ぐ、まだまだいろはすを甘くできるはず…!
キーンコーンと本日の授業が全て終わったことを意味するチャイムがなる。いつもならば授業から解放されたことで心がぴょんぴょんするのだが今日は全然心踊らない。この後仕事が待ってるからね!いや、ほんと。なぜ高校生の時分で俺が労働を…。まだまだ甘い汁を吸っていたい。某友情破壊ゲームと子供では甘い汁を吸ってもいいと思う今日この頃です。
まぁ、グダグタ言っても仕事はなくならない。腹をくくるとしよう。そう思い、天使に挨拶をしてのそのそと廊下を歩くのだった。
のそのそ廊下を歩いているとドンと背中に軽い衝撃があった。この学校で俺にボディタッチをする人間は非常に限られている。主に戸塚とか戸塚とか戸塚だ(断定)。あ、材木座はボディタッチではなくボディプレスだからノーカンな。そんな限られた存在である戸塚かと淡い希望を抱いていると、
「なんで先行くし。」
俺の背中に鞄での攻撃を仕掛けた犯人は、ちょっとむくれている由比ヶ浜だった。由比ヶ浜とは、前に約束して以来こうして一緒に部活に行くことが増えた。まあ、絵面的には連行に近いのだが。ふぅ、戸塚に気を取られていてすっかり忘れてたぜ!(病気)
「あー、悪りぃな。今日一色の手伝いするから部活行けないんだわ。
雪ノ下から聞いてないか?。」
由比ヶ浜はパッと携帯を確認する。相変わらずめっちゃキラキラしてんな。そのうちイルミネーションとか付きそうだ。
「あ、ほんとだ。ゆきのんからメールきてる。今日平塚先生に用事あったから一緒にご飯たべれなかったんだよね。」
由比ヶ浜と雪ノ下はいつも部室で昼食をとっているようだ。え?部活仲間だったら一緒にご飯食べればいいじゃんって?馬鹿野郎!あのゆる百合空間に入っていけるのは戸塚だけだ!
俺に鞄での攻撃をした手前、バツが悪かったのか由比ヶ浜はたははーと笑う。俺の方も連絡しなくて悪かったなと一言告げると、あんまり遅くなって怒られるのも面倒だとそそくさと生徒会室に向かった。
「いや、なんでついてくんの?」
俺としては、また明日な。の意味を込めての言葉だったが由比ヶ浜には通じなかったらしい。やだ、日本語って難しい!え、別に俺だけ日本語のキャッチボールできてないわけじゃないよね?なんならいつも雪ノ下とドッジボールしてるし。あいつの場合油断したら鉄球投げてくるからな…暴言ダメ絶対。
「へ?だって方向一緒だし。送ってくよ!」
「いーよ別に。てか、部室と生徒会室そんなに近くないし。」
何より俺が恥ずかしい。
「むー。いーの送ってくから!」
なんだよむーって大陸かよ。どうやらここでも俺の意思は尊重されないらしい。
由比ヶ浜と他愛もない話をしながら歩くこと数分。生徒会室の前に着いた。以前花火大会に行った時もそうだったが、やはりこいつは人目をひく。それはもう夏の夜の街頭ばりに男子の視線を集めては俺に怨嗟の念が来ると言うお約束である。やはり、世の男子はガハマ連山のいつまでも変わらない乳引力には敵わないようだ。むしろ増しているかもしれない。全てを引きつける万乳引力に進化する日も近いかもしれない。
由比ヶ浜が生徒会室のドアに手をかけようとしたところ、中でもうすでに一色が作業していることに気づいたようだ。
「あ、電気ついてる。」
「そーだな。案外まじめなだからな、あいつ。」
俺としてはこれも他愛もない会話の一つで、由比ヶ浜に「そーだねー」と流されて終わりのつもりだったのだが、由比ヶ浜の反応は違った。
「ふーん。よく見てるんだね、いろはちゃんのこと。」
