やはり俺の青春ラブコメにウサギがいるのは間違っている。   作:獲る知己

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久々の投稿です。
時間が経ちましたがすべてはメカエリちゃんのせいです!
いやー今回のハロウィンも楽しかった。





彼を取り巻く世界は間違っているだろうか。

 どこに行くのかもわからずフラフラと後をついていく俺の姿はまさにゾンビか不審者の様で、すれ違った女生徒は平塚先生に笑顔で挨拶した後に俺を見て悲鳴を上げる。そんな流れが続いた結果先生の隣にいる。

 女性の後ろを3歩下がって歩く主義の良夫としては不満だ。別に悲鳴をあげられたことが不満なんじゃないと一応明記しておく。クソヤロウめ。 

 

 夕日が登り始めるころに窓の外を飛び回る黒い影を見つけた。

 校舎と離れた前衛的な建物が特徴的な特別棟の周りを上下左右に飛び回る。

 

「ISか。物珍しいかね?」

 

 隣にいる俺が立ち止まったのに気付いた先生がなんとなしに聞いてくる。

 

「まぁそれなりに……見る機会は少ないですから」

 

「君としては、あまり興味はないのかね」

 

 そっけない態度の俺に複雑な笑みを向ける先生は空を飛び回る影を目で追いかける。

 そのうち、動きがまだまだとブツブツと酷評してるがこれも一種の職業病なのかね。これだから社畜にはなりたくないものだ。

 

「普通の人並みには興味ありますよ。ライダーも戦隊ものもロボも好きですし」

 

 なんならその後やるプリティーなキュアキュア的な番組も毎週見てるほどだ。児童向けと言うがあれはいいものだ。

 最終回とか見ると今でも泣けてくる。

 そんな兄の姿を見た妹が冷たい目で見てくるから2重で泣ける。

 

「君の場合はISに対して人並み以上に興味をもってもらわないと困るんだがな……」

 

 困ると言いながら愉快そうに笑ってるところを見ると困窮するほどには困ってないらしい。

 

 さて、ここで1つさっきから名前の出てるISの事を話そう。

 今から約10年ほど前に、とある事件が発生し世界は一時大変な騒ぎになった。その原因と言えるのが後にISと言われるマルチパワードスーツである。要するに装甲が少ないロボだ。

 

 確か正式名所がイン、イン、インデックス・ストラトス……だったけ?なんか魔術と科学が交差しそうな名前だな。

 

 このISは元々宇宙開発用に作られたというが、最高時速は音速を超え、強固な守りはミサイルをも防ぎ、デブリを排除するという触れ込みの武装の数々は完全に戦闘用。

 当時現存した通常兵器の中では、まさに最強と言えた。

 

 そんなオーバースペックが本当に宇宙開発に使われる訳もなく世界はISを初め兵器と位置づけ、その強力さに恐れを抱きISによる戦争行為の一切を禁じする『アラスカ条約』の締結により今ではスポーツ競技の一種として一般に認知されてる。

 

 ジャンルで言うとボクシングや格闘技に剣道や戦車道と同じだ。なお、最も近いのが戦車道(アニメ)。

 

「君や世の男性からしたら女尊男卑の元凶だろ。憎い…とまでは行かなくても複雑なんじゃないのか?」

 

 先生の質問は皮肉や嫌味の一種ではない。真剣な顔を見ればそれくらいわかる。

 単純に疑問に思ったから聞いたのだろう。自分より目下の物に何かを聞くというのは目上の者にとって中々しづらい。

 必要な事でも教えを乞うというのは大人にとって恥ずべき行為なのだと思う人間は多い。それに対し先生のように疑問を疑問として終わらせない人は、なんというか賢く見える。

 

 だから、虚や取り繕いは必要ない。

 どこかのショーエネ主義者ではないが、必要ない事ならやらなくてもいいだろう。

 

「別にそんな事思いませんよ。最強の兵器でも最新のスポーツでも要は道具。恨むとすればそれを使う人間ですよ。この世の不条理は大体人間の責任です」

 

