【完結】真・誤解†夢想-革命?- 蒼天の覇王   作:しらいし

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第十話.涼州の救世主(童貞)

「食糧の件、本当にありがとうございました。本当に何も受け取っては貰えないのですか? 全額は厳しいのですが、せめて気持ちくらいは受け取って頂かないと……」

「いいよいいよ、勝手にやった事だし。うちの皆いいって言ってたし。むしろ勝手にやっちゃって申し訳ないというか」

 

 

 董卓仲穎と会談に望んだぽちは食糧の件を一切恩に着せず、勝手にやってごめんと謝った。完全に想定外の行動しか取らないぽちに董卓は困惑しながらも感謝を示す。まあこんな将軍いるとは思わないだろうしね。

 

 

「いえそんな、私達からは感謝しかありません。何せ涼州は土地柄食糧事情が厳しいので……」

「そっか……、じゃあ今日はソバの実の粥でいいか」

「……あの、ソバの実、とは?」

 

 

 曹犬はグルメである。袁家にて散々色々な料理を食してきた男である。また袁家はどちらかというと家庭的な料理を好むこの男に楽しんで貰うため、その強大な力を家庭的な料理のレシピ探しに使った事がある。その激レアレシピの一つ、ソバの粥。ソバは超臭い花を付ける植物である。誰が食べるかというくらい臭い。が、冷涼な気候、雨が少なかったり水利が悪かったりする乾燥した土地でも、容易に生育し二、三ヶ月で実がなる救荒食物として5世紀頃から栽培されている、現代ではロシアが消費量一位の食物である。ただ、花が凄く臭い。人の食べ物なんて思わないと思う。

 

 

「あのくっさい花付ける奴。実を粥にしたら意外と美味しいよ。この辺で自生してるの見たし。あれ育てたら? その辺で育ってるならいけるでしょ」

「あの、詳しく聞かせてもらえませんか!」

 

 

 袁家はこの男がいなければソバの粥なんて絶対作らなかったであろう。袁家の甘やかしによるレシピ発見で三世紀程前倒しで救荒食物の栽培が開始される事になるなんて誰が思うだろうか。そしてこれにより、涼州の食糧事情が徐々に改善されていくなんて誰が思うだろうか。魚をやるより魚の釣り方を教えてやれとは誰が言ったか、ぽちは魚を与えた上で魚の釣り方まで教えているのである。ただ袁家で食べた物を袁家で料理人から説明されたの覚えていて、あれ食べればいいかと思っただけだよ。「パンがない? じゃあケーキで」くらいのノリで言っただけだよ。ソバの説明ちゃんと覚えていたぽち、ファインプレーである。

 

 え、あんな糞みたいな匂いする花の実を食えとと困惑の涼州の民、大恩ある曹犬様が言うならと食した結果、ロシアや東欧の伝統料理カーシャ、中華伝統料理に切り替わる。カーシャが広まるにつれ、曹犬を救世主として崇め始める。もはや涼州民にとって神扱いである。そして涼州民が遊牧民から農耕民に切り替わっていくなんて誰が予想出来たであろうか。これ涼州から西に伝わったらこの世界モンゴル帝国生まれるのかな。万里の長城消滅不可避。

 

 

 

「あの、本当になんと言ったら良いのか感謝をいくら言葉で並べても足りず……」

 

 感謝? そんなに夕飯用意出来ないくらい困ってるのか。ソバの粥でいいやと言って良かったと一人納得するぽち。民を救う発言だったと本人が気付いてない。

 

「まあほら、こんなに美味しいお茶を入れてくれたお礼っていうか? こんなに美味しいお茶、毎日入れてもらえたら幸せやろうなあ」

「へぅ……」

 

 その言葉に赤面し顔を伏せる董卓。ぽちよ、それ求婚と思われても仕方ないぞ。いきなり現れて国に施しを与え国を救う知識を与える男、しかも見返りは何も要らぬという。話せば分かる人の良さに加え、容姿まで美形という。何やこいつほんとに童貞か。聖処女ならぬ聖童貞誕生。オルレアンの乙女は響きが美しいけど洛陽の童貞とか呼ばれたら引き込もっていいレベル。尚、もはや周りが手を出せないレベルになってきているのでしばらく童貞を守り続ける模様。後、何進が弄んでる自慢をしているので何進にヘイトが溜まってる模様。

 

 

 

