夕暁のユウ   作:早起き三文

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第14話 大気圏激突

「パプテマス・シロッコ?」

 

ユウはティターンズの指導者であるジャミトフ・ハイマンに聞き返す。

 

「木星船団の船長だよ」

 

「ジャミトフ閣下……」

 

「閣下、は止めたほうが良いかな?」

 

少し白髪が増えたように思えるジャミトフはそう言い微笑む。

 

「君はティターンズではないからな」

 

「では大将……」

 

「やりずらいな……」

 

ジャミトフは少し肩を竦める。

 

「君に使者を頼みたい」

 

「なぜ自分に?」

 

「一応、君のモルモット隊は私の配下だろう?」

 

「ティターンズからの方が……」

 

「いないんだよ」

 

ジャミトフはそう言い、溜め息をつく。

 

「上手くあの男と話せる人間が」

 

「気難しい者なので?」

 

「傲慢なニュータイプらしいからな……」

 

ジャミトフが机の上の地球儀を指でつつきながら呟いた。

 

「何でいつも傲慢な男と……」

 

「縁があるんだろう」

 

ジャミトフがニヤリと笑う。

 

「傲慢なタイプの男と」

 

「命令でありますか?」

 

「もちろん」

 

その言葉にユウは少し苦笑いしながら承諾する。

 

「どのように会いに行けば……」

 

「もうじき、この地球圏に来るらしい」

 

「宇宙へ……?」

 

「君の部隊の小型ペガサス級で行けば良い」

 

「ブルーマリオンでですか……」

 

「ああ……」

 

ブルーという名前を聞いて、ジャミトフは少し顔を曇らせた。

 

「ジャミトフ閣下」

 

「なんだ?」

 

ユウは結局「閣下」という名称でジャミトフを呼んだ。

 

「自分の部隊に居たブルー少尉の事ですが……」

 

「どうやら君は」

 

ジャミトフが席から立ち上がり、窓の外の夕陽を眺める。

 

「彼女が私の娘だということを知っているようだな」

 

「彼女からは内緒だとは言われましたがね」

 

「フン……」

 

ジャミトフは夕陽から目を離さない。

 

「あの馬鹿娘はエゥーゴにいるとの情報がある」

 

「やはり……」

 

「知っていたか?」

 

「いえ、直接見た訳ではないので……」

 

ユウは少し顔をうつむかせる。

 

「仕方のないやつだ」

 

ジャミトフは軽くため息をつく。

 

「閣下も」

 

「何だ?」

 

ユウは無礼かなと思いながらもジャミトフに訊く。

 

「ひそかにご自身の娘様の事は調べておられるのですね」

 

「不祥事を起こされてはたまらんからな」

 

「もう起こしてしますでしょうに……」

 

「確かに」

 

苦笑しながらジャミトフは窓から離れて、椅子へ座る。

 

「まあ……」

 

机の上で手を組ながらジャミトフが微笑む。

 

「家庭の事情だからな……」

 

「さすがにそこまでは立ち入りはしませんよ……」

 

「ありがとう」

 

ジャミトフはそう言いながら、ユウに命令書の束を渡した。

 

 

 

 

「では、艦長」

 

ブルーマリオンの艦長であるミリコーゼフはそのシワだらけの顔を頷かせる。

 

「任せる」

 

「はっ!!」

 

ブルーマリオンが大気圏を離脱していく。

艦長は再び眠るように顔を伏せる。

 

「全く……」

 

操舵手のフェイブが半自動でブルーマリオンを動かしながら、艦長を呆れたようにみる。

 

「置物のような方だよ……」

 

「いいじゃない」

 

パイロットのシドレがフェイブの小声での愚痴に笑って答える。

 

「勝手にやらせてくれる」

 

「いざというときに大丈夫かな?」

 

「ユウ少佐がいるだろう」

 

シドレが傍らのサラにウインクをする。

 

「あの中年の方がよほど頼りない」

 

「まだ三十になったばかりでしょ?」

 

「充分オヤジよ……」

 

「フフ……」

 

相変わらずのサラの態度にシドレとフェイブは肩を竦める。

 

