夕暁のユウ   作:早起き三文

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第23話 Z対Z

「やめろ!! カツ!!」

 

「彼女が!!」

 

 新兵の少年がサラへつかみかかる。

 

「生意気なガキ!!」

 

 サラも負けてはいない。シドレが例によって、どうにか仲裁しようとしている。

 

「わざと負けてやっただと!?」

 

「あんたに花を持たせようとしてやったんじゃないのよ!!」

 

「そんなに僕が弱いか!!」

 

「話にならないほどにねぇ!!」

 

 カツと呼ばれた少年とサラとの騒ぎを聞きつけたフィリップがハンガーへ入ってくる。

 

「やめろ!! 二人とも!!」

 

 フィリップが強引に二人の間に入る。

 

「僕はアムロさんにも勝ったことがあるんだよ!!」

 

「偶然でしょ!?」

 

 二人をどうにか引き剥がすフィリップ。

 

「仲良くしてやろうや……」

 

 フィリップが苦笑しながらも、やや威圧的に二人を眺める。

 

「はい……」

 

 カツが不承不承といった感じでフィリップに頭を下げる。

 

「ろくでもない後輩だわ……」

 

 サラはカツに軽蔑のまなざしを送りながら、自分のボリノーク・サマーンのコクピットへ入っていく。

 

「カツ、お前も自分のモビルスーツのチェックをしろ」

 

「実戦が近いと言うのは本当ですか?」

 

「そうではある」

 

 その言葉を聞いたカツは嬉々としながら、自分の機体へ向かっていく。

 

「僕の実力を証明させますよ」

 

「小僧が……!!」

 

 その言葉を聞いたサラが嘲笑う。

 

「少し分不相応なんじゃないなねぇ……」

 

 カツのメッサーラを眺めながら、フィリップは一人呟く。

 

「シロッコさんとやらは、ユウのどこをそんなに気に入ったんだろうな……」

 

 フィリップは首を傾げながら、ハンガーから立ち去っていった。

 

 

 

「なんで、あんな小僧がうちの部隊へ?」

 

「アムロ・レイの手引きだよ……」

 

 ブリッジから見渡せる漆黒の宇宙をユウは眺めながら、胃薬を口にほおりこむ。

 

「最初はエゥーゴに入ろうとしたらしいが」

 

「英雄であるアムロ・レイがうちを勧めたって本当か?」

 

「何でも、俺が信用できそうだって、アムロ・レイが勝手にジャッジしてしまったらしい」

 

「だから、ブルーマリオンにか」

 

「ストゥラートだろうに?」

 

 ユウのその言葉にフィリップが自分の頭を軽く叩く。

 

「改名したんだったな、艦を」

 

「大改修もされたからな」

 

「ティターンズが実験艦だったロンバルディア級を売ってくれたんだったなぁ」

 

「もはや、ブルーマリオンの原型を留めていない」

 

 ユウが新造艦と言っても良いストゥラートの艦内を眺めながら呟く。

 

「ストゥラート、成層圏ね……」

 

 フィリップが新しい艦の名を怪訝そうな顔をして口に出す。

 

「地球と宇宙の間だ」

 

「オールドタイプとニュータイプの間という事か?」

 

「そういう意味合いだろうな……」

 

「生意気な嬢ちゃんにしてはハイセンスな名前だな」

 

 フィリップが皮肉ともなんとも取れないような事を言う。

 

「一応、アイツはニュータイプらしいからな」

 

「ペーパーテストのニュータイプ判定だろ?」

 

「人に対して、ニュータイプだかオールドタイプなんて判断は誰もできやしないさ……」

 

 艦名を決める時に艦内全員の人間で行われた「艦名命名コンテスト」で一位を取ったサラの顔を思い浮かべながら、ユウはハンバーガーを口に入れる。

 

「まあ、今はそれよりも……」

 

 ユウがテリヤキバーガーの手がべとつく感じに顔をしかめながら、話を続ける。

 

「エゥーゴと一戦構える羽目になるかもしれん」

 

「アーガマだな?」

 