「なんとも捻くれた回答だな。君はもう少し素直になってもいいんだぞ」

 

 俺の答えに一瞬キョトンと目を丸くさせた先生は、やれやれといった笑みを作る。

 

「俺ほど素直な人間もいませんよ。社会に出たくないし、働きたくない。やる気と根気もありません」

 

「はぁ…」

 

 疑問も解消され満足したのか先生は歩みを再開させる。最後のため息がどういう意味なのかは知らない。例え言葉にしなくてもこのクズと、目が雄弁に語っていたが知らない。

 分かっていてもわからなくていい事も結構あるのだ。

 

 あと、補足として。

 アラスカ条約により軍事運用ができなくなったISだが、その本質は人が操縦するロボットな訳で練度が高ければ性能も上がるし逆もしかり。

 が、軍人が大手を振って訓練するのは色々と決めごとがありめんどくさいのだという。だからと言って民間の好きに特訓させるには問題が多い。

 そもそもIS自体500機に満たない数を世界中に分配してるのだから1つの国が保有する絶対数は少ない。

 

 そんなこんなでIS操縦者を育成する教育機関が必要となり、名聞上軍隊が存在せず戦争の参加を禁じてる日本に白羽の矢が立った。面倒事を押し付けたともいう。

 

 国が主催として育成と技術向上を目的に教育機関を設立した。しかも、そこで出た成果は日本国が独占保有する事は禁じされ、世界に発信しなければいけないという理不尽な規定付きで。

 逆に各国の技術流失を避けるため、どの組織も国家も学園並びに生徒、職員、その家族に干渉する事も禁じられている。

 

 そんな世界の思惑と面倒事の集大成こそ、『特殊国立高等IS育成学園』通称IS学園だ。

 某夢の国と同様に海の上に建てられたこの学園は名前にはついていないがれっきとした女子高だった。

 今年の受験シーズンに1人のアホな男性受験生がISに触れ起動させてしまい、その後行われた適性試験により2番目の男がISを起動させるまではな。

 ちなみにその2番目の被害者が俺こと比企谷八幡である。

 ほんと、どうしてこうなったのか……。

 

「まぁ君たちにとっては無理やり入学させられた上に他の生徒は全員女子で気苦労もあるだろう。でもな、なってしまった物はどうしようもないんだ。前向きとは言わんが少しくらいやる気を出したまえ」

 

 ちなみに俺は地元千葉の総武校の入学がすでに決まっていた。

 

「夢や目標がないやる気は空回りするだけですよ」

 

「ないなら作りたまえ。友達や恋人はいなくてもそれくらいできるだろ」

 

「冗談がお上手ですね」

 

 乾いた笑みで一蹴してやったが学校の先生とはめんどくさい物で、生徒にやたら夢だのを押し付けてくるものだ。

 こんな会話もこれから何回か訪れるだろうから気にしないでおく。

 なんとなくこの先生は諦めが悪い気がする。俺ですら諦めてる俺の事を気にするとか本当にお疲れ様です。

 おそらく成果は見込めませんがやることに意味があるんだと僕は思いました。なんで作文風?

 

「ついたぞ」

 

 声を掛けられ、気づいたら教室の前まで来ていた。

 位置的に本校舎からかなり離れた角部屋で、プレートには何も書かれていない。俺が小首をかしげてる間に先生はずかずかと教室の中に入っていった。

 

 教室の中は乱雑に積まれた段ボールが多くあり、教材や資料が散乱してる。

 扉を開けると異世界の食堂に通じていたり、見目麗しい美少女なんていなかった。一目でわかる物置とされた空き教室だ。

 

「……埃っぽいですね」

 

「しばらく誰も使ってなかったからな。では比企谷、これから奉仕活動の内容を説明する」

 

 中を歩くだけで積もった埃が宙に舞う。

 そんな中先生はカーテンを開き窓を開け外から入る夕日の光をバックに振り返る。

 

 その瞬間。俺の脳内を電流が走り、今までの人生で起こったあらゆる事が再生される。これぞまさに走馬燈!

