(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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FC ファーストチャプター
1話 逃亡の先で


 

 

 

「やめろ……やめてくれぇぇぇぇぇっ!」

 

 リィンの悲痛な叫びが狭い室内に空しく響き渡る。

 

 ――どうしてこんなことになってしまったのだろうか?

 

 叫びながらも考えるのはそんなことばかりだった。

 思考に余裕なんてないはずなのに、泣いていた義妹の姿を思い出す。

 守るべき妹を泣かしてばかりのダメな兄には当然の報いなのかもしれない。

 これが天が与えた罰だというのなら、甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。

 

「怖がることはないよリィン君……さあ僕と一緒にめくるめく新しい世界の扉を開こうじゃないかっ!」

 

 やっぱり受け入れられそうになかった。

 

「大丈夫、痛いのは最初だけさっ!」

 

 仕立ての良さそうな白い服を纏った変人、オリビエ・レンハイムが頬を赤らめて飛びかかってくる。

 

「うわああああああっ! 八葉一刀流・無手の型、破甲拳っ!!」

 

 ダイブしてきたオリビエをリィンは無我夢中の一打で迎撃する。

 

「ごふっ!」

 

 くの字に折れ曲がって弾き返されたオリビエはそのまますぐ後ろの壁に激突して床に倒れた。

 

「…………はぁ……本当に何でこんなことになったんだろう……」

 

 乱れた息を整え、残心を解く。

 ぴくぴくと痙攣する姿をさらすオリビエを一瞥して、リィンは息を吐いて天井を仰いだ。

 狭く薄暗い室内。

 三方を無機質な壁で囲まれ、一方は鉄格子に阻まれている。

 何処からどう見ても牢屋であり、こんなところに入れられるのはリィンの人生で初体験だった。

 

「ふふふ……リィン君ってば情熱的だね……」

 

「ひっ……!?」

 

 いつの間にか足下に這い寄り、足に縋り付いたかと思うと頬擦りをするオリビエにリィンは背筋を凍らせる。

 

「うわああああっ!?」

 

「あーれーっ……!」

 

 振り解くようにオリビエを蹴り飛ばし、リィンは鉄格子を揺らして叫ぶ。

 

「看守さんっ! 助けてっ、ここに変態がいますっ お願いですから助けてくださいっ!」

 

 恥も外聞も捨ててリィンは叫ぶ。

 具体的に何をされるかまでは分からないが、分からないからこそオリビエという存在が理解できず、言いようのない恐怖を感じる。

 

「うるさいぞっ! 静かにしろっ!」

 

 叱咤の声はすぐ近くから上がった。

 格子越しに見れば、二人の兵士が三人を隣の牢屋に入れようとしているところだった。

 赤い服に長い髪をツインテールに結った少女。

 黒い髪に琥珀の瞳の少年。

 褐色の肌に長い銀髪の妖艶な女性。

 その三人にリィンは見覚えがあった。

 

「ハーケン門の休憩所で話しかけてきた人たち?」

 

 記憶を辿り呟いてからリィンは首を傾げる。

 リベールへの入国審査での待ち時間、その時に気さくに話しかけてきた三人。

 とても犯罪者だという雰囲気ではなかったのだが、それを言うなら自分もかと、リィンは嘆く。

 

「えっと……大丈夫?」

 

 牢屋の奥で伸びているオリビエと涙目になっているリィンを順に見て、少女が尋ねる。

 煉獄の底に女神。

 それがリィン・シュバルツァー、十四歳と『剣聖』カシウス・ブライトの娘、エステル・ブライトとの改めた出会いであり――

 

 

 

 忘れられない、旅になる。

 

 






 誰かが書いていそうな、リィンを空の軌跡に参加させたものです。
 作品の都合上『閃』のキャラはほとんど出ません。


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