「量産化が早いもんだな」
ジェリドはティターンズの新型ガンダム「ガンダムMk-Ⅱ」の量産機を駆りながら、エゥーゴの機体を撃退していく。
「バーザムの試運転にはちょうど良いな」
「油断するなよ、ジェリド」
「わかってるよ、マウアー」
マウアーと呼ばれた女性パイロットのバーザムもエゥーゴの部隊を押していく。
「輸送艦にしては警備が厳重だな……」
幾多のモビルスーツに囲まれているエゥーゴの輸送艦を眺めながら、ジェリドは部下のバーザムの働きを眺める。
「増援は必要かな?」
「先程、近くの連邦軍の部隊に要請しておいた」
「おいおい……」
ジェリドのバーザムが少し後方へ下がって、ティターンズの部隊全体の様子を観察しながら呟く。
「ティターンズの下請け連中には頼りたくないっての……」
「近くに他の部隊がいなかったんだ」
マウアーが肩を軽く竦める。
「まっ……」
ジェリドがバーザムのハイ・ビームライフルを構えながら、再び戦線へ突入しようとする。
「増援が来る前に片付ければ良い話かな?」
「ん……」
マウアーが辺りの宙域を見渡している。
「どうした、マウアー?」
「あれを……」
マウアー機が遠くに光っている物を指差す。
「連邦の部隊か?」
「いや違う」
マウアーが険しい顔で答える。
「それにしては早すぎる」
「ではエゥーゴの増援?」
「と、考えた方がいい」
マウアーの言葉にジェリドは軽く腕を組みながら唸る。
「撤退するか……」
エゥーゴの警備部隊とその増援らしいモビルスーツの光を互いに見やりながら、ジェリドは同僚のマウアーに訪ねる。
「輸送艦の中身が気になる……」
「あれほどモビルスーツを張りつかせているもんな」
「もう少し踏ん張ろう、ジェリド」
「おう……」
ジェリドは警備のエゥーゴ部隊に対して優勢なティターンズのバーザム隊を少し後退するように指示を出す。
「どうした、ジェリド?」
攻撃部隊のバーザムから怪訝な声が返ってきた。
「エゥーゴの増援だよ」
「全く……」
バーザム隊のパイロットは愚痴を言いつつも、ライフルでエゥーゴ部隊を牽制しながら輸送艦から徐々に後退していく。
「あれは……」
マウアーが増援部隊を見ながら、少し身を引き締める。
「ジオンのモビルスーツだな」
ジェリドが目視できる距離まで近づいた増援部隊を見ながら答える。
「旧式を引っ張りだしたか?」
「でもないようだな……」
コンソールに表示される、増援部隊の先頭に立つ赤いモビルスーツの機動力分析データを眺めながら、マウアーが少し溜め息をつく。
「かなりの性能だと思う」
「俺達も運が悪いぜ……」
ジェリドはそう言いながらも、バーザムのビームライフルを赤いモビルスーツへ放つ。
「何よ、そのビームはさ……!!」
赤いモビルスーツのパイロットから馬鹿にするような声がした。
「ちっ……!!」
ジェリドは突進してきたそのモビルスーツのビームサーベルを寸前でかわす。
「返しでな!!」
切り返してきたサーベルを今度はバーザムのサーベルで防ぐ。
「バーザムがパワー負けをしている!?」
「アクシズのリゲルグをなめない事だな!!」
リゲルグというらしい機体からキックがジェリド機を襲う。
「ふっんっ!!」
そのキックを振動をスラスターを噴かせて機体に吸収させる。そのままリゲルグは凄まじいスピードで一旦ジェリド機から離れる。
「本当にエゥーゴか!?」
ジェリドのバーザムを赤いモビルスーツが遠距離から射撃する。
「アクシズ・ジオンの機体であるよ!!」
「アクシズ・ジオンの機体!?」
ジェリドはその言葉に驚きながらもバーザムのライフルを連射する。
「ヘンテコなモビルスーツが!!」
ジェリド機の射撃を軽々とかわし、そのジオン製モビルスーツはグレネードを放つ。
「くそっ!!」
ジェリド機が間一髪でそのグレネードを回避する。近接信管でグレネードがバーザムの近くで爆発する。
「大した事はない!!」
ジェリドはそう自分を鼓舞すると、バーザムの出力を上げる。
ババッ!!
