夕暁のユウ   作:早起き三文

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第16話 マス・メディア

 ピッ……!!

 

「二時になりました!! 今日もあなたに最新の話題をプレゼントする番組、ザ・ニュータイプの時間です!!」

 

 明るい音楽とともに司会者と出演者が映し出される。

 

「今日は特別ゲストにおいで頂きました!!」

 

 ワイドショーの司会者がゲストを紹介する。

 

「今日はフリージャーナリストのカイ・シデンさん」

 

 司会者の隣のやや軽薄そうな顔立ちをした男が頭を下げる。

 

「地球環境保全団体ティターンズの対テロ部門の責任者であるバスク・オムさんにお越しに頂いております」

 

 カイ・シデンというジャーナリストの反対側の席に座る背広を着たかなり大柄な男が続いて頭を下げる。

目が悪いのか、小型のゴーグルを掛けている。

 

「では、まずはカイ・シデンさん」

 

 カイと呼ばれた男はバスクに質問をする。

 

「最近のティターンズの軍備増強についてはいかにお考えですか? バスクさん?」

 

「今の地球圏を守る為には必要であると思います」

 

「核兵器の準備もですか?」

 

 その言葉にバスクは少し顔を歪めた。

 

「はて……」

 

「あなたはティターンズの軍備面での最高責任者でしょう?」

 

 カイが鋭い口調で言う。

 

「地球連邦軍本部であるジャブローの噂は聞いておりますよ」

 

「……」

 

 バスクは無言でカイを見つめる。バスクの顔から少し汗が吹き出る。

 

「失礼、ライトが眩しくてね」

 

 バスクはそう言いながら、ゴーグルを拭く。

 

「ジャブローにはエゥーゴを撃退するために核兵器が配備されていたと聞きますが?」

 

 カイからの質問にバスクは冷静に答える。

 

「あくまでもエゥーゴがジャブロー連邦本部の人間に対して非人道的な扱いをした場合の交渉用としてです」

 

 ジャブローに核が配備されていた事を認めるバスクの発言にスタジオがどよめく。

 

「しかし、結局は使われなかった……」

 

 女性リポーターがそう呟くように質問をする。

 

「エゥーゴの者たちは通常の部隊だけで制圧が出来ましたからね」

 

「しかし、核を使用する可能性はあったのでは……」

 

「我々ティターンズはそのような暴挙はいたしません」

 

 バスクが微笑みながら、テーブルの上へと両手を組む。

 

「30バンチ事件でも我々が毒ガスを使用する準備があるとかないとか、根も葉もない噂が飛びましたがね……」

 

「30バンチ事件では」

 

 カイが質問をする。

 

「鎮圧には非人道兵器は使用しなかったとはいえ、かなり強引な手法であったと聞きますが?」

 

「相手は武装した暴徒ですよ?」

 

 バスクがその巨体の肩を竦める。

 

「作戦にあたるティターンズの兵達にも自衛する権利があります」

 

「平和的解決はできなかったと?」

 

「化学兵器の使用案を断固として認めなかっただけでも、我々ティターンズの高潔な志は理解していただけると思ったのですがね……」

 

「では、毒ガス使用のプランはやはりあったと?」

 

 カイが食い下がる。

 

「機密に関わる事なのでノーコメントとさせて頂きます」

 

 微笑みながらバスクがテーブルのお茶に手をやる。

 

「今後のティターンズの方針は?」

 

 女性リポーターがバスクに質問を投げかける。

 

「それについては」

 

 テレビの司会者がスタジオの脇にあるティターンズ指導者「ジャミトフ・ハイマン」の等身大POPを見ながら、話を続ける。

 

「ジャミトフさんと中継が繋がっております」

 

 ザザッ……

 

 やや音声が乱れる。

 

「こんにちは、皆様」

 

 スタジオのスピーカーから初老と思わしき男の声がする。

 

「私は地球環境保全団体であるティターンズの責任者を務めさせて頂いておりますジャミトフ・ハイマンと言う者であります」

 

 スピーカーの声は鮮明である。

 

「さっそくですが、ジャミトフさん」

 

