(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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22話 掛け替えのない日常

「それではみなさん、事件の解決、お疲れ様でした」

 

 ボースを騒がせた怪盗Bが起こした事件は民間人に知られることなく収束した。

 ロレントと帝国遊撃士の協力のおかげでヴァレリア湖に沈められていた最後の銃器を見つけられたのは事件発生から五日後。

 奇しくもその日はリィンが目を覚ました翌日のことだった。

 そして今、リィンを含めた事件解決に奔走した遊撃士たちはボースの高級レストラン『アンテローゼ』を貸切にして労いを受けることになった。

 

「かんぱーいっ!」

 

「いえーいっ!」

 

 シェラザードと帝国遊撃士、サラ・バレスタインの二人はメイベル市長の挨拶が終わると解き放たれたように杯を鳴らし合った。

 飲む前から出来上がっているのではないかと思うほどのテンション。

 それほどまでに後半の怪盗Bの謎かけはストレスのようだった。

 もっとも、そんなハイテンションはその二人に限った話ではなかった。

 

「さあ、食べるよっ!」

 

 そう意気込んだアネラスはバイキング形式で並ぶ様々な料理に突撃して行ったかと思うと、山盛りにした皿を抱えて戻ってきた。

 

「アネラスさん、病み上がりでそんなに食べるのは身体に悪いんじゃないですか?」

 

「そんなことないよ。むしろちゃんと食べないと身体は治らないよ」

 

「そうかもしれないですけど……」

 

 鬼の力を暴走させてからずっとまともに食事を摂っていなかっただけにリィンの腹は空腹を訴えている。

 食欲はあるのだが、リベールに来てオリビエに連れ込まれた店のせいなのか、何故か尻込みをしてしまう。

 

「ほら、弟君も遠慮なんてしてないでたくさん食べないと。こんな高級料理を食べられる機会なんて滅多にないんだから」

 

「……分かりました」

 

 アネラスに促されてリィンは渋々と頷く。

 

「アルティナは何を食べたい」

 

「ん……」

 

 それでも最初にアルティナを優先して、まずは彼女の食べたいものを取り分けていく。

 そこにメイベルが声をかけた。

 

「リィン君。楽しんでるかしら?」

 

「メイベル市長。ええ、自分やアルティナまで招待してくれてありがとうございます」

 

「いいのよ。それに私は場所を提供しただけで、今日の支払いはモルガン将軍が出してくれるそうですから」

 

「そうなんですか? でも軍の方は誰もいないですよね?」

 

 会場を見回してみても、将軍の姿はもちろん軍人は一人も見当たらない。

 参加しているのは、遊撃士たちの他はメイベル市長や事件解決に協力してくれた民間人が少しいるくらいだった。

 

「ええ、まだ今回の事件で協力してくれた軍人さんたちも回収できた銃火器の点検と確認があるからってすぐにハーケン門に戻ってしまったし……

 それにまだ軍内部での事件が解決してないみたいで忙しいみたいなの」

 

「てっきり、その内部工作も怪盗Bの仕業かと思ったんですけど、違うみたいですね」

 

「そうね……定期船失踪事件といい、今回の事件といい、大事にならないといいんだけど」

 

 ため息を吐くメイベルにリィンは申し訳なくなって頭を下げた。

 

「すいません。聞けば怪盗Bの目的は俺だったわけですから、俺さえいなければそもそもこんな事件は――」

 

 俯いて後ろめたさを言葉にするとメイベルは下げたリィンの頭を優しく撫でた。

 

「それは違うわリィン君」

 

「でも……」

 

「相手は怪盗と猟兵。そんな人達が言ったことを鵜呑みにしない方がいいわ」

 

「それは……」

 

「確かにリィン君の力に興味があって、今回の事件を引き起したのかもしれないけど……

 帝国で起きた遊撃士襲撃事件に便乗した別の猟兵がリベールに来るかもしれないことは、軍や私たちも十分に警戒していたの……

 なのに陽動に引っかかってボースを手薄にしてしまったのは私達の落ち度よ……」

 

「メイベル市長……」

 

「それにリィン君が目的だったとしても、その後に気まぐれで猟兵が略奪を起こさない保障はなかった……

 だからねリィン君。ボースの街を守ってくれてありがとう。でも、一人で飛び出したのは反省しなさい」

 

「はい……すいませんでした」

 

 最後に刺された釘に改めてリィンは頭を下げた。

 

 

 

 

「気は進まないが、早めに挨拶した方がいいか」

 

 アルティナの分の料理を取り、今度は自分の分を物色していたところでリィンは隅の方のテーブルが目に入った。

 リィンは躊躇いを感じながらも足を向ける。

 

「やあリィン君。久しぶりだね。また少し逞しくなったようで何よりだよ」

 

 近づいてきたリィンにまずはオリビエが気付き、声をかけてきた。

 

「オリビエさん、お久しぶりです。シェラザードさんも」

 

「ええ、久しぶりね」

 