俺がなんと答えていいか解らずへどもどしていると、由比ヶ浜も特に答えを求めてはいなかったのか、いつもの元気いっぱいな雰囲気に戻り生徒会室の扉を開けた。や、やめろよぉ、なんか変に意識しちゃうだろぉー。女の子ってずるいと思います。
ガラガラ
「いろはちゃん、やっはろー」
「うす」
どうやら資料の整理をしていたらしい一色は扉の音に反応して顔を上げると俺の顔を見て、由比ヶ浜の顔を見て、また俺の顔を見るという奇行を行うと、いつもどうりのあざとい挨拶をした。
「こんにちは〜、結衣先輩。あ、あと先輩も。」
訂正。俺に対してはあざとくありませんでした。いや、手伝いに来た俺がついでて、やべーはいろはすまじぱねーっしょ。由比ヶ浜に対してだけあざといとかなんなの?ゆるゆりなの?雪ノ下に言っちゃうよ?俺が雪ノ下に殺されるわ…。はっ、まさかそこまで見越して俺を抹殺しに来たのか⁉︎いろはすマジ策士。
「結衣先輩が生徒会室に来られるなんて珍しいですね。どうされたんですか?」
「ヒッキーがいろはちゃんの手伝いするーって言うから、送って来たの。」
由比ヶ浜がえへんと胸を張る。おぉ、It’s the Mt Fuzi 。眼福です。しかし、女子はそこら辺の視線に敏感なのかアホの子由比ヶ浜にはバレていないようだが(バレてないよね?)一色は目ざとく気づいたらしい。俺に視線で『何見てるんですか、変態ですかそーですかやっぱりせんぱいは救いようない変態ですね。あ、言い訳とかしないでくださいね先輩の変態な声を聞いたら汚れたしまいそうです。ごめんなさいもう通報しました。』と言ってくる。いや、視線で語りすぎだろ。どこのバスケ漫画だよ。女子怖い。
「そーなんですかー。ありがとうございます〜。それじゃあ、せんぱい早速仕事に移りましょう。ふ た り き り で♡。」
そんな、アホなことを一色は言っている。ハイハイあざといあざとい。
それじゃあありがとなと由比ヶ浜に礼を言おうと向き直ると、由比ヶ浜はジーとこちらを見つめていた。
「な、なんだよ。」
自然、腰の引けたへどもどした言い方になる。情けないことこの上ないがぼっちには女の子の直視に耐えられるほどのステータスはないのだ。
「別にー。ヒッキーがヤラシー目でいろはちゃんのこと見てたから見てただけだよー。」
「なっ、見てねぇよ。」
まじで。俺の目はガハマ連山に釘付けだったんだ!信じて!いや、やっぱ信じないで!
「どーだかなー。それじゃあ、またねいろはちゃん。ヒッキーのことよ ろ し く ね ♪」
そう言うと由比ヶ浜は生徒会室を出ていった。いつもはアホの子なのに、たまに俺にはわからない含みのある言動をする。俺とリア充では使っている周波数が違うのか、はたまた彼女の女性としてのレベルが高いのかはわからないが、ともかく、去り際の一色への彼女の言葉はどこか子供っぽいいたずら心のようなものが見え隠れしていたが、計算された大人の女性のような雰囲気を持っていた。
「ぐっ、先輩の余裕…」
どうやら由比ヶ浜の言葉の内容を受信できたらしい一色はしてやられたと言う顔をしていた。
小町よ、お兄ちゃんにはガールズトークは難しいです。
由比ヶ浜が生徒会室から出てからそこそこ時間がながれ、部活の掛け声が聞こえなくなって来たころ仕事はようやく終わりが見えてきたところだった。作業は滞りなく進んだ。それはもうこれでもかというぐらいにスピーディーに一色は資料をさばいて行った。のだが、一色はなんというか荒れていた。「やはり私には乳力が…いや、一年のアドバンテージがありますし。それにバランスでは…」などとボソボソつぶやいているのが作業の合間に聞こえる。正直言ってこわい。俺の使えない周波数で喧嘩するのやめて!
