「だからなあ……」
「俺のせいじゃあない」
「わかっているよ……」
ブツブツ言いながらフィリップのアッシマーがユウのネティクスブルーを運ぶ。
「スーパーマグネットで落ちるとは思えないが」
「ネティクスの重さでアッシマーがヒイヒイ言っているぜ……」
フィリップの愚痴にユウは苦笑する。
「隊長は大変ですねぇ」
ユウ達の後方を飛ぶジムⅡから皮肉げな声が響く。
「私は体重が軽いから……」
「そうでもないよ、サラ」
サラと呼ばれたパイロットの機体を乗せたアッシマーからも苦情がくる。
「アッシマーの出力が落ちている」
「なんとかしなさい、シドレ」
「こればっかりは……」
後方のアッシマーはそう言いながらも少しスピードを上げる。
「生意気な小娘だぜ」
「サラが?」
「そうだろうに……」
フィリップが全天視界モニターの後方に目をやりながらぼやく。
「よくこんな若いのがパイロットになれたな」
「ニュータイプらしいからな」
「ニュータイプ、ニュータイプと……」
「ブームだからなあ」
「俺たちオールドタイプの立つ瀬がないっての」
「そうだな……」
ユウも若い新人パイロット達の姿を見ながらどこか他人事のように呟く。
「時代の流れか……」
「ついていけねぇな……」
ユウとフィリップ、二人のベテランはそろって溜め息をつく。
「このアッシマーと言い、ネティクスとやらと言い……」
「昔のブルーディスティニーとかの比ではないな……」
「一年戦争時のジムで戦ったら、一瞬でスクラップだぜ」
フィリップのぼやきは止まらない。
「隊長達は古い人間ですね」
「サラ……」
はっきりと言い放つサラをシドレがたしなめる。
「確かに生意気だな」
「だろ?」
ユウ達が笑う。
「ふん……」
サラはへそを曲げてしまったようだ。
「ん?」
ギィーン……!!
「狙撃だと?」
ネティクスブルーの横を通りすぎたビームを尻目にユウが眼下の雲に目をやる。
「だめだ、見えない」
「降下するか?」
再びビームが飛ぶ。
「おっと!?」
シドレが巧みにアッシマーを動かしてよける。
「もう少し丁寧に!!」
「うるさい!!」
サラに怒鳴りながら、シドレはユウに指示をあおぐ。
「敵は少ないと思います」
サラが強く口調でユウに告げる。
「ニュータイプの勘か?」
「そう受け取ってもらっても構いません」
「ふむ……」
ユウは少し考え込む。
「カラバかな」
「エゥーゴの地上組織か」
フィリップが呟く。
「仕方がない」
ユウはシドレに少し降下して様子を見ると告げた。
「テスト飛行だからな」
「本格的な交戦は避けろと?」
「ああ」
シドレにユウはそう言いながら、雲の中へ降下を始めた。
「降りてきたか?」
ハイザックのスナイバーライフルを少し下ろしながらカラバのパイロットは呟く。
「どうするかな……」
いたずら半分で手を出してしまった事を少し後悔しながら、そのパイロットは首を傾げた。
「まあ、いいか」
再びライフルを構え始めた。
周囲の狙撃用モビルスーツ達も武器を構え始める。
「カラバのようだなぁ」
ユウは首を傾げながら米粒のように見える眼下のモビルスーツ部隊に目をやる。
「スルーパスするか?」
「うむ……」
ユウとフィリップが相談する。
「頼りない」
「だからね、サラ……」
不満げなサラを気遣うシドレ。飛んできた一条のビームを軽やかにかわす。
「不明機の姿だけは見よう」
「偵察か」
ユウの言葉にフィリップが頷く。
「フン……」
「何だよ、小娘」
「べつに……」
全く反りが合わないサラにフィリップは鼻を鳴らした。
「どうする、オグス?」
カラバの狙撃部隊のモビルスーツが隊長に声をかける。
「相手の数は少ない」
「うん……」
オグスは少し考えてから答える。
「やっぱり、止めとこう」
オグスがそうきっぱりと言った。
「上を取られてはまずい」
「だな……」
オグスは部下に地下の通路へ避難するように伝える。
「俺も収容所暮らしで勘がにぶったかな?」
苦笑しながらオグスのハイザックは地下通路へ走っていった。
「逃げていったようだな」
地表が見える辺りまで下降したユウ達の前で敵と思わしきモビルスーツ達が地下へ逃げていった。
「どうする?」
「何が?」
「ティターンズにでも伝えるか?」
「ほおっておけ」
ユウが事も無げに言い放つ。
「俺たちは連邦軍だ」
ユウはフィリップ達に再び上昇するように言う。
「ティターンズにもエゥーゴにも肩入れはしたくない」
「日和見な事で」
サラが小馬鹿にしたように言う。
「サラ!!」
シドレが頭を抱えながらサラを叱る。
「すみません、隊長……!!」
「シドレちゃんは良い子だねぇ」
フィリップが感心したように口笛を吹く。
「それにしても全く……」
「ティターンズにエゥーゴ」
「それにニュータイプとやらかよ……」
ユウとフィリップは再び深い溜め息をつく。
「連邦軍のオールドタイプはつらいなあ、フィリップ……」
「情けない人達……!!」
「三十過ぎのロートルの愚痴ぐらい言わせてくれよ……」
とかく生意気なサラに昨日で三十の誕生日を迎えたユウが苦笑しながらそう答えた。
「俺たちがニュータイプ?」
アルフにユウが怪訝そうな顔で聞き返す。
「脳波データから」
アルフは資料を見せる。
「微弱ながら、ニュータイプが発する脳波が検出されている」
「実感はないねえ……」
フィリップが首を傾げる。
「ブルーの毒の後遺症かもしれんな」
アルフがニヤリと笑って言う。
「まさに呪いだな……」
ユウが顔をしかめながらそう呟いた。
「ニムバスの旦那はどうなんだ?」
「アイツは特別だ」
アルフが真面目な顔で答える。
「かなりの強化人間処置をうけているにも関わらず」
アルフが眼鏡を少し持ち上げる。
「強化人間の被験者によく出てくる精神面での不安定さが全くない」
「あいつはEXAMにも完全に適応出来ていたからな……」
「あいつからもニュータイプの脳波が検出されている」
「強化人間とは別の?」
「ああ」
ユウの問いにアルフは黙って頷く。
「本当になぁ……」
フィリップが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ブルーの毒、EXAMの毒とやらに冒されているのかいな……」
「真面目に俺はそう思い始めている」
「やれやれ……」
アルフの顔を見ながらフィリップは深く息を吐く。
「マリオンか……」
ユウは全ての因縁の元となった少女の名前を呟いた。
「早いところ、除隊してパン屋を開きてぇな……」
「サイン入りの契約書があるぞ」
「忌々しいぜ……」
フィリップは本当に嫌そうな顔をする。
「それだけが楽しみでこんな仕事してんのによ……」
「あれ……?」
「どうした、ユウ?」
おかしな声を上げたユウをフィリップがじっと見る。
「あ、いやなんでもない」
「ふぅん……」
フィリップはしばらくユウの顔を見ていたが、食事をしてくると言って部屋を出ていった。
「ユウ?」
アルフが首を傾げているユウに声をかける。
「俺は何のために連邦軍に入ったんだっけ……?」
「はあ?」
アルフが呆れたような声を出す。
「何で俺は今も連邦軍にいるんだ……?」
「大丈夫か? ユウ?」
心配そうなアルフに答えずにユウはしばらく黙って考えこんでいた。