鍋料理ギャグ2回目をやりました。それではどうぞm(__)m
「まさかドーナシークたちがレイナーレから離反してそっちに匿われているなんてねえ」
翌日の放課後、俺はリアスとの情報交換をするためにオカルト研究部部室に来ていた。……例のブツを持って。
「まあ、連中もこの件に付いては味方してくれることになってるから問題にはしないでくれよ」
「そうね、敵の戦力が大幅に変更してしまったのは仕方ないけれど、見方が増えるのはありがたいわ」
「まあ、この話はまた後で聞くとして、ウチの上司が煮込んだ大根があるんだ。摘んでくれよ」
そういってあの結界の中から俺は例のブツ、昨日の大根が入ったタッパを取り出して蓋を掛ける。一応、隠れて電子レンジで温めたからホクホク感が増している。
「あら、やさしいのね。皆でいただきましょう」
リアスの言葉にグレモリー眷属の皆が笑みを浮かべる。
すまねえ、俺と一緒に堕ちてくれ。俺は今、リアス達が味わうだろう違和感を知っているがために笑いを堪えるのに必死だ。
朱乃が皆にお箸とお皿を配り、イッセー以外の面々が大根を四等分してから……。
「いただきます……」
頂きますと言って大根を口にした面々に異様な沈黙が流れていく。早速その味と見た目の違和感に気づいた様だ。
「……ねえ、これって大根よね?」
「はい、おとといに近所のスーパーで買った1本98円のただの大根です。昨日、ウチの上司である天使が煮込みました」
俺はリアスの詰問に対して白々しく答える。恐ろしいのはこれからですよ、皆さん。
「どうして大根からこんにゃくの味がするのよ!」
リアスの怒鳴り声に、グレモリー眷属が別の意味で噴出し、絶句した。
「部長、本当にこんにゃくの味ですか? 僕はしいたけの味がしたんですけど」
「えっ!?」
「俺はシラタキの味っす」
「私ははんぺんの味ですわ」
「……私は昆布味と渋い味です」
全員が全員、違う味を口々に言い出してきた。そうか、そういう味になったか。
「時渡さん、どういうことなのか説明してくださるかしら」
皆の反応を見てリアスが俺を諸悪の根源と決め付けて睨む。背中には黒々としたオーラが立ち上っている。
「説明も何も、ウチの上司が煮込んだだけの大根です。昨日の鍋の具材でした、以上です」
「それがどうやったらこんなバラバラな味付けが出来るのよ!」
俺の説明に理解が利かないリアスが激高する。しかし『天使の奇跡』はここからが正念場、ではなく真骨頂である。その程度で終わるのは二流の職人、ウチの職人は一流をも超える脅威の職人だ。
「ま、まあ、食べられない味じゃないから構わないけど」
リアスは肩を落としながらそう言って2切れ目の大根を口にする。しかし彼女の知っている味が口の中に広がらなかったのか、目を白黒させて言葉を失っていた。
くぅわっ! ギィラッ!
そして箸をテーブルに置くと、俺に詰め寄って胸倉を掴んできた。さっき以上にオーラが濃密だ。だが予想の範疇だっただけに俺の動揺は少なかった。
「これはどういう事なの!?」
「1つのタッパに入れてきたんだけど」
「何で1切れ目はこんにゃくの味だった大根が、どうして2切れ目で春菊の味になるのよ!」
リアスの放言にその場の面々に衝撃が走った。そしてグレモリー眷属の背筋が凍りついた。
恐い、恐いぞ『天使の奇跡』
ありえない味の変化に味覚と視覚が結びつかず、思考回路が崩壊していく。そんな状態に彼女達は陥っていた。
しかし、何にだって例外はあるものだ。
「あれ、俺のだけシラタキのままっすよ」
丸のままかじりついていたイッセーだけが味の変化の難を逃れていた。そうか、切り分けないと変化しないのか、1つ勉強になった。
……命拾いしやがった、コノヤロウ。
だが三途の川は渡らない事を許さない。渡し守がキチンと仕事をしてくれる。
「イッセー、その大根を切り分けて食べてみなさい」
「えっ、あっ、はい」
イッセーはリアスの命令に素直に応じて目の前の食べかけの大根を切り分ける。食べかけだから味は変わらないと信じて疑わないその態度に俺は敬意を表しよう。
そしてイッセーは地獄に落ちた。
「……何じゃこりゃあっ!?」
「どうしたのイッセーっ!」
「さっきまでシラタキだった味が、つみれになっちまった」
イッセーはシラタキの味だった大根の味の変化に戸惑いを隠しきれない。
そして俺は全員から問い詰められる事態に陥った。
「仲間内で恐れられている『天使の奇跡』を味わってもらおうと」
「「「「「ギルティ!」」」」」
今日の俺はここで終わった。