 ワイングラスを傾けながらシェラザードも上機嫌で応える。

 ロレントからの援軍としてきたシェラザードとそれに便乗してきたオリビエ。

 以前にリィンがロレントへ赴いて以来になるが、二人とも変わりはないようだった。

 そして、リィンは初めて会う彼女に向き直る。

 

「初めまして、俺はリィン・シュバルツァーといいます」

 

「サラ・バレスタインよ。帝国で遊撃士をしているわ」

 

 互いの自己紹介を済ませ、改めてリィンは三人に頭を下げる。

 

「倒れた俺をみなさんが運んでくれたんですよね? ありがとうございました」

 

「お礼なんていいわよ。むしろ頭を下げるのは私達の方よ」

 

 そんなリィンに、むしろ頭を下げるのは自分達の方だとシェラザードは言った。

 

「民間人の保護は遊撃士の仕事……

 例え、怪盗や猟兵の目的があなただったとしても、私達は事前にそれを察知してリィン君を守るように立ち回るべきだったのよ」

 

「そうね。相手が悪かったっていうのもあるけど、カシウスさんがいないリベールの遊撃士だとこんなものかもしれないわね」

 

「言ってくれるじゃない。『紫電』」

 

「あら、事実じゃない『銀閃』」

 

 ふふふっとシェラザードとサラは睨み合って笑い合う。

 と、二人は同時にグラスを一気に呷る。

 

「「ぷはーっ!」」

 

「ははは、二人とも良い飲みっぷりだ。さあ、もう一杯」

 

 二人がグラスを空にすると、すかさずオリビエが空いたグラスに新しい酒を注ぐ。

 

「はぁ……タダ酒最高っ!」

 

「面倒な仕事押し付けやがってと思ったけど、珍しく気の利いた報酬をくれるじゃないのあの頑固爺も」

 

 お酒好き同士で気が合うのか、すでに長年の友人のような気安さが二人の間にはできていた。

 

「二つ名を持っているってことはサラさんも高ランクの遊撃士なんですか?」

 

「高ランクも何も、こいつは史上最年少でA級遊撃士になった実力者よ」

 

「それはすごいですね。A級といえばカシウスさんやアリオスさんと同等のランクですよね?」

 

「同等? カシウスさんは――っと何でもない」

 

 サラは何かを言いかけるが、口をつぐむ。そして誤魔化すように話題を変えた。

 

「それにしても写真よりもずっと良い顔してるじゃない」

 

「写真? 何のことですか?」

 

「大したことじゃないわよ。シュバルツァー家からの捜索依頼を受けて、貴方の足取りを追っていたのがあたしなのよ」

 

「そうだったんですか」

 

「ええ。あの後、ギルド襲撃事件が各地で起きてあたしも襲撃されたりして、正直ここで預かってもらって正解だったわ」

 

「聞けば、随分と大事になったみたいですね?」

 

「まあね……その事件を裏で糸引いていた奴を追ってリベールに来たんだけど、撒かれちゃったのよね」

 

「あら、紫電を撒くなんて、相当な手練みたいね」

 

「達人級だったのは間違いないけど、まったくリベールに来たと思ったらその日の内に帝国に戻るなんて何がしたかったんだか」

 

 愚痴をもらしながら、溜飲を下げるようにサラはさらにお酒を飲む。

 

「そういえばリィン君はカシウスさんに会いにリベールに来たのよね?」

 

「そうですけど?」

 

「実はそのカシウスさん。帝国にいたのよ」

 

「え?」

 

「ちょっとサラ、それ本当なの?」

 

「おやおや、行き違いになってしまったようだね」

 

「ええ、でも……」

 

 言葉を濁すサラにリィンは首を傾げる。

 

「事件が解決したらふらりとどっかに行っちゃったのよね」

 

「そうですか」

 

「でも、事件が解決したのならその内に帰って来るでしょ……

 手紙にも女王生誕祭頃に帰るって書いてあったんだし心配はいらないでしょ」

 

「なかなかすごい人だったわね……渋さは少し足りなかったけど、一見すると軽薄。でも懐の深さはちょっと測り切れなかったわね……

 ちょっと好みとは違うけど、ときめいちゃったわ」

 

 そんな風にまるで乙女のようにうっとりとするサラにリィンは首を傾げる。

 

「確か……カシウスさんって四十過ぎてましたよね?」

 

 十年前の戦争の時には軍に所属していた。

 それに加えて十六歳の娘がいるのだから年齢でいえば相当開きがあるはず。

 

「ええ、そうよ」

 

「どうやらサラ君は年上が好みのようだね。どうだい今夜ボクと素敵な夜を過ごさないかい?」

 

「うーん……あと十年したら考えてあげる」

 

 やんわりとサラはオリビエの口説きを断る。

 

「それでどうするリィン君?」

 

「どうするって何がですか?」

 

「このままあたしと一緒にユミルに帰る? 今なら安全に送ってあげられるけど」

 

「いえ、せっかくなのでカシウスさんと会うつもりです……それにまだ記憶も戻ってませんから」

 