「ユウ少佐の事を信頼しておられるのよ」

 

通信士のミーリが口を挟む。

 

「だから艦長は置物をやっていける」

 

「何もしない事に価値があるのか」

 

「そうよ」

 

ブリッジからモビルスーツハンガーへの直通通路のドアが音を立てて開く。

ドアから出てきたニムバスが無駄話をしている三人へ近づく。

 

「あまり、変な内緒話はするんじゃない」

 

「ハッ!!」

 

金と銀で縁取られたパイロットスーツに身を包んだニムバスに三人は敬礼をする。

 

「大気圏の上空がなにやら荒れているようだ」

 

「エゥーゴやティターンズですか?」

 

「少し機体の様子を見ておけ」

 

「はい」

 

サラとシドレが頷く。

 

「うむ……」

 

派手な服装のニムバスは慣れない義足を動かしながらハンガーへと向かっていった。

 

「成金みたいなパイロットスーツねぇ……」

 

ミーリが呆れたようにニムバスの後ろ姿を見つめる。

 

「騎士だからねぇ……」

 

フェイブがニヤニヤと笑う。

 

「目立ちたいんだろうさ」

 

「時代錯誤な」

 

そう言うフェイブにサラが吐き捨てるように言い放つ。

 

「お前達、少し身を引き締めろ」

 

もう一人の通信士のアフラーが注意する。

 

「なにやら戦闘が起きておるな……」

 

ミリコーゼフ艦長の呟きにブリッジのクルーは少し顔を引き締め、持ち場へ戻った。

 

 

 

 

「エゥーゴとティターンズか?」

 

「連邦の部隊も少し混ざっているようだな」

 

大気圏上空の宙域で繰り広げられている大規模な戦闘を見ながら、ブルーマリオンは指定されたポイントへ艦を動かす。

 

「エゥーゴが大気圏へ突入するつもりなのかな?」

 

ユウがその大気圏上の戦いの戦線がブルーマリオンの方向へと接近してきたのに嫌な予感を感じながら、ニムバスに訊ねる。

 

「それよりも」

 

ニムバスが目視ですら確認できる戦闘中のモビルスーツの姿を見ながら呟く。

 

「戦闘に巻き込まれた時の事を考えた方が良いな……」

 

ニムバスが少し不器用に義足を鳴らしながらハンガーへと入っていく。

 

「だな……」

 

ミリコーゼフ艦長に後を頼み、ユウもニムバスの後をついていった。

 

 

 

ニムバスのギャプランがブルーマリオン周囲の空域を旋回して敵を威嚇する。ビームは放たない。

 

「ギャプランのこのスピードだけで威圧できるかな……?」

 

ニムバスは呟きながら白旗を持って浮上し、ユウのネティクスブルーへ声をかける。

 

「そのまま白旗を持ってブルーマリオンの上にいろ」

 

「無茶なやり方だ……」

 

ユウのネティクスブルーはブルーマリオンのブリッジ上方で巨大な白旗を持ちつつ、艦と速度を合わせる。

 

ギィン……!!

 

エゥーゴのジムの発展型とおもしき機体からのビームがネティクスブルーの近くを通りすぎる。

 

「言わんこっちゃない……」

 

「何とか護衛はしてやるよ」

 

「その機体ではなあ……」

 

フィリップのジムⅡがシールドを構えながらネティクスブルーの近くを旋回する。

 

「昔のボールで宇宙へ出たときの事を思い出すぜ……」

 

「俺はジムⅡを見るとサイコ・ジムを思い出す」

 

「どちらにしろ旧式か」

 

ユウとフィリップは声を上げて笑う。

 

「呑気ですねぇ」

 

艦からサラの呆れた声が聞こえる。

 

「あのな、サラちゃん」

 

サラに答えようとしたフィリップが近くをスルーパスしていったエゥーゴの物とおもしき金色の機体を呆れたように見る。

 

「何だ、ありゃあ……」

 

「もしもーし?」

 

「成金がエゥーゴのパイロットにいるのかな?」

 

「おーい?」

 

サラがフィリップに声をかけ続ける。

 

「ああ、そうだった」

 

