こちらの事情で遅くなりましたが投稿しました。
それではどうぞ。
俺を盾にして脅迫するトリーだったが、副指令相手では荷が勝ち過ぎたようで話になってなかった。
「お前は重要な事を忘れているからそんな脅迫をしたようだが、時渡を人質にした時点でお前の負けは決まっていたぞ?」
副司令の指摘にトリーは首を傾げるが、言葉の続きを聞かされて己の失態に気づかされた。
「そっちに補佐官が居るんだ、竜戦騎の時渡が生きていれば首だけになってもいくらでも再生可能だ」
「あっ……」
「それにお前が殺害でもすれば天界の警察機構が喜んでお前の捕縛にやってきて、先祖返り擁護派がここぞとばかりに監禁するだろ? 一生檻の中でも不思議はないぞ」
……そんな恐ろしい結果が待ってるなんて思ってなかったのかトリーは青ざめた表情で狼狽え始める。殺害までは考えていなかったとしてもヘタうちゃ警察が出てきて逮捕されるよな。しかも当人は先祖返りの特殊な例だから、待ってましたと先祖返りを囲い込む算段を立ててやってくるか。
「分かったらさっさと開放して後々の話を詰めさせろ。こっちは後々の予定が支えているんだよ。これ以上迷惑かけるな」
「仕事が支えているってどういう事なのかしら?」
「お前には関係ない話だ。そこの金髪の少女」
話題変更の際に不意に声を上げたリアスを遮って副司令は少女に視線を向ける。
「アーシア・アルジェントさん、だったかな?」
「あっ、はい、アーシアって言います」
「ウチの部下が不甲斐ないばかりに辛い思いをさせてしまった事を詫びさせてほしい。申し訳なかった」
副司令はそう言ってアーシアに頭を下げる。その際に頭頂部がハゲ始めてたのはここだけの笑い話。
「いっ、いえ、そんな」
「ウム、すまなく思うからというわけでは無いが、ダークネスにスカウトしたのだが」
「なるほど、ダークネスならそちらの世界でも庇護下におけるし、万が一の際にもフォローが届くか」
隊長と副司令の間で何か密約めいた話が通じたらしく、互いに納得していた。
「それに、不幸になる原因は己の力不足も少なからずある。ダークネス特有の社会に揉まれて強くなるのが手っ取り早いか」
「うむ、不幸を撥ね退けるだけの力を持たねば生涯不幸のままとなる。よしんば庇護下に置かれたとしてもそれはそれ、憐みの付きまとう無礼しか無い」
二人の会話を聞いて俺は思わず、ダークネスの女性幹部の高笑いが悪寒と共に背筋を駆け抜けた。ちなみに女性幹部の1人は女詐欺師で伯爵家を巨額の収賄罪で滅亡させ、侯爵家2つをありもしない反逆罪で断絶させた。もう1人の女性は戦場を渡り歩いた女傭兵で、いくつかの国で戦犯者として指名手配されていた。
もっともダークネスは元犯罪集団、服役囚の集まりだからごもっともな話だけど、ダークネスの良心はポーラさんだけなんだよな。
「ダークネスだからと特別にするのは難しいが、それなりに便宜は図るから安心してほしい」
副司令がアーシアに対して話をまとめると彼女の顔に安堵の笑みがこぼれる。一先ずアーシアの件はこれで大丈夫なのかもしれない。
「それでは次にそこのやんちゃな少年、兵頭一誠だったかな?」
「あっ、はい、イッセーって呼んでください」
「ふむ、ではイッセー、君が時渡の最初の接触者とみなしているわけだが、その際に救助の手が間に合わずに亡くなった事は済まないと思う。君もまた隊長のスカウトを受けてダークネスに参入したと見るが、構わないかな?」
「あ、はい。そうなります」
「なるほど。一先ず、君とアーシアは未成年の上に学生というだけにダークネスでは幹部候補という形で所属。現状では特別な指示が無い場合は待機状態で日常を過ごす形になる。給料その他については書類にまとめておく。後日になるが二人にはそれぞれ渡る様に手配する。なお、先程の合意で君たちはダークネスの隊員となった事を隊長と自分である副司令が認める。基本的な動きはこちらの命令が無い限りは束縛する事は無い。ただし組織の名を貶める行為に関して何らかの沙汰が下る事は頭の片隅に置いておくように」
副司令はそう言って一区切りをつけると俺に視線を向けてきた。
「でないとそこの時渡のように、延々と恥を晒し歩くようになるぞ」
ひでぇ、ひでぇよ副指令。