夕暁のユウ   作:早起き三文

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第20話 アクシズ・ジオン

「厳重だな……」

 

 普段着に着替えさせられた明るい栗色の髪をした女ジオン兵の捕虜が周囲を囲む人間を見て、口を歪める。

 

「一人に対して四人か?」

 

「当たり前でしょ?」

 

 サラが呆れた声を出す。

 

「脱走しようとしたしたんだから」

 

「隙がありすぎたからなあ……」

 

「生意気な女」

 

 サラの視線にも捕虜の女は動じない。

 

 懲罰室を臨時の尋問室としたユウ達はジオン残党の兵「ローベリア・パゾム」を尋問している。

 

「アクシズ・ジオン?」

 

「復活したジオンさ」

 

 ローベリアはユウ達に見張られながら食事を取っている。

 

「良いものを食っているな、連邦は」

 

「どうも……」

 

 ユウは敵の艦で捕虜となっていても全く臆する様子のないローベリアに少し感心した。

 

「気もきいている」

 

 尋問にユウとニムバスの他にも女性のサラや通信士のミーリを同席させている事をローベリアは気にいったようだ。彼女は自らのセミロングの髪に軽く手を触れる。

 

「騎士道、とやらもあるみたいだからな」

 

 ニムバスが皮肉げに口を歪める。

 

「あれだけ怒り狂って、今さら騎士道かい?」

 

「あのまま宇宙へほおり出したいくらいだった」

 

 ニムバスの言葉にローベリアは鼻を鳴らす。

 

「私のジェントルマン精神に感謝するんだな……」

 

「フフン……」

 

「笑ったな?」

 

「騎士だから、そんな派手なパイロットスーツか」

 

 ニムバスに対してローベリアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「しかしまあ……」

 

ローベリアが首を回す。

 

「よくも、今まで頭痛を起こさせてくれたもんだな、連邦の騎士様?」

 

「こっちも同じだよ」

 

「お前はニュータイプなのか?」

 

「人工的なニュータイプと言える」

 

 ニムバスはそう笑いながら、本題に入る。

 

「アクシズ・ジオンとは結局は一体?」

 

「さっき言った通りだよ」

 

 食事を終えたローベリアは首を傾げながら話す。

 

「ジオン公国の指導者であったミネバ・ザビを旗印にした正統なるジオンだよ」

 

「テロリストとは違うな?」

 

「国家と言えるほどの規模と体制だ」

 

 その言葉にニムバスがローベリアの顔をじっとみつめる。

 

「なぜ、そこまでペラペラと喋るの?」

 

ニムバスに変わってサラが質問をする。

 

「口をつぐんでいても」

 

 ローベリアは少し嘲笑うような顔をする。

 

「ティターンズへ引き渡されたら、拷問で嫌でも口を割る羽目になるからな」

 

「見極めがいいわね」

 

 サラがミーリと顔を見合せて笑う。

 

「俺は少しジェリド達と話してくる」

 

「任せて」

 

 ミーリがウィンクをして答える。

 

「エゥーゴとの関係はどういう……」

 

 ニムバスの声を尻目に、ユウはブリッジへと登っていった。

 

 

 ジェリド達はブルーマリオンのクルー達とやや少し距離をとった場所へ立っていた。

 

「何かあったか?」

 

 操舵手のフェイブへ小声で訊ねる。

 

「ティターンズに決まっているでしょう……」

 

 その言葉に通信士のアフラーも小さな声で呟く。

 

「艦長へは一応敬語を使ってますがね……」

 

 二人の不満げな声にユウは苦笑する。

 

「早く追っ払ってくださいや……」

 

「わかっているよ」

 

「もう、あんな騒動はご免ですぜ……」

 

 フェイブの言葉に肩を竦めながら、ジェリド達の側へ近寄る。

 

「よう……」

 

 ジェリドがフランクな感じにユウを呼びかける。

 

「あんたらは恋人同士か?」

 

 ユウが親密そうに寄り添うジェリドとマウアーを見てからかう。

 

「あんたにはいないのか?」

 

 ジェリドは肩を竦めながら、ユウに訊ね返す。

 

「はぐらかしたな……」

 

「フフ……」

 

 ジェリドの隣のマウアーが軽く笑う。

 

「気になる女はいたんだがな……」

 

「連邦軍にか?」

 

「エゥーゴに行っちまったよ……」

 

「おやおや……」

 

 ジェリドが少し意地の悪い顔をして笑う。

 

「気の毒だな」

 

「進む道が違ったのさ」

 

「道か……」

 

 ジェリドが少し感慨深そうに頷く。

 

「ティターンズも最近、その進む道とやらで揉めている」

 