「女の子を無視するなんて」

 

サラがむくれたようだ。

 

「ええと、そうだ、サラちゃん」

 

「何です?」

 

「いざとなったらサラちゃんとシドレちゃんにも出てもらわなくてはいけないんだから」

 

「おとなしくしてろって事ですか?」

 

「ユウとニムバスが苦労してんだよ……」

 

「はいはい……」

 

サラの言葉を尻目にフィリップは軽くため息をつく。

 

「最近の若い者は……」

 

「うわっ!!」

 

フィリップの愚痴をよそにネティクスブルーの近くを再びビームが飛ぶ。

ユウ機に僅かにビームがかする。

 

「そこの青い艦!!」

 

連邦の艦とおもしきサラミス級に所属している機体からユウに通信が入る。

 

「何をやっているか!?」

 

「巻き込まれたんだよ!!」

 

ユウがその女性パイロットに怒鳴りかえす。

 

「我々の援軍ではない?」

 

「使節だよ、単に」

 

「悠長な奴等だ……」

 

その旧式の改修機とおもしき赤いモビルスーツが率いる部隊はブルーマリオンに接近するエゥーゴの機体に威嚇射撃を行う。

 

「ティターンズにいいように使われる同軍のよしみだよ……」

 

「助かるよ……」

 

その連邦軍の部隊による威嚇攻撃でエゥーゴの攻撃目標がブルーマリオンからそのサラミス級の部隊へとそれていったようだ。

 

「ふう……」

 

女性パイロットとの通信を切ったユウは軽く一息をついた。

 

ドウゥ!!

 

エゥーゴの物とおもしき白いガンダムタイプの機体がブルーマリオンへ衝突する。

 

「ダメージコントロール!!」

 

ブルーマリオンでミリコーゼフ艦長が指示を出す。

 

「非戦闘艦にぶつかった!?」

 

少年ともとれるガンダムタイプのパイロットからの苛立つような声が上がる。

 

「よそ見をするとはな、カミーユ君!!」

 

ティターンズカラーである紺色に塗装された大きなヘルメット形の頭部が特徴的なティターンズの機体のパイロットが叫ぶ。

 

「あんたは話が解るティターンズだと思っていたけどな!! サマナ!!」

 

「君みたいな子供がエゥーゴで戦うんじゃない!!」

 

「子供だと!!」

 

ガンダムのパイロットが激昂する。

 

「童顔の大人がよく言う!!」

 

「礼儀のない子供だ!!」

 

言い返すサマナ機に、ブルーマリオンを蹴りながら白いガンダムはビームライフルを放つ。

 

「マラサイは高性能であるよ!!」

 

マラサイと言う名前らしいティターンズの機体は身軽にビームを回避したあと、ふとガンダムがぶつかった艦を見て驚きの声を上げた。

 

「ブルーマリオン!?」

 

「久しぶりだねぇ、サマナちゃん」

 

フィリップのジムⅡが呑気に手を振る。

 

「フィリップさん!? 何遊んでいるんですか!?」

 

「仕事だよ…… サマナ……」

 

ユウから何か疲れたような声がサマナ機へ飛ぶ。

 

ギィーン!!

 

サマナ機へエゥーゴのリック・ディアスからビームが連射される。

 

「ああん!?」

 

そのビームを放ったリック・ディアスの女性パイロットから驚愕の声が響く。

 

「ブルーのマリオン!?」

 

「ブルー!?」

 

「ブルーちゃん!?」

 

「ブルーさん!?」

 

旧モルモット隊のメンバーの声が一斉に重なった。

 

「え? だって、ユウ達は連邦のはずでしょ?」

 

「なにやってんだよ!! ブルーさん!!」

 

エゥーゴの白いガンダムからサマナ機へ再びビームが疾る。

 

「よそ見している場合ではないでしょうに!!」

 

「だって、カミーユ君!!」

 

ブルーは白いガンダムのパイロットに叫びながら、そのリック・ディアスをブルーマリオンから僅かずつに後退させようとする。

 

「そうだよ!!」

 

ティターンズの別のマラサイがビームサーベルを構えながらガンダムへ突進する。

 