「ほら、一色。手、止まってるぞ。」
俺が指摘すると一色はげんなりした顔をした。気持ちは分かるが顔に出しすぎである。お前普段仮面かぶるの上手いじゃん。俺にもちょっとは使えよ!しかし、一色はその顔をすぐに引っ込めると面白いおもちゃを見つけたと目をキラキラ輝かせてとんでもないことを聞いて来た。
「せんぱいは巨乳派ですか?貧乳派ですか?」
こいつ、なんてことを…学校の後輩(女)とおっぱいについて語ることとなった件について。
「好き嫌いすんなって母ちゃんに躾けられたからなどっちが好きなんて言えないな」
ふ、残念だったな一色。その程度の無理難題、雪ノ下さんと小町に鍛えられた俺には造作もないわ!いや、マジでなんなのあの人。急に雪ノ下のスリーサイズとか教えられても困るんだけど…次の日雪ノ下にバレてるし…
しかし、一色には俺の素晴らしいロジカルシンキングでグランドデザインされたセンシティシビィティあふれるアイディアは通用しなかったようだ。
いけない、意識が高くなったしまったようだ。
「は?いや、そういうのいいんで。早く答えてくださいよ〜」
一刀★両断。てか、後半猫撫で声の甘々ボイスなのに前半凍えるほどフラットなんですけど…こえぇよ。
「お、おう…。いや、そんなこと言われても答えに困るんだが…」
「もぉ〜、せんぱいはヘタレですねー。じゃあ、雪ノ下先輩と結衣先輩の胸、どっちが好みですか?」
いや、余計悪くなってるから。無理だって!実名は反則だって!あぁ、普段は俺の長所である豊かな想像力がいまは恨めしい。脳内で雪ノ下と由比ヶ浜についての検索が止まらない。あぁ、あの雪ノ下の慎ましやかながらも形のいい胸。以前遊戯部と対戦した時にみたシャツ姿での雪ノ下の胸は非常に扇情的で、色香に満ちていた。しかし、由比ヶ浜の胸も捨てがたい。あの全てを引きつけるバスト、変幻自在の柔らかさなんとも……
「せんぱい?」
こわっ!今雪ノ下並みに凍えたんだけど。待って目が笑ってないって。今ナイフとか持ってたら確実にNice boat な顔してるって
「今何を想像してましたか?」
「な、何も想像してないぞ?」
やばいやばいやばい。考えるんだ比企ヶ谷八幡!ここで間違えると綺麗な体で小町の元に戻れないぞ!
「嘘はいけませんねー。後輩に嘘つくとかひどいですよ?」
あ、積みました。どうやら俺はここでゲームオーバーらしい。ごめんな、小町。おまえのウエディングドレス姿みたかったよ…
「せんぱい?」
「二人の胸を想像してました…」
無理です。だってこわいもん!親父はいつもキャバクラから帰って来るたびにこんな思いをいていたんだな。すげぇよ親父。今はこんな幾多の苦難を乗り越えてきた親父を尊敬してる!
「はぁ、まったく…。せんぱいは相変わらず変態さんですね。」
「ぐ…、元はといえばおまえが妙なこと言わなければ…」
そうなのだ。一色め、なぜ唐突にあんなことを…やはりゆるふわビッチだなのか…
当の一色は冷静になったのか、それともさっきまでの一色はいろはす(オルタ)だったのか、いざ、自分の発言を省みると恥ずかしかったようで、
「え、いや、まぁそれはそうですけど…むー。もうどっちでもいいから答えくださいよせんぱい!大きい方か小さい方か!」
顔を真っ赤にしながら聞いてきた。やっぱり恥ずかしかったようで今も顔を両手で覆ってうーと唸っている。そんなに恥ずかしいならなんでやったんだよ…
しかし、恥ずかしいのは俺も同じである。ここはとっとと答えてこの話を終わらせよう。正直もう身がもなたない。
「どっちって、言われてもなぁ…俺みたいなぼっちは人を見かけで判断しないんだよ。だから俺が好きになった人によるんじゃねーの、知らんけど。」
恥ずかしさのあまり、最後の方はだいぶ早口になってしまった。
うぉー、なんだこれ。恥ずかしすぎる!今ならこの恥ずかしさでフルマラソン走り切れるかも知れない!そして、この恥ずかしさを糧にして一色に、告白して振られちゃうまである。いや、振られちゃうのかよ。
俺は恥ずかしさのあまり顔を伏せながらチラッと一色を盗み見ると、一色はポケーとしていた。
「お、おい。なんか言えよ、恥ずかしいだろ。」
そういうと、一色は今現実に戻ってきましたというふうにぱっと俺の顔ををみて、またすぐにパッと顔を伏せ、今度は上目づかいで俺のことをみると、いつもの一色のお家芸を披露した。
「な、な、何ですか、そんなかっこいいこと言っちゃって!いつもはポケーとしてるくせにちゃんと自分の好きになった人は大事にするぜアピールなんてしちゃって!正直だいぶというかかなりくらっときましたし、彼氏にするならこういうちゃんと自分を見てくれる人がいいなーと思いましたが、そういうことはもっとムードがある時に私の顔をきちんと見つめて言ってくださいごめんなさい。」
「あ、うん、そうだね。」
一色は言い終わると、ぜぇぜぇと肩で息をしている。恥ずかしさもあいまって顔はさっきよりも真っ赤だ。いや、うん。毎度よくやるね君。最後の方とかもう早すぎて聞き取れないし。そのうちスキャットマンとか歌えそうである。
俺が一色の超絶舌技を聞いて(やだ、なんか卑猥!)逆に冷静になっていると、呼吸を整えたらしい一色は俺の適当な返しがお気に召さなかったのかジトーとこちらを見てきた。
「もう、最後まで聞いてくださいよ!」
無理言うなよ……
生徒会の仕事も無事終わり、平塚先生に提出した。あの人また愚痴ってたよ…先生がアラサーなのは今更ですよ。やべぇ、目から汁が。だれかもらってやれよ!
