夕暁のユウ   作:早起き三文

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第10話 星の屑の欠片

「ついにユウのワガママっぷりにこの機体もついていけなくなったか」

 

「言わないでくれよ……」

 

オーバーヒートを起こしかけたユウのサイコ・ジムをニヤニヤと笑いながらフィリップが見つめる。

 

「次世代機が凄いスピードで開発されているよ」

 

ランプライトから下りたニムバスがユウに話しかける。

 

「すでにサイコ・ジム、いやジムⅡですら旧式と見なす動きがある」

 

「早すぎるぜ……」

 

「ランプライトもそうだ」

 

フィリップの呆れた声にニムバスが笑いながら頷く。

 

「私はギャプランのテストもさせられていてな……」

 

「ランプライトの正式採用の機体か」

 

「従来の機体と隔世の感がある」

 

「ご立派なもんだ」

 

フィリップが軽く嫌みを言う。

 

「宇宙は荒れているらしいな……」

 

ニムバスの言葉にブルーが頷く。

 

「ジオン残党が活発化しているわ」

 

「あのレッド・ジオニズムとやらもか?」

 

「デラーズ・フリートの使い走りをしているみたい」

 

「そうか……」

 

ブルーの言葉にニムバスはどこか遠い目をしている。

 

「ジオンの理想か……」

 

「お前さんには無縁だったんだってな」

 

「皮肉か?」

 

「いや……」

 

ニムバスに対してフィリップが肩を竦める。

 

「少しあんたに興味がわいてきた」

 

「それはどうも……」

 

「あんたは騎士道とやらをやりたいのか?」

 

「どちらかと言うと」

 

フィリップの問いにニムバスは少し考えながら答える。

 

「自分が一番強くなりたいのさ」

 

「傲慢だねぇ」

 

「だから騎士ができる」

 

「ロマンチックな奴だな」

 

少し馬鹿にしたように笑うフィリップにニムバスがニヤリと口を歪める。

 

「戦いは騎士だけではできん」

 

ニムバスは自機のランプライトを見やりながら微笑む。

 

「雑兵が必要だ」

 

「騎士様は言ってくれるねぇ……!!」

 

そう言いながらも別にフィリップはニムバスの言葉に悪い感情は抱かなかったようだ。

 

「俺たちは仲間か?」

 

「騎士とその従者であるよ」

 

「従者にもいい目を見させてくれよ?」

 

「もちろんだ」

 

二人の男は笑いあった。

 

 

 

「ティターンズへの誘いを受けたんだって?」

 

「ええ」

 

ユウの問いにサマナは少し複雑な顔をして答える。

 

「どうしようか迷っている所です」

 

「フーン……」

 

困惑している顔のサマナにフィリップが少しつまらなそうに呟く。

 

「何か、最初は単なる環境保護団体だと思っていたがねぇ」

 

「ほとんど軍隊と変わらないそうよ」

 

「必要なのかね……」

 

フィリップのぼやきにブルーは肩を竦める。

 

「私の所属しているオーガスタの研究所も」

 

ニムバスがランプライトを触りながら会話に入る。

 

「ティターンズが成立したら協力するらしい」

 

「なんだかなぁ……」

 

フィリップが不機嫌そうにタバコを揉み消す。

 

「大丈夫なのかね……」

 

「気持ちは分かる」

 

ユウがフィリップに同意する。

 

「だが、世の中が本当に荒れてきた」

 

「観艦式がメチャクチャになったんだって?」

 

「ジオンの残党の強襲を受けたらしいな」

 

「いやだねぇ……」

 

「全くだ」

 

ユウとフィリップがそろって溜め息をつく。

 

「休憩が終わったら」

 

ブルーがサイコ・ジムを指差す。

 

「もう一度模擬戦をやる?」

 

「このサイコ・ジムのデータも充分取れた」

 

「では……」

 

「あっいや……」

 

ブルーに対してユウは慌てて首を振る。

 

「近い内にお別れになるかもしれないという意味だよ」

 

「乗り納めか?」

 

「そうしたいなぁ……!!」

 

ニムバスにユウが軽い口調で答えた。

 

「はっきり言わない男達ねぇ……」

 

ブルーは呆れたように言うと、短い髪に手を突っ込みながら、サイコ・ジムのコクピットへと乗り込んだ。

 

「何だ!?」

 

「あれ!?」

 

コクピット内のユウとブルーが同時に声を上げる。

 

「どうした?」

 

フィリップがユウのサイコ・ジムに近づく。

 

「まて、フィリップ!!」

 

ニムバスが険しい顔で何か周囲を見渡している。

 

「まさか、こんなところへ敵か!?」

 

「いや、違う……!!」

 