 リィンがリベールに残った一番の理由は空賊事件で失った記憶が原因でもある。

 結局、あの日の夜のことを思い出すことはなく、記憶を消した何者かが接触して来る事もなかった。

 それに今はアルティナの世話などの仕事もあるから、すぐにユミルに帰るには抵抗がある。

 

「ふーん……そっか……ところでリィン君」

 

「はい? 何ですか?」

 

「超帝国人って何?」

 

「ななな、何でそれをサラさんが知っているんですかっ!?」

 

 全く予想していなかったその言葉にリィンは慌てふためく。

 

「実は怪盗Bが君をそう呼んでいたのよ」

 

「どうして怪盗Bがそれを知っているんですかっ!?」

 

「さあ、そこまでは私も分からないけど……で、超帝国人とはいったい何のことかしら?」

 

「し、知りません」

 

 と否定はして、すぐにその場を離れようとするがオリビエの手がその肩を掴んで止めた。

 

「まあまあ、リィン君なにもタダで教えてくれなんて言わないよ」

 

「何をするつもりですか?」

 

 警戒するリィンにオリビエは笑みを浮かべ――

 

「お願いします、ご主人様☆ どうか教えてくださいませっ」

 

 リィンは沈黙した。

 

「あれ、外したかな? それじゃあ、お次はこれだ」

 

「アニキー! 一生のお願いじゃあああっ! どうか教えてくれぇぇい!」

 

 床に膝と手をついてドスの利いた声を聞いたリィンは頭が痛くなってくる。

 そして今度は上目遣いでオリビエはリィンを見上げる。

 

「お兄様、一生のお願いです」

 

「オリビエさん……」

 

「これも違うか。それならお兄ちゃん、兄さん、兄上、兄様――」

 

 その言葉が出た瞬間、空気が変わった。

 

「オリビエさん……」

 

「は、はいっ!」

 

 静かなリィンの言葉にオリビエは震え上がって背筋をピンと伸ばす。

 

「いい加減にしないと怒りますよ」

 

「すいませんでしたっ!」

 

 オリビエは土下座をした。

 笑顔で忠告しただけだというのに、過剰な反応をするオリビエにリィンは相変わらずかと嘆く。

 

「それじゃあ俺はこれで」

 

「まあ、待ちなさい。リィン君」

 

「そうそう、焦らない焦らない」

 

 改めて逃げようとしたが、今度はシェラザードとサラに肩を掴まれた。

 

「あ……」

 

 面白い話のネタは逃がさない。そんな意志が掴まれた肩の手にこもっていた。

 リィンは学んだ。

 例え泥酔していなくても、お酒を飲んだ時点で彼女達は『近付くな危険』の酔っ払いなのだと。

 

 

 

 

「やっと解放された……」

 

 ルーアンでの事件の顛末を洗いざらい吐かされて解放されたリィンはぐったりとテーブルに身を投げ出した。

 

「弟君、お疲れ様」

 

「ええ、本当に疲れました」

 

 労いの言葉をかけてくれるアネラスにリィンは頷く。

 リィンがいなくなったことで、シェラザードたちのテーブルは加速度的に酒の消費を上げている。

 つくづく自分がまだお酒を飲める歳じゃなかったことに幸運を感じる。

 

「ん……」

 

 と、不意にアルティナが服を引っ張ってリィンを呼ぶ。

 

「どうしたアルティナ?」

 

「ん」

 

 問いかけに対してアルティナはフォークに刺さった肉を差し出してきた。

 

「んっ」

 

 食べろといわんばかりに迫るアルティナにリィンは苦笑する。

 

「大丈夫だよ。疲れたって言ってもそこまでじゃないから、それはアルティナが食べなさい」

 

 が、リィンの言葉にアルティナはふるふると首を横に振って、それを差し出してくる。

 

「ふふ、食べてあげたら弟君」

 

 貴族の作法としては行儀が悪いのだが、せっかくのアルティナの自発的な行動に甘えることにした。

 

「あーん」

 

「ん……」

 

 口を開けると、アルティナがすかさずそこにフォークを入れてくる。

 口に入れられた肉を噛みながら、アルティナの変化に嬉しくなる。

 表情こそいつもの通り無表情だが、行動には感情が見える。

 時間が彼女の傷を癒しているのか、それとも多くの人との触れ合いのおかげなのかは分からないが、これならそう遠くない内に彼女の声や笑顔を見ることができるかもしれない。

 

「……ありがとうな。アルティナ」

 

 リィンはアルティナの頭を優しく撫でる。

 ようやく、自分が掛け替えのない日常に戻ってこれたのだと自覚できた。

 

「ん……」

 

 アルティナは無表情のまま頷くと、再びフォークを差し出してきた。

 リィンは苦笑して、彼女がそれに満足するまで付き合うことに決めた。

 

 

 

 

 その悲劇の始まりはリィンが少し目を離した隙に起こっていた。

 

「あ~おとうとくんだぁ~!」

 

 呂律の回ってない口でアネラスは瓶を片手に抱きついてきた。

 

