今回は、意外とドーナシークに出番を当ててみました。
それではどうぞ。
司令と副司令、隊長の議論の中、ドーナシークが挙手した。
「すまんがシステムとはどういったものなのか、説明してほしいのだが」
「そいつは無理だ。すでにかん口令が敷かれているし、俺達が話し合えるのも知ってるお仲間ってだけだ」
「なっ!?」
ドーナシークは司令の放った忠告に絶句し、目を白黒させる。
「悪いが事はお前らどころか、人間全体を含む天使連中全体の大問題だ。お前らが知らない以上はお前らの昔のお偉いさんがひた隠しにしてたって事だ。俺達だってうかつには言えねえ話だ」
司令はそう言ってドーナシークの疑問を遮る。だが彼の方では今の情報だけで何かに辿り着こうとしているらしく、顔を伏せてしまった。
それを察した副司令が彼の口を閉ざすように促した。彼を見るその瞳はなぜか鋭く仄暗い。
「ドーナシーク、悪いが気付いても口にはしないように。出来るなら俺達は君を失いたくない。大事な仲間だからな」
「……ふむ、承知した。なら私の考えは合っているのかね?」
ドーナシークは副司令の言葉を理解したのか素直に納得し、事の次第を確認してきた。その事に対して彼は少しだけ考える素振りを見せると仕方ないとばかりに事を明かした。
「君の思考はグレーゾーンを語っているがそこまでなら、イエスだ」
「その先は……かん口令か」
「そうだ」
ドーナシークの追及に対して副司令はわきまえろとばかりに鋭く答える。かん口令を破るわけにはいかないからここが潮時だ、と分からせるためかもしれない。
「ならば推論は真実に届いた。私とて伊達に堕天使では無いのだよ」
「なら黙れ。俺も伊達や酔狂で死神職だった訳じゃ無い……」
二人は互いにそう言って睨み合い、相手をけん制する。だがドーナシークには悪いが相手が悪すぎた。ドーナシークとてそれなりに実力者ではあるだろうが潜った修羅場は明らかに副司令が格段に上だ。
僅かな睨み合いの時間をおいて、何らかの異変に気付いたのか隊長が迷惑そうに口を開いた。
「副司令、そこまでにしておけ」
「……かはっ! なっ、何が起きた!?」
「魂を掴まれたのだ、分かっておるか?」
自分の身に何が起きたと戸惑う彼に隊長が簡潔に諭す。その言葉を聞いて3人の顔に驚愕の色が浮かんだ。ドーナシークに至っては自分の胸板を慌てて擦っている程だ。
「バカな! 画面越しでこのような!」
「そっ、そーだよ! いくらなんでも!」
ドーナシークが狼狽え、ミッテルトが吠えても隊長は顔色一つ変えない。何しろどこの世界に画面越しに命どころか魂さえ掌で弄ぶ、能力の逸脱者が存在するなど誰にも判らない。出来るはずのない事……その筈なのだ。だがその逸脱した能力の先駆者は全てを承知の上かその瞳を閉じる。
「莫迦……な、か。誰もがそう思うのであろうな。だがヤツはその不可能を成す『絶望を粉砕する暴力』、神々共が一目置く程には恐れられておる」
隊長はそう語っては口元を歪める。その笑みとも思えないものに3人は身震いを覚え、血の気の引く思いに駆られる。
「それで副司令、この任は以上であるか?」
「報告が以上なら解任するよ。感謝する」
「フン、言葉だけは聞いておこう」
隊長は労を労う副司令に対して傲慢不遜な態度で言葉を返す。だが彼はその事には何も言わず、ミッテルトに顔を向け、怖気立つ様な何かを隠した硬い笑みを浮かべた。
「では次に、ミッテルトはオシオキの時間だったね」
「……へっ?」