 て、違う違う。もっとあれ、推理漫画とかである感じのピーン見たいな奴。

 

 人気が少なく、いくら騒いでも誰かが駆けつける見込みがない離れの空き教室。夕日のコントラストを生み出し淡い雰囲気を演出するシュチュエーション。そこに寝ても覚めてもエロい事しか考えていない思春期真っただ中の男子高校生と、妙齢の綺麗な独身女教師。

 

 こんな条件が揃えば起きる事なんてトラブルがダークネスするしかない。思春期男子ならそう考える。そいつらみんな罰として廊下に立ってなさい。

 

 現実でそんなイベントは起きないし、俺の青春にラブコメなんて発生しない。きっと俺の所のラブコメの神様は怠け者なのだ。

 

「この教室の資料等を新しくできた資料室に運んでもらう」

 

 ですよねー。

 はいはいわかってましたよ。肉体労働ですよね。こんちくしょう。

 

 先生から言い渡された言葉はまさに俺を絶望の淵えと突き落とす悪魔のささやきだった。

 俺の嫌いなものは数ある。騒がしいリア充も嫌いだし人前でいちゃつく恋人も嫌いだし俺が認知してるアベックはみんな破局すればいいのにと常日頃から思っている。

 

 そんな俺が一番嫌いなものは、報酬のない肉体労働だ。ちなみに次に報酬のある肉体労働が嫌い。ということで全力でお断りする方向で脳内会議が決定した。

 

「あの、すいません実は俺、持病のヘル、ヘル、ヘルクレスなんすよ」

 

「ギリシャの大英雄なら問題はないな。ちなみに君が言いたいのはヘルニアな」

 

 痛恨のミス。やはりよく知らない知識をおおっぴろげにすると痛い目を見るだけか。

 ちなみに、後に調べたがヘラクレスのラテン読みがヘルクレスなんだそうだ。よくそんなこと知ってたなこの現国教師。

 

「……埃っぽい部屋に入ると咳が出るんです。ごほっごほっ」

 

 最近の教育機関はアレルギーとかにやたら弱い。イメージ的には初級魔法で倒せるスライムレベル。

 病気ってる感じを出せば嫌な仕事からは大概逃げられる。

 

「入学時に受けた健康診断の結果、喘息やアレルギーのない健康体。実によろしい」

 

 平塚先生は手に付けたブレスレット型の端末で俺の健康診断の結果を表示した。いやー俺のプライバシー!

 くっ、バイト先の店長レベルの認知度ならともかく親や教師レベルの認知度ならこの手は効果ほとんどない。クソ!店長ごめんなさい!

 

「そう嫌な顔をするな。やることをやったらこの教室を好きに使っても構わないぞ」

 

 露骨な表情で死んだ顔をしてる俺にしょうがない奴だと言わんばかりの目を向けてくる。

 

「好きにつかっていい?」

 

「ああ、そもそもこの教室は職員室からも他の学年の教室からも離れすぎている。今までは物置程度にしか使ってこなかったが、それも新しく資料室ができたから使いみちがないんだ。そこで、提案だ」

 

 俺は先生の話を真剣に聞く。

 腰に手を当てウインクする姿に年を考えろと言いそうになるが堪えておく。大事な話のようだし、言ったら殺されそうだし。

 

「君は当初、寮の調整ができるまで自宅通学と聞いていたはずだが今日の昼頃に政府の方から通達が来て護衛や防犯上の都合で今日から寮生活をしてもらう」

 

「え、初耳なんですけど」

 

「伝えるのを今の今まで忘れてた。すまん」

 

 おいコラ、結構重要な事だろそれ。

 

「しかし、何事も急すぎてな。都合が付かず君は上級生と同室になってしまった。もちろん相手は女生徒だ」

 

「ぇ……ちょっと、それ」

 

 さらに重要な事を言われ、戸惑いながらも聞き返そうとするが、先生は聞く耳持たず話を次々に進めていく。人の話を聞いてくれ先生!

