夕暁のユウ   作:早起き三文

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第28話 黄金の彗星

「キリマンジャロは陥落するな……」

 

 ユウのブループラウスはティターンズのキリマンジャロ基地を覆う厚い雲の下のぎりぎりの所を飛行しながら、眼下の基地の様子を眺めている。

 

「俺の戦況偵察の任務も終わりかな?」

 

 コクピットの中で呟くユウはやや前方を飛行している巨大なガンダムを眺めながら、少しため息をつく。

 

「アルフがあのサイコ・ガンダムをけなしていた理由がわかるよ……」

 

 その巨大なガンダムから、ギラついた黒い怨念のような影がマリオン・システムを通じてユウの視界へ入る。

 

「おや?」

 

 サイコ・ガンダムが地上へ降下する。その機体の前にはエゥーゴのZガンダムの姿があった。

 

「カミーユの奴だな」

 

 ユウはその二機を注意深く見つめる。サイコ・ガンダムのコクピットからパイロットがそのZのコクピットへ飛び移ったように見えた。

 

「ティターンズ兵の寝返りかな?」

 

 ユウは疑問に思いながらも、ブループラウスを上昇させ、雲の中へ突入させる。

 

「大気圏内では機体が扱いづらいな……」

 

 ユウはそう呟きながら、ブループラウスを厚く重なった雲の上へ押し上げる。地上へ大雪を降らしている雲の上には燦々と太陽が輝いていた。

 

「さて、帰還するか……」

 

 ユウはウェイブライダー形態へ可変させているブループラウスの機首を旋回させる。

 

「むっ!!」

 

 その時、ユウは空中を飛行する一機のモビルスーツの姿をその視界へと入れた。

 

「Zプラス……」

 

 ブループラウスの原型機であるそのモビルスーツもユウに気がついたようだ。

 

「俺の知り合いか?」

 

 カラバの機体であろうか、所々に赤色の塗装をされたZプラス。それを包んでいる光がマリオンを通して目の中へと飛び込む感覚にユウは呟く。

 

「ユウか?」

 

 そのZプラスから通信が入った。

 

「アムロか……」

 

 ユウは複雑な顔をしながら、深呼吸してをして少し自分の気持ちを落ち着かせる。

 

「どうする? ユウ?」

 

「単刀直入だな、アムロ」

 

「意味はわかるだろう?」

 

「俺は単なる偵察の任務だよ……」

 

「命乞いか?」

 

 アムロが少し皮肉げな言い方をする。その言葉にユウは軽く口を歪める。

 

「行きな、ユウ」

 

「ありがとう、アムロ」

 

 ユウは礼を言って、そのまま帰投しようとする。

 

「甘いな!! アムロ!!」

 

「シャア!?」

 

 アムロが突如として上空へ上がってきた金色のモビルスーツを見て、驚いた声をあげる。

 

「アムロ!! ユウは私に仕留めさせろ!!」

 

 アムロにシャアと呼ばれた男の機体は、金色に輝くサブ・フライト・システムに跨がっている。

 

「百式では無理だ!!」

 

「このベルクートがある!!」

 

「だいたい、相手は!!」

 

「単なる連邦の人間、オールドタイプだ!!」

 

 ベルクートというらしいサブ・フライト・システムに跨がったまま、百式はユウのブループラウスへビームライフルを放つ。

 

「クワトロ・バシーナ!?」

 

 ユウは操縦桿を思いっきり引き上げた。

 

「地球上ではブループラウスは不利か!?」

 

 宇宙空間用の機体をベースに作られたブループラウスは、それでも何とかそのビームをかわす。

 

「下がれ!! アムロ!!」

 

「ユウが嫌いなのか!? シャア!?」

 

「危険な相手だ!!」

 

 百式の乗るベルクートがブループラウスへ急接近する。

 

「ちぃ!!」

 

 すれ違い様に放った百式のビームサーベルを間一髪で直撃を防ぐ。ブループラウスの尾翼にサーベルがかする。

 

「嫌われたもんだな!!」

 

 そう叫びながらユウはブループラウスをどうにか地球の空中戦に適応させようと機体の出力を上げる。

 

「だが、俺もあんたが嫌いだよ!! シャア!!」

 

「今の私はクワトロだ!!」

 

「そうかい!!」

 

 百式が雲の中に突入し、姿が見えなくなる。

 

「隊長!!」

 

 モルモット隊のメンバーが異変を察知して、間借りしている連邦の輸送機から駆けつけてきた。

 