「で、では私達も羌族の本隊との戦いに同行させて下さい。せめてそれぐらいはさせて頂かないと」

「いいの?」

「はい。私達の軍は最前線で常に戦い続けています。決して曹犬様のお邪魔にはなりません」

 

 

 

 

「っていう訳で董卓軍が加わる事になったけど、良かった?」

 

 会談を終え、主だった将を集め会議を開いたぽち。事後報告ごめんねと董卓軍の参戦の経緯を告げる。戦力アップやったねと告げた筈なのに一同、無言となる。

 

「あ、あれ? もしかして駄目だった? ごめ──」

「ぽち様」

 

 徐晃が口を開く。

 

「……シャンは恥ずかしい。……シャンは異民族と戦い勝てば涼州を救えると思った。ぽち様は本当の意味で涼州を救いに来たのにシャンはそれが分からなかった」

「ん? 香風、何の事──」

「徐晃」

 

 今度は華雄が口を挟む。

 

 華雄いたの? 一騎打ちの後、何進に華雄の処分をどうするか聞かれたぽち。華雄はどのような沙汰でも甘んじて受けるつもりだったが、ぽちが「いや別に……、そうだ、仕事頑張ればいいんじゃないかな」と仕事を頑張るのが嫌いなぽち的には罰ゲームだったのだが、そんなの割りと当たり前なのでなんの罰にもならず華雄は恩を返す為に今回の行軍に直訴し参加した。一応勇将にして猛将と名高き華雄は、今のところ曹犬軍の活躍の場が無い為に無駄飯食らいにしかなっていないんだなあこれが。

 

「我々武将の本分はその武で忠義を示すことだ。主の事を誇りに思うのであれば、貴様の武で主の期待に答えることこそ本意と知れ」

 

 華雄の言葉に無言で頷く徐晃。なんか口を挟み辛い雰囲気になったので余計な事を言わず黙るぽち。

 

 

「あの、ぽち様」

「ん、何かな桃香」

 

 暫しの沈黙の後、劉備が口を開いた。

 

「その人はどなたですか?」

「……恋は恋。……宜しく」

 

 誰も突っ込まなかったのでずっと黙っていた、ぽちの後ろに控えていた呂布奉先がやっと喋った。実はずっとぽちの後ろにぴたりとくっついていたりする。

 

「また真名をいきなり言う。あ、この娘は呂奉先って言うんだ」

「……宜しく」

 

 呂布奉先。武を志す者なら誰もが知る最強と名高きビックネームである。何故呂布がぽち様にくっついているのだと皆、疑問符を浮かべる。が事は単純である。

 

「なんか懐かれちゃった。皆宜しくね」

 

 気が付いたら懐かれていた。ただそれだけである。呂布は董卓に一言言う。「……曹犬についていきたい」と。呂布の武、それを知る董卓は曹犬に恩を返せるならと承諾する。呂布の武を知らぬぽち、よく分からんが可愛い娘が来るなら拒む訳がない。

 

 

 

 こうして良く分からない展開で自陣に呂布を迎えた(後、ちんちくりんの軍師も後からついてきた)曹犬軍は馬超軍と董卓軍と共に涼州に巣食う羌族の本体に対峙する。

 数、士気、共に敵の圧倒的に上を行く最高の環境を用意して見せたぽちは馬超と董卓に言う。「じゃあ指揮は任せるから」と。

 

 二人は驚く。後は号令を掛けるだけ。それだけで勝つこの状況で、この此度の遠征の最も誉れといえる局面で、この曹犬という漢王朝が誇る将軍は手柄を譲ると言ったのだ。二人は必死に固辞するも、「だってこっちが手柄立ててもさあ。地元の人に悪いし任せるよ」と言うぽち。この人は、この人にどうすればこの大恩を返せるというのだと二人は涙を流した。涙で目が曇った二人よ、そいつ面倒臭くなってるだけだからな。

 

 ここまでされて本気を出さない訳がなく、馬超軍と董卓軍は敵を蹂躙した。大人しくて可愛いと思っていた董卓をチラっと見たら、董卓が恐ろしく怖い闘気を纏っているように見えたぽち。ぽちはその時の事を振り返る。「もうほんと怖くて。魔王っていう言葉が似合うっていうか。後、酒池肉林とか好きそう」とKOEI董卓が乗り移ったように見えたようだ。こうして涼州遠征は圧倒的大勝で幕を閉じた。董卓が怖くなったぽちは、そそくさと涼州を後にした。


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