「お前さんがこの前、漂流していたエゥーゴの艦の残骸から手に入れたモビルスーツだよ」
アルフがタバコをふかしながら、紙に書かれたデータをユウの手に渡す。
「解析した結果では」
アルフがパソコンのモニターにそのモビルスーツのデータを映し出す。
「なんでも、エゥーゴにZ計画という高性能モビルスーツの開発計画があったらしい」
「あのモビルスーツはその計画で作られたと?」
「というよりも」
アルフはパソコンを少しいじる。
「その高性能モビルスーツの量産タイプ、それの試作機らしいな」
「高性能機のマスプロ、それの試作機か……」
「面白い機能が搭載されていた」
アルフが再びパソコンをいじりながら、ニヤリと笑う。
「エゥーゴのサイコミュシステムだ」
「へえ……」
「バイオセンサーと言うらしい」
「バイオセンサー……」
ユウはハンガーに置かれているジム系統の頭部をしたその量産機を見上げる。
「俺にとって、いい刺激になった」
「新しいシステムでも開発しているのか?」
「今度見せてやる」
アルフはそう言いながら、もう一枚の書類をユウへ見せる。
「Zプラス?」
ユウがその配備予定表を見て呟く。
「カラバとの取引で手に入れたあいつだよ」
「ああ……」
ユウはその時に会った「アムロ・レイ」の顔を思い出す。
「一機をモルモット隊にくれるそうだ」
「フーン」
「嬉しくないか?」
「何と言うか……」
ユウがアルフの顔をニヤニヤと眺めながら口を開く。
「お前がそれに余計な手を加えそうな気がする」
「あたりだ」
アルフが椅子から立ち上がり、Z計画とやらの量産機を見上げる。
「ガンダムタイプの胴体とジムの頭を合体させると、どうなると思う?」
「やめてくれよ……」
ユウが顔をひきつらせる。
「ブルーの毒をブルーの毒でえぐるつもりかよ?」
「毒をもって毒を制すだよ」
「はあ……」
またしてもユウの胃が痛くなる。
「少し外へ出てくる」
「疲れているようだな?」
「お前が原因だろうが!?」
「フフ……」
嫌みのこもった笑みを浮かべるアルフにユウはげんなりしながら、基地の外へ出ていった。
「悪くはねぇんだがよ……」
「その程度のリミッターでよく飛べるな」
ニムバスがギャプランのパイロットに通信機を使い会話をする。
「強化人間ではないだろうに……」
「確かにGはかなりのものだな」
宇宙空間をテスト飛行しているパイロットからの感想を聞きながらニムバスが訊ねる。
「他に気になる点は? ヤザン?」
「山ほどある」
ヤザンと呼ばれたパイロットが不満げに答えた。
「動きが固く、戦いかたが単調になっちまう」
「だな……」
「だいたいな……」
ギャプランが小惑星に建設された基地へと帰投しようとする。
「モニターに死角があるぞ」
「リミッターの調整装置が場所をとっているんだな」
「どう使うかなコイツは……」
ギャプランが基地のハンガーへと入ってくる。
「お疲れ様です、隊長」
ヤザンの部下である二人のパイロットが声を上げる。
「おう、ご苦労」
二人へ声を返しながら、コクピットからヤザンがニムバスの姿をジロジロと眺める。
「良いパイロットスーツだな?」
コクピットから飛び下りながら、ヤザンがニムバスの派手なパイロットスーツを笑う。
「騎士のスーツであるよ」
「俺も新調しようかね……」
ヤザンがニムバスを小突きながら笑った。
「充分派手なパイロットスーツでしょうに……」
飲み物を持ってきたサラがヤザンを見ながら顔をしかめた。
「ファッションだよ、ファッション」
ヤザンがサラからジュースを受けとる。
「嬢ちゃんも少しは身だしなみに気を使ったらどうだ?」
「別に……」
サラは無関心そうに答える。
「コスプレでもして乗ったらどうだ?」
ヤザンの部下の一人がサラを茶化す。
「メイド服なんかはどうだい?」
