何故か大将軍補佐とかいう新しい役職に任命された俺は、城内で色んな噂が飛び交う今一番話題の熱い男となりました。まあ売男とか色情魔とか誰とでも寝るとか何進の肉便器とか顔と身体で地位を手にいれたとか、そんな話ばかりだけれども。
そして若干否定しにくい。なんせあの面接の時の何進の記憶は、何太后によって、俺は何進にあひんあひんにされた事になっている。どっちだよあひんあひんになってたのは。でも事実が何進にばれると打ち首である。幸いな事は華琳姉や麗羽さんは噂を鼻で笑い、姉からは「実力で手にいれた地位だもの。実力で黙らせなさい」と無茶振りが飛んできました。なので何進と二人きりや、何太后もいる時は出来るだけ何進を罵ってびくんびくんさせてます。姉の言い付けだから仕方ないね。ま、何進の頭の中では俺がびくんびくんなってる事になってるから問題あるまい。
ま、仕事らしい仕事してないけどね! 何進をびくんびくんさせてるか、何太后……秘密を共有する仲って事で真名交換した瑞姫や、何度も閨を共にする仲(一度もしてない)と交換した傾と恐らくこの国最高級の茶菓子やお茶を楽しんでるだけである。でも袁家で食べる茶菓子のほうが美味しい……。あれ俺の好みに合わせてたんだなと実感する。ちなみに真名は他人の前では呼んではいけない事になった。とくに瑞姫なんて他人の前で呼んだら大変な事になるからと。まぁそれはそうだろうと納得している。ていうか交換したくなかったけど圧力に負けただけなんだが。
「なあぽち、城内の噂を知っておるか?」
「ん? なんの?」
大将軍の問いかけにタメ口で返す男、ぽち。恐らく大陸広しといえどもこの男だけである。
「お主が私の肉便器だの呼ばれている事だ」
普通言いにくい事をズバッと言う傾。ヒューっ。男らしいぜ。
「まあ、事実だがな」
いやいやいやいや無実です。あんたの頭の中だけだよ。
「だがあまりにもうるさいと面倒でな。お前ちょっと手柄を立ててこい」
「……は?」
「何、私の代理として賊狩りをしてこいと言っているだけだ。お前なら簡単だろう。先日袁紹と話をしたが、貴様の才覚を偉く高く評価しておったからな。」
……麗羽さん何してくれてるんですかね。
「安心しろ。討伐の際はお前には私と同等の権限を与える。故に勝ったも同然だ。お前の声は私の声という訳だ」
「いやその理屈はおかしいだろ頭の中まで発情したのかクソババア」
「な──」
最近、傾の発情スイッチ入ってからあひんあひんになるまで時間が短くなってきて助かる。調教が行き届いてる模様。
まあ残念ながら賊討伐には行かされる事は決定事項であり、何故か総大将に命じられた俺。何進大将軍の代理である。今この国の軍事の頂点は、一度も軍を率いた事がなく、剣も槍も使えぬ俺である。頭おかしい。相手の規模は三千程度。こちらは正規兵六千を率いて出立である。そしてあからさまに軍内で腫れ物扱いされる俺。俺、賄賂要求しないし発言気に入らないからって首刎ねたりしないよ? 俺がそっちの立場なら関わりたくないから残当である。
出立一週間前、未だに軍議していない事に気付いた。あれ? 俺ハブられてる? いや別にお飾りでいいんだけどさ。きっと周りが既に全部把握してるやろうと能天気に城内を散歩していると薄紫色髪の少女から声をかけられた。ある意味事案である。
「……あ、あの、曹犬大将軍代理であっていますか。シャンは……私は姓は徐、字を公明と申します。この度は共に遠征を……えーっと」
可愛い幼女が現れたと思ったら、どうやら賊討伐の遠征を共にする一人のようだ。堅苦しい挨拶が苦手らしい。まあ俺の悪名がひどすぎるというのが多分にあるだろうが。そしてそんな俺の元に恐らくお前行けよと無理矢理貧乏くじ引かされたであろう、徐公明。可哀想。
「徐公明か、宜しく!」
笑顔で挨拶し、右手を差し出したらビクっと一瞬驚かれた。大丈夫、握手で妊娠した人間はいないぞ。恐る恐る握手を返す徐公明可愛い。