「敵は何機だ、ユウ」

 

「一機だよ……」

 

 上にシドレのネティクスⅡを乗せたアッシマーからフィリップの声がかけられる。

 

「手強いのですか?」

 

 同じくアッシマーに乗ったサラがユウへ訊ねる。

 

「赤い彗星が相手だ」

 

「ああ…… エゥーゴのクワトロ……」

 

 サラのボリノーク・サマーンを乗せているカツが少し小さな声で答えた。

 

「怖いの、カツ?」

 

「誰が……」

 

 カツへサラがからかいの声をかけながら、再びユウへ訊ねる。

 

「もう一機いるみたいですが?」

 

 サラのボリノーク・サマーンのセンサーに映ったらしい。

 

「アムロ・レイの機体だ」

 

「おいおい……」

 

 フィリップが呆れた声を出す。

 

「この大空が俺達の墓場か?」

 

「機体数ではこちらが上ですが……」

 

「相手は化物だっての……」

 

 シドレの言葉にフィリップは首を振る。

 

「アムロだけでも引いてくれれば良いがな……」 

 

 はるか上空でユウ達の様子を眺めるように滞空しているアムロ機を見上げながら、ユウは軽く息を吐く。

 

「アムロさんと戦ったら、勝ち目なんか……」

 

「やっぱり怖いんだ?」

 

「サラ!! それ以上言ったら落とすよ!? 」

 

 再びサラにからかわれたカツはそう怒鳴り返す。

 

「だがな……」

 

 軽くユウは口ごもる。

 

「少なくとも、クワトロだけは俺達と一戦をする気みたいだな」

 

 苦々しげにユウはそう呟く。

 

「一機で五倍を相手にか?」

 

「無茶をやる相手だと思うか?」

 

「いんや……」

 

 フィリップはユウの言葉に苦笑したようだ。

 

「赤い彗星だからな……」

 

「そういう事だ」

 

 キィーン……!!

 

 鋭い飛行音を立てながら、クワトロの百式が再び雲の中から飛び出す。ユウはその機体から発せられる光をマリオンを通じてその両目で捉える。

 

「どこまでも昔のニムバスに似ている奴!!」

 

 クワトロの機体から発せられる深い蒼色の光を忌々しげに睨みながら、ユウは機体下部のビームカノンを放った。

 

 バァジュァ!!

 

「バリアー!?」

 

 ユウと同時に放たれたアッシマーからのビームをも弾いたのに驚きながら、ユウは百式が乗っている運搬機からのビーム射撃をかわす。

 

「くそっ!!」

 

 ユウは失速を覚悟しながら、ブループラウスを可変させ、接近してきた百式へビームサーベルを振るう。

 

「無害そうな顔をしたZの出来損ないの分際が!!」

 

 軽々とユウのサーベルをかわしたクワトロ機にボリノーク・サマーンからのグレネードが放たれる。

 

 ボゥア!!

 

 そのグレネードは直撃こそしなかったようだが、百式に損害は与えたようだ。

 

「よくやった!! サラ!!」

 

「カツの奴が上手く動いてくれたんです!!」

 

 珍しくカツを誉めたサラが得意そうにそう言い放った。

 

「ハマーンめ!!」

 

 クワトロは金色をしたベルクートを旋回させながら悪態をつく。

 

「ネオ・ジオンへ出戻る際の落とし前を付けさせようと、こんな試作機の実験を私に!!」

 

 百式の姿が雲に隠れる。

 

「思った程ではない!! 赤い彗星は!!」

 

 ユウはなかば自分を鼓舞するようにコクピット内で叫ぶ。

 

「隊長!!」

 

「どうした!! シドレ!?」

 

「何か来ます!!」

 

 シドレの言葉と同時に何処からかビームが放たれた。

 

「新手!?」

 

 ユウはブループラウスを旋回させながら、周囲を見渡した。

 

「何だ!?」

 

 ユウは驚愕の声を上げる。突如として厚い雲の中に数個の小さな「影」が見えたのだ。

 

「小型機!?」

 

 雲の中のその影達から複数のビームがブループラウスへ放たれた。

 

「くそ!!」

 

 一発のビームがユウ機へ直撃する。ブループラウスのコクピットにアラートが鳴った。

 

「隊長!!」

 

 サラが叫ぶ。

 

「ビット・システムです!!」

 

「ビットだと!?」

 

「ニュータイプ研究所で習いました!!」

 

 雲の隙間からクワトロの機体が見える。

 

「無線サイコミュです!!」

 

「ニュータイプにしか扱えないと言うあれか!!」

 

 ユウはコクピット内で響くアラート音を切りながら、見える影の正体をサラから聞いて強く唇を噛んだ。

 

 ボフゥ!!

