【完結】真・誤解†夢想-革命?- 蒼天の覇王   作:しらいし

18 / 31
第十七話.こうきんのらん?

「みんな大好きーー!」

『てんほーちゃーーーーん! ほわあああああ!』

「みんなの妹ーー!」

『ちーほーちゃーーーーん! ほわあああああ!』

「とっても可愛い」

『れんほーちゃーーーん! ほわあああああ!』

 

 張三姉妹が声援に応え、手を振り笑顔で返す。そして。

 

『そしてー!!! 我らのーーー!!! 曹犬様ーー!!! ほわ、ほわあああああ!!! ほわあああ! ほわあああああ!!!』

「あ、どうも」

 

 

 この日一番の大歓声を受けた我らがぽち様が遂にステージの中心に立つ。

 

 

 

 なんだこれ。

 

 

 

 最近売り出し中の旅芸人、数え役満☆姉妹こと張三姉妹がこの地にやって来たのは必然だったと言える。曹操の治めるこの地は賊がいない。いやほんとにいないのだ。元々曹操の治世は評判が良く他の地域と比べても格段に少なかった。そこにぽちが入り込んだ。もちろん、それだけで賊が消えるはずがない。

 

 ぽちが行った賊狩りが今の事態を生んだ。「一番活躍した人には一つ何か言う事聞くよー。出来る範囲で」と言ったぽちの発言に目の色が変わった曹犬軍の将軍達は人を超え鬼となった。そして一番やばい呂布もやる気を出した。戟を一振りすれば大地に大穴が空き百人単位が宙に舞う、リアル無双を始めてしまったのだ。賊は恐怖した。恐怖は風に乗り噂となり伝染した。そんな馬鹿な事あるはずがないと言った賊達はその姿を目撃し、僅かに逃げ切れた者は曹操の地から逃げろと言い残し自害した。そんなこんながあって賊は皆逃げ出してしまった。という訳でこの地域からはとりあえず賊は殲滅された。なので他の地域には賊はちゃんといる。

 

 まあそれは置いといて、賊に襲われる心配がほとんど無いこの地に三姉妹の旅芸人が噂を聞いて流れてくるのは当然だと言えよう。街の広場で三姉妹が歌を披露していると街の見廻り(散歩)をしていたぽちがその歌を暇潰しに聴いていた。別にただ立ってぼーっと聴いていただけである。その様子を見た街の人々が、「あのぽち様が聞き入っていらっしゃる! きっと素晴らしい歌に違いない!」と話題にしたために三姉妹は一気に人気になった。その話題は曹操の耳にも入り、三姉妹は城で曹操やぽち、その他皆の前で歌を披露する事になった。

 

 

「ふむ」

 

 歌を聞いた曹操は、周りで歌を褒める将軍達を尻目にこの娘達の利用価値を瞬時に、正確に見抜いた。兵の心の癒し、戦意高揚、興行による収入、話題性による流民等だ。が、正確に見抜いた後に完璧超人華琳様が弟馬鹿華琳ちゃんモードに切り替わってしまった。

 

 

 こういうキラキラな衣装をぽちに着せて歌わせたらどうだろう。絶対イケるわ!

 

 

 その意識は伝染した。チラっと目配せをすると曹洪が頷きその場を離れた。衣装の準備である。更に孔明に視線をやる。無言で万事承知してますといった具合に力強く頷いた。更に曹操が面々に視線を送る。ぽち以外の皆の心は一つとなった。曹操が口を開く。

 

 

「見事な歌ね」

「わーい、ありがとー」

「とーぜんでしょ!」

「天和姉さん、地和姉さんも失礼よ。……失礼しました。曹操様、お褒め頂きありがとうございます」

 

 

 姉二人を制し、三女の人和が礼を言う。これだけで姉妹の関係がはっきり分かるというものだろう。そして、今の会話を聞いたぽちが微妙な顔をした。え? この娘ら芸名を真名と同じにしてんの? 頭おかしいの? と初対面の人間とは真名絶対交換しないマンであるぽちはどん引きした。まあこれに違和感無いのは初対面の相手でも誰にでもわりと真名を名乗る曹仁や張飛くらいなものである。

 

 

「ええ、褒美を取らせたいのだけれど?」

「褒美だってー! お姉ちゃんお金欲しいなー」

「ちょっと天和姉さん黙ってて。ありがとうございます曹操様。それで褒美とは一体」

「そうね、朱里。今新しく作ってる街に一画用意出来るかしら」

「ちょうど人が集まりやすい一画を用意出来るかと」

「ならいいわね。張三姉妹。数え役満☆姉妹と言ったかしら。貴女達専用の劇場、欲しくない?」

 

 

 曹操の言葉に三姉妹が食い付いた。行政公認の劇場を用意してやるというのだ。あの聖人と呼ばれる人間がいる今大陸で一番人で賑わっている、恐らく一番安全なこの街で。しかも今の話振りからすればかなり好条件の土地で。

 

 

「わーすっごーい! 劇場だって!」

「わ、私達ならそれくらい当然よね!」

「ちょっと姉さん達、いくらなんでも話がうますぎるわ」

「ま、そう思うのも当然でしょう。貴女達の歌が良いと言ってもいきなり劇場なんて与えられても客を集めるなんて出来ないでしょうし?」

「むっかー! 何よ! ちぃ達を舐めてるの! 私達なら劇場なんて常に満員にしてやるんだから!」

「ぷんぷん! 私達ならそれくらい余裕だよ! ね、人和ちゃん!」

「ちょ、ちょっと姉さん達」

「へえ? 見ず知らずの土地で劇場を常に満員に、ねえ? 出来なかったらどうするのかしら?」

「ふん! 私達が出来ない訳ないでしょ!」

「あら、じゃあ初公演で満員に出来たら劇場をあげるっていう条件にしようかしら」

「姉さん達やめて。まだここでそこまで顔も売れてないのにいきなり劇場を満員なんて無理よ」

 

 

 姉二人を止める三女を見ながら曹操はチラっと孔明を見た。孔明は頷きぽちに言う。

 

「ぽち様……なんとかあの姉妹に協力してあげられませんか?」

「うん、そうだね」

 

 急に話を振られたぽちは完全に途中から話を聞いてなかった為、適当に相槌を打った。その返事を聞いた孔明は横にいたホウ統に合図を送る。ホウ統も頷き呂布に話し掛ける。

 

「そ、そういえば恋さん、この間の賊討伐の褒美保留にしてましたよね!」

 

 呂布は一瞬なんでこのタイミングでその話をと首を傾げたが、話を理解し合わせた。

 

「……ぽち様、三姉妹に協力してあげて」

「え、褒美それでいいの?」

「……うん。いい」

 

 一番手柄を挙げた呂布がそう言うのであればぽちが断れるはずもない。

 

「いいけど、協力って何を──」

「良いそうです華琳様!」

 

 ぽちから求めていた返答を引き出した孔明が曹操に即座に報告する。そしてこのタイミングでこの場から離れた曹洪がバタバタと書簡片手に戻ってきた。

 

「出来ましたわ!」

「栄華、良くやったわ! 見せて頂戴!」

 

 曹操が曹洪から書簡を受け取り勢いよく広げた。そこに書いて合ったのは、ぽち用のステージ衣装の原案である。

 

「栄華……完璧よ」

「仕立てもお任せ下さいませ!」

 

 興奮している曹操達をよそに、完全に話から置いていかれている三姉妹とぽちがポカーンとなっているが多分気にしてはいけない。

 

「ふふ……楽しくなりそうね!」

 

 曹操が笑みを浮かべた。将軍一同も笑みを浮かべた。当人達は何の事だかさっぱり分かっていないというのに。

 

 

 

 集客の手伝いとしてぽちも初回のステージに立つように言われたのはこのすぐ後である。もちろん三姉妹は文句を言った。素人と一瞬に、しかも女三姉妹のユニットに男を混ぜるなど普通に考えて暴挙である。しかし三姉妹も初めに文句を言っただけで受け入れた。なんせ相手はあの天下の曹犬である。顔が良い曹犬である。一曲くらいなら一緒にやっても役得ってやつよねという精神が働いたのである。ぽち本人は呂布から褒美として頼まれたので断れない。かくして記念すべき初公演にぽちがステージに立つ事が決まった。

 

 

 言うなれば張三姉妹は宝石である。ステージ上でいつまでも輝き続ける美しき宝石である。その輝きは見る者を魅了する。しかしその真ん中にぽちが立った。言うなればぽちは太陽である。輝きそのものである。歌の上手い下手いでは無い、魅力チートどころかバグである。アイドル三姉妹のユニットに異性を混ぜるとか暴挙? 現在大陸で一番信仰を集め、一部地域から神扱いされているぽちと現在地下アイドル程度の知名度の三姉妹、どちらかと言えばおこがましいのは三姉妹のほうである。来た客からすればバックダンサー扱い、安室奈美○とスーパーモ○キーズ以上の差がある。

 

 ま、その辺りは置いといて初公演は当然成功した。元々実力のある三姉妹である。ファンも当然根付いた。ぽちも何故か一曲限定でたまにステージに立つ。褒美としてせがまれる事があるからである。ぽちの歌を聞いた人々は口々に言う。

 

 全漢王朝が泣いた。

 腰痛や四十肩が治った。

 豊作になった。

 不作だった頭皮まで豊作になってきた。

 寿命も伸びた。

 隣の人がいきなりテクノブレイクした。

 

 等々まことしやかに噂が大陸中に広がっていった。もちろん三姉妹の公演の素晴らしさもついでに広がった。なので大陸から更にこの街に人が集まってくる事になった。

 

 え? こうきんのらん? 何それ知らない子ですね。




わい、今日が誕生日なんだ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。