夕暁のユウ   作:早起き三文

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第19話 連邦の兵とティターンズの兵

「なぁんで……」

 

「ん?」

 

 ブルーマリオンの食堂で遅い夕食を取っているティターンズのパイロットが愚痴をこぼす。

 

「連邦の奴等の方が俺たちよりも良いメシを食べているんだ?」

 

「しらないね……」

 

 反対側の席のパイロットはハンバーグを口にほおりこみながら粒く。

 

「なあ、あんた?」

 

「はい?」

 

 近くで食事を取っているシドレへそのパイロットが話しかける。

 

「ティターンズのメンバーは地位が高いから食事に節制しろと言う意味かな?」

 

「さ、さあ……」

 

 シドレは困った顔で辺りを見渡す。

 

「ティターンズだろうと、お客さんでしょ?」

 

 遠くからサラがパイロットへ食ってかかる。

 

「勇ましい嬢ちゃんだな……!!」

 

 そのパイロットが小馬鹿にしたように言う。

 

「俺と付き合わないかい?」

 

「バカにして……」

 

「いつまでも連邦の軍なんかにいたら、嫁の貰い手がなくなるぜぇ……?」

 

「ちょっと……!!」

 

 サラの顔が怒りでひきつる。

 

「おい、やめろ」

 

 食堂へ入ってきたジェリドがパイロットを止める。

 

「あまり、若い奴を苛めるな」

 

「俺たちはティターンズだぜ? ジェリド?」

 

「タダ飯を食わせてもらっている立場だろうに……」

 

 ジェリドの声と同時に食堂のドアが開いた。

 

「どうしたんだ?」

 

「隊長!!」

 

 サラが食事を取っているティターンズのメンバーを指差す。

 

「こいつらは礼儀を知りません!!」

 

「おいおい……!!」

 

 サラをからかっていたパイロットが彼女の尻を撫でる。

 

「あんたは……!!」

 

 サラが鬼の形相になってその男を睨む。

 

「いいから、止めてくれ……」

 

 ユウが疲れた顔でその二人を止める。

 

「何かあったのか?」

 

「あったんだよ……」

 

 ジェリドの問いにユウは椅子にもたれかかりながら答える。

 

「あの捕虜のエゥーゴだかジオンだかのパイロット」

 

「あいつが?」

 

「脱走しようとした」

 

 ユウの言葉にティターンズのパイロットから口笛が吹かれる。

 

「さすがは連邦軍の甘さ」

 

「ティターンズがそんなに偉いの!?」

 

 パイロットの皮肉に対して怒鳴るサラをシドレが止める。

 

「その捕虜がハンガーへ出て、あんたらティターンズのバーザムを盗もうとしたんだよ」

 

「おい……」

 

 ジェリドが呆れた声を出す。

 

「そのバーザムにティターンズの女パイロットが入っていてな」

 

「マウアーかな?」

 

 ジェリドが首を傾げる。

 

「取っ組みあいになった」

 

 ユウはコップの水に口をつけた。

 

「そのマウアーがコクピットから落とされて」

 

「大丈夫だったか?」

 

 ジェリドが少し真剣な顔になった。

 

「下にフィリップがいて下敷きになった」

 

「物理的にも連邦はティターンズの下か?」

 

 ティターンズのメンバーから笑いが起こった。

 

「何て奴ら……!!」

 

「だから、サラ……」

 

 サラを再び止めるシドレを尻目にユウは話を続ける。

 

「さいわいと言うか何と言うか……」

 

 言いながらユウは胃に手をやる。

 

「そのバーザムは訓練飛行から帰ってきたニムバスの奴の機体にぶつかって取り押さえられたが」

 

「俺達の最新鋭機だぞ? バーザムは?」

 

 ジェリドの言葉を無視してユウは話を続ける。

 

「その時のショックでニムバスの奴の義足が壊れてね」

 

「いや、だから俺達のバーザムは……」

 

「激怒したニムバスがその捕虜に掴みかかった」

 

 ジェリドを再び無視するユウ。

 

「おかげでハンガーがめちゃくちゃだ」

 

「俺達のバーザム……」

 

 ジェリドの声が少し悲しそうな色をおびはじめた。

 

「と思ったら、マウアーという女がブリッジへ殴り込んできた」

 

「なぜ?」

 

「フィリップの奴の上に乗ったときにセクハラをされたとか何とか言っていた」

 

「ああん?」

 

「ミリコーゼフ艦長へ抗議しにいったのさ」

 

 ジェリドに答えながら、ユウがポケットから胃薬を取り出す。

 

「それで?」

 

 ジェリドが胃薬を飲むユウを見つめる。

 

「艦長がどうにも曖昧な話し方でマウアーとやらを相手にしたせいか、彼女の怒りの火に油を注いでね」

 

「アイツは怒ると怖いからなあ……」

 

 ジェリドがどこか他人事のように呟く。

 

「ウチのミーリの奴がそのマウアーにな……」

 

 ユウが再び胃を押さえ始める。

 

「私達に言いがかりをつけてお金が欲しいんだろ!?」

 

 通信士であるミーリの口調をユウは真似をした。

 

「と、言いだしたもんで」

 

「良い度胸だ……!!」

 

 ティターンズのパイロット達が笑う。

 

「キャットファイトの始まりさ」

 

「元気だねぇ……」

 

 ジェリドがフライドポテトを食べながらどこか呑気そうに言う。

 

「うちは艦長が置物だから」

 

 ユウが溜め息をつく。

 

「俺に全責任が来るんだよ……!!」

 

「確か、あんたは少佐だっけ?」

 

 ジェリドがユウへおかわりの水を差し出す。

 

「パイロットでは良い身分じゃないか?」

 

「プレッシャーが酷いんだよ……」

 

 ユウが疲れた笑い声を出す。

 

「俺たちがもっと酷くしてやろうか?」

 

「おい、キッチマン……」

 

 ジェリドにキッチマンと呼ばれたティターンズのパイロットはチキンバーガーを口へ運ぶ。

 

「ぶっ!!」

 

 キッチマンが口に含んだバーガーを噴き出す。

 

「何をする!! キッチマン!!」

 

 目の前にいたティターンズの女性パイロットがその噴き出された食べ物をもろに顔に浴びた。

 

「バーガーがぁ!!」

 

 キッチマンが厨房を睨む。

 

「フフ……」

 

 厨房からサラが意地悪く嗤う。

 

「マスタァド!! 辛さがぁ!!」

 

 どうやらサラがバーガーにマスタードをたっぷりと入れたらしい。

 

「ほら、水だ……」

 

「あの小娘……!!」

 

 ジェリドに差し出された水をキッチマンは一気に飲み干す。

 

「洗面台はどこ? 少佐さん?」

 

「そこの脇だよ……」

 

 疲れきった顔のユウが指差す方向に、食べ物を顔に浴びた女性パイロットがブツブツ言いながら顔を洗いに行く。

 

「いててて……」

 

 ユウの胃がまた痛くなってきた。

 

「隊長……」

 

 シドレが胃薬を渡してくれる。

 

「大変だなぁ、少佐殿?」

 

「お前も出世したら、じきにこうなるさ……」

 

「怖い怖い……!!」

 

 笑うジェリドにユウは恨めしそうな視線を向けた。


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