やはり俺の青春ラブコメにウサギがいるのは間違っている。   作:獲る知己

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ここから原作始まります。
今のところ俺ガイルの登場人物ですけどこれからいろいろ増える予定です。








やはり彼と恩師は大抵変わらない。

 桜吹雪が舞う4月。海のにおいと春の木漏れ日が交差して、とある物語が始まりそうな快晴かな。

 ついこの間まで中坊だった少年少女にとって高校生活が始まった日にこの天気は実に幸先がいいように思える。

 俺を除いて。

 例えるなら海底の底。海のにおいはプランクトンの死臭に代わり、木漏れ日どころか太陽の光すら見えない。見える光はチョウチンアンコウが獲物を呼び寄せ捕食するためのちょうちんだけ。

 今の俺の心情は大体こんな感じだ。

 

「比企谷なんだこれは?」

 

 そういいながら眉を八の字に曲げているのは国語教師にして俺のクラスの担任である平塚静先生だ。

 長い黒髪にスーツの上から白衣を着た美人である。男子高校生なら年上の美人に詰め寄られるのは憧れるシュチュだが、この俺に限りそんな浮ついた展開はない。

 

「……はぁ、『新しい高校生活に向けて』という作文です」

 

「そうだな。これは今日うちのクラスで出した課題の作文で、ついでに言えばお前の作文だな」

 

 平塚先生の手に持っている作文には確かに俺の名前『比企谷八幡』と書かれている。

 ちなみに同姓同名の可能性とか俺に限りほぼほぼ皆無。逆に俺以外の八幡さんがいたらあってみたい気もあるけどやっぱいいや。話す事もないし。

 

「では君はそんな作文の書き出しをなんて書いた?」

 

「『今の世の中、男に未来はない』でしたっけ」

 

 平塚先生に促されるままに読み上げた文章。

 あれだな、レポートとか小説は最初の1文で言いたいことをまとめるかインパクトが重要って言うし、そういう意味ではパーフェクトな書き出しと言えなくもない。うん。たぶん言えないな。

 

「何か問題ありますか?」

 

「むしろ君は何の問題もないと思うのかね?」

 

 質問を質問で返すのはよくない。抗議しようとしたがやっぱりやめた。

 なやまし気なため息の後、髪をかき上げる先生はもとが美人なだけあって絵になる。

 特にそのギロリとした目つきとか日本古来の絵とかに出そう。タイトルは般若。

 うん。凄いお怒りですね。抗議したら食われる!?

 

「い、いやですけどね。今の女尊男卑の風潮じゃあながち間違ってないですよ」

 

 女尊男卑。

 女性の社会進出や家庭内で父親の威厳が低下したことなどに伴い起きた社会現象の総称。ではなく。

 そういった歴史で繰り返されてきた変化とは全く違う。とても歪な形で発生した社会現象の事である。

 

 10年前に起きたとある事件と、そこで登場するとある発明品が主な要因で発生し世界全土で広まった風潮。

 名前の通り女性優位の社会体系で亭主関白の逆のようなものだ。ただ、問題なのがこの風潮が広まった事による弊害。

 

「痴漢なんかの冤罪事件は年々増えてますし、性別だけで相手を見下し無下に扱う連中も目に余ります。そんな世の中で男に希望なんてあると思いますか」

 

 女性の権限が高くなるにつれ男女感の差別は逆転し広がり、増長した連中が何かと問題を起こすことが多くなっている。もっとも、その問題自体がうやむやにされたり男が一方的に悪いと言われたりすること自体が本当の問題なんだけどね。

 

「確かにそれも、重要な問題だが。それとは関係なく君の作文は問題だらけだ特にこの最後」

 

 俺の作文の最後は余った余白を贅沢に使った大文字で書きなぐられている。

 これが俺の考える今の社会を乗り切るベストアンサー。字の大きさは自信の大きさでもあるのだ。

 そんなまとめの文の何が問題なのかと首をかしげた。

 

「『社会に出るより家に入った方が安全。俺は将来専業主夫になる!』なんでこんな締めになるんだ!」

 

「なんやかんやでお家が一番安全じゃないですか」

 

「引きこもりか!それに普通こういう作文はこれからの抱負とかを書くものだ。それとも将来は自宅警備員にでもなるつもりか!」

 

「いや、だから専業主夫に……なんでもありません」

 

 言葉の途中で凄い目力で睨まれた。

 ふぇぇ…怖いよ…。

 

「比企谷。なんだこの舐めた作文は?言い訳なら聞いてるぞ」

 

 圧のある声で問い詰める平塚先生。たぶん更木さんちの霊圧くらいのプレッシャーがかかってる。

 なにそれもう人間じゃない。

 