「よそ見をするな!! サマナ!!」

 

「すまない!! ジェリド!!」

 

ジェリドのマラサイが白いガンダムと切り結ぶ。

 

「ぶん殴られた借りを返すぜ!! カミーユ!!」

 

「いつまでも昔の事を!!」

 

「一方的に殴られてむかっ腹の立たない奴がいるか!!」

 

「執念深い奴!!」

 

ジェリド機のキックをカミーユは軽く受け止める。

 

「手伝え!! サマナ!!」

 

「少しは先輩に敬語を使え!! ジェリド!!」

 

「こんな状況で昔話に花を咲かせている人間に何で敬語を!!」

 

ジェリドの言葉にグッと言葉が詰まるサマナ。

 

「どうにも頼りない先輩だ……!!」

 

「わかったよ!!」

 

ジェリドに愚痴を言われたサマナは、律儀にマラサイの頭部をユウ機へ頭をたれるように傾けてから、エゥーゴとの戦いの戦列に戻る。

 

「ユウ!! もしかしてあなたはティターンズに!?」

 

少し離れた宙域からブルーのリック・ディアスの少し怒ったような声がユウにかけられる。

 

「違う!! ニアミスだ!!」

 

「遊びに来た!?」

 

「そんなわけがあるか!!」

 

頭痛がしてきたユウは白旗をバッサバッサと振り回しながらブルーへ答える。

 

「隊長の昔の女か?」

 

「ロミオとジュリエットかな?」

 

艦内から無責任なサラとシドレの声がした。

 

「うるせえ!!」

 

謎のストレスで胃まで痛くなったユウが艦内待機のパイロットに怒鳴る。

 

「何をやっているか!!」

 

呆れた声のニムバス機がそのスピードと体躯でブルー機を威圧する。

 

「とにかく下がれ!! ブルー!!」

 

ニムバス機から威嚇射撃がブルー機へ飛ぶ。

 

「ごめんなさい!!」

 

ニムバスの声にブルー機が艦から離れていく。

 

「全く……!!」

 

騒ぎを起こしたため、周囲にやってきたエゥーゴとティターンズの部隊を苦々しげに見つめるフィリップ。

 

「シロッコさんとやらのいる艦はどこにいるんだ?」

 

「向こうからコンタクトがあると……」

 

フィリップにユウは答えながらも、周囲に密度を増してきた弾幕を憂鬱そうに見やる。

 

バァフォ!!

 

ブルーマリオンの近くのエゥーゴ機が吹き飛んだ。

 

「またティターンズか!?」

 

ユウの目前にギャプランとは違う可変モビルアーマーが接近する。

その機体は巨体に似合わぬ素早い動きで可変し、エゥーゴの機体を切り裂く。

 

「ん……!?」

 

ユウはそのモビルアーマーの高性能さに目を奪われたが、次の一瞬、そのモビルアーマーの周囲が虹色の空に包まれたのを見た。

 

「何だ……!?」

 

そして次の瞬間、その機体の周囲の空域が漆黒に包まれた。

 

「宇宙よりも暗い闇……!?」

 

ユウはそのモビルアーマーの性能よりもその「宇宙の色」に目を奪われる。

 

「ブルーマリオンだな?」

 

その可変モビルアーマーのパイロットから若い男の声がした。

 

「もしかして……」

 

「パプテマス・シロッコだ」

 

そのモビルアーマーがブルーマリオンの先頭につく。

 

「先導する。付いてきてくれ」

 

「ああ……」

 

ユウはミリコーゼフ艦長に伝えながらも、先ほど見た宇宙の色を思い浮かべる。

 

「万色にして、漆黒の宇宙の色か……」

 

ユウは前方のモビルアーマーに目を向ける。

 

「しかし……」

 

ユウは何か別の物をそのモビルアーマーのパイロットから感じた。

 

「懐かしい……?」

 

ひとりでにユウの口からその言葉が走った。

 

「簡易型サイコミュの故障かな?」

 

ネティクスブルーのサイコミュが故障したかと思いながら、ユウは自機をパプテマス・シロッコの機体へと追従させていった。


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