 

「そうなってくると君はまさに四六時中女子と接する事になる。普通の男子高校生なら喜ばしいシュチュエーションかもしれないが、君の場合それは単なる地獄だろ」

 

「そう思うならどうにかしてくださいよ」

 

「政府と学園上層部の決定だ。私にはどうすることもできんよ」 

 

「……」

 

 あっけらかんと言われてしまうとそれ以上言葉が出ない。俺自身もそういった大人の事情とやらでここにいるわけだし。

 先生の立場的にも、俺と先生の関係性的にもそれ以上異論を唱える意味も価値もない。フレンドリーすぎて忘れそうになるがこの先生とはほぼほぼ今日が初対面だ。

 俺が逆の立場ならそんな面倒な生徒なんかとっくに見捨ててる。そう思うと平塚先生は面倒見がいいのかもしれない。

 

 しかし、駄目と分かっていても苦言は呈する。黙っていては何も変わらないし、ネットに書き込むだけでは炎上はできても物事は変わらない。まずは実行する事が社会復帰の第一歩と知るがいいニートども。

 

「上の連中は公序良俗とか倫理観とかわかんないんですか」

 

「いつも苦労するのは現場の人間さ。上は現場の苦労をわかっちゃくれないよ。社会に出ればよくあることさ」

 

「うわー社会出たくない」

 

 お互いに哀愁の漂う背中を晒しながら夕日に向かってバカヤロウと叫びたくなる。俺が成人したらこの先生とはいい酒が飲めそうだ。

 

「あと、もう1人の男子生徒と同室にする意見もあったが色々な要因が重なり没になった」

 

「なんですか要因て」

 

「詳しくは言えんが、揃っているところに爆弾でも放り込まれると取り返しがつかないが1人1人ならどちらかは助かる的な感じだな」

 

 いきなり物騒な話が飛び出してきた。

 よくよく考えると、俺達の存在(男性操縦者)は女尊男卑を信仰してる奴らにとっては邪魔以外の何者でもないのだ。

 生きてるより、死んでくれた方が喜ぶ連中も中にはいるってことか。

 うん。もう、おもてでたくない。引きこもりたい。

 

「防犯面で寮は安全のはずだが一応の対策だ。ただ、身の安全が保障されても精神の方がケアできなくては学校として申し訳が立たない。そこで放課後だけでも君が1人になれるようにこの教室を提供する」

 

 なるほど、ここに来て先生の言いたいことが大体わかった。授業も寮でも女子と接するとなると俺のHPはガンガン削れることだろう。

 

 思い出すのは中学時代の移動教室。目の前を歩く女子が消しゴムを落とし親切心で拾って渡したら相手はいきなり泣き出した。

 何事かとその子の友達が俺に問い詰めるが訳が分からない俺は知らないの一点張り。女子がある程度落ち着いて女子の友達が事情を聴くと女子は目を赤くはらせ言った。

 

『ひ、ひ、ヒキタニに…消しゴム触られたっ』

 

 うん。理不尽すぎる。

 その後待ち受ける謝れコールに俺の心が折られたのは言うに及ばない。

 

 普通の時でこれなら、こんな環境じゃ1週間で引きこもりの不登校になるのは目に見えている。せめてもの心の平穏を保つためにも先生の提案は魅力的だ。

 

「名目上は部活動とでも言っておくし顧問は私が勤める、先生方には話を通しておく。まぁ何事もただ与えられるだけじゃ有難みがないからな。そのための措置として奉仕活動を行う」

 

 そう言うと先生は俺の事をじっと見つめて何も話さなくなった。

 あとは、返事次第。そういうことだろう。

 

 俺は頭をガシガシとかき上げ大きなため息を吐き先生に向き直る。

 

「わかりましたよ。甘んじてその罰受けますよ」

 

「うむ、よろしい」

 

 今までの真剣な雰囲気から明るい笑顔に変わる先生。窓から差し込む夕日に照らされその笑顔はまさに輝いている。

 ほんの、そう、ほんの一瞬ではあるが、その笑顔に見惚れていたのは、気の迷いだろう。


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