「ブルーディスティニー再びかよ……」
「リメイクだよ」
「やると思ったよ……」
ハンガーにいるユウとアルフの目の前に蒼いモビルスーツが立っていた。
「頭がZ計画の量産型」
ジムタイプのバイザー型の顔をした頭部をアルフが指差す。
「それより下がカラバから頂いたZプラスだよ」
「聞きたくないが」
ユウが昔のブルーディスティニー1号機を彷彿とさせる機体を見ながら訊ねる。
「この機体の名前は?」
「ブルーディスティニー4号機」
「却下だよ」
アルフがその言葉に悲しそうにうなだれる。
「やはりだめか?」
「また連邦の上の人間に目をつけられるような真似をしてどうするんだよ……」
「フフ……」
「俺の胃をこれ以上苦しめないでくれよ、まったく」
ユウの言葉にアルフが苦笑しながら、数枚の書類を取り出す。
「LION-Mシステム」
「リオン・エム?」
「あの頭の中に入っていたバイオセンサーは改良のしがいがあったよ」
「意味は?」
アルフが眼鏡を少し指で上げる。
「
Longing
Implement
Oldtype and
Newtype
Medium
(オールドタイプとニュータイプの願望実現媒体)」
「大層な名前だな?」
「それをひっくり返して、M-LION」
「エムリオン・システムか」
「もっと良い呼び名があるだろう?」
アルフが首を振りながらニヤリと笑った。
「何だ……?」
その言葉にユウはしばらく考えていたが、あることに気づき、顔をしかめる。
「マリオン……」
「良い名前だろう?」
「どこがだよ……」
ユウはため息をつきながら、ブルーディスティニー4号機を見上げる。
「モビルスーツの名前もシステム名も気に入らないな……」
「変えるか?」
「とりあえずはモビルスーツの名前だけでもな」
蒼いモビルスーツを見やりながら、ユウが呟く。
「よお、蒼い稲妻」
フィリップがハンガーへ入ってきた。
「よく覚えていたな、そんな呼び名」
「俺もついさっき思い出したばかりだよ」
「昔の、それも誰も呼ばなかった呼び名だったな」
「モーリンちゃんが考えてくれたんだったな」
フィリップが一年戦争時代のオペレーターだった女の子の名前を懐かしそうに言う。
「元気かな、あの子は……」
「さあなあ……」
「七年か、もうあの頃から」
「お互いに老けたもんだな」
「ああ……」
ユウとフィリップがお互いの顔を見合わせて、少し寂しそうに笑う。
「量産型Z計画機にZプラス……」
「ブループラウス」
「ほう?」
ユウの呟いた名前にアルフが反応した。
「悪くないな」
「ブルーディスティニー4号機だけはまずい」
「ブループラウス、ブループラウスか」
アルフもその名前が気に入ったようだ。
「これで俺の地位も安泰だな」
「おやおや、これはこれはユウ中佐殿」
フィリップがニヤニヤとユウを見つめる。
「一応、俺は佐官だぜ?」
「ア・バオア・クーの戦いの後、二階級特進したんだったな」
「やはり来たか、と思ったよ」
ユウが苦笑いをする。
「機密に触れた人間を監視するための昇進だな?」
「佐官になった連邦軍人は監視をされる……」
ユウが昔聞いた規則を口にする。
「義務、が生じる」
「プライベートでも自由にはなれなかったな」
「何度か、監視員と目が合った事があったよ」
「大変だねぇ」
フィリップとアルフが顔を見合わせて笑う。
「俺の上司の一人が」
ユウが自分達の艦であるブルーマリオンの方向へ顔を向けながら話を続ける。
「ミリコーゼフ艦長になってから、少しは監視を緩めてくれた」
「やっぱりな……」
「知ってたか?」
「あの置物艦長が諜報部出身だという話を聞いた時から、なんとなく想像はしていた」
フィリップが艦長の顔真似をする。
「このオークリー基地のコウ副司令とやらも」
「何か厄介事に首を突っ込むハメになって、無理に佐官へ昇進させられたようだな」
「人の良さそうな方だったけどな」
ユウが一度モビルスーツの訓練に付き合ってくれたコウ副司令の顔を思い出す。
「ユウと互角ぐらいの腕だったな、コウ副司令とやらは」
「良い訓練になったよ」
ユウがブループラウスを見上げながら微笑んだ。
「ティターンズの分裂がいよいよ始まった」
フィリップが唐突に言い出す。
「ジャミトフ閣下も大変だな」
「アクシズ・ジオンのことは?」
「聞いている」
ユウが険しい顔をして頷く。
「ジオン公国の復活だ」
「ティターンズにとっても、連邦にとっても宿敵だよ」
「ゆえに、どこもかしこも意見が別れている」
フィリップが少し頭を押さえるような仕草をする。
「ティターンズ内部でさえ、エゥーゴと一旦手を結び、復活したジオンへ事を当たるべきという意見さえある」
アルフが二人に缶コーヒーを渡しながら話に加わる。
「ユウ」
「ん?」
「ニムバスとオーガスタ研究所の事は?」
「あいつから聞いた」
ユウがコーヒーを飲みながら答えた。
「もはや、ティターンズ、エゥーゴ、連邦の三竦みだけで済む話ではない」
「泥沼化しているな……」
フィリップが大きくため息をついた。
「少し、空気を変えようか」
アルフの言葉に三人は表へ出ようとする。
「だから、俺はブループラウスとマリオン・システムを作った」
「泥沼を泳ぎ切るためにか……」
「あまり、考えすぎない方が良いかもしれんな、ユウ達」
「俺達がどうこう出来る問題ではないからな」
ユウとフィリップがアルフの言葉に同意する。
「目先の事をやるだけだよ」
「だな……」
表へ出た三人は夜更けの空を見上げる。
「マリオンか……」
ユウはブルーディスティニーの精霊であった少女の名前を呟く。
―宇宙には心が満ちているの―
「違うな」
ユウが脳裏に浮かんだマリオンの言葉に独り言で答える。
「心が錯綜しているんだよ……」
星空を見上げながらそう言ったユウは、ふと以前に出会ったパプテマス・シロッコの事を思い出した。
「何だ……?」
ユウはなぜ自分が木星往復艦ジュピトリスの艦長であり、ニュータイプであるシロッコの事を思い出したのか自分でもよく解らなかった。