「ジェリド……」

 

 マウアーがジェリドの袖を引っ張り、注意する。

 

「部外者にあまり内実は……」

 

「こいつらは連邦とティターンズの中間のようなもんさ」

 

「そうなのか?」

 

 マウアーが訝しげに首を傾げた。

 

「サマナの奴の先輩でもあるしな……」

 

「元気か? あいつは?」

 

「真面目にやっているさ」

 

 ジェリドがブリッジを見渡しながら答える。

 

「モビルスーツの腕はすでに俺やマウアーとかの方が上なんだが」

 

「そうなってしまったか……」

 

「だが、サマナには戦い方に隙がない」

 

「ベテランの凄さかな?」

 

「マニュアル通りを最大限に忠実であるっていうのは馬鹿にできないな」

 

 ジェリドはそう言い、軽く笑う。

 

「では……」

 

 ジェリド達は一応ミリコーゼフ艦長へ一礼をして、ハンガーへ降りようとする。

 

「ああ、そうだ……」

 

 ジェリドはハンガーへの通路で立ち止まり、ユウに訊ねる。

 

「あのエゥーゴだかジオンだかのパイロットと戦ったときのあの現象……」

 

「あの紅い宇宙か」

 

「あれはなんだ?」

 

 ジェリドの問いにユウも答えられない。

 

「お前さんの機体の特殊機能か?」

 

「俺は昔……」

 

 ユウはジェリドの直接の問いに答えずに昔の話をする。

 

「あの紅い宇宙とは少し違う、蒼い宇宙を見たことがあるんだ」

 

「もしかして」

 

 マウアーが口を挟む。

 

「ニュータイプの世界というやつではないのか?」

 

「おいおい、マウアー……」

 

「あの時、あたしも一瞬見たんだよ……」

 

 ジェリドが呆れたようにマウアーへ顔を向ける。

 

「ニュータイプはスペースノイド共のたわ言だぜ?」

 

「どうかな……」

 

 ユウが口ごもる。

 

「ユウ、あんたは」

 

 ジェリドが少し怒ったようにユウに詰め寄る。

 

「俺達がニュータイプだと?」

 

「わからんよ……」

 

「全く……」

 

 ジェリドはため息をつく。

 

「しかしなぁ」

 

 ジェリドが紅い宇宙の事を思い出す。

 

「悪い体験ではなかったな」

 

「何か感じる物があったと?」

 

「なんというか、こう……」

 

 ジェリドは自分のパイロットスーツのティターンズのシンボルを指で叩く。

 

「俺を肯定してくれる感じがした」

 

「ジェリドの肯定か……」

 

「俺のな……」

 

 ジェリドがマウアーの顔を見ながら笑う。

 

「ティターンズの中でのし上がるという目標のな」

 

「全く、ジェリドは……!!」

 

 マウアーが艶然と笑った。

 

「野心の肯定か……」

 

「野心は夢とも願いとも言い換える事も出来るわ」

 

「なるほどな」

 

 マウアーの言葉にユウはあの現象の何かを掴んだような気がした。

 

「おい、ジェリド」

 

 ティターンズのパイロットがジェリドへ近寄る。

 

「いつまで連邦軍なんかの艦にいなくてはいけないんだよ?」

 

「もう終わったさ、カクリコン」

 

「早く帰ろうぜ……」

 

 そのパイロットはぶつぶつ言いながら、ハンガーへ戻っていく。

 

「ではな、ユウ」

 

「サマナによろしくな」

 

「おう……」

 

 ジェリドと軽く握手をするユウ。

 

「あの破廉恥な男に言っておいて」

 

 マウアーが微笑みがらユウの顔を見る。

 

「フィリップか?」

 

「早くエゥーゴに入れって」

 

「うん?」

 

「そうすれば、撃ち落とせるから」

 

 マウアーの言葉にユウは乾いた笑みを浮かべる。

 

「世話になったな」

 

 ジェリド達はハンガー内にある自分のモビルスーツへと向かっていった。

 

 ―宇宙には心が満ちているの―

 

 ユウの脳裏にマリオン・ウェルチの言葉が甦る。

 

「マリオンの言葉が全ての真実ではないのかもな……」

 

 ユウはEXAMシステムの精霊であった少女の言葉を思い出しながら呟いた。

 

「あの子は今はどうしてるかな……?」

 

 ハンガーから何やら、いさかいの声がした。

 

「またウチの艦の奴とティターンズの連中が喧嘩しているのかよ……」

 

 溜め息をつきながら、ユウは最近持病となりつつある胃の痛みを堪えつつ、ハンガーへと降りて行った。


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