全身をミサイルで爆装した敵の増援部隊の機体がバーザム隊に対してそのミサイルを放つ。一機のバーザムが直撃を食らい、撃破される。
「ハリネズミが!!」
罵りながらもマウアーがその重武装モビルスーツを狙撃する。
「まずい!!」
敵の増援部隊に呼応して、輸送艦のエゥーゴの警備部隊が挟み撃ちをしかけようとしている事をジェリドの目の端が捉えた。
「アースノイドが!!」
リゲルグがジェリド機へ再び接近する。
バルカンで牽制しながら、リゲルグのサーベルを防ぐ。
「判断を見誤ったな!! ティターンズ!!」
「くっ!!」
リゲルグから勝ち誇ったようなパイロットの声がした。
ガァーン……!!
虚空からビームがエゥーゴとアクシズ・ジオンの部隊へ飛ぶ。
「ティターンズの増援か!?」
リゲルグのパイロットが苛立ったような声を響かせる。
青を基調とした塗装を施された、やや小型の艦から艦載砲が放たれ、艦の周囲からモビルスーツ部隊が展開する。
「あの艦は……!!」
ジェリドが何度か見た事のある艦に目を向け、苦々しげに呟く。
「よりによってあいつらか……」
ジェリドは苦笑しながらも、敵の重モビルスーツからのミサイルをバルカンで打ち落とす。
その脇を一機のモビルアーマーが高速ですり抜けた。
「ちっ!!」
リゲルグは急接近してきた可変モビルアーマーからのビームを間一髪でかわす。
「どこかであったか、あの敵は……?」
可変モビルアーマーであるギャプランを駆るニムバスは頭に軽い違和感と微かな頭痛を感じながらも、そのままギャプランをリゲルグからスルーパスさせる。
「フィリップ!!」
「リーダーはお前さんがやるってことか!?」
「他のは任せる!!」
ユウのネティクスブルーとフィリップが率いるモビルスーツ隊が二手に別れる。
「あいつは!!」
ユウがフィリップ達のマラサイを尻目に敵のリーダー機とおもしき機体へと牽制射撃をかける。
「ローベリアとか言うパイロットかよ!?」
ユウが見覚えのある機体を見て、軽く顔をしかめる。
「蒼い奴か!?」
リゲルグから怒気のこもった声が発っせられた。
「無事か!?」
腕部のサブ・ビーム砲をリゲルグへ払うように撃ちながら、ジェリドのバーザムへユウ機が接近する。
「やはり、あんた達か……」
ジェリドが苦笑しながらバーザムのビームライフルを構え直す。
「ティターンズが連邦軍に助けられては沽券にかかわるな」
「だったら、少しはしっかりしろ。ティターンズ」
「言ってくれる……」
ユウの母艦であるブルーマリオンからの支援射撃を受けながら、ニムバスのギャプラン。そしてフィリップの率いるモビルスーツ隊がエゥーゴとその謎の援軍と交戦状態へと入る。
「連邦の奴らにでかい顔をさせるなよ!!」
ティターンズのパイロットの掛け声と共に、バーザム隊も態勢を整え直し、隊列を組みながらニムバス達と連携をとろうとする。
「いろんな意味で厄日かな……」
苦笑いをするジェリド機へジオン残党の部隊が攻撃をかけた。ジェリドは身軽にその射撃をかわす。
「お前達」
ユウの静かな声と共にネティクスブルーから牽制の射撃がリゲルグへ飛ぶ。
「もはや、レッド・ジオニズムではないな? ローベリアとやら」
「古い名前だな」
リゲルグのパイロット、ローベリアがからかうように笑う。
「エゥーゴについた訳でもなさそうだな」
「どうかな……?」
ローベリアは肩を竦めたようだ。
ズゥ!!
リゲルグが急加速してネティクスブルーへ接近する。
「その機体の弱点は解っているさ!!」
「スピードの事だな!?」
「よくわかっているじゃないか!!」
リゲルグのスピードにネティクスブルーは全くついていけない。ネティクスブルーの有線サイコミュがリゲルグへ飛ぶ。
「そんなサイコミュの出来損ないで!!」
しかし、その有線サイコミュはかなりのスピードでリゲルグを捉える。
ズォ!!
