「ブルー?」
アルフはそう言いながら、一人の女性バイロットを紹介する。
「初めまして、ユウ・カジマ」
女は自分を「ブルー」と名乗りながらユウと握手をする。
「本名ではないでしょうに……」
「規則なもので……」
女はクスクスと笑う。
「彼女はな」
アルフは手元の資料をユウに手渡す。
「本来のブルーディスティニーのパイロットだった」
「ふん……」
フィリップがつまんなそうに鼻を鳴らす。
「気に入らねぇな……」
「フィリップさん……」
サマナがフィリップを宥めながら、アルフに少し固い口調で訊ねる。
「彼女の方が適正はあったが」
アルフは眼鏡を拭きながら話す。
「ブルーディスティニーが拒絶した」
「……」
その言葉にユウは少し考え込む。
「良いのですか?」
「何がだよ?」
「あのブルーディスティニーの名を言って」
「ああ……」
そう言うサマナにアルフは自分の胸に指してあるレコーダーを見せる。
「あとで提出すれば問題ない」
「それ以外は問題か」
「流石にユウだな」
アルフは皮肉げな笑みを浮かべる。
「ニュータイプに近づけた人間だ」
「ブルーはニュータイプを作る機体ではなかった」
「単なる殺戮機械」
「そうだ」
アルフにユウは頷いてみせる。
「恐ろしいこと」
ブルーと言った女が口に手を当てて笑う。
「あなた達が身代わりになってよかった」
「嫌な女だ……」
「立場が逆であったら?」
「そりゃあな……」
女にフィリップが苦笑した。
「なあ、アルフ」
ユウが少し姿勢を正してアルフに訊ねる。
「もしかして、彼女」
ユウは彼女のそのコードネームの通りの色をした髪を見て言う。
「ニュータイプか?」
「フフ…」
アルフは手を叩いて喜ぶ。
「ブルーの毒が残っているかもな」
「かもしれん」
「マリオンを連想したか?」
「似ている」
「小娘と女の違いはあるぞ」
ユウは苦笑いする。
「アルフから聞いたわ」
女は軽く笑いながら話す。
「女の子の膝の上に乗って戦ったんですってね……」
「無理矢理乗って、乗らされて……」
「いやらしい男……!!」
青い色をした髪の女は再び笑う。
「喧嘩を売りに?」
「違うわよ」
サマナのむっとした顔にブルーは真顔になる。
「新型機のテスト」
女は一枚の書類を取り出す。
「それが、私たちの仕事」
「テストパイロットに格下げか」
「お嫌?」
「別に……」
フィリップはおどけて肩をすくめる。
「給料が出れば別に良い」
「むしろ上がるぞ」
アルフが書類のある一面を指差す。
「ここにサインしろ」
「内容は見るまでもないな……」
ユウはそう言いながらも書類に目を通す。
「やっぱりだ」
「守秘義務?」
「に、決まっている」
ユウはフィリップ達にも書類を見せる。
「クルストの思想が受け継がれる」
「ブルーディスティニーを作った者の意思がね……」
「地球連邦軍でニュータイプを越えるオールドタイプを誕生させようとしている」
「オールドタイプ?」
「ニュータイプ以外の人間の事だ」
アルフはタバコに火を付けながら答える。
「まさに」
アルフの口から煙が吹き出される。
「クルスト博士の量産化だよ」
「ふん……」
ユウは書類にサインを書き込む。
「モーリンちゃんはよかったな」
「故郷に戻って結婚……」
「あの子は幸せになれるよ」
フィリップとサマナもサインをする。
「さて、これで」
アルフはタバコを灰皿でひねる。
「また俺たちはモルモットだ」
「テストパイロットである分、楽ではあるな」
「実戦相手はいる」
「ジオンの残党狩りもするのか?」
アルフに答えながらユウはサインをした書類をヒラヒラとさせる。
「書いてない」
「サインを入れる書類に真っ当な物があって?」
ユウがブルーを睨み付ける。
「俺はあんたと仲良くはやっていきたい」
「私も……」
「ならなぜさっきから……」
「ロリコンは気に入らない」
ブルーの言葉にフィリップとサマナが笑った。
「嫌な女だよ……!!」
ユウは苦虫を噛む潰したような顔で茶を飲み始めた。