「あ、あの……遠征についてなんですが……」
「うん?」
「まだ何も手配されていないようですが、その……」
言いづらそうに話す徐公明から衝撃の事実が告げられる。まじかよ。全部終わってると思ってたわ。無能ここに極まり。そうだ。
「委細任す」
「……へ?」
「委細徐公明に任す。あ、兵糧だけやっとくから! 後は大将軍代理命って事で宜しく!」
そう言って大半を目の前の少女に投げて逃げ出し、俺は兵糧の管理をと兵糧庫に向かった。が、どれくらいあれば足りるか良く分からなかった。どうすんべと悩んでいたが、考えても分からないのでとりあえず保留にしてまた城内を散歩する事にした。明日やろうは馬鹿野郎とはよく言ったものだと他人事のように感心していると、麗羽さんに出会った。
「あらぽちさん。この度は賊討伐の総大将の大任、おめでとうございますですわ」
ますですわっておかしくない? まあそれはおいといて、実におめでたくないですわ。
「……あら? どうかしました? なにやら浮かない顔をされているようですが。わたくしで良ければ相談に乗りますわ」
うわーい。私塾一の天才なら間違いないと兵糧どれくらい持っていくか悩んでると話す。
「そんな事ですか。ぽちさんの悩み、この麗羽にお任せあれ。手配はわたくしがしておきますわ」
「麗羽さん、ありがとう」
「初の遠征での総大将の就任祝いと思って下さいませ。おーっほっほっほっほっほ」
ありがとう麗羽さん。次回以降は今回を参考にさせてもらおうと三日で忘れる誓いをぽちは立てるのであった。
遠征当日。
「あの……曹犬様」
「なんだい徐公明」
「その……兵糧が……」
「ああ……うん」
麗羽さんに手配してもらった兵糧。くっそ多い。流石に俺でも分かるくらいくそ多い。将と兵も全員唖然とするくらい多い。適当に誤魔化すしかない。
「これはな……余った兵糧は皆の褒美として山分けするからだ」
『!?』
ぽちの言葉を聞いていた皆が耳を疑う。
兵に兵糧? 現地調達で良かろう。ああ欲しければ賄賂を寄越せ。何、金が無いだと? お前らの兵最前線な。くらいが常識な漢王朝において、遠征当日まで一切賄賂を要求しなかった所か、明らかに多い兵糧を皆で山分けすると言ったのだ。
「賊討伐を早く終わらせればそれだけ皆の褒美が増えるぞ。将だけではない、兵もだ。全員に兵糧を配るぞ。さあとっとと討伐済ませて皆で山分けしよう」
『おおおおおおおおお!!!!!!!』
「あ、あの……シャンの所にも貰える……んですか?」
「当たり前だろう?」
「!?」
徐公明は現体制にうんざりしていた。何かあれば賄賂、賄賂。昇級も自身の兵の待遇を保つのも。今回だって、最低限ではあるがなんとか自身の兵を守る為の金銭を四苦八苦用意していたのだ。でなければいつもなら捨て駒確定は明らか。徐公明はその武勇天下に響いてもおかしくなき武芸者であるが、自身の率いる兵を守る為に現体制では埋もれている人材である。
「シャン……頑張る!」
「お、おう。頑張ったら頑張った分だけ渡すからな」
「うん!」
これで自身についてきてくれている兵にお腹一杯にご飯を食べさせてあげられると徐公明は気合いを入れた。ぽちは自身の懐具合には興味がほとんど無い。美味い物を食いたければ袁家に行くだけだから。くそ野郎である。
何もかも徐公明に押し付け自身は号令くらいしかしなかったぽちの初遠征は、異常な程の士気の高さに加え、異常な行軍速度と異常と言える被害の少なさで敵を殲滅した。悪名ばかりであったぽちが、名将と言われるようになるまで時間は掛からなかった。全部他人に任せた結果がこれだよ。ただ賄賂などは一切受け取らず、自分で戦場を見て自身なりにちゃんと周りを評価して褒美を配った事だけはきちんと仕事をしたと言えるかも知れない。もちろん評価筆頭は徐公明である。