 フィリップがブリッジからわずかに目視できる、エゥーゴの精鋭部隊と名高い艦の姿を眺めながら頷く。

 

「俺達の後ろにティターンズの基地がある」

 

「アーガマをほおっておくと、後でティターンズがうるさいか……」

 

 フィリップの言葉にユウは軽く頷いた。

 

「ブループラウスの初実戦が、よりによってあの部隊か……」

 

「新兵もいるのにな」

 

 ユウの愚痴にフィリップが肩を竦めてみせる。

 

「さて……」

 

 ユウはバーガーを食べ終えると、艦長へ話しかける。

 

「会議を、艦長」

 

「うむ……」

 

 大きくあくびをしたミリコーゼフ艦長が席から立ち上がった。

 

 

 

 

「俺は留守番か」

 

「頼む、フィリップ」

 

 ユウはブループラウスの開いたコクピットからフィリップへ答える。

 

「シドレも頼むぞ」

 

「はっ!!」

 

 律儀に答えるシドレをユウは頼もしそうに見る。

 

「カツとサラで大丈夫かねぇ……」

 

「シロッコにテスト結果も出さないといけないんだよ」

 

 ユウは数日前に会ったシロッコの顔を脳裏に浮かべる。

 

「それに……」

 

 ユウはストゥラートからすでに発進しているメッサーラとボリノーク・サマーンの姿を遠目に見やりながら、溜め息をつく。

 

「あのカツには一度、痛い目を見せたい」

 

「素質はあるみたいだがな、あの坊や」

 

「偶然と自分の実力の判断が全く出来ていない」

 

 ユウの言葉にフィリップがニヤニヤと笑う。

 

「ちゃんと守ってやれよ……」

 

「俺は自分の胃を守りたい」

 

「ハハッ……」

 

 フィリップの少しからかうような声にムッとしながらも、ユウはブループラウスを発進させた。

 

 

 

「敵機接近!!」

 

 サラから通信が入る。

 

「アーガマの部隊は二機です」

 

「少ないな……」

 

 ユウはブループラウスの様子を見ながら、サラへ答える。

 

「自信があるのかもしれませんね、エゥーゴは」

 

「ニュータイプの勘か?」

 

「それと、この強行偵察機の性能です」

 

 サラが少し自慢げに言う。

 

「さすがはシロッコ様」

 

「一目惚れって奴だったかな?」

 

「ブルーマリオン、じゃなくてストゥラートには居ない良い男の人だったから」

 

「シロッコもお前を気に入っていたな」

 

 ウットリしているような感じのサラにユウは苦笑する。

 

「素敵なお顔に溢れんばかりの才能、その上ニュータイプ」

 

「女たらしのニュータイプね……」

 

 ユウはジュピトリスでサラを口説いていたシロッコの顔を思い出す。

 

「僕だってニュータイプです」

 

「何言っているんだよ、小僧」

 

 負けじと言い放ったカツにサラは冷たく答える。

 

「メッサーラの大きさに似合わないチビの癖に」

 

「少し先輩でも、歳は同じ位でしょう!?」

 

「素人が生意気いうんじゃないわよ!!」

 

 カツとサラの口喧嘩を聞きながら、ユウはまたしても自分の胃が痛くなるのを感じた。

 

「アムロもシロッコも……」

 

 ユウは連邦軍としての自分の中途半端な立場を嘆きながら、ブループラウスを二人の機体の先頭へつく。

 

「俺を何だと思っているんだよ……」

 

 ユウは自分達の部隊名「モルモット」の意味を、嫌というほど実感した。

 

 

 

「同型機!?」

 

 ユウはアーガマから発進してきた一機を驚いた目でみる。

 

「出力は向こうの方が上です!!」

 

 サラからの戦力分析の結果が報告される。

 

「Z計画の完成機かもな!!」

 

 ユウは自分の身を引き締める。

 

 ギィーン……!!