 撮影カメラがジャミトフのPOPを中心に映し、司会者がジャミトフのPOPの隣へ寄りながら、POPの口の部分にマイクを当てる。

 

「今後のティターンズの方針とは?」

 

「従来と変わりません」

 

 ジャミトフもこのテレビを観ているのだろう。反応にタイムラグがない。

 

「地球の環境保全のために全力を尽くすのみです」

 

「エゥーゴやジオン残党との戦闘行動も継続すると?」

 

「悲しいことです」

 

 ジャミトフの声のトーンが下がる。

 

「我々人類は地球を守るために手を取り合わなくてはならないというのに」

 

「ティターンズの強権的な対応に問題があるのでは?」

 

 女性リポーターが厳しく追及する。

 

「それは全くの誤解であります」

 

 ジャミトフがキッパリと言う。

 

「テロリズムには断固とした対応を心掛けておりますが……」

 

「ティターンズは融和を望んでいると?」

 

「その通りであります」

 

 ジャミトフの言葉がスタジオに響く。

 

「本来ならば、エゥーゴの方々にも我々に対する誤解を解いてもらいたいのですよ」

 

「エゥーゴとも和睦の用意があると?」

 

「もちろんであります」

 

「スペースノイドに対する心配りもあると?」

 

「同じ人類ではありませんか」

 

 ジャミトフの声に少し笑みが入る。

 

「エゥーゴの方々と多少の御縁がある……」

 

 僅かにその口調にからかいの色が含まれた気がした。

 

「人権保護団体カラバ様が運営していらっしゃる、この当番組に出演させていただけるのも、我々ティターンズにとっては光栄な事なのであります」

 

 そうジャミトフが自信ありげに言い放つ。

 

「と、言うことは」

 

 カイが少しその言葉に食いつく。

 

「エゥーゴはティターンズを誤解していると思ってもよろしいのですね?」

 

「はい」

 

「エゥーゴは単にアンチ・ティターンズを主張している組織であると?」

 

「エゥーゴの方々には」

 

 ジャミトフが少し早口になる。

 

「テロリズムまがいの行為を一刻も早く止めて頂き、平和的に我々ティターンズと意見を交換して頂きたいとおもいます」

 

 ジャミトフの言葉が終わる前に、スタジオに軽快な音楽が流れた。

 

「では、ここでCMに入りたいと思います」

 

 司会者の言葉と同時にテレビの画面が切り替わる。

 

 

 

 

「よく言うよ……」

 

 クワトロは苦笑しながら、ポップコーンを口にほおりこむ。

 

「いいじゃないか……」

 

「面白いか?」

 

「今は気分的にフリーだからな……」

 

 クワトロの隣の男がピザを食べ始める。

 

「少しくれ、アムロ」

 

「そっちも……」

 

 クワトロとアムロと呼ばれた男が食べ物を交換しあう。大音量でCMが流れる。

 

「これがあれば貴方もニュータイプ!! ムラサメ研究所の協力を得て開発した新感覚のスーパードリンク!! 君もアムロ・レイに!!」

 

「買わないか? アムロ?」

 

「何でだよ……」

 

 クワトロにアムロは笑いながらテレビのチャンネルを変える。

 

「地球の未来を考えるティターンズ。今日のティターンズの活動は絶滅保護種であるマッコウクジラの生体の調査です……」

 

 アムロは再びチャンネルを変える。

 

「悪のジオン帝国め!! この正義のガンダムでやっつけてやる!!」

 

「ガハハ!! このギレン様のスーパーMパワーに勝てるものか!! 行け!! ビグザムよ!!」

 

 結局アムロは再び先程のワイドショー番組を見ることにした。

 

「全く……!!」

 

 アムロは少し気だるげにテレビのリモコンをテーブルへ放る。

 

「いつも、ティターンズの宣伝ばかりだよ」

 

「地球圏のテレビだからな……」

 

「偏りすぎだよ」

 

「見慣れてるか?」

 

「ああ……」

 

 二人の男達は笑いながら、巨大飛行挺「アウドムラ」の艦内でしばしの休息を楽しんでいた。


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