「ちょ!? アネラスさん?」

 

「むふー」

 

 頭をぐりぐりと押し付けて匂いをつけるような行動にリィンは慌てて、身体を離す。

 

「アネラスさん!? まさか酔っているんですか? あなたもまだ未成年なのに、誰が――」

 

 周囲を見回して犯人を探し、探すまでもなく銀閃と紫電の二人が何度目か分からない乾杯をしている姿が目に入った。

 

「ああ、もう……しっかりしてくださいアネラスさん」

 

「ん~、なーに言ってるかな~わたしはーよってないよ~あはははー」

 

 典型的な酔っ払いと化してしまったアネラスにリィンはため息を吐きたくなる。

 そしてアネラスが持っている酒瓶を見て顔を引きつらせた。

 

「グ……グラン=シャリネ……」

 

 アネラスが豪快に飲んでいるお酒の名前を見て、トラウマが刺激される。

 

 ―いや、待て落ち着け……

 

 リィンは必死に自分に言い聞かせる。

 今のアネラスが飲んでいるグラン=シャリネは50万ミラの年代物でもなければ、今日の支払いは王国軍が持ってくれている。

 だからこの後で牢屋に入れられることはない。

 

「ふぅ……」

 

 深呼吸して動悸を落ち着かせる。

 だが――

 

「おとうとくん……」

 

 顔を寄せられてリィンは思わず息を飲み、落ち着かせたはずの動悸が再び早くなる。

 

「あ、アネラスさん! 近いですっ!」

 

 普段は可愛いものは正義だと憚らない少しずれたところがあるが、武人としての顔は凛々しい姿を見せつけられた。

 そんないつもの顔ではないがお酒の影響で、顔は赤く、瞳は潤んでいる。

 リィンが知らない妖艶な表情に思わず息を飲む。

 

「おとうとくんってば……よく見るときれーな顔してるよね?」

 

「いや、綺麗な顔って……そう言われてもあまり嬉しくないんですけど」

 

 綺麗と言われても、男であるリィンにとっては何とも言えない褒め言葉でしかない。

 が、それにメイベルが賛同した。

 

「あら、やっぱりアネラスさんもそう思う?」

 

「メイベルしちょう~……そうですよね。おとうとくんはーかわいーですよね~」

 

「メイベル市長、良い所に実はアネラスさんがシェラザードさんたちに――」

 

 抱きついて放そうとしないアネラスをなんとか引き剥がそうとしたリィンは――

 

「こーんなにかわいーんだから、ちゃんときれいにしてあげないとダメですよね~」

 

「…………え?」

 

 その言葉に異様な悪寒を感じた。

 そして、アネラスの言葉を聞きつけて現れたメイベルがそれに鷹揚に頷く。

 

「ええ、私もヨシュアさんのセシリア姫の姿を見た時から、リィン君にもできると思っていたんだから」

 

「メイベル市長……?」

 

 恐る恐る振り返ると、メイベルはリィンの呼びかけに応えずにワイングラスに並々と注がれた葡萄酒を呷った。

 よく見ると彼女もまた顔を赤くし、視線は彷徨っていた。

 つまり、アネラスと同様に酔っ払っていた。

 

「リラ……」

 

「はい。すでに準備整っています」

 

「よろしい。遊撃士のみなさん」

 

「はいはーい!」

 

「ご依頼承りましたぁ!」

 

 シェラザードとサラが両側からリィンの手を――

 

「自由への逃走っ!」

 

 取られるよりも速く。リィンは駆け出した。

 一陣の風となってリィンは出口を目指して全力で走る。

 

「待つんだリィン君っ!」

 

「うわっ!?」

 

 しかし、腰に抱きつくようにタックルしてきたオリビエに阻まれた。

 

「オリビエさん、邪魔しないで下さいっ!」

 

「リィン君! 君はそれでいいのかっ!?」

 

「いいに決まってます。演劇をやるんじゃないのに女装なんてしたら変態じゃないですかっ!」

 

「違うそうじゃない。これはアネラス君に恩を返すチャンスのはずだっ!」

 

「恩を返す……」

 

 その言葉にリィンは思わず耳を傾けてしまう。

 

「そう、傷付き痛めたその身体を癒すために奉仕して上げようとは思わないのかね!?」

 

「だからってどうして女装なんかしなくちゃいけないんですかっ!?」

 

「愚問だね。彼女がそれを望んでいるからだよ」

 

 リィンはアネラスの様子を窺う。

 顔を酒の影響で赤くし、期待に満ちた目を向けてくるアネラスにリィンは反論の言葉を詰まらせる。

 

「くっ……」

 

 絶対に拒絶するべきことなのに葛藤が生まれる。

 アネラスの怪我は鬼の力に飲まれた自分を引き戻すために負ったもの。

 自分がこうしてまた人の営みの中に戻ってこられたのは、全てアネラスのおかげだということは間違いない。

 その恩返しとなれば、リィンもできることなら何でもするつもりだった。

 