「猫耳とかな?」
二人の部下が顔を合わせて笑いあう。
「バカな男ばっかり……!!」
不機嫌な顔をしたまま、サラはハンガーから去っていく。
「おい、ダンケルとラムサス」
ヤザンがギャプランの胴体をを叩きながら部下の名前を呼ぶ。
「少し、模擬戦を手伝ってくれ」
「その機体にはやはり問題が?」
「生兵法だと危険な機体だ」
「了解」
ヤザンの部下が自分のモビルスーツへ走っていく。
「せっかく貰った高性能機だからな……」
「任せたぞ」
コクピットが閉まるのを見ながらニムバスがヤザンに答える。ギャプランのエンジンが動き始める。
「ニムバス」
ヤザン機とその部下のモビルスーツが発進するのを見やりながら、ユウがハンガーへ入ってくる。
「オーガスタ研究所へ帰る準備は出来たか?」
「改良したギャプランは予定通り引き渡したよ」
ニムバスはギャプランの軌跡を眺めながらユウに答える。
「本当ならあのローベリアという女の護送艦と一緒にいきたかったんだかな」
「おい、まさか……」
ユウの顔が綻んだのを見て、ニムバスの眉がひそめられる。
「そんなわけはないだろうが、馬鹿者」
ニムバスが呆れたように言い放った。
「まだ俺は何も言ってないぞ……」
「今の私は女にうつつをぬかしている時間などない」
「全く……」
ユウは肩を竦める。
「勘がよくなったな?」
「自分でもよくわからないさ……」
ニムバスがハンガーから自分の私室へ向かおうとする。ユウもそれを追いかける。
「オーガスタの奴らは良いサンプルだと喜んでいるよ」
「大変だな……」
「その事だが」
通路を歩きながらユウとニムバスは話を続ける。
「もしかするとな」
「うん?」
「私はブルーマリオンから立ち去るかもしれない」
「何故?」
ちょうど自動販売機の前で二人は立ち止まった。
「オーガスタはな……」
ニムバスが販売機からジュースを買い、一つをユウへ手渡す。
「すまんな……」
「オーガスタはあちこちに顔を売ろうとしているんだよ」
ユウの礼には答えず、ニムバスは自分の話を続ける。
「エゥーゴにもか?」
「それだけではなく」
ニムバスはジュースの味に顔をしかめながら口を開く。
「何だ、この味は?」
「ムラサメ・ニュータイプドリンクだとよ」
「こりゃ売れんな……」
ニムバスが缶ジュースの説明を見ながら、話を戻す。
「アクシズ・ジオン」
「ローベリアの言っていた組織だな?」
「そこの組織とも接触を持とうとしている」
「ジオンの残党に?」
「残党どころか」
ニムバスが険しい顔で話す。
「ジオンの再興と言っても良いくらいの規模らしいな」
「やっかいだな……」
ユウは以前にエゥーゴに味方していたアクシズ・ジオンの部隊の事を思い出していた。
「そいつらとエゥーゴは手を組んだか?」
「エゥーゴの一部の派閥とな」
「エゥーゴも分裂している?」
「あり得る話だ」
ニムバスが不味そうな顔でジュースを飲み終えた。
「エゥーゴには元ジオンの者も多い」
「なるほど……」
そう言ったユウはふと、あることが頭に浮かんだ。
「まさかお前はそのアクシズ・ジオンへ?」
「お前も勘がよくなってるんじゃないかい?」
ニムバスが少し寂しそうに笑う。
「ごまかすなよ……」
「その可能性はあるんだ」
ニムバスが真剣な顔で頷く。
「私は強化人間だ」
「……」
「身体を維持するには何らかのニュータイプ研究所の支援が必要だ」
「オーガスタ研究所のモルモットか……」
「まぁな」
二人はしばし無言でいる。
「もしも、本当にブルーマリオンから離れるなら連絡はするさ」
「ああ……」
ユウは自室へ向かっていくニムバスの背中をじっと見つめる。
「人は別れるものなのか……」
ユウは立ち止まったまま、以前にニムバスが言っていた言葉を脳裏に思い浮かべていた。