 

 戦闘機を思わせる形態へ可変したアーガマの機体がすれ違いざまにブループラウスへ射撃をくわえる。

 

「青いZガンダム!?」

 

 その機体のパイロットとおもしき少年の声が響いた。

 

「やはりZ計画とやらの完成機のようだな!! エゥーゴ!!」

 

 ユウはそう言いながらも、アーガマから出撃してきた、もう一機の機体へ目を向ける。

 

「サラ!!」

 

 サラのボリノーク・サマーンからモビルスーツの分析結果が届く。

 

「重武装機です!!」

 

「見ればわかる!!」

 

 緑色をしたその機体を見ながらユウは答え返す。

 

「火力が高そうだな……」

 

 背中に大型ミサイルを搭載したその機体を目の端に捉えながら、ユウはどう戦うか考える。

 

「ユウ隊長!!」

 

 緑色のモビルスーツから放たれたビームをかわしながら、カツが叫ぶ。

 

「隊長の同型機に背中をつかれました!!」

 

「よし!!」

 

 ユウは戦法を二人へ伝える。

 

「可変機は俺が、緑色の重モビルスーツはお前達の二機であたれ!!」

 

「了解!!」

 

 ユウはその返事を聞きながら、戦闘機を彷彿とさせるウェイブライダーモードへ可変する。

 

「今回、マリオン・システムはまだ控えるか……」

 

 ユウは古めかしい木材のカバーをされたシステムのスイッチを見やりながら呟き敵の可変機の後を追う。

牽制としてブループラウスはビームカノンをその機体へ放った。

 

「狙いが良い奴!!」

 

 寸前でそのビームをかわした可変機はユウ機の背後へつこうとした。

 

「甘いぞ!!」

 

 ユウは機体を急旋回させながら、モビルスーツ形態へ変形する。そのまま敵機へビームライフルを撃ち放つ。

 

「ジム頭のZガンダムが!!」

 

 パイロットの少年も機体を変形させ、頭部のバルカンを放った。

 

「子供に負けるものか!!」

 

「カミーユと言うれっきとした名前がある!!」

 

「男のくせに女の名前か!!」

 

 ユウはどこかで聞いた記憶があるエゥーゴのパイロットの名前に少し気を取られながらも叫び返す。

 

「言ったな!!」

 

 激昂した少年の叫びと共に、敵機はそのままユウのブループラウスへ肉薄する。

 

「Zガンダムの出来損ないが!!」

 

 カミーユと言う名前の少年が乗る機体がユウ機へビームサーベルを振るう。

 

「さすがにZ計画とやらの完成機!!」

 

 ユウも機体からサーベルを取りだし切り結ぶ。敵機の高い出力にユウ機は機体を押される。

 

「だが、パイロットが子供では!!」

 

 ユウは熟練パイロットの技でZ計画の完成機、Zガンダムと言うらしい敵機のビームサーベルによる斬撃、刺突を上手くさばく。

 

「狡猾な大人め!!」

 

「ベテランと言ってほしい!!」

 

「地球へ寄生するオールドタイプが!!」

 

 ガィン!!

 

 Zガンダムのサーベルの出力が上がった。

 

「所詮は小細工だけで生きている大人!!」

 

「苦労はしている!!」

 

「賄賂と媚びで生きているんだろう!?」

 

「何だとぉ!!」

 

 カミーユの嘲笑いにユウは頭へ血が昇る。

 

「上と下から突き上げられ!!」

 

 ブループラウスとZガンダムのビームサーベルが交差する。ガァ!!

 

「右と左からはティターンズとエゥーゴに挟まれて!!」

 

 二機のビームライフルが応酬した。

 

「概念的にはニュータイプとオールドタイプに挟まれている!!」

 

 ブループラウスがZに肉薄した。二機のサーベルが再び交差する。

 

「その苦悩がわかるかぁ!! 小僧!!」

 

 ブループラウスの出力が上がり始めた。Zがやや押され始める。

 

「なんてプレッシャーだ!?」

 

「俺が常に感じてるプレッシャーの方が強いわ!!」

 

 驚くカミーユにユウが怒鳴り散らす。

 

「こうなったら!!」

 

 ブループラウスが一旦Zから離れる。

 

「お前もろとも、そのアーガマを胃薬のビンにしてやる!!」

 

「器だけで中身の無いものが何を!?」

 

「中身は連邦が支給してくれる!!」

 