ニムバスが何やら冷や汗をかいている。

 

「ブルーマリオン!!」

 

ユウ機から母艦へと通信が入る。

 

「何かあったのか!?」

 

「何だ!?」

 

通信士のアフラーがユウに返答する。

 

「何も起こっちゃいないぜ!?」

 

「そんなはずは!!」

 

ブルーもアフラーに食って掛かる。

 

「もう少し調べて!!」

 

「調べるって何を……」

 

アフラーが文句を言う。

 

「どうしたんですか? 三人とも……」

 

サマナが怪訝そうな顔をした。

 

「上だ!!」

 

ニムバスが叫ぶ。

 

「何!!」

 

フィリップとサマナがよく晴れた青空を見上げる。

 

「何も見えねぇぞ……!!」

 

「こちらブルーマリオン!!」

 

ヘンケン艦長が怒鳴る。

 

「ユウ達!! 早く艦内に避難しろ!!」

 

ヘンケン艦長が言う前にすでにユウとブルーはサイコ・ジムのコクピットから飛び降りていた。

 

「何が起こった!!」

 

フィリップが苛立たしげに怒鳴る。

 

「空が……!!」

 

ユウが見上げている空が裂かれていく。

 

「スペースコロニー……!!」

 

宇宙から雲を切り裂いて落ちてくるスペースコロニーをモルモット隊の者達は呆然としか表情で見つめていた。

 

「早く!! ブルーマリオンに退避を!!」

 

ミーリが必死の形相で叫ぶ。

 

「ニムバス!!」

 

片足のニムバスをフィリップが支える。

 

「早く!!」

 

サマナが担架をブルーマリオンから持ってくる。その担架にニムバスを乱暴に乗せ、フィリップとサマナが急いでそれをブルーマリオンの中へと運び込む。

 

「すまない……!!」

 

「気にすんなよ……」

 

顔を歪めるニムバスにフィリップが答える。担架についてくる形でユウとブルーが走る。

 

「全員入った!!」

 

「ドアを閉めろ!!」

 

ヘンケンの言葉と同時にハッチが閉じられていった。

 

「全員身体を伏せて踏ん張れ!!」

 

ヘンケン艦長が艦内放送で伝達する。

 

「モビルスーツがな……!!」

 

「こんなときに何を言ってるの!! バカ!!」

 

置き去りにしたサイコ・ジムやランプライトを気にしているユウに対してブルーが怒鳴る。

 

ズゥウウウウウゥ……!!

 

大地が震えると同時に衝撃波がブルーマリオンを襲う。

 

「くそっ!!」

 

ユウは飛んできた小物にぶつかりながら、隣のブルーを庇う。艦が横転しかかる。

 

「ええい!!」

 

操舵手のサエグサが危険を省みずにコントロールバーに飛びかかる。

 

「何をやっている!?」

 

「逆噴射ですよ!!」

 

サエグサはどうにかしてブルーマリオンの姿勢を直そうとした。艦の左舷から制御スラスターが噴出される。

 

「ちぃ!!」

 

ヘンケン艦長がサエグサに向かって飛んできた椅子を身体を張って止める。

 

「もう大丈夫です」

 

スラスターを固定させたサエグサは計器類に目をやる。

 

「誰か余裕のあるものは外に目をやるなりモニターを見るなりしてくれ!!」

 

身体の痛みに耐えながら、ヘンケン艦長は艦内に通達をする。

 

「コロニー落とし……!!」

 

ミーリが震えながら遥か遠くの大地に突き刺さったコロニーを指差す。

 

「通信が復活しました」

 

通信士のアフラーが連邦司令部からの通信回線の内容を艦内に流しはじめた。

 

 

 

「これがコロニー落としを受ける側の気持ちか……」

 

「そうだよ、元ジオンの騎士様」

 

艦内に流れる通信を聞きながら、フィリップがニムバスを軽く睨む。

 

「デラーズ・フリート……!!」

 

サマナが通信で流れてきたコロニー落としを実行した組織の名前を呟く。

 

「これがジオンの残党のやり方か……」

 

サマナの言葉にフィリップもニムバスも無言でいる。

 

「すまんな……」

 

ニムバスがどういう心境か、誰に向けたかも解らずにその言葉を呟いた。

フィリップもサマナもその言葉に何も答えない。

 

「各員、無事な者はブリッジに集合せよ」

 

ヘンケンからの通達が響く。

 

「お前はここで……」

 

「いや、私も行く」

 

止めようとしたフィリップをニムバスは遮った。

 

「戦争の始まりか……?」

 

ブリッジへ向かう最中にフィリップは一人呟く。救護班が艦内を駆け廻っている足音が聞こえた。


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