「ひ、ひゃ、俺はちゃんとこれからの抱負だって書いてますよ。大体それならそうとあらかじめ説明してくれればその通りに書きます。これは先生の出題ミスですよ」

 

「小僧、屁理屈をこねるな」

 

「いや小僧って……確かに先生の年齢からすれば俺は小僧ですけど」

 

 ひゅんという音と共に先生の右手は俺の頬をかすめる。

 目にも止まらないグーパンチだ。

 

「次は当てるぞ」

 

 あ、これマジだ。

 額に冷や汗が流れる。

 

「すいません。書き直します」

 

 このまま話を続けていれば俺の身の安全が保障されない。謝罪と反省の意を表す言葉を選択。

 そうそうにこの場を立ち去るべく、行動を開始する。

 次の行動は先生のゴーがでれば職員室からダッシュで逃げ出すだ。

 

「はぁ、確かに君達(・・)の置かれた立場は色々複雑だ」

 

 ……あー、これはなんかお話モードに入ったな。

 このパターンだとまだ話は続くだろう。ダッシュで逃げ出すことができない。

 しかも平塚先生の話し方からさっきまでのお怒りモードではなく教師モードの話だな。

 

この学園(・・・・)で君が生活を送るのは不便もあるし、周りからの目もあるだろう。でもな、なってしまった物は仕方ない。せめても前向きに学園生活を送る気にはなれないか」

 

「はあ……」

 

 俺の気のない返事に苦笑いを浮かべる先生。それから胸ポケットから煙草を取り出し火をつける。

 百円ライターなのが残念だが、それでもかっこいい仕草だ。

 

 将来俺も煙草を吸い、酒を飲み、平日の昼間からゴロゴロしてる大人になろう。ただの駄目な大人だな。

 

「君は部活してるのか?」

 

「まだ勧誘期間中ですし。まぁ、やる気はないですが」

 

「…友達はいないよな」

 

 この教師俺に友達がいない事を前提で聞いてやがる。

 

「ま、まだ学校生活始まって日もたってませんし」

 

「これから先できる予定でもあるのか」

 

「お、俺は平等を重んじてるんで特別とか、特に親しい人間を作らない主義なんです。そ、それにここじゃ俺と話が合うやつとかいなさそうですし」

 

「つまりいないし、作る気もないし、作ろうとしても作れないと」

 

「た、端的に言えば……」

 

 俺がそう答えると先生はやけにやる気の満ちた顔になる。

 

「そうか!いないか!やはり私の見立て通りだな。きみの腐った目を見ればすぐにわかったぞ!」

 

 なら聞くな。むしろ積極的に聞かないでくれませんかね。デリケートって言葉ご存知ですか。

 

「……彼女とかいるのか?」

 

 遠慮がちに聞いてきたが、とかってなんだよ。どうせいねえだろって思ってるだろ。

 

「き、清く正しい高校生活を送るうえで」

 

「そうか」

 

 話の途中でなんか納得された。

 潤んだ瞳でこちらを見てる事からあまりいい納得ではない事が予想できる。

 おい、やめろ。生暖かくて優し気な瞳で俺を見るな。人の優しさは時にどんな凶器よりも凶悪なんだぞ!

 

 平塚先生はティッシュで涙をぬぐいついでに鼻をかんで何事かを思案したのち煙を吐き出す。もう少し自重しろよ。一応生徒の前だぞ。

 

「よし作文は書き直せ」

 

「はい」

 

 妥当なところだ。

 仕方ないので先生が望む当たり障りのない、僕の夢はパイロットかプロ野球選手的な内容の文章を書こう。

 ここまでは想定内。でも、ここからさきが俺の予想を大きく超えるものだった。

 

「だが、君のその腐った考えはこれからの学園生活、ゆくゆくは社会生活に大きな障害が出ると判断した。よって君には奉仕活動を命じる」

 

 少年のような瞳で喜々としてそう言いだす先生。

 たぶん将来の夢はパイロットか野球選手とかなんだろうな。

 いやいや、現実逃避してる場合じゃない。

 なんだよ社会生活に障害が出るって、それに奉仕活動とどうつながるんだよそれ。そんな抗議や疑問が頭をよぎるが一旦落ち着こう。

 

「奉仕活動って…具体的に何をすればいいんですか」

 

 恐る恐る尋ねる。もうね、死刑宣告される犯罪者の気分。それでも俺はやってない。

 

「ついてきたまえ」

 

 小綺麗に整頓された机の上の灰が滲んだ灰皿に煙草を押し付けると、先生は颯爽と出口に向かい歩き出す。

 質問の答えがない上の提案に俺が固まっていると先生は急に振り向いた。

 

「早くきたまえ」

 

 きりりとした眉に睨みつけられ急いで先生の後を追う。

 どうせならキリリン氏に睨まれたかった。千葉県民的に。

 


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