「連邦に頼らないと中身が得られない、情けない大人!!」

 

 Zガンダムから強力なビームライフルがブループラウスへ飛ぶ。

 

「そんな大人!! 修正してやる!!」

 

「お前に俺の胃が修正出来るものか!!」

 

 Zが可変して、ブループラウスの周囲を旋回し始める。

 

「こちらとて!!」

 

 ユウのブループラウスも可変し、Zガンダムを追尾する。

 

「ユウ中佐!!」

 

 通信士のアフラーがモニターへ浮かぶ。

 

「停戦命令です!!」

 

「こんな時にだと!?」

 

 ユウはZガンダムから目を離さずにアフラーの通信を聞く。

 

「どこから!?」

 

「ティターンズからです!!」

 

「のほほんと見てた癖に!!」

 

 ユウははるか後方のティターンズ基地へ目を向ける。

 

「カミーユ!!」

 

「レコアさん!?」

 

「艦へ帰還しなさい!!」

 

 どうやら、エゥーゴの方へも命令があったようだ。

 

「もう少しでオバサンを仕留められたものを!!」

 

 サラが敵の重武装機を睨み付けた。

 

「小娘にこのパラス・アテネが倒せると思って!!」

 

「パラス・アテネ!?」

 

 サラが驚いた声を上げる。

 

「シロッコ様から貰ったのか、オバサン!?」

 

「シロッコを知っているの!?」

 

「あたしの未来の旦那様!!」

 

「あぁん!?」

 

 敵の重武装機からミサイルがサラへ放たれた。

 

「ヒステリーな!!」

 

 サラは嗤ってそのミサイルを撃ち落とす。

 

「ちょっと!!」

 

 カミーユのZがミサイルを放った機体へ接近する。

 

「停戦命令でしょう!! レコアさん!!」

 

「あの小娘が!!」

 

 何か逆上しているらしいパイロットが乗るパラス・アテネとか言う名前らしい機体をカミーユは無理矢理引っ張る。

 

「何をやっているんですか、もう……」

 

 アーガマから二機のモビルスーツが暴れるパラス・アテネを引っ張る為に飛び出てくる。

 

「おや……?」

 

 ユウはその出てきた内の一機のモビルスーツに見覚えがあった。

 

「量産型Zガンダムか」

 

 自分のブループラウスの原型機を興味深そうにユウは見つめる。

 

「む……?」

 

 その量産型Zがユウの方へ向いた。

 

「もしかして、ユウかしら?」

 

「ブルーか」

 

 ユウは少し懐かしそうに顔を緩める。

 

「新型のブルーディスティニーかしらね、その蒼い機体?」

 

「その名で呼ぶな……」

 

 笑いを含んだブルーの問いにユウは眉をひそめた。

 

「お互い、停戦命令が出て良かったわね」

 

「ああ」

 

 アーガマに引きずられるパラス・アテネを見やりがら、二人は通信をし合う。

 

「停戦命令とは……?」

 

「あれよ……」

 

 ブルー機がある方向を指差す。

 

「赤い艦隊……」

 

 ユウは遠くに微かに見える、何隻もの艦が連なる大艦隊をじっと見つめる。

 

「アクシズ・ジオンの艦隊よ」

 

「なるほどね……」

 

 ユウはブルーに別れを告げて、部下の二機へ帰還するように声をかけた。

 

「もう一歩だったのに」

 

 カツが悔しそうに呟いた。

 

「メッサーラの推力に引きずられてただけでしょ」

 

「何だって!?」

 

 再び始まったサラとカツの喧嘩を無視して、ユウは赤い艦隊へ目をやり続ける。

 

「ユウ」

 

 通信士のミーリから連絡が入る。

 

「ネオ・ジオンから使者が来ているわ」

 

「ネオ・ジオン?」

 

「アクシズ・ジオンの正式名称みたい」

 

「ネオ・ジオン……」

 

 見ると、その赤い大艦隊へ後方のティターンズ基地からも複数の艦がやってくる。

 

「新しいジオンか……」

 

 ユウは溜め息をつきながら、ストゥラートへ帰還しようとした。


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