何とか物語の山場にたどり着けました。
レイナーレのくだりは次回になるかと。
それではどうぞよろしくお願いします。小説のメモち
隊長の声に引かれてイッセーが咆哮を上げた時、その左手に真紅の輝きが解き放たれた。
『Boost!!』
「なっ!?」
「何っ!?」
イッセーとレイナーレが驚く中、イッセーの手を覆う真紅の手甲から放たれた閃光だった。先程まで感じられたか細い気配が消え、誰が見ても何かを秘めたものだと判る。
「なっ、何なのそれ! そんなの私知らない!」
レイナーレはイッセーの小手が輝きを抱え込んだままその唸り猛る様に先程とは違う驚愕の体を漏らす。
「いっけえぇーっ!」
イッセーの咆哮と共に繰り出された一撃がレイナーレの頬を捕らえ、蹴散らす様に殴り飛ばした。その勢いは素晴らしく、彼女の顔を歪めただけでなく、そのまま遥か彼方まで飛ばしてしまった。
憎い相手を殴り飛ばしたイッセーがその手ごたえを感じている、そのわずかな隙に殺意が襲い掛かった。間に合わない、と彼女たちが感じたその瞬間を初老の男が割り込み、その腕で襲撃者の狂刃を受け止めてしまった。
「小僧、見事であったが、戦場で気を抜くのはまだまだ未熟だな」
「なんだとッ!?」
襲撃者は目を剥きながら飛び退り、手の中にある己の牙を敵へと向ける。だがその敵は怯むどころかある筈の掌の傷も無い状態で腕組みをしようと右手を下ろした。
「ワシの下に来た時よりも汚らしい犯罪に手を染めておる様だな? 貴様にはまっとうな道を薦めたはずだが」
隊長は腕組みをしたままチラリと襲撃者を尻目に捉える。相手もまた構えた剣を下ろしては彼を尻目に捉える。襲撃者は2人から距離を測りながら横にすり足で動く。
「セヴェス様が後れを取るなど無いとは思ってたが」
ゾルが口を開いた時、彼の右袖が袖口から肘まで割け、右肩は横の所から血しぶきが軽く吹いた。
「……手加減、ですかい?」
「頭を撫でる気でいたが、ワシも歳を負ったようだな」
ゾルの一方的な殺気が襲う二人の会話に、他の面々がその目を白黒させている。ゾルの動きが見えていなかったのはとにかくとしても隊長が簡単に捉えて反撃の手を入れるその手も見えなかった様だ。
ゾルの忌々しそうな愚痴に言葉を返す隊長の右腕が再び音を超えて動く。しかしそこに風を切る音は無く、空気の動きさえ捉えられない。その腕が彼を掴んで床へと投げるように叩きつける。その反動を察知して距離を取ろうとするが、それでもなお捉えて叩き付ける。
魔力を行使しているのかとリアスと朱乃が目を凝らしているがそれも無駄に終わる。隊長は今、純粋に腕力だけでゾルを床に叩きつけているだけなのだ。相手が向かってくればそれを受け止め、相手が離れるなら手を伸ばしてつかみ取って叩きつける。相手の武器など知った事ではない。刃がその身に立たないのだから。
「……何てデタラメなんだよ」
「この身体はワシの研鑽の集大成にして意地の塊というもの。己の思う強さが此処までの器を欲したのだ、如何な愚か者とて鍛えれば鍛えただけの物を言わしめる」
イッセーを守りながらもその拳を振るう初老の姿に少年は意外なものを感じたかのように動けずにいる。
「だが、ワシは獣を集めていたつもりだったが、奴のようなケダモノまで寄ってきた。それをしっかり目を向けなかったゆえの手抜かりが、甚だ不愉快ではあるな」
隊長の独白が流れる中、リアスと朱乃は別の動きを見せ始める。だがそこに、地下から俺とトリー、木場と小猫が上がってきた。
「部長、いつの間に来たんですか?」
「ちょうど良かったわ。悪いんだけどレイナーレがあの子の一撃で遠くに吹き飛ばされたみたいなのよ」
話しかけてくる木場に対して簡単に事を語るリアスだが、小猫がそれを遮って動き出した。
「分かりました。行ってきます」
「オッと俺も行くぜ」
俺はその場で走り出した小猫に遅れまいと即座に走り出す。この程度の追跡などそう難しくは無い。堕天使の気配はすでに把握済みでその気配を辿るだけだからな。
どうせ飛ばされたレイナーレの回収だ、ただ担いで運ぶなんてのは面白くないだろう。
小説のメモ帳
アガスティア
組織の理事の1人にして世界の記録と予知を司る星見の1人。能力は神に匹敵する程に凶悪な因果修正能力を持ち、その能力で小さいながらも災害を幾つも未然に防ぎきっている。