「さあ、どうする?」

 

「俺は……俺は……」

 

 頭を抱えて葛藤するが、無情にもオリビエは死刑宣告を一方的に口にした。

 

「残念時間切れだ」

 

「え……?」

 

 オリビエの言葉に疑問符を上げたところで、リィンは左右から腕を掴まれた。

 

「さあ、リィン君。おめかししましょうね」

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。怖いのは最初だけ、すぐに新しい境地に目覚められるから」

 

 シェラザードとサラに両手を掴まれ、リィンは引き摺られて連れ戻される。

 

「計ったなオリビエさんっ!」

 

「ふっ、リィン君の女装姿を見るためならボクは悪魔に魂を売っても構わないっ!」

 

 ドヤ顔で決めるオリビエにリィンは胸の奥からドス黒いものが湧き出し――

 

「はい、それはダメよ」

 

 次の瞬間、サラが首に手刀を打ち込んでリィンの意識を刈り取った。

 

「ぐっ…………煉獄に……落ちろ……」

 

 途切れる意識の中で、リィンは笑みを浮かべているオリビエに最後の呪詛を残した。

 

 

 

 

 

「う…………」

 

 唐突に意識が覚醒する。

 ずきりと首筋が痛み。直前に何があったのかリィンは思い出す。

 

「目が覚めましたかリィン君」

 

「…………リラさん」

 

 目の前にはメイドのリラが神妙な顔をして目を伏せ、一歩下がる。

 そうしてリィンの視界が広がるとそこには一同が揃ってポカンと呆けていた。

 パチパチパチと誰もが言葉を失っている中で、アルティナが何かを讃えるように手を叩いていた。

 

「あ……」

 

 正直、確認するのが怖かった。

 しかし、畏れから目を背けるのは『欺瞞』でしかない。

 意を決してリィンは自分の身体を見下ろした。

 そこには白いドレスがあった。

 

「………………」

 

 次いで、頭の違和感に手をやる。

 ウィッグで増量された艶やかな長い黒髪。

 白いリボンが結われた髪に場違いながらも、妹のエリゼのことを思い出す。

 

「………………………………」

 

 顔は化粧がされているのか、粉っぽく。口紅も塗られているようだった。

 一通りの確認をしてみても、未だにメイベルたちは口を開けたまま呆けていた。

 

「あ……あの……お願いですから何か言ってくれませんか?

 このまま放置されるのはちょっとツライものが……」

 

 言葉を失うくらいに酷いできだったのかもしれない。

 そもそも、ヨシュアのような可憐な変身を遂げるのは万に一つの例外だろう。

 

「リィン君っ!」

 

 と、最初に沈黙を破ったのはオリビエだった。

 

「な、何ですかオリビエさん……目が怖いですよ」

 

 思わず腰が引けるが、オリビエは構わずリィンの目の前に来ると膝を着いて手を取り告げた。

 

「リィン君……いや、リン・シュバルツァー君」

 

「ちょっと待ってください。どうして呼び方を――」

 

「結婚しよう」

 

「破甲拳っ!」

 

 思考がそれを理解するより早く。リィンは真剣な眼差しのオリビエの顔面に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

「ぎゃふんっ!」

 

 壁に叩きつけられる程の一撃を受けたというのにオリビエは恍惚の表情を浮かべていた。

 

「あーその……なんだ……」

 

 次に口を開いたのはグラッツだった。

 肩で息を吐くリィンからグラッツは目を逸らしながら感想を告げた。

 

「うん、よく似合ってるぞ。リン・シュバルツァー」

 

「完璧ね。どこからどう見ても女の子にしか見えないわ、リン・シュバルツァーちゃん」

 

「はーここまで化けるなんてすごいわね。リン・シュバルツァー」

 

「大丈夫、自信を持ってリンちゃん。セシリア姫に負けてないわよ」

 

 グラッツに続いて、シェラザード、サラ、メイベルが次々に感想を述べて行く。

 

「正直な感想ありがとうございます。全然嬉しくないですけど……あと名前を変えるのやめてください」

 

 リィンは深々とため息を吐いて、アネラスからの言葉がないことに首を傾げる。

 普段の彼女なら真っ先に暴走するはずなのに、その気配は微塵もない。

 そのことに安堵しながらも彼女の姿を探すと――

 

「すかー……もうのめましぇん……むにゃむにゃ」

 

 グラン=シャリネの瓶を抱きかかえて眠っていた。

 オリビエが言った恩返しのつもりはないが、言い出した張本人がこの様だということにリィンは思わず膝を着いた。

 

 ……………

 

 …………

 

 ……

 

 

「酷い目にあった……」

 

 すっかり日が沈んだ街の中をリィンはギルドへの帰路に着いていた。

 あれからすぐに着替えようとしたが、復活したオリビエと一悶着を経てリィンは無事に男の格好に戻ることが出来た。

 

「災難だったな、リィン」

 

「そう思うんだったら助けてくださいよグラッツさん」

 

 非難するようにリィンは隣を歩くグラッツを半眼で睨む。

 