 

 百式とその運搬機が雲の中から表れる。

 

「ファンネル!!」

 

 クワトロの声が響いたと同時に、ベルクートからビット・システムとやらが凄まじいスピードで射出される。

 

「そっちがサイコミュなら!!」

 

 シドレがネティクスⅡのインコムを起動させる。インコムのケーブルが複雑な動きをしながら、先端のビーム砲をクワトロ機へと導く。

 

「情けないファンネルの真似事で!!」

 

 ファンネルと言う名称らしいビット・システムがシドレ機へ攻撃を集中させる。

 

「フィリップさん!!」

 

 インコムの内の一基が百式の乗っているベルクートへビームを命中させたのに喝采を上げながらも、シドレはフィリップへ言う。

 

「スピードが急過ぎます!!」

 

「止まったらやられるよ!! シドレちゃん!!」

 

「インコムが絡まる!!」

 

「こっちが先に落とされるぜ!!」

 

 ファンネルを回避しながら、フィリップがシドレへ怒鳴りつける。

 

 ガァ!!

 

「しまった!!」

 

 一瞬の隙を突き、ファンネルがフィリップ達の前方へ出てビームを放った。

 

「フィリップ!!」

 

 ネティクスⅡを乗せたフィリップのアッシマーが煙をあげて落下していく。ファンネル達がシドレの機体を破壊するのをユウは見た。

 

「よくも!!」

 

 シドレの「影」が消えていない事に安堵しながらも、ユウは百式へ肉薄する。

 

「良い根性だ……!!」

 

 撃破される寸前に百式へ火線を集中させたフィリップ機とシドレ機に感心したような声を出しながら、クワトロはユウを迎えうとうとする。乗っているベルクートの機首の上部がシドレ達の攻撃によって破損し、煙を上げている。

 

 ガァン!!

 

 ブループラウスと百式のビームサーベルが交差した。

 

「俺はあんたが嫌いだ!! クワトロ!!」

 

「嫌いで結構だよ!! ユウ!!」

 

「あんたからは、人に対する諦観の匂いしかしない!!」

 

「君は本当にオールドタイプなのか!?」

 

 バァル……!!

 

 一瞬、二人の機体が離れる。ファンネルがユウへ接近する。

 

「甘い!!」

 

 ユウはマリオンから見える影を頼りに、ビームライフルでファンネルを撃ち落とす。

 

 ドフゥ!!

 

 鋭い騒音を立てながら、モビルスーツ運搬機ベルクートを駆る百式がユウのブループラウスへ急接近する。

 

「ファンネルが見えるとは!!」

 

 再び百式のサーベルがユウ機へ振るわれた。

 

「目だけがニュータイプなのか!? ユウ!?」

 

「そうかもな!!」

 

 ブースターを最大に噴かしながら、どうにかユウはブループラウスの姿勢を安定させようとする。

 

「隊長!!」

 

 サラ達から支援射撃が飛ぶ。

 

「ちぃ!!」

 

 先程のフィリップ達の攻撃で出力が下がったバリアーを突き破り、ボリノーク・サマーンとアッシマーのビームが百式の左腕を吹き飛ばす。

 

「ベルクートのIフィールドが!?」

 

 クワトロは顔をしかめながら、運搬機のスピードを上げ、ユウ達を突き飛ばすように雲の中へ隠れる。

 

「逃がすか!!」

 

「ユウ!!」

 

 成り行きを見ていた高々度で滞空していたアムロがユウの前へビームを放った。

 

「アムロ……」

 

「君達の勝ちだ」

 

 アムロの落ち着いた言葉にユウは少し苛立ったような声を上げる。

 

「これ以上戦うと言ったら?」

 

「俺が相手になろう」

 

「フン……」

 

 不機嫌そうな顔をしたままユウは軽く舌打ちをすると、ブループラウスを飛行形態へ可変させた。

 

「フィリップ達を回収するぞ、サラ、カツ」

 

「はい……」 

 

 サラ達はアムロ機にちらりと視線を送ったが、そのままユウへついていく。

 

「ユウとシャアを会わせたのはまずかったようだな……」

 

 暗い顔をしながらアムロは一つため息をつく。キリマンジャロを包む厚い雲に目をやりながら、アムロはクワトロ機の後を追うようにZプラスをその場から飛び立たせた。


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