「少しはやるな!!」
有線サイコミュの射撃をかわした所へ、ユウの機体本体からのビームライフルがリゲルグの肩へ被弾する。
「サイコミュがキツい……!!」
ユウはネティクスブルーの準サイコミュ兵器を使うたびに頭痛に見舞われる。
「ニュータイプでもないのにサイコミュなんてな!!」
「好きで使っているわけじゃない!!」
「連邦のモルモットか!?」
「あらゆる意味で正解だよ!!」
リゲルグのビームサーベルと切り結びながら、ユウが変な感心をする。
「お前は何者だ!?」
「紅のローベリア!!」
一旦両機が離れ、ビームとグレネードが応酬する。
「何の為に戦う!?」
「戦闘の最中に哲学か!?」
「何年も戦いが出来る理由だよ!!」
ネティクスブルーの有線サイコミュの内の一基が切り落とされる。同時にネティクスブルーからのバルカンがリゲルグを叩く。
「野心であるよ……!!」
「何年も雌伏し戦える理由がそれだけか!?」
「悪いか!?」
簡易サイコミュシステムが起動し、ネティクスブルーの機体速度が上がる。
「気まぐれなシステムだよ!!」
ユウが今頃になって動き始めたネティクスブルーのシステムに悪態をつく。
「ジオンから掠め取った技術であろうに!!」
ローベリアが笑いながらサーベルでネティクスブルーの左腕を薙ぎ払った。
「理念や人の心ではなく、野心のみで戦えるものなのか!?」
「それこそが人の心であろう!!」
リゲルグにネティクスブルーが押されているのを見かねて、ジェリド機が加勢する。
「ユウ!!」
ジェリド機のサーベルがリゲルグを捉える。
「小癪な!!」
リゲルグが二機を同時に相手どろうとする。
カァーン……!!
「なにぃ!!」
ユウとローベリア、そしてジェリドの周囲を紅い宇宙が覆った。
「これは……!!」
ジェリドが驚いた顔でその紅い空を見渡す。
「宇宙の色じゃないか……」
ローベリアが僅かな感動をにじませた声で唸る。
「紅い宇宙だと……?」
ユウとジェリドも呆けた顔で、そのどこか暖かさを感じさせる薄い紅色に包まれた宇宙を眺める。
「もうひとつの人の心……?」
ユウは唐突にマリオンの顔を思い出す。
「現実の宇宙を見ろ!! ジェリド!!」
ズァ!!
ローベリア機をマウアーのバーザムが突き刺した。
「うわっ!?」
瞬時に宇宙が漆黒の闇へと戻り、ユウ達は我にかえる。
「しまった……!!」
ローベリアがリゲルグから脱出しようとする。
「危ない!!」
ユウは咄嗟にノーマルスーツに身を包んだ小さなローベリアの身体をネティクスブルーで覆う。
ズガア!!
直後にローベリアのリゲルグが爆発四散する。
「ちっ……!!」
ローベリアが憎々しげにユウ機を見上げる。
「若いな……」
ユウは自分よりも五つは歳が下と見えるローベリアに語りかける。
「南極条約は守るよ……」
「フン……」
捕虜に対する人道的な扱いが記載されている条約の事を持ちだし、ユウはローベリアをおとなしくさせようとする。
「ブルーマリオン」
ユウはブルーマリオンから内火艇を出すようにミリコーゼフ艦長へ無線を入れて頼んだ。
「マウアー」
ジェリドが僅かに被弾しているマウアー機へ近づく。
「大丈夫か?」
「私は大丈夫であるが……」
マウアーのバーザムの指がエゥーゴとアクシズ・ジオンのモビルスーツに固められた輸送艦を指す。
「もう襲うのは無理だな……」
「味方の損害も大きい」
「してやられたか……」
マウアーの言葉に対して、ジェリドが帰投するブルーマリオンの部隊を見やりながら呟く。
「あの連中にも苦労をかけた」
「少し挨拶をするか?」
「だな……」
ジェリドは連邦軍の公式無線回線を開いて、ブルーマリオンへ着艦の許可を得ようとした。