「そう言われてもな……シェラザードの酒に絡まれるのはな……」

 

 どこか遠くを見る彼の目を見て、過去に何があったのかなんとなく察することができた。

 

「グラッツさんもこんな風にシェラザードさんに潰されたことがあるんですか?」

 

 背中に背負ったサラを見て、リィンは尋ねる。

 

「ああ、リベールの遊撃士のほとんどが一度はシェラザードの洗礼を受けて、こうなるか、おもちゃにされている」

 

 身を震わせながらグラッツは彼の背中に背負ったアネラスを顎で指す。

 

「しかも今日は集団効果とでも言うのか? 人数がいたせいで悪ノリが過ぎてたな」

 

「…………お酒って怖いですね」

 

 アネラスやメイベルから自重を忘れさせたお酒の力をリィンは改めて思い知らされる。

 そして、二次会へと繰り出したシェラザードとオリビエの二人を思い出す。

 

「止めなくてよかったんですかね?」

 

「大丈夫だろ。たぶん……」

 

 どちらのことを指して大丈夫だと言っているのか、リィンは追究しなかった。

 サラを酔い潰したシェラザードに、余力を残していたオリビエは今日こそはと意気込んでいた。

 だが、何となく結果は見えている気がした。

 

「と、じゃあ俺たちはこっちだ」

 

 別れ道でグラッツは進行方向を変える。

 

「ま、今日のことは犬に噛まれたと思って早く忘れるんだな」

 

「はい。そうします」

 

 グラッツの言葉にリィンは深々と頷いた。

 

「それじゃあ、グラッツさん。アネラスさん――」

 

 続く言葉をリィンは思わず止めた。

 

「ん? どうした?」

 

「あ……いえ……また明日」

 

 その言葉を噛み締めるようにリィンは言い直す。

 

「ああ、また明日」

 

 そんな挙動不審になったリィンにグラッツは何を言うでもなく、同じ言葉を返した。

 グラッツに背負われたアネラスの背中を見送りながら、リィンは改めて自分が掛け替えのない日常に戻れたことを実感する。

 

「ん……」

 

 物思いに耽っていると、服のすそを引かれた。

 

「アルティナ?」

 

「ん……」

 

 手を差し出してくるアルティナにリィンは苦笑を浮かべる。

 改めて年相応に子供らしくなっているアルティナに喜びを感じる。

 背中のサラを支える手を外し、バランスを悪くしながらもリィンはアルティナの手を取る。

 

「いつか君がちゃんと笑えるようになるといいな」

 

「ん?」

 

 リィンの呟きにアルティナは意味が分からないと首を傾げる。

 そんな仕草にリィンはまた苦笑して、彼女がどんな風に笑うのか、その時のことを想像する。

 と、バランスが動いた影響なのか、背負ったサラが身じろぎして目を覚ました。

 

「ん……あ……ここは……?」

 

「あ、目が覚めましたかサラさん?」

 

「あ~……う~……」

 

 リィンの呼びかけに応えずにサラが苦しそうに呻く。

 

「大丈夫ですかサラさん」

 

「だいじょーぶにきまってるでしょー……あたしはーまだのめるっ! しーきゅうなんかにまけるもんでしゅかっ!」

 

「それ以上飲んだら身体に障りますよ」

 

「こどぉもあるかい……するなぁっ!」

 

 ペシペシとサラはリィンの頭を叩く。

 

「あたしはー……えーきゅうゆーげきしなんだぞー! すごいんだぞーあははー!」」

 

「叩かないでください」

 

 そう言っても、サラは何が楽しいのか笑いながら叩き続ける。

 

「だから……しんぱいなんてしなくていいんだから……おとーさん……」

 

「サラさん?」

 

「わたしは……ちゃんと……ひとりでもやっていけてるんだから……わかった? わーかった?」

 

「分かりました。分かりましたから、揺らさないで下さい」

 

 サラは背負われたまま、リィンの肩に手をやって揺する。

 アルティナと繋いだ手を放し、両手でサラを落とさないようになんとかバランスを保ちながら彼女の言葉の意味をリィンは考える。

 

 ――お父さんか……

 

 遊撃士として最高の資格であるA級。

 年若い彼女がそこに至るまでに相当な苦労があったのだろう。

 年下の自分を父親と間違う程に酔っ払っているサラにリィンは嘆息する。

 と、不意に身体を揺らす動きが止まった。

 

「う……」

 

「う……?」

 

 サラのうめき声にリィンは首を傾げる。

 

「…………きもちわるい……」

 

「そうですか、もうすぐギルドに着きますからもう少しだけ――」

 

「ダメ、はく」

 

「え……?」

 

 リィンはサラの呟きに理解が遅れた。

 気持ちが悪いのも、吐きそうなのも、全て飲み過ぎが原因なのだから問題ではない。

 問題はサラが今リィンの背中にいるその一点に尽きた。

 

「うう……」

 

「ちょっ! ちょっと待って下さいすぐに降ろし――何で服を引っ張るんですか?」

 