そんなこんなで今はちょうど昇降口で靴を履き替えているところである。一色は一年と二年では場所が違うため駆け足で靴を取りに行った。別れ際に私を置いて行ったら『滅っ!』ですよ♪と言っていたのが恐ろしすぎる。いや、あいつバス通じゃん…
そんなこんなで待つこと数分、いろはすが靴を取ってきた。
「ちゃんとまっててくれたんですね」
一色ははにかみながらそんなことを言う。ちくしょう、ちょっとかわいいじゃねぇか。
「まぁ、あんなこと言われればな」
俺だって綺麗な体で小町の元に帰りたいのである。
「?」
どうやら一色には通じなかったようだが、彼女もこれ以上この話を続けるつもりは無いようで、今日国語の授業でどうこうと他愛もない話をし始めた。
一色の乗るバス停は学校からそう離れていない。そのため、彼女とおしゃべりをしながら歩いているとすぐにバス停が見えてきた。見送りもここまででいいか、と俺がじゃあなと言おうと一色の方を見ると、彼女は一つ深呼吸をして、俺に綺麗にラッピングされたクッキーを差し出してきた。
「せんぱいには今日お世話になりましたし、私のせいでお昼抜きでしたからね。かわいい後輩からのご褒美ですよ。」
あざとい言い方ではあるが、頰をほんのり赤くして渡されると俺としても少なからずグッと来るわけで、ここまで計算されているのならもうお手上げである。それに、これをもらうことで昼の件がチャラになるのならもらってやらないことはない。専業主夫志望の俺は、施しは受けないが労働の対価ならばありがたく受け取るのである。
「おう、ありがとな。それにしてもこのクッキーどうしたんだ?手作りっぽいけど」
一色がくれたクッキーはコンビニで売っているようなやつではなく、手作りのようだった。こんがりときつね色になっていて、とても綺麗に仕上がっている。
「ちょうどよく五限に家庭科がありましてですね。葉山先輩にと思って作ったら作りすぎてしまったんで先輩にもおすそ分けですよ。」
「お礼じゃなかったのかよ。」
思わず苦笑いが漏れる。まぁ、いつものパターンだ。このぐらいスパイスが効いている方が一色いろはらしい。
そのあともお前本当に料理できたのなとか、実は最近葉山副会長と秘書ちゃんが怪しいとか、しょーもないことを話してバスを待った。さっきもらったクッキーのせいか、はたまた彼女のスパイスがちょうどいい刺激だったのか、俺はガラにもなく彼女とのおしゃべりを楽しんだ。
バスが来た。彼女は置いていた荷物を取ると軽い足取りでバスへと乗り込んで言った。俺も帰るかと自電車にまたがり、こぎ出そうとすると、彼女はなにかを思い出したように振り返ると、小悪魔のようにこんなことを言ってきた。
「せーんぱい、ちゃんとお返しは10倍返しでお願いしますね♪」
いや、だからお礼じゃねーのかよ。
やはり俺の後輩はなにはともあれ小悪魔である。
「あれー、お兄ちゃんそのクッキーどうしたの?」
「やめて!恥ずかしいからニヤニヤしないで!ち、違うから!これは自分へのご褒美だから!」
「うわぁー。お兄ちゃん、さすがの小町もそれは引くよ。小町的にポイント低い!」
お読みいただきありがとうございました。初投稿でしたが、難しいですね。いろはすのセリフに結構苦戦しました。
次はゆきのんを書く予定です。時系列的にはこの話のあとになると思います。稚拙な文章ですがどうぞ次回もお付き合いしていただけると幸いですが。
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