「ジャミトフ閣下からの親書は受け取ったよ」
「はい」
「御苦労であった。ユウ・カジマ君」
シロッコとユウは並んで立ちながら、地球圏と木星圏を往復する巨大輸送艦「ジュピトリス」から宇宙の景色を眺めていた。
「地球というものは美しいものであるな」
シロッコはそう言い、小さく見える地球に視線を向ける。
「私はその地球を守る為にティターンズへの協力は惜しまないよ……」
「なるほど……」
二人はしばし無言で地球を眺めている。
「シロッコ殿はニュータイプで?」
「そう言われている」
「ニュータイプがティターンズの思想に共感した……?」
「穿った見方だな……」
シロッコは少し肩を竦める。
「すみません……」
シロッコという人間から感じる妙なプレッシャーを少し疎ましく思いながら、ユウは言葉を続ける。
「ジャミトフ閣下が気にしていたもので」
「だろうな……」
ユウは少しだけ自分よりも背が高いシロッコを見ながら、頭を掻く。
「ティターンズはニュータイプには否定的ですのでね」
「ニュータイプはスペースノイドの哲学だからな」
「それでもティターンズへ協力を?」
「地球を愛する気持ちはニュータイプもオールドタイプも変わらんよ」
含み笑いをしながらシロッコはユウにそう言い、ジュピトリスからの宇宙の風景を眺める。
「ところでユウ・カジマ君」
「はい」
「君には家族はいるのかね?」
「ぶしつけですね……」
ユウは苦笑しながらシロッコの問いに答える。
「私は孤児でしたので」
「そうか……」
「なぜ、そんな事を聞くのです」
「いや……」
シロッコは少し微笑みながら答える。
「私も孤児であったからな」
「ふむ……」
ユウもシロッコと並んでジュピトリスの窓から見える宇宙を眺める。
「ニュータイプの直感といつ奴ですか?」
「そうかもしれんな」
少し首を傾げながらシロッコが頷いた。
ピリリリッ……!!
シロッコの腕時計が鳴った。
「食事の時間だな」
シロッコはユウの顔を身やる。
「君は昼食は?」
「遅くに朝食を取りましたので……」
「そうか」
シロッコは懐からカロリードリンクを取り出す。
「ここで食事を取っていいかな? ユウ・カジマ君」
「それが昼食ですか?」
ユウが少しからかうような視線を向ける。
「今日はこれから忙しいのでね……」
シロッコがカロリードリンクを少し微笑みながら振って、ユウの顔を見る。
「食事に時間をかけられない」
「どうぞ……」
「うむ……」
シロッコはカロリードリンクを口につけながらユウに唐突に聞く。
「君は世慣れをしているのか?」
「なぜ、そう見えます?」
「世の中の人間は」
シロッコが微かに口を綻ばせながら話し続ける。
「私と顔を合わすと、なぜか皆が謎のプレッシャーを感じるみたいであるからな」
「俺も感じてますよ」
「の、わりには」
シロッコは空になったドリンクを手にユウを顔を眺める。
「君は平常心を保っている」
「慣れているんですよ」
「私のような人間にか?」
シロッコの勘のよさに呆れながら、ユウは頷く。
「あなたのようなエリート意識のある人間と縁があるんですよ」
「エリート意識か……」
シロッコは苦笑する。
「ただ、私には他人に見えない物が見えているだけだよ、ユウ・カジマ君」
「そうですか……」
ユウは笑いながら肩を竦める。
「大変だよ……」
シロッコが薄く笑った。
「ジャミトフ閣下によろしくな、ユウ・カジマ君」
「はい」
ユウはシロッコと軽く握手を交わした。
「気になる人間だな……」
去っていくユウの後ろ姿を眺めながら、シロッコは一人呟く。
「オールドタイプであり、俗人でもある男なのにな」
シロッコは少し首を傾げたあと、ジュピトリスの会議室へ向かって行った。
破壊され漂流しているエゥーゴの小型輸送船を調査しながら、ユウは小声で呟く。
「シロッコ殿にニムバスに合わせてやりたかったな」
「あん?」
「何でもないよ……」
隣にいたフィリップにノーマルスーツ内で首を振るユウ。
「生存者はいないようだな」
「どうやら、モビルスーツを輸送していたらしいな」
ユウはフィリップと話しながら、艦内のハンガーへ入っていく。
「エゥーゴの新型かな……?」
ジム系機体の特徴であるバイザー状の頭部をしたその機体を見上げながら、ユウは呟いた。
「ユウ隊長」
船外活動をしているサラから通信が入る。
「こちらにも生存者はいません」
「了解」
「それと」
サラが話を続ける。
「いくつかモビルスーツの残骸があります」
「原形は止めているか?」
「ええ、かなり」
ユウはその言葉を聞きながら、少し考える。
「艦長にモビルスーツを回収すると伝えてくれ」
「はい」
サラからの通信を終え、目の前のモビルスーツを再び見上げる。
「持って帰るのか?」
「一応な……」
「シャープそうな機体だな」
モビルスーツの外見の感想を言いながら、フィリップがハンガーの他の場所を調べ始める。
「おい、ユウ」
フィリップが全く破損していないコンピュータを発見した。
「お宝かもな……」
ユウが技術士官のアルフの顔を思い浮かべながら呟く。
「こっちにも」
紙媒体の書類が詰まったケースをフィリップが指差す。
「思わぬ収穫かな?」
「アルフの奴が喜びようだぜ」
「ああ」
ユウはミリコーゼフ艦長へ通信を入れた。