新手のファンネル!?」

 

 カミーユは叫びながら、ファンネルからのビームをシールドで防ぐ。一基から放たれたビームがジェリド機のフェダーインを破壊する。

 

「ニュータイプの増援か!!」

 

 可変機能が故障したガブスレイを少し後退させながらジェリドが叫ぶ。

 

「誠意は見せてもらったよ、シャア」

 

 純白のモビルスーツがベルクートを失った百式へ接近してくる。

 

「ハマーンだと?」

 

 シロッコは脳裏に響いた感覚に顔をしかめた。

 

「ネオ・ジオンの指導者が出陣ですって?」

 

 シロッコのメタスを支えながら、量産型Zに乗るブルーが訊ねる。

 

「危険な相手だろう……」

 

 そう言いながらシロッコは唇を噛んだ。

 

「少し、あやつらにネオ・ジオンの力を見せつけてやろうか」

 

 白いネオ・ジオンのモビルスーツが百式の近くに立つ。

 

「キュベレイを持ち出してきたか、ハマーン」

 

「お前が不甲斐ないからだよ、シャア」

 

 軽く百式の機体にからかうような視線を向けながら、そのキュベレイと言う白い機体はカミーユ達の方へ向いた。

 

「シャアが私の元へ戻ってきた手向けだよ」

 

 キュベレイは背部のコンテナからファンネルを放出させる。

 

「そのクワトロのどこにそんな魅力があって? ハマーン・カーン?」

 

 レコアが怒った声を出しながら、キュベレイを睨み付ける。

 

「む……」

 

 ハマーンが少し答えに困ったようだ。

 

「女に責任がとれない上に、その相手には母性とかなにやらを求めたいなぁとほざいてんのよ、そいつは」

 

「ちょっと、レコアさん……」

 

「おい、エゥーゴの女……」

 

 語りだしたレコアにカミーユとジェリドが何か心配そうに声をかける。

 

「ハマーンに母性などあるものか……」

 

 クワトロがぼそりと呟いた。

 

 ガァ!!

 

 ファンネルからのビームが百式の下半身を吹き飛ばした。

 

「口の聞き方に気を付けてもらおうか、シャア」

 

「くっ……」

 

「私についてくるか、それとも……」

 

 ハマーンがキュベレイのコクピットで酷薄そうに笑う。

 

「朽ち果てるかを選べ、シャア」

 

「そんな決定権がお前にあるのか!? ハマーン!?」

 

「あるだろうに?」

 

 ハマーンが呆れたようにクワトロへ向かって笑いかけた。暫しの沈黙がその宙域を支配する。

 

 誰かが唾を飲み込む音がした瞬間、クワトロがその沈黙を破った。

 

「頼む、私を導いてくれ。ハマーン……」

 

 その命乞いとも取れるクワトロの言葉に、その場にいる全員がげんなりとした。

 

「クワトロ大尉……」

 

 カミーユがため息と同時に言い放つ。

 

「もう俺はあなたをクワトロ大尉と呼びませんよ……」

 

 カミーユがちらりと近くのパラス・アテネを見る。何かコクピットの中にいるレコアの目の付近の筋肉がピクピクと痙攣しているのをカミーユは感じた。

 

「レコアさん……」

 

「ちょっと黙っていて、カミーユ君」

 

 レコアがその顔に不気味な笑みを浮かべる。

 

「今、私は何をするかわからないからね、カミーユ君、カミーユ君」

 

「は、はい……」

 

 脳裏に恐怖を感じたカミーユは少し機体を下がらせた。

 

「俺はあんな男に煮え湯を飲まされてきたというのか? マウアー……?」

 

「実力と器量は一致しないわ、ジェリド」

 

 戦線へ復帰したマウアーがジェリドにそう言って慰める。

 

「全軍、撤退せよ」

 

 ハマーンはため息をついた後、クワトロの百式を引きずりながらネオ・ジオンの部隊へ撤退命令を出す。

 

「命拾いしたな、地球の人間たちよ」

 

 ハマーンが傲慢な口調でそう言い放つ。

 

「地球圏を頼んだぞ、若者たちよ」

 

 キュベレイにぐいぐいと引きずられている百式からクワトロの声が響く。その情けない姿をカミーユ達は何とも言えない表情で見つめていた。

 

「ジェリド」

 

「あん?」

 

 お互いにうんざりした顔をしているカミーユとジェリドが通信を交わす。

 

「このまま俺達と戦うか? ジェリド?」

 

「今回は仕切り直しといこうじゃないか、カミーユ」

 

「そう言ってくれたか、ありがたい」

 

「口惜しいがな……」

 

 不満足に呻くジェリド機からカミーユとレコアの機体が離れていく。

 

「おい」 

 

 半壊したメタスからシロッコの声がした。

 

「恵みをくれ」

 

「だから、素直に助けてくれと……」

 

 シロッコへぶつぶつ言いながら、レコアのパラス・アテネがシロッコの機体を引っ張っていく。

 

「どうして私はこんな感じの男ばかりを好きになるのかしら……」

 

「私は世界の統治するのは女性だと……」

 

「うるさい!! シロッコ!!」

 

 怒鳴りながらシロッコを引っ張るレコアのパラス・アテネの後を気の抜けた顔をしたカミーユ。そしてクスクスと笑い会うファとブルーがついていく。

 

「俺達も帰ろうか、マウアー……」

 

「そうね……」

 

 二人のガブスレイはティターンズの基地へと帰投する。しばらく宙域を飛行したあと、ジェリドが唐突に叫んだ。

 

「ああ!?」

 

「どうした!! ジェリド!?」

 

「捕虜だよ!!」

 

「何!?」

 

 顔を蒼白にしたジェリドがマウアーの方へ向いて叫ぶ。

 

「シロッコの旦那がカミーユ達の捕虜に取られた!!」

 

「ああ!!」

 

 マウアーもその事に気づき、大声を上げる。

 

「ど、どうしよう!? マウアー!?」

 

「落ち着いて!! ジェリド!!」

 

 ひとしきり騒いだあと、二人はそろって深いため息をつく。

 

「とりあえず、報告だ……」

 

「ええ……」

 

 二人は肩を落としながら、ガブスレイを帰路へとつかせる。

 

「俺達、軍法会議ものか……?」

 

「今さら、考えても仕方がない……」

 

「だな……」

 

 二人は再びコクピット内で深くため息をついた。


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