 サラはリィンの服の襟を引っ張り、そこに口を寄せる。

 首筋にかかる彼女の吐息にリィンは唾をゴクリと飲み込む。

 

「さ、サラさん。落ち着いてください……決して早まらないで下さい」

 

 できるだけ刺激しないようにリィンはゆっくりと首に掴まるサラの手を解こうとする。

 

「うぷ……」

 

 耳のすぐそこで聞こえる餌付く音。

 

「やめてください……お願いですから、それだけは……」

 

 だがリィンの懇願は空しく、悲劇が襲い掛かった。

 

「うわああああああああああっ!」

 

 

 

 

 

 

 翌朝。遊撃士協会ボース支部、二階。

 

「えっと……リィン君」

 

「何ですか『泥酔』のバレスタインさん?」

 

 肩を小さくするサラにリィンは冷淡な言葉を返した。

 

「あの……その……ね……」

 

 一夜が明け、酔いが醒めて正気を取り戻したサラは昨夜のことをしっかりと覚えていた。

 だからこそ、自分が仕出かした醜態に穴があったら入りたい気持ちで一杯だった。

 

「別にお酒を飲むなって言うつもりはありませんよ……

 だけどそれで人様に迷惑をかけるのはどうかと思います。そう思いませんか、『嘔吐』のバレスタインさん?」

 

「はい……まったく仰る通りです」

 

 そこに史上最年少のA級遊撃士としての威厳など欠片もない。

 

「でもあたしはこれでも飲み比べで負けたことなんてなかったのよ」

 

「だから退き時を間違えたんですか『A級(笑)』のバレスタインさん?

 今度から得意剣術は『酔剣』のバレスタインって改名した方がいいんじゃないですか?」

 

「うう……」

 

「お、おいリィン……それくらいにしてやったらどうだ?」

 

 その姿を見かねて口を挟んできたグラッツの言葉にリィンは深々とため息を吐く。

 びくりと肩を震わせるサラに最後の忠告をする。

 

「シェラザードさんに張り合って飲むからですよ。あの人はザルなんですから」

 

 隣のテーブルに突っ伏して呻くアネラスとオリビエに視線を向け、彼女がいかに強大な敵と対峙していたのか諭す。

 しかもその当人は気になることがあると、朝早くから仕事へ行ってしまった。

 

「いや、あの時のあたしは本気じゃなかったのよ。だから――」

 

「例えそうだったとしても、張り合わない方がいいですよ。シェラザードさんに勝ったとしてもリベールにはもっとすごい人がいるんですから」

 

「え、シェラザードよりもすごい?」

 

「ええ、それはもう……

 サラさんとオリビエさんを潰したシェラザードさんを笑顔で潰せる人がいるんです」

 

 サラはリィンの言葉に沈黙を返し、ゆっくりとグラッツを見る。

 視線で尋ねられたグラッツは黙ったまま、首肯する。

 その内容をゆっくりと理解して、一度その身を震わせる。

 

「そ、そうね……お酒は楽しく飲むべきよね……うん」

 

「ええ、是非そうしてください」

 

 反省するサラの言葉にリィンは威圧するのをやめる。

 そこに階下からリィンのことを呼ぶルグランの声が聞こえてきた。

 

「リィン君。もういいかの?」

 

「はい。どうかしましたか、ルグラン爺さん?」

 

「うむ、実は今リィン君宛ての手紙が届いてな」

 

 差し出された手紙の差出人を見て、リィンは顔を引きつらせた。

 差出先は帝国政府。

 心当たりは一つしかなかった。

 

「とりあえず開けて見てくれるかの?」

 

「はい」

 

 ルグランに促されてリィンは手紙の封を開ける。

 中から取り出した手紙を覚悟して開く。

 

『帝国宰相ギリアス・オズボーン』

 

 その名前から始まる文章を読み進めて行き、リィンは――

 

「…………ふぅ」

 

 緊張で止めていた息を吐き出した。

 

「なんて書いてあったんだ?」

 

「帝国大使館に出頭しろ、と書かれています」

 

 尋ねてきたグラッツにリィンは手紙を見せながら応える。

 内容を要約すると、帝国政府はリィンが皇族を騙った罪を問う事はしない。

 だが、そのことについて名前を騙られたオリヴァルト皇子から直々の言葉を預かった。

 その言葉を受け取るために王都グランセルにある帝国大使館に出頭すること。

 

「とりあえず、首の皮は繋がったみたいでよかったです」

 

 手紙には当然、猛省し二度とそのようなことをするなと忠告が書かれている。

 それに政府は容認しても、オリヴァルト皇子の言葉によっては相応の処分も覚悟して置くように書かれていた。

 

「帝国大使館は王都にあるが、何でわざわざ受け取りに行かせるんだ? 手紙なんて一緒に送ってくればいいのに」

 

「皇族からの直々の御言葉が書かれた親書ですよ。俺の方から受け取りに行くのが筋ですよ」

 

 グラッツの疑問にリィンは答える。

 

「むしろ帝都へ来いって言われてもおかしくはなかったですから、これでも寛大な配慮ですよ」

 

「そうか……」

 

 リィンの言葉にグラッツは納得するが、次に声を掛けて来たのは二日酔いで苦しむアネラスだった。

 

「ううう……一人で大丈夫? 私も一緒に行こうか?」

 

「大丈夫ですよ……

 それよりもアネラスさんは武術大会に出場するんですから、そっちに集中してください」

 

「そうだけど、でも……あんなことがあったばかりだし……」

 

 まるで初めてのお遣いをさせるように心配するアネラスにリィンは苦笑し、説得を――

 

「話は聞かせてもらったっ!」

 

 先程までアネラスと一緒に二日酔いで唸っていたオリビエが勢い良く立ち上がった。

 

「リィン君が帝国大使館に出頭する件、このオリビエ・レンハイムがついて行って上げようじゃないか!」

 

「いえ結構です」

 

 オリビエの申し出をリィンは即答で断った。

 

「ははは、遠慮なんてすることはないよ。ボクとリィン君の仲じゃないか」

 

「生憎ですが、オリビエさんとそんな仲になった記憶はありません。何を企んでいるんですか?」

 

「企んでいるだなんてとんでもない……

 ボクはね、リィン君には一度ちゃんと詫びをしたいとも思っていたんだ」

 

 真摯なオリビエの眼差しにリィンは黙り込んでアネラスの顔を盗み見る。

 普段は少し抜けているが、一番重要な時に真摯に向き合ってくれた凛々しい顔。

 それを思うと、不思議とオリビエを見る目も……

 

「いや、変わらないな」

 

 楽しげな笑顔の裏に真面目なオリビエの表情を想像してみて、リィンはありえないと否定した。

 

「だったらあたしが一緒に行きましょうか?」

 

「サラさん?」

 

「リィン君には迷惑をかけちゃったし、旅費はあたしが持つわ。て言うか、汚名返上するチャンスをください」

 

「汚名返上って……」

 

「だってここで何もしないで帝国に帰ったらリィン君の中であたしは汚れキャラじゃない……

 それにほら、あたしはA級遊撃士なわけだからもしもの時は遊撃士代表として口利きできるじゃない」

 

「そうじゃの、そういう意味では新人のアネラスよりも適任じゃな」

 

「ほら、ルグラン爺さんもこう言ってるわけだし、ね、ね」

 

 気持ちは分からなくもないのだが、必死に縋りついてくるサラにリィンは昨夜の出来事も含めて本当にこれがA級遊撃士の姿なのか疑ってしまう。

 

「……はぁ……分かりました。それじゃあお願いします」

 

「ふっ……大船に乗ったつもりで安心するといい」

 

 と、サラに言ったつもりなのにオリビエがそれに応えた。

 

「オリビエさん……やっぱりついてくるつもりですか?」

 

「ボクもリィン君には一つ詫びをしておかなければならないと常々思っていてね……

 なに、レンハイム家は公にはできないけれど、皇族とはちょっとした縁がある家系でね……

 ボクの一声は皇族にそれなりの影響力があるんだ」

 

「また適当なことを……」

 

「なら、ここでリィン君に付き添ってボクにメリットがあると思うかい?」

 

「それは……ないですね」

 

 むしろこの件に関わることはオリビエにとってデメリットしかないだろう。

 下手に関わりを持てば、それこそリィンがしたことの罪がレンハイム家に飛火することだって考えられる。

 いかにオリビエが不真面目な貴族だったとしても、皇族の不信を買うことの意味が分からないはずはない。

 だとすれば、本当に善意なのかもしれない。

 

「…………分かりました」

 

「わーいっ!」

 

「ただし、悪ふざけはなしですよ」

 

「分かっているとも。女神に誓って真面目にフォローしよう」

 

 嬉しそうな笑みを浮かべるオリビエにリィンは一抹の不安を拭い切れなかった。

 そしてその笑顔の裏に隠された本当の意味にリィンは最後まで気付くことはなかった。

 

 

 

 




 IF いつかのトールズ士官学院

 オリエンテーリング後 リィンだけを残して

 サラ
「改めて久しぶりね。超帝国人リン・シュバルツァー」

 リィン
「…………ええ、久しぶりですね。『泥酔』のバレスタインさん」

 サラ
「……………(無言でブレードと銃を取り出す)」

 リィン
「……………(無言で太刀を抜く)」

 サラ
「雷神功っ!」

 リィン
「神気合一っ!」



 IF いつかのトールズ士官学院 part.2

 学園祭にて

 ミリアム
「学園祭か……リベール学園で男女逆転劇やってたよね、リィン?」

 クロウ
「実はある筋からこんな写真を手に入れたんだが」

 ………………
 …………
 ……

 パトリック
「これで勝ったと思うなよっ! リィン・シュバルツァーッ!
 ………………………………………………………………………………ぽっ」

リィン
「どうして頬を染めて、顔を背ける?」



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