幽州を目指す曹犬軍。その主だった将軍達の心はざわついていた。
「この娘達、俺が個人的に雇った軍師だから。いや、三年前に(文通を)はじめて会った時この娘達しかいないと思ってさ」
ぽちの言葉から文通の一言が足りないだけで、まるで三年前初めて会った時から二人を見出だしてやっと迎えたかのような言い方になった。三顧の礼ならぬ三年顧の礼とか凄いですよね。しかも曹犬その人が、である。そこまで請われた二人の少女に、皆嫉妬と羨望の目を向けた。仕事を出来るだけ押し付けるぞやったぜと笑顔のぽちを見て、この二人を迎えた事はぽち様がそこまで喜ぶ程の事なのかと驚く。そして、盧植が気付く。
「その二人はまさか……伏竜と鳳雛と言われていたあの……」
周りの者が盧植に尋ねる。
「伏竜鳳雛とは?」
盧植が返す。
「伏竜と鳳雛を手に入れれば天下を握れる、とまで言われている二人よ」
『!!??』
天下を握れる。天下を? ぽち様はまさか……。皆、一様に口を噤む。漢王朝の臣下としてその先は口に出して良いものではない。でもぽちがまさか仕事サボりたいだけとは皆思うまい。
「……じゃあ恋も」
「あ、私も私も~」
「……ぽち様、シャンは駄目?」
話を聞いた呂布、劉備、徐晃が私も個人的に雇ってくれと声を上げる。劉備までいつの間にぽち大好き勢に加わったの? さすがに大人な盧植は漢王朝の臣下として直ぐ様声を挙げるような真似はしなかったが、内心は己を助けてくれたぽちに追従する事にこの時決めた。
ぽちは思う。そんな金無いよと。
「ま、その辺は帰ってからね?」
と適当濁して、問題を後回しにする男。仕事出来ない奴の典型みたいな男である。
「久しぶりだな、ぽち君!」
幽州に着き、袁紹を通じて知り合いとなっていた州牧を務める公孫サン伯珪に迎えられた。
「や、久しぶり白れ──」
「あーパイパイちゃん久しぶりー!」
「ちょ、桃香」
挨拶中に劉備が公孫サンに抱き付いた。ぽちは思う。あれ? 真名、白蓮じゃなかったっけ。白白だっけ。やべえ。真名間違うとかやべえ。なんか知らんがこの二人仲良さそうだし桃香のおかげで助かったぜとぽちは思う。
「あはは、仲良さそうだな白パ──」
「久しぶりね白蓮ちゃん」
「風鈴先生!」
盧植の事を先生と呼ぶのであれば公孫サンは劉備と同門なのだろうとぽちは推測した。そしてこれで問題が発生した。白蓮と白白、どっちが正しいのか分からなくなった。いっそ間を取ってパイ○ンちゃんと読んで見るべきか。いやそれでは下の毛が生えてない人みたいだ。困ったのでもう真名で呼ぶのは諦めた。
「……再会出来て嬉しいよ、伯珪」
「あ、あれ? なんで真名で呼んでくれないんだぽち君?」
「あはは、どうかしたかい伯佳」
「え、もしかして私何かしたか? ごめん分からないけど謝るよ!」
だって二分の一で当てる自信無いんだもんと笑って誤魔化すぽちと真名を呼んでもらえなくて焦る公孫サン。公孫サンは今回ぽちを迎えるに当たり、私は曹犬とは真名を交換している仲なんだと周りにちょっと自慢していた。なのに呼んでもらえなくて公孫サン側の周囲から白い目で見られ涙目になっていた。全部真名を間違った劉備が悪い。何でアニメの時、わざわざ真名間違える設定にしたんだろう。あれのおかげで大徳のイメージ無いんだよなあ。
「冗談だよ白白蓮」
「なんだ冗談か……っていま一文字多くなかったか!?」
「気のせい気のせい、いいね?」
「そ、そうかな?」
最終的にくっ付けて力業で誤魔化したぽち。勢いに任せて誤魔化される公孫サン。そんな感じだから残念さんとか公式に煽られるんだと思うよ。
「で、後ろに控えてるのが白白蓮のとこの?」
「ああ、うちの──」
「白蓮殿の所で"客将"、をしております趙雲子龍と申します。どうぞお見知り置きを、聖人殿?」
「同じく、"客将"をしております関羽雲長と申します。お会いできて光栄です」
「鈴々は、じゃなかった、えーと、張飛翼徳! 愛紗と同じで"きゃくしょう"、なのだ! 宜しくなのだ!」
「なんで皆客将をそんなに強調してるんだ!?」
「いやいや白蓮殿、ただ私は事実を申しただけの事」
「そうです。強調などしておりません」
「してないのだ」
「いや絶対してるだろ!?」
なんで将じゃなくて客将ずらっと並べてるんだよとか突っ込む所はたくさんあるのだが、ぽちはとりあえず公孫サンの肩にポンっと手を乗せて慈愛を込めて言った。
「なんか州牧になっても相変わらずで安心した」
「どういう意味だよそりゃ……」
意味はそのまんまです。
とにかくやたらぽちに対して売り込みを掛けるというか、大陸を駆け巡った噂からか興味津々な公孫サン客将組と、辿り着く前の経緯からか客将組を牽制しながら、私達のほうがいいですよねとアピールする曹犬軍の将軍面々。ぽち、美女から人気は嬉しいが流石に面倒臭くなり現実逃避する。具体的に言えば対烏丸対策を考えるから時間をくれといって勝手に城の一角を貸し切り、引き籠った。勿論対策なんて思いつかないからちゃんと伏竜鳳雛も連れて。
「ぽち様の烏丸対策、聞かせてもらえませんか!」
目をキラキラさせながら聞く孔明。何も考えてないなんて言えないぽちは質問に質問で返す。
「ん、でもその前に何か策はあるかい?」
「はい! 雛里ちゃんと三つの策を考えました! まず……」
それは上策、中策、下策、それぞれローリスクローリターンからハイリスクハイリターンなものまで幅広い策を二人は献策した。ぽちに仕えて初めての献策。二人の練りに練った策である。それをぽちは、ぼーっとしていたのであまり聞いていなかった。
「ふむ……」
とりあえず思案する振りをした。振りだけである。だが、そのぽちの様子を見て伏竜鳳雛の精神は大きく揺さぶられた。何せ今まで聞いていた話だとぽちは即断即決で軍師の策に任せて全て委ねていたと聞いていたからだ。それが二人に対してはそれをしなかった。信用されていないのでは。それとも気に入らなかったのか。はたまたその程度かと思われたのではとぽちの悩む様子にはわあわと気が気ではない二人。ほんとに聞いてなかっただけだからね。あと「じゃあそれで」っていつも言ってたのは大体皆一つだけ献策してきたから聞いてなくても決められただけなんだからね。
「なあ、朱里」
「は、はい」
「旨い酒、用意してくれない?」
「はい! ……はい?」
「旨い酒、宜しく」
「わ、分かりました」
長考の末、現実逃避しかねえなと思ったぽちは酒を所望した。慌てて酒を取りに部屋から出る二人を見ながら、やっと一人になれたと思うぽち。戻ってきた二人に「一つ目の策で行こう」と思いついた無難な返答を告げ、幼女二人にお酌をしてもらった。
「……これ旨いな」
「趙雲さんから酒ならこれをと渡されました。あとこれもと。秘蔵のメンマらしいです」
何故メンマなのかと思いながら渡された箸をメンマに伸ばした。その時からぽちはメンマ党になりました。趙雲超良い奴じゃねえかとぽちも名前をばっちり覚えました。白白蓮さんよりはっきりと覚えました。旨いなと酒を呑むぽちを見ながら、伏竜鳳雛は考える。私達の策には恐らく至らない点があったのだろうと。しかしぽち様はそれを飲み込み託してくれたのだろうと。だがもしかしたら烏丸と対峙した際にそれが分かるかも知れない。此度の私達の初陣でしっかりと見極めなければと二人は密かに気合いを入れた。
しっかりと見極めるといい。今、二人の前にいるのはただ酒に逃げてる駄目人間だからな。
今週入って頭痛が引っ込んでくれなくてロキソニン漬で死んでて更新遅くなりました。まだ治ってないので次も遅くなったらすいません。
感想の返信は後で纏めて返します。頭痛はいつも目にくるから嫌いです。